家庭内にも菌による食中毒の危険性がある!
毎日ではなくても「最も多く料理し食事を食べる場所は家庭」という人は多いでしょう。安全な食事をするために、家庭における食中毒対策を紹介します。
家庭は食中毒が起こりやすい場所
あまり知られていませんが、家庭は飲食店の次に食中毒が起こりやすい場所です(厚生労働省「過去の食中毒発生状況」2020~2024年分から)。
家庭でそれほど多くの食中毒が起こっているのに、ほとんどニュースにならないのを不思議に思うかもしれません。それは家庭で食中毒が起こっても、食中毒と認識されず風邪や寝冷えと誤解されているからです。場合によっては、食中毒と知らないまま死亡するケースも報告されています。
家庭で行われる毎日の調理や食事でも、しっかり食中毒を予防する必要があります。
菌による食中毒予防の原則

厚生労働省が提唱する、細菌性食中毒予防の3原則は以下の通りです。
●細菌を食べ物に「つけない」
●食べ物に付着した細菌を「増やさない」
●食べ物や調理器具に付着した細菌を「やっつける」
細菌を「つけない」ために重要なのは、手洗いや調理器具などの消毒です。特に、手に傷がある場合には手袋をはめる必要があります。また、「増やさない」ためには適切な保存方法を知り、「やっつける」にはしっかり加熱・消毒する方法を知らなければなりません。
この3原則を守るには具体的にどうすればよいのか、より詳しく見ていきましょう。
菌による食中毒を防ぐ6つの具体策

細菌による食中毒予防の3原則を実行するにはどうすればよいのでしょうか? 買い物や食材の保存、調理や残りものの扱い方など、普段の生活で実践できる正しい予防知識を説明します。
食料品を買うときのポイント
細菌性の食中毒を防ぐため、買い物中に気を付けるべきことは次の通りです。
●肉・魚介類・野菜などの生鮮食品は新鮮な商品を選ぶ
●肉や魚を買ったときは、個別にビニール袋に入れて水分をもらさない
●常温保存できない食品は最後に買い、早めに冷蔵・冷凍する
生鮮食品は時間が経つほど傷むので、新鮮なうちに食べた方が安全です。消費期限などがあれば確認し、買ったらすぐに適温で保存しましょう。持ち運びのときに、保冷材で冷やすのもおすすめです。
食材を保存するときのポイント
食材を保存するときは、以下のポイントに配慮します。特に、生の肉や魚、卵には細菌が多いため、周囲に細菌汚染を広げないように注意が必要です。
●買い物から帰ったら、できるだけ早く食材を冷蔵・冷凍する
●冷蔵庫・冷凍庫の詰め方は、7割以内にする
●設定温度は冷蔵庫を5℃以下、冷凍庫を-15℃以下にする
●肉や魚は、液体がもれないようにビニール袋などに入れて保存する
また、生の肉や魚、卵に触れる前後には手を洗い清潔さを保ちましょう。
食材を洗ったり切ったりするときのポイント
調理中に食材を洗ったり切ったりするとき、主に気を付けなければならないことは以下の通りです。
●調理台のごみはこまめに捨てて、スペースを広く使えるようにする
●ふきんや手を拭くタオルは清潔なものを用意する
●野菜をしっかり洗い土などの汚れを落とす
●冷凍食品は冷蔵庫の中、または電子レンジで解凍し常温で解凍しない
●生の肉や魚の汁が、他の食材に触れないようにする
●生の肉や魚を切った包丁とまな板は、すぐに洗って熱湯をかける
手洗いは調理前だけでなく、生の肉や魚、卵に触れる前後にもしっかり洗いましょう。動物や交換したおむつなど、不衛生なものを触った後も手洗いが必要です。
食材を加熱するときのポイント
食材を加熱するときに大切なポイントは以下になります。
●作業前に手を洗い、下準備で汚れたものは片づける
●加熱するときは、中心部の温度が75℃の状態で1分間以上を目安にする
●調理を中断する場合は室温で放置せず、冷蔵庫に入れる
●もう一度加熱して調理するときは、しっかり加熱する
●電子レンジで加熱するときは、電子レンジ対応の入れものを使う
●電子レンジで中心まで加熱できない場合は、途中で混ぜながら再加熱する
食中毒の原因となる細菌は、正しい方法で加熱すればほとんどが殺菌できます。
食事中のポイント
食事中・食事提供における注意ポイントは次の通りです。
●食事する前、盛り付け前にも手を洗う
●盛り付けに使う道具や食器は清潔なものを選ぶ
●冷たい状態で食べる料理は、10℃以下に冷やしておく
●温めて食べる料理は65℃以上で保温する
●料理を長い時間、室温のまま置いておかない
細菌が増えるのを抑えるためには温度が重要です。室温は細菌が増えやすいので、食事する時間以外はなるべく冷蔵庫に入れるなど適温で保存しましょう。
残った食品を扱うときのポイント
残った食品を安全に扱う注意点は以下の通りです。
●食べきれなかった料理を保存するときも事前に手を洗い、清潔な道具、容器を使う
●保存容器は底の浅いものを選んで小分けにし、早く冷ます
●時間が経って安全性が怪しいと思ったら、無理せず捨てる
●残りものを温め直すときも、75℃以上で加熱する
●味噌汁やスープは一度沸騰させる
残りものを扱うポイントも清潔さと温度です。不衛生な道具を使えば料理も汚染され、細菌を増やす原因となります。保存の際は素早く冷やし、再び加熱するときはしっかり温度を上げて殺菌しましょう。
家庭で食中毒を起こす菌ワースト3

