小中学・高校で「がん教育」って必要? 授業の目的や内容から大人も学べることとは【最新教育事情を知る】

最近、学校で子ども向けの「がん教育」が広まりつつあります。大人にも重い話題であるがんについて、子どもにどのようなことを教えるのか気になる人は多いでしょう。がん教育の意味や目的、教える内容や家庭でできる取り組みは何か解説します。

がん教育って何?

「小中学生ががんについて学ぶのは、まだ早いんじゃないの?」と心配する大人も多いでしょう。がん教育をなぜ最近になって始めたのか、その意味や目的、必要とされる理由を説明していきます。

がん教育の意味や目的

小中学校・高校における「がん教育」は、健康教育の一部として位置づけられています。授業では、がんの仕組みや対策に関わる科学的な知識を学び、がん患者に対する理解を深めていきます。

がんを含めたさまざまな病気を理解することで、子どもの頃から健康への意識を高め、適切な生活習慣や予防方法、病気の人たちへの共感を身に付けてもらうのが目的です。

がんは日本人の死因として大きな割合を占めているにもかかわらず、がんを取り巻く正しい情報はあまり知られていません。がん教育を通して、正確な知識を広めることが求められています。

がん教育を始めた背景

国立がん研究センターによれば、2020年にがんと診断された人の割合は男性62.1%、女性48.9%です。

がんは日本人の死因のトップであり、おおよそ二人に一人はがんにかかるといわれています。厚生労働省では、2023年の日本人の死因は24.3%が「がん(悪性新生物)」と発表し、これは1981年から日本人の死因第1位になっています。

これらの状況を受けて「がん対策基本法」(2006)が制定され、学校教育の方針を決める学習指導要領でも、2017~2018年には中学・高校でがん教育を行うことが加えられました。現在は、小学校でも高学年を対象にがん教育が行われつつあります。

出典:最新がん統計:国立がん研究センター がん統計|国立がん研究センター
令和5年(2023)人口動態統計月報年計(概数)の概況|厚生労働省

がん教育ってどんなことを教えているの?

がん教育ではどのような内容を教えるのでしょうか? がん教育で取り上げる、がんの仕組みや予防・検診の必要性、治療とがん患者の問題について見ていきます。

専門家などから学ぶ科学的ながんの知識

がん教育では、科学的な視点からがんの仕組みについて学びます。がんとは、異常な細胞が無制限に増殖し、周囲の組織に影響を与える病気です。増えすぎた異常細胞は体の正常な働きを妨げ、場合によっては死に至ることもあります。

がんの異常細胞は、正常な細胞が傷付いてできるもので、健康な人にも毎日発生するものです。通常、若い頃は免疫によって異常細胞の増え過ぎが抑えられますが、年を取ると免疫力が低下しがんが発病しやすくなるのです。

授業では、がんの種類や、日本人の死因・第1位が「がん」であるといった現状も説明されます。医師などを招いて、がんの知識を専門家の立場から説明してもらう場合もあります。

出典:がん教育推進のための教材|文部科学省

がんの予防と早期発見の大切さ

がんにかかる人は多いものの、生活習慣の改善や感染対策によってかなり予防できるといわれています。がん教育によって、大事なのは適切な予防の実践で、がんをむやみに怖がる必要はないと学べるでしょう。

<がん予防のためにできる5個の健康習慣>
●禁煙、人のたばこの煙も吸わない
●禁酒・節酒
●食生活の改善
●日常的な運動習慣
●適正体重を保つ

また、がん検診による早期発見で回復する確率は高まります。がんの種類で変わるものの、国立がんセンターによれば、がんの治療が成功する確率が50%を超えることも珍しくありません(15~99歳を対象にした2002~2006年追跡調査)。

出典:最新がん統計:国立がん研究センター がん統計|国立がんセンター

がんの治療法と患者への配慮について

がん教育では、がんの治療方法や患者の抱える問題についても扱います。がんの治療法は、主に手術治療・放射線治療・薬物治療の3種類です。

がんに限らず、患者にとって大切なインフォームド・コンセントやセカンド・オピニオンの考え方も教わります。

インフォームド・コンセントとは、自分の病状や受けられる治療についてきちんと説明を受け、患者が主体的に治療を選ぶことです。セカンド・オピニオンは、治療を決めるときなどに、最初に診断を受けた医師以外の医師に意見を聞くことです。

また、がん患者の抱える体と心のつらさや、それを和らげる「緩和ケア」、患者家族を支える社会制度についても理解する必要があります。がん患者の状況を正しく理解し、患者と健康な人がともに支え合うことの大切さを学びます。

家庭でできるがん予防の取り組み

がん教育で取り上げるがんの予防と早期発見は、普段からの生活習慣や検診の受け方に関わってきます。がん教育で学んだことを実践に生かし、子どもが健康な生活を送れるように家庭でサポートする方法を紹介します。

がん予防に向けた生活改善に取り組む

健康な生活習慣はがん予防に役立ちます。子どもに関わりやすい食習慣や運動、適正体重の目安は以下の通りです。取り入れやすい部分から実践してみましょう。

<食生活>
●減塩を心掛ける
●野菜を1日約350g・約5品食べる、果物も適度に食べる
●熱すぎる飲食物は口の中をやけどしない程度に冷ます

<運動習慣>
●18~64歳の人は毎日60分程度、歩くかそれと同じくらいの運動をする
●週に60分程度は息が弾むくらいの運動を行う

<適正体重を保つ>
●男性はBMI値21~27
●女性はBMI値21~25

BMI値は肥満度を示す指標で、体重(kg)を身長(m)の2乗で割ったものです。

国立がん研究センターが2012年に作成した推計によれば、がん予防のためにできる5個の健康習慣を実践すると、実践しないか1個しか実践しなかった場合に比べてがんのリスクは約半分になることが分かりました。

出典:科学的根拠に基づくがん予防|国立がん研究センター

がん検診の適切な受け方を話し合う

がん検診によるがんの早期発見も重要です。ただし、検診は多く受ければよいというものではありません。例えば、若年層はがんの発症率が低いため、検診のメリットよりもレントゲン被ばくや検査による合併症といったリスクのほうが上回る可能性があります。

国は、科学的な研究によってデメリットをメリットが上回ると証明されたがん検診の種類・年齢・受診間隔を推奨しています。

<国が推奨しているがん検診>
●胃がん:50歳以上、2年に1回
●子宮頸がん:20歳代は2年に1回
(30歳以上は5年に1回のHPV検査単独法などを追加)
●肺がん:40歳以上、年1回
●乳がん:40歳以上、2年に1回
●大腸がん:40歳以上、年1回

がん検診のメリットだけでなくデメリットについても親子で話し合い、適切な検診の知識を共有しましょう。

出典:がん検診|厚生労働省

がん教育は健康の重要性を学ぶチャンス

子どもががん教育を受けると聞くと「がんについてきちんと理解できるのだろうか」「がんのような重い病気があることにショックを受けすぎるのでは」と不安に思う親もいるでしょう。

しかし、がんは若い頃からの生活改善によってある程度予防できる病気です。がんの研究も進み、以前より治療の成功率も高くなりました。

子どもの頃からがんの正しい知識を身に付けることは、逆に健康への意識を高め、自分の人生を大切にするチャンスになります。

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構成・文/HugKum編集部

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