前編では「グリーフケアとは何か」から、死別を経験した子どもの反応や特徴などについて、赤田ちづる先生についてお伺いしました。
▼「子どものグリーフケア」前編はこちら
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後編となる本記事では、死別を経験した子どものサポートや、サポートする上での注意点などについてお話を聞いていきます。
目次
子どものグリーフケア=家族に目を向けることが大切!

――死別を経験した子どもに対して、まずできることはなんでしょうか?
赤田ちづる先生(以下、赤田先生):「子どものグリーフを考えるときに、『家族に目を向ける』ことがとても大事です。グリーフは個別性が高いもので、個人のグリーフは尊重されるべきものです。そういう意味では、お子さんがいるからと言って、お父さん・お母さんも自分の悲しみを我慢する必要はありません。
グリーフの状態にある時に、社会が彼らにどう関わっていくのか考えていくことが大切です。周りから見て悲しみの中にいる家庭が「家族としての役割を果たせなくなっていないだろうか」という視点を持つことが大事なんですね。
家族は誰かが誰かをケアする集団ではなくて、互いに向けられるケアが循環している集団だと言われています。子どもを育てていく中で悩むこともありますが、子どもからもらうものもたくさんあるじゃないですか」
――そうですね。
赤田先生:「困りごとを家族のなかだけに封じ込めてしまう家庭はとても多いです。『お子さん、大丈夫ですか?』と聞いたら、『うちの子は大丈夫です』と答える人がほとんどで、専門の人間が子どもにつながるのは非常に難しいんですね。ですが、死別を経験した家庭が機能してないのは当たり前だと思っています。
問題なのは、親は『自分たちの家庭は機能している』と思っているけど、子どもが「機能していない」と思っている場合です。親子に差があることが問題で、親がわかってくれないと感じることは、精神面の健康に悪影響を与えてしまいます。
子どもは、親にこれ以上心配をかけちゃいけないって本当に頑張るんです。子どもたちが過度な役割を担っていく。グリーフ反応のひとつとして、そんなふうに健気にふるまう『いい子ちゃん』の反応があるので、親はうちの子は大丈夫と思ってしまいがちなんです。
もちろん親は親で悲しむのは当然のこと。その文脈では、社会がどう支えていけるか考えるのが大事です」
「周りの大人ができること」は発達状況によって異なる

――死別を経験した子どもに対して、周りの大人ができる配慮はありますか?
赤田先生:「子どもの発達状況によってケースバイケースですが、共通していることを挙げます。まず、子どもに死を伝える場合は、できるだけ早く、愛着のある信頼できる大人から伝えることが大事です。
子ども時代に死別を経験して大人になっている人たちに調査をした結果、学校の先生とか警察、お医者さん、迎えに来てくれた親戚の人などから第一報を伝えられることが多かったんです。そういった家族以外の人から伝えられるのではなく、電話でもいいので、愛着のある大人から伝えていただきたいです。
また、その後の生活面で言えることは、今までと同じ決まった時間にご飯を食べる、決まった時間に家を出て学校に行くなど、安心できる環境で日常生活を維持することが非常に大事です。周りの大人はそういったサポートを意識してあげてほしいです」
――幼い子の場合は、大人が先回りして配慮したほうがいいのでしょうか?
赤田先生:「幼い子には、『お空に行ってしまった』『遠くの国に行ってしまった』などの比喩や婉曲表現を避けて、誤解を招かないように配慮しましょう。子どもが『ママはいつ帰ってくるの?』など何回同じ質問をしてきても、根気強く質問に応え続けましょう。
また、お葬式への参列や遺体との対面などどうしたらいいのか、疑問に思われる方も多いですが、子ども本人に聞いていいと思います。葬儀について詳しく説明し、一緒に出るか決めてもらう。ご遺体に触れるときには、『冷たくなってるんだよ』と伝えた上で、会うかどうか子どもに委ねましょう」

――中高生になってくるとまた対応は違いますか?
赤田先生:「中高生世代になると、親代行の役割を担っている子どもが非常に多くなります。幼い子はひとりでできないことが多いので周りの目も子どもに向きますが、ある程度自分のことを自分でできる年齢の子は危険だなと私は感じています。たとえば中学生の娘さんが毎日ご飯作ったり、親の相談相手を担っていたり、きょうだいの世話をしたり……。
このようなケースでは、子どもに保護者の役を押し付けない。『残された親御さんをお願いね』とか声をかけてしまいがちですが、その子をどんどん苦しめていく言葉のひとつになってしまいます」
――学校や地域でやるべき対応はありますか?
赤田先生:「学校や地域での支援、必要に応じた専門支援につなぐことも大切です。子どもにとっては、学校の先生が唯一〝自分の意思で会える大人〟である場合がほとんどです。支援機関に子どもだけでアクセスするっていうことはできないんですね。
『困ったことがあったら何でも言っておいで』と先生のほうから伝えられるように、教育機関でもいろいろお話をさせてもらっています」
「寂しい時間じゃないように寄り添う」支援への心がけから学ぶ大人の対応
――先生が子どもの支援をするうえで心かけていることはありますか?
・ていねいに、共にいる
・かくさない ごまかさない
・長い目で見守る
・主導権を奪わない
赤田先生:「まず、この四つを心がけています。私自身、死別のグリーフをケアできるとは思っていなくて、子どもたちと会う場を作り続けることが大切だと考えています。
ケアしようと難しいことは考えず、死別によって訪れた寂しい時間が、孤独な時間じゃないといいなと思って横にいるようにしています。あとで振り返ったときに一緒にいてくれた人がいたと思ってもらえたらいいなと。それは近所のおばちゃんでもいいし、本当に誰でもいいと思うんですね」
――周りの大人の対応としても、ヒントになりますね。その他にも留意する点はありますか?
赤田先生:「子ども時代に大事な人との死別を経験すると、進学・結婚・出産などライフステージごとに苦しみを感じることもあるんです。子どもは対処法を知らないので、その後の人生で苦しみや悲しみとどう付き合っていくのか、そのヒントや対処法を、とにかく引き出しに入るだけ詰め込んであげることが私たちの仕事なのかなと感じています。
死別を経験した子どもは、喪失と回復の間を行ったり来たりします。いったん元気になったように見えても、またすぐ元に戻ったりしてしまいます。周りはその子の感情を決めつけない(=主導権を奪わない)よう気をつけましょう。回復への道程を分析したり、第三者の言葉で定義したりすることも、本人から主導権を奪うことになります。
死別の悲しみを消し去るのではなく、死別を起点としてご遺族の可能性が展開していくように手助けする。どう悲しみと折り合いをつけて生きていくことができるのか、ということを一緒に考えていくことが大切だと考えています」
約束は必ず守る! 周りの大人が気をつけたいことは