厚生労働省「過去の食中毒事件一覧」(2020〜2024年)のデータによると、家庭で発生しやすい食中毒菌の上位3つは「カンピロバクター」「腸管出血性大腸菌O157」「ボツリヌス菌」です。それぞれの特徴と予防方法をチェックします。
カンピロバクター
カンピロバクターは鶏肉などの生肉に多く存在し、加熱不十分な調理により食中毒を引き起こす菌です。
主な発生条件は鶏肉で、生や半生の鶏料理(鶏レバーや鶏の刺し身など)の他、生の鶏肉の汁が他の食材に付着し、それを十分に加熱せずに食べた場合にも危険があります。
症状は下痢・腹痛・発熱・悪寒・嘔吐などです。約1週間で治ることがほとんどですが、まれに重症化します。
予防方法は加熱と消毒です。肉類を食べるときは中心温度が75℃以上で1分以上加熱することが推奨されています。また、肉を扱った調理器具はすぐに洗浄・消毒し、肉を触った後は手をよく洗いましょう。
腸管出血性大腸菌O157
O157といえば、大規模な食中毒事故を起こしたことで有名です。O157は肉類だけでなく、加熱せずに食べる野菜(レタスやサラダ類など)にも付着している可能性があります。
軽症で済む人もいるものの、主に下痢・激しい腹痛・血便・発熱などを引き起こします。子どもや年配の人は重症化しやすいので、特に注意が必要です。
O157による食中毒も、菌による食中毒予防の3原則で防げます。食材の温度管理と、十分な加熱、消毒がポイントです。野菜も含めて、処理前の食材と処理した後の食材が触れないようにする、調理器具を分けるといったことも大切です。
ボツリヌス菌
ボツリヌス菌は、熱に強いことで知られる食中毒菌です。主な発生条件は、適切に処理されていない缶詰やレトルト食品、1歳未満の乳児が摂取したハチミツです。
症状は食べてから6時間~10日後に、嘔吐・腹痛・下痢などが起こり、やがてまひ状態になります。1歳未満の赤ん坊は重症化しやすく、まれに死に至ることもあります。1歳未満の乳児に、ハチミツやハチミツ入りの食品を与えるのは危険です。
ボツリヌス菌の芽胞は、120℃で4分間または100℃で6時間の加熱により死滅します。缶詰やレトルト食品を買う場合には表示をよく読み、十分加熱されているか、保存に適切な温度は何度か確認しましょう。
家庭でそこまで加熱するのは難しいことですが、ボツリヌス菌の毒素は、中心温度85℃で30分間加熱することで失活(無毒化)されます。ただし、加熱後はすぐに食べる必要があります。
家庭でも菌による食中毒を予防しよう
菌による食中毒の危険性は、飲食店の料理や給食だけでなく、毎日食べる家庭の食事にも潜んでいます。細菌はさまざまなところにいて死滅させるのは難しいですが、適切な対応をすればそれほど恐れる必要はありません。食材の買い出しから調理、食事など、食材の安全性を保つには温度管理と除菌・殺菌がポイントです。
日常的に、細菌による食中毒予防の3原則「つけない」「増やさない」「やっつける」を意識して実践することが大切です。
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文・構成/HugKum編集部