重篤な病気を抱える子どもたちの「やりたい!」を「できた!」に。日本初のコミュニティ型こどもホスピス『TSURUMIこどもホスピス』には中学生以上向けのスペースも

大阪市鶴見区にある「TSURUMIこどもホスピス」。ホスピスと聞くと、大きな病気を抱えている方が、穏やかに最期を迎える病院のような場を想像するかもしれません。しかし「TSURUMIこどもホスピス」は、命に関わる大きな病気をもつ子どもたちの「やりたい!」を「できた!」に変える場で、訪れた子どもたちには笑顔が絶えません。「TSURUMIこどもホスピス」の看護師・西出由実さんにお話をうかがいました。

“つらい治療をしている子どもたちに、生きやすい社会を残したい”という思いからスタート

――TSURUMIこどもホスピスが誕生した、経緯を教えてください。

西出さん TSURUMIこどもホスピスが誕生したのは2016年です。

2009年にイギリスの子ども向けホスピス「ヘレンハウス」創始者のシスターフランシスさんを招いた講演会が、大阪で開催されました。この取り組みに共感した医師や看護師が集まり、こどもホスピス設立に向けて動き出したのが始まりです。メンバーの中に、TSURUMIこどもホスピスの運営を行う、こどもホスピスプロジェクト代表 高場秀樹もいました。

高場自身にも、重い病気をもつ子どもがいます。「つらい治療をしている子どもたちやその家族に、生きやすい社会を残したい」――そんな思いで、プロジェクトを立ち上げました。

TSURUMIこどもホスピスは、日本初のコミュニティ型こどもホスピスで、利用は無料。寄付で運営しています。開設には6億円必要で、当初はそうした話をすると失笑されることもありました。当時の日本にはまだ前例のなかったうえ、寄付での運営にはなかなか理解を得られません。でもメンバーの思いは変わりませんでした。

0~20歳までの命に関わる病気をもつ子どもと家族が対象。利用は無料。

--TSURUMIこどもホスピスの利用について教えてください。

西出さん 利用対象は、原則0~20歳代(重症心身障害児は0〜3歳)。白血病や脳腫瘍などの小児がん(診断後3年以内または再発している方)、先天性心疾患などの循環器疾患、筋ジストロフィーなどの神経筋疾患などの生命が脅かされた状態にある子どもと家族が対象です。利用者の疾患で最も多いのは、小児がんです。感染対策のため、1日の利用は約5組までで、利用は無料です。利用者の90%以上は、関西在住の家族です。

写真/衣笠名津美

「気持ちいい風と緑が見える環境だけで十分」と喜んでくれた

――TSURUMIこどもホスピスは、広々した敷地の中に、中庭やテラス、カフェ、ブランコやボールプールがある「大きな部屋」などがあって、とても素敵ですね。オープンを心待ちにしていた家族が多かったのではないでしょうか。

西出さん 利用者数は約250世帯(2024年度)にのぼりますが、オープン当初は利用者が少なくて、私も副理事長が勤務する病院に行き、子どもの入院に付き添うお母さん、お父さんに「TSURUMIこどもホスピスができたので、ぜひ利用してください」と、声をかけていた時期もあります。

でも日本では、ホスピスというと「穏やかに最期を迎える場」をイメージする人が多いようで、躊躇されることもありました。

そんなとき、ある1組の家族が足を運んでくれました。私が「何か足りないものはありませんか?」と聞くと、ご両親が「気持ちいい風と緑が見える環境があって、これだけで十分です」と言ってくれた言葉が、今でも忘れられません。

子どもが笑顔だと、親も癒される

――利用者が求めるのは、心地よく過ごせる環境ということでしょうか。

西出さん 親子ともに、心地よく過ごせる環境は重要です。入院中はもちろんですが、退院しても感染症を防ぐために、子どもたちは「友だちと遊ぶ」「電車やバスに乗って、お出かけをする」「習い事に通う」といった、ごく当たり前のことが制限されています。ご両親の心労も計り知れません。そのため、TSURUMIこどもホスピスでは、子どもたちがしたいことを思いきり楽しめる場にしています。子どもが笑顔だと、お母さん、お父さんも癒されます。

きょうだい児に目を向けると、家族でお出かけができないなどガマンしていることが多々あります。きょうだい児にとっても、TSURUMIこどもホスピスが憩いの場になってほしいと思います。

また、ときには「子どもが同じ病気をもつ家族と話したいんですが…」など相談を受けることもあるので、こうした声にも応えています。子どもと家族の願いを聞き、一緒に考え、カタチにすることが、私たちの役目です。

