子どもにとっての「家族との死別」とは。年齢による違い、表面にあらわれない反応など、まわりの大人が気をつけたいこと【グリーフケアの専門家に訊く】

生きていれば必ず訪れる「家族との死別」。子どもの場合は、理解が追いついていないこともあり、大人とは異なる過程を辿ることも。今回は、関西学院大学「悲嘆と死別の研究センター」客員研究員の赤田ちづる先生に、子どもの「グリーフケア」についてお話を伺いました。

今回お話を伺った赤田ちづる先生は、成人してから思いがけない形で大切な家族を失った経験があるのだそう。自身の経験もあり、中年期の頃からグリーフケアについて学び始め、現在は大切な人との死別を経験した子どもたちをサポートし続けています。

前編となる本記事では、グリーフとは何かから、子どものグリーフの反応や大人との違いなどについて教えていただきます。

悲しみだけではない、愛着の裏返しである「グリーフ」とは?

――まず、グリーフとはどういったものなのでしょうか?

赤田ちづる先生(以下、赤田先生)「グリーフというのは、『重たい』という意味のラテン語からきています。親しい人や大切な人が亡くなったときに表れる心理的、身体的、社会的な反応のことを指しています。

 悲しみだけが残ると感じがちですが、後悔だったり怒りだったり……。いろんな感情が表れる中で、身体的にも抑うつが出たり、眠れなかったりとか。眠りすぎたり、過活動になったりとか。十人いたら十人全員が同じように悲しむわけではなく、非常に個人差があります

 誰にでも表れますが、病気ではなく健全で自然な反応です。私たちは『愛着の裏返し』だという捉え方をしています。

 身体的症状として表れることもあり、社会生活に影響を及ぼす場合も出てくるので、社会的に解決しなければならない問題であると捉えられるようになってきました」

オンライン取材での赤田ちづる先生(関西学院大学「悲嘆と死別の研究センター」客員研究員)

――そのグリーフをケアするという意味で「グリーフケア」と呼ばれているのでしょうか?

赤田先生:「何かをケアしてあげるとか、悲しみをケアしてあげるというわけではなく、その人自身が悲しみと向き合っていくときに、寂しくないよう誰かが横に並走していくのが、最近の捉え方かなと思っています。

 グリーフって、回復するものでも乗り越えるものでもなくて、一生付き合っていくものなんです。

 例えば、死別した直後はすごい悲しみが大きくて、その大きくてトゲトゲしている荷物を自分で持てなかった。その荷物を自分で扱いやすく、丸くしていくように、どうやったら悲しみとともに一緒に生きていけるのかを一緒に考えていくのが、グリーフケアです」

子どもと大人で感じ方は違う? 年齢による理解の差とは

――身近な人を亡くしたとき、子どもと大人で感じ方に違いがあるのでしょうか?

赤田先生:「死別したときに、子どもは大人ほどいろんな対処法を知らないので、一番に支援が必要だと思います。

 子どもが辿るプロセスは大人とは違います。子どもは、悲嘆への対処能力を大人ほど持っていません。大人になると、誰でも死ぬものだっていうこともわかってきて、悲しみを受け止める力や自分の身を守るための方法もわかりますよね。でも、子どもはそれを知らないんです。

 そして、子ども時代の死別体験による負担は、時間が経過しても、形を変えてその子の人生に影響を及ぼし続けます。実際に、中学のときに死別体験をした子が、20年経ってから、ある日電車に乗れなくなったりする。過去の経験から『誰も自分を助けてくれなかった』と思い、人間関係を作っていくのが非常に難しくなったりします」

――子どもの発達状況によって、死についての理解度はどのくらい違うのでしょうか?

赤田先生:「子どもがどうやって死を捉えるかは、四つの段階に分けられます。2歳までの子どもだと、死を理解することはできないけれども、周囲の大人の反応には敏感になり、退行という形で反応が表れることも。

 3歳〜6歳になると、死を捉えることができるようになりますが、生き返らないっていうことは理解できないんです。『お空の上にいるよ』と説明をすると、ずっとお空にいると思う。『眠っているね』と言うと、ご飯持っていかなきゃって思うんです。

 そして、小学校になると死は最終的に誰にでも起こるっていうふうに理解はしていても、自分の身には起こらない。自分の大事な家族には起こらないというように捉えています。

資料画像提供:赤田ちづる先生

赤田先生:個人差はありますが、大人と同じような死の概念を持つのは、だいたい10歳ぐらいだと言われています。中学生になると、大人と同じように概念が成熟していると捉えています」

――子どものグリーフにおいて、大人と異なる点はどこでしょうか?

赤田先生:「子どもは、発達とともに死別を捉え直して理解しなおすんです。大人は、特定の人との死別を体験するのは一度だけですよね。でも、母親と死別したときに3歳だった子が、『またお母さんに会えるかも?』と思っていたとして、発達段階によって「もうお母さんは帰ってこない」と理解することで、大切な人の死を繰り返し体験します」

大人と共通する反応や見落としがちな「いい子ちゃん」という反応が起こる場合も

――では、死別によって子どもにはどんな反応が起こりますか?