――周りの大人が絶対にやっていはいけないことはありますか?
赤田先生:「子どもにとって死別って危機的な状況なんです。日常性という連続性が断ち切られたと捉えているんですね。ですから、周りの人間は連続性を保証する姿勢が大事です。
そんな意味からも、精神的な支援が必要な子どもに関わる方は、子どもとの約束を破らないでください。
『約束が必ず守られる』という連続性を保証することで、子どもたちにまた明日が来ると思い出してもらうことが非常に大事だと思っています。小さな約束でも何度も裏切られる経験をしてしまうと、明日を信じる気持ちを持てなくなってしまいます」
――自分の家族が当事者じゃなくても、子どもの友だちが家族と死別した場合などにも、私たち周りの大人にできることはありますか?
赤田先生:「どんな場合にも基本となるのは、悲しい時間が孤独な時間ではないように一緒にいてあげることです。何もできないから何もしないということと、何もできないけどただそばにいさせてねというのは、のちのち当事者にとっても、当事者との関係性にとっても、ぜんぜん違うものとなって残ります。
過度に優しくする必要はないですが、今までその子が遊びにきていたときに料理していたとしたら、一緒にソファーに座ってあげるとか、本当に小さなことで孤独がちょっと和らぐのかなって思います。
自分の子どもに何か言うとすれば、『その子が困っていることで、ママ(パパ)にできることがあれば教えて』などと声をかけてみてもいいかもしれません」

――子どもを専門家につないだほうがいいという兆候はありますか?
赤田先生:「どんなことでも専門家につないだらいいと思います。不自然に『いい子ちゃん』すぎる場合でも、子どもは悲しみを抑圧していることがありますから。子どもが誰かの力を借りるのは当たり前のことなので、遠慮なく尋ねてみたらいいかなと思っています。
大事な視点として、子どもが一緒に暮らしている人も大切な誰かを失った人なんです。その人も悲しみを抱えながら子どもに向き合っている。だから、養育者が安定した精神状態で子どもと関わることができるように、養育者への支援を大事にしようと言っています。親も専門家を頼るなどして、自分で自分をケアしてください」
――基本的に、死別を経験した家族のうち、4割はグリーフケアの支援が必要だと言われているそうですね。でもその境界線が自分たちではわからないから、まずは専門家を頼るということが大切なんですね。
子どもの生活が当たり前に続いていくことを伝える!
――最後になりますが、身近な人の死についてあらかじめ子どもと話し合っておくべきなのでしょうか?
赤田先生:「家族が病気で余命宣告を受けている場合など、その闘病を横で見ている子どもの悲嘆の中に、予期悲嘆というものがあります。その死の前から感じる悲しみ・怒り・不安・罪悪感などのことです。
この予期悲嘆ですが、予期することで死別の負担を軽減するわけではなく、むしろ複雑化する場合もあり、子どもにとっては非常にストレスの大きいことです。
そのため、そのような場合は『あなたは何も心配しなくていい、あなたの生活は当たり前に続いていく』と伝えることが重要です。
子どもが死と向き合うとき、いずれにしても大事なのは『子どもの家族に目を向ける』『主導権を奪わずに寄り添う』ということです。つい『悲しいに決まっている』など、自分のものさしで測り、主導権を奪ってしまいがちになります。
『自分のせいで死んでしまったのでは?』と罪悪感を抱えることや『どうして自分を置いて死んだのか?』などの怒りを感じるなど、さまざまな感情を抱えることを理解し、周りの大人は子どもの感情を否定しないようにしましょう。子どもの気持ちを知る手がかりになるのは、その子の行動です。『その行動の裏に何があるのだろう?』と考えてみましょう」
* * *
悲しみだけではない感情を抱える、死別を経験する、そして経験した子どもたち。赤田先生のお話を通して、そんな子どもたちに寄り添っていくヒントが見えたのではないでしょうか。
専門家でなくともできることはあります。子どもが安心できるように、大人も学びを重ねていきましょう。
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親や家族、長年連れ添ったパートナーや友人との死別など、大切な人の死はつらく悲しいもの。その喪失感や悲しみを癒す「グリーフケア」を専門に研究・教育を行い、病院や葬儀社などと連携して数々のケアの実践を行ってきた著者が、734の体験から紡がれる〝喪失から再生への知〟を紹介します。
お話を伺ったのは…
上智大学グリーフケア研究所、関西学院大学大学院人間福祉研究科で学んだのち現職。研究のかたわら、主に関西を拠点として、グリーフケアの実践活動や支援者の養成に広く取り組む。
取材・文/まつだあや