「ずっと病院のベッドで過ごしていて、この子の世界はどうなっていくんだろう…」という不安も

--利用者の声を教えてください。

西出さん たとえば「ずっと病院のベッドで孤独に過ごしていて、この子の今後の世界はどうなっていくんだろう…」と漠然とした不安を抱えていたお母さんもいます。「5歳のときに小児がんとわかり、1年間入院。つらい治療中に笑顔になれた場所が、TSURUMIこどもホスピス」と言ってくれた男の子もいます。

「息子は2歳2か月で亡くなってしまいました。“もっとあんなこともやらせてあげたかった、こんなことも経験させてあげたかった…。私が、もっと元気に産んであげればよかったんじゃないか”と考えることもありました。でもお友だちやTSURUMIこどもホスピスの皆さんと一緒に過ごした時間は、本当に愛で溢れていて、息子にとってはいい時間だったのではないかなと思っている」と言ってくれたお母さんもいます。

*TSURUMIこどもホスピスのサイトより抜粋。

10代が、思い思いに過ごせる「Teen Clubhouse」がオープン

――TSURUMIこどもホスピスでは、2023年に10代のための特別なスペース「Teen Clubhouse」が開設しました。

西出さん Teen Clubhouseは中学生以上の方を対象に作られました。TSURUMIこどもホスピスは、中学生以上の利用がほとんどいないことが課題でした。現在の利用者の半数は0~6歳児ですが、13~15歳は約9%、16歳以上も同程度です。

10代は、健康な子どもでも受験や友だち関係、家族との関係、学校生活などで悩みが多い時期です。それに加えて病気のこともあるので、ひとりで悩みを抱え込まないでほしいという思いで、Teen Clubhouseを開設しました。Teen Clubhouseも利用は無料。友だちと一緒に利用したり、宿泊もできます。「カラオケルーム」「ゲームルーム」、大画面で映画やアニメが見られる「ラウンジ」などもあります。

Teen Clubhouseを利用して新しい友だちができたり、スタッフに悩みを打ち明けてくれたりすることもあります。スタッフの中には教師もいるので、進路や学習の悩みなどにも応えることができます。

Teen Clubhouseの利用者の声

僕がこのTeen Clubhouseを初めて利用したのは、つい最近のことです。好きなゲームやカラオケなどができてとても楽しかったです。さらにいろいろなイベントを企画してくださるので、いろいろな経験できて、感謝しています。初めて参加したBBQイベントでは、自分にとって初めて友だちができそうになったイベントでした(LINEを交換し忘れてショックだったけれど)。
TSURUMIこどもホスピスでは、自分が病気でガマンしないといけないと思っていたことがスタッフさんの工夫でできるようになる場所だと思います。この場所をたくさんの人に知ってもらいたいなぁと思います。(15歳)

Teen Clubhouseにある部屋「Arts and Crafts Club」

「子どもの楽園やん!」初めて来たときの感動は薄れることがありません。前日までベッドの上で、15分のリハビリもダルかったのに、TSURUMIこどもホスピスに入った途端、何時間でも卓球ができてしまう魔法にかかったりします。学校の友だちとお泊まり、カラオケ、料理作り、花火、たくさんの希望が戻ってきた。次はいつ来られるかな…何をしようかな…、変化する気持ちも、病気のことをわかってくれているスタッフさんが聞いてくれる。TSURUMIこどもホスピスと出会えて本当によかったです。(13歳)

*Teen Clubhouseのサイトより抜粋。

誰でもくつろげるTeen Clubhouse内のラウンジ

もし、友だちが大きな病気になったら…

――身近に大きな病気をもつ友だちがいるとき、私たちができることを教えてください。

西出さん 退院後、久しぶりに登校するときは、どの子も緊張したり、不安があったりするようです。みなさんも「どのように接したらいいの?」と悩むかもしれませんが、これまでと同じように接してください。それだけでものすごく安心して、これからの通学へ勇気が湧きます。

また、薬の副作用で髪や眉毛が抜けたり、ムーンフェイスといって顔が丸くなったりすることもあります。子どもから「どうして?」と聞かれたら、「治療を頑張った勲章だよ」と教えてあげてほしいと思います。

構成・文/麻生珠恵 写真/衣笠名津美

TSURUMIこどもホスピスの運営はすべて寄付金から賄われています。寄付・ご支援の方法はこちらをご確認ください。

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