赤田先生:「子どもにも、情緒面・行動面・身体面・社会面でいろんな反応が表れます。大人と同じように悲しむとか怒るとか泣くとか。

 そして気をつけたいのが、子どもは自分のせいで死んだと考えがちにもなることです。例えば、交通事故で兄が亡くなった子は、自分が悪い子だったから天罰が下ってお兄ちゃんは死んじゃった……と考えるようになったり。喧嘩したときに『死んじゃえ』って言ったから、死んでしまった等、死を自分のせいだと結びつけようとします。そういったことが、のちに子どもに罪悪感として残ってしまうことがあります。

 行動面では、抑うつになって家に閉じこもってしまう。その逆で、乱暴になったり、落ち着きがなくなってはしゃいだりとか。大人が不謹慎だと思ってしまうような陽気なふるまいも、グリーフの反応のひとつです。

資料画像提供:赤田ちづる先生

赤田先生:いっぽうで非常に多いのが、何事もなかったかのようにふるまうことです。『いい子ちゃん』という言葉を私たちは使うんですけど、悲しんでいる親にこれ以上心配かけちゃいけないと、自分はいい子でいようとします。

 社会面では、言葉が出ていた子が出なくなる、トイレトレーニングが終わっていたのにトイレができなくなる、誰かとべったりで離れられなくなる離別不安などが起こることもあります」

相手がどんな役割を持っていたのかに目を向ける

―――亡くなった人が誰かによって反応は違ってきますか?

赤田先生:「先ほども説明したように、グリーフは、『愛着の裏返し』なんです。なので、亡くなった相手にどの程度の愛着があるかによっても違います。

 例えば、祖父母が亡くなったときに、年に一度しか会わない関係だったのか、自分の幼稚園の送り迎えを毎日してくれていた人だったかによって変わります。

 祖父母の死は、青年期以前の死別で最も多い体験と言われていて、祖父母との関係性が親密であればあるほど死別反応が強く表れます。 共働きのご家庭が増えていることもあり、祖父母の持っている多様な意味と役割も理解しなくてはいけません」

――親やきょうだいの場合はどうでしょうか?

赤田先生:「親というのは日常の安全基地なので、子どもにとって世界の根幹が揺らぐ体験だと言われています。存命の親もパートナーを亡くしていますよね。そこで、親の精神健康が子どもに非常に影響を与えることもあります。

 また、親との死別の場合は、物理的に全く異なる環境に移っていく子どもが多いのも特徴です。転居により、学校が変わることで友だちも変わってしまうといった喪失も重なります」

赤田先生:「いっぽうで、きょうだいを亡くした子は、『忘れられた遺族』と言われています。周囲の関心が、悲嘆にくれる親に向けられがちで、そのきょうだいは、『お母さんは大丈夫? お父さんをよろしくね』と声を掛けられてしまいがちなんです。

 親が亡くなったときは、子どもが困るのは周囲の目に見えやすいですよね。そのため、比較的支援に繋がりやすいんですけど、きょうだいが亡くなった場合は親が両方揃っているので、なかなか外部からの支援に繋がりにくいです。

 子どもを亡くした親は、今までと同じような心理状態では残された子の面倒を見られないですよね。親が親としての役割を果たせているか、という視点が非常に大事です。

 そして、残された子には、親を支えられなかったという罪悪感と自責が長期間にわたって残っている場合もあり、小学生や中学生だった子どもが、大人になってもそう思ってしまうパターンも多いです」

――赤田先生の調査研究の中、残されたきょうだい特有のグリーフとして「親からの見捨てられ感」というのがあるのだそうですね。残されたきょうだいが情緒的にネグレクトの状態に置かれてしまう可能性などもあると言います。

赤田先生:「きょうだいが亡くなった後、親にとっては残されたきょうだいの扱いが難しいと感じることもあるんです。子どもを亡くした後三年ぐらい残されたきょうだいについて記憶がないことも……。

 それによって、残された子に複雑なトラウマが生じる傾向があると研究でも言われています。そんなときは、誰かがわかってくれる環境を作ることが大切です」

ーー親や家族のほかにも、目を向けたい死別体験がありますか。

赤田先生:「最近多いのがペットとの死別によるグリーフです。ペットは守ってあげる存在なので、命の大切さを実感する機会となって、人格的発達にも影響し、子どもの情緒にはいいことだと言われています。

 例えば、親が共働きの家庭の場合、家に帰って一番に迎えてくれるのがペットであることもあります。しかし、その子はペットが亡くなった後に家にひとりぼっちになってしまいますよね。たとえひとりぼっちにならなくとも、ペットが癒しの存在になっていたり、家族の一員として欠かせないという場合も多いと思います。誰かと死別したときは、相手がどんな役割を持っていたのかという視点で見る必要があります」

*  *  *

死別を通して、大人とはまた違ったグリーフを抱える子どもたち。まず大人の私たちが理解を深めることで、その感情に寄り添うことができそうです。

後編では、死別を経験した子どもたちをどのようにサポートしていけばいいのか、周りの大人ができることなどについてお伺いします。

▼「子どものグリーフケア」後編はこちら

〝家族の死〟を子どもにどう伝えるか。「それでもあなたの人生は続いていく。」寄り添い、支え合うためにまわりの大人にできること【子どものグリーフケア】
前編では「グリーフケアとは何か」から、死別を経験した子どもの反応や特徴などについて、赤田ちづる先生についてお伺いしました。 ▼「子ど...
著 坂口幸弘 / 赤田ちづる ディスカヴァー・トゥエンティワン 1815円 (税込)

親や家族、長年連れ添ったパートナーや友人との死別など、大切な人の死はつらく悲しいもの。その喪失感や悲しみを癒す「グリーフケア」を専門に研究・教育を行い、病院や葬儀社などと連携して数々のケアの実践を行ってきた著者が、734の体験から紡がれる〝喪失から再生への知〟を紹介します。

お話を伺ったのは…

赤田ちづる 関西学院大学「悲嘆と死別の研究センター」客員研究員

上智大学グリーフケア研究所、関西学院大学大学院人間福祉研究科で学んだのち現職。研究のかたわら、主に関西を拠点として、グリーフケアの実践活動や支援者の養成に広く取り組む。

取材・文/まつだあや

編集部おすすめ

関連記事