エコーウイルスとは?
エコーウイルスは、夏場に乳幼児を中心に見られやすいウイルスの一種です。その中でも「エコーウイルス11型(E11)」は、新生児に重い症状を引き起こす例が報じられています。
なぜ「エコーウイルス11型」が話題になっているの?
エコーウイルス以外にもライノウイルスやパラインフルエンザなど、様々なウイルスが咳や鼻水などの風邪症状を引き起こします。
しかし、2022年以降、フランスや英国、スペインなどヨーロッパ諸国から、新生児がエコーウイルス11に感染して急性肝炎や敗血症を発症し、死亡例も発表されました。
ライノウイルスやパラインフルエンザなどのウイルスでは通常、新生児期の重症化はまれであり、新生児期に重症化する懸念のあるエコーウイルス11の感染に注目が集まっています。
2024年には日本の一部地域、特に東京や札幌などで数例の新生児重症例が確認され、厚生労働省は医療機関に対し検体保存や報告体制の整備を求める事務連絡を出しています。また、日本小児科学会も医療現場に向けてE11への注意喚起を行っています。
ただし、日本での重症例は非常に限られており、大部分の赤ちゃんは通常の回復を迎えています。
基本的なウイルスの性質
エコーウイルスはピコルナウイルス科・エンテロウイルス属に属し、人の口・鼻を通じて感染します。飛沫・接触・糞口感染が主な感染経路で、潜伏期間は3〜6日ほどです。
エコーウイルスはインフルエンザウイルスのような簡易的な検査キットでは検出できず、一般のクリニックですぐに診断できない場合がほとんどです。
症状ってどんな感じ?

エコーウイルス感染では、大人や子どもでは軽い症状で終わることが多いですが、新生児だけは体調の変化に要注意です。
新生児の場合
E11に感染した新生児は、発熱や活気不良のほか、肝機能障害による黄疸、皮膚の変色、授乳が困難になる状態などが報告されています。
2024年夏以降、集中治療を必要とする事例もあり、中には治療に至らず亡くなられたケースもありました。 ただし、医療体制の整った環境下では重症化を防ぐことができ、多くの赤ちゃんは回復しています。
どんな症状が深刻?
黄疸の悪化や持続的な高熱、授乳が難しくなる状態が続く場合は、重症化を示す指標となるため、早めの医療機関受診をおすすめします。
少し大きなお子さんや大人はどう?
乳児や幼児、大人が感染しても、多くは風邪のような軽い症状で終わります。むしろ約半数が無症状とも言われています。
ただし無症状でもウイルスを保有し、赤ちゃんにうつしてしまう可能性があるため、家族での予防行動が重要になります。
どうして流行しやすいの?
エコーウイルスを含むエンテロウイルス属は、夏から秋にかけて活発に広がる傾向があり、子どもが集まる場所では注意が必要です。
夏に多いエコーウイルス
気温や湿度が高い季節にウイルスが活発になり、保育園や幼稚園での集団感染が発生しやすくなります。その結果、家庭内で赤ちゃんに感染が広がるケースもあります。
日本の取り組み
日本では2024年2月に厚生労働省が、医療機関に対しE11感染の疑われる症例について検体保存と報告体制の整備を促す事務連絡を発出しました。 また、日本小児科学会は2024年12月に、医療現場向けに詳しい注意喚起を出しています。
これにより、症例の早期発見と適切な対応が進められています。
家庭でできる予防はある?

赤ちゃんや家族を守るために、家庭でできる感染予防策をご紹介します。
日常の中でできること
おむつ交換や授乳の前には石けんを使った手洗いを習慣にしましょう。流水と石けんで十分に洗うと、より効果的です。
しかし、エコーウイルス11については一般的な消毒用エタノールで除菌できないため、次亜塩素酸ナトリウムなどで消毒するようにしましょう。
また、おもちゃや家具、ドアノブなど触れる頻度の高い物はこまめに清潔に保つことで、感染のきっかけを減らすことができます。もし家族に風邪の症状があれば、赤ちゃんとの接触時にマスクを着けるなどの配慮が有効です。
外出や預け先での注意点
家族や自身の体調が優れないときは、無理に外出や登園をせずゆっくり過ごすことが周りへの思いやりになります。新生児との外出はできるだけ人混みを避け、必要最低限の時間で用事を済ませるよう心がけると良いでしょう。
赤ちゃんの様子が気になるときは?
本能的に感じる「なんだか様子がおかしい」といった保護者の直感は、大切なサインです。
こんなときは医療機関に相談を
赤ちゃんの元気がなくなったり、熱が続いたり、授乳をいやがったりする場合は、かかりつけの小児科に早めに連絡しましょう。
もし肌や目が黄色っぽく見えたり、息づかいに異変があったり、けいれんのような動きが見られる場合は、すぐに受診することで安心につながります。
正しい知識と落ち着いた対応を心がけよう
エコーウイルスは、日常で見かけるウイルスの一つで、大多数の場合は軽い症状で自然に回復します。ただし新生児ではごくまれに重症化することがあります。
家庭での手洗いや清掃、体調管理などの基本的な対策が、赤ちゃんを守る大きな力になります。
大切なのは、必要以上に心配するのではなく、正しい知識と落ち着いた対応を心がけること。家族みんなで協力し、赤ちゃんが安心して過ごせる環境を整えていきましょう。
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参考:厚生労働省「エコーウイルス11型(E‑11)感染症の実態把握について」(令和7年2月6日 事務連絡)
:厚生労働省「新生児におけるエコーウイルス11型(E‑11)感染症の発生について」(令和6年12月3日 事務連絡)
:日本小児科学会「新生児におけるエコーウイルス11による重症感染症に関する注意喚起」(2024年12月)

たけつな小児科クリニック 院長。2004年、愛知医科大学医学部卒業。同大学で臨床研修終了後、小児科に入局。2013年、奈良県内の病院で小児科の立ち上げに従事。2017年、たけつな小児科クリニックを奈良県生駒市に開設。「すべては子どもたちのために」をモットーに、一般的な疾患から、てんかんなどの神経疾患、食物アレルギーやぜんそく、日本でも数少ない小児頭痛を専門とするなど幅広い診療を行う。さらに、令和7年7月から日曜の診察を開始し、文字通り「365日、24時間」子どもの健康をサポートする体制を整えている。現在は病児保育室バンビを運営する他、言語発達遅延の子どもに言語訓練を行う児童発達支援施設「のびいく」を運営している。2023年5月に初の著書「行列のできる子ども健康相談室」を発刊。
文・構成/HugKum編集部