
元来、地理的な意味合いで使われていた「界隈」だが…
「界隈(かいわい)」という語を、みなさんはどのような意味で使っていますか? 大方は、そのあたりの地域、近所、付近の意味で使っているのではないでしょうか? 「新宿界隈」、「この界隈は古い建物が多い」のように。確かに「界隈」は、地理的な意味合いで使われる語だったのです。「界」は「さかい、しきり」、「隈」は「曲がってはいり込んだ所。奥まった所」という意味の漢字ですから。
ところが最近、この「界隈」が新しい意味で使われています。
「トー横界隈」「水色界隈」「風呂キャンセル界隈」などといったように。
それぞれどういう意味だかわかりますか?
「トー横界隈」は、新宿区の歌舞伎町に集まる「トー横キッズ」の自称です。「トー横」も、聞いたことはあるけどどういう意味? と思う人がいるかもしれませんね。新宿歌舞伎町にある映画館「新宿東宝ビル(TOHOシネマズ新宿)」を中心とした高層ビルエリアに集まる子ども・若者のことです。新宿東宝ビルの横という意味から「トー横」と呼ばれるようになりました。

「水色界隈」は、ファッションで言うのですが、水色でコーディネートしたスタイルや、それを好む人々のことです。
「風呂キャンセル界隈」は、なんとなく意味がわかるのではないでしょうか。お風呂に入ることを面倒に感じる人たちのことをいいます。
Z世代が使い始めた? 「~の人々」という新しい意味
つまり「界隈」は、本来は地理的な意味合いの語だったものが、ある趣味の分野とか、それにかかわる人たち、あるいは共通の意識を持った人々という意味で使われるようになったのです。
この新しい意味がいつ頃生まれたのかはっきりとはわかりませんが、2020年前後から使用例が多く見つかります。おそらく、Z世代(1990年代中盤から2000年代までに生まれた世代)と呼ばれる人たちが使い始めたのでしょう。
「界隈」の新しい意味を載せている国語辞典はまだほとんどなく、私が調べた限りでは、『三省堂国語辞典 第8版』(2022年)とインターネットで定期的に更新している『デジタル大辞泉』だけです。
従来、似たような意味で使われてきた語に「関連」があります。「マスコミ関連」「教育関連」といったように、それにかかわる分野だということを少しぼかしていう語です。「界隈」は「関連」よりも狭い範囲内、かつ狭い分野であることを表しているように思われます。なにしろ「隈」という漢字にはすみっこという意味もあるのですから。それを考えると、「辞書界隈」の人間としては、うまいことばを見つけたなという気がします。
記事監修

辞書編集者、エッセイスト。元小学館辞書編集部編集長。長年、辞典編集に携わり、辞書に関する著作、「日本語」「言葉の使い方」などの講演も多い。文化審議会国語分科会委員。著書に『悩ましい国語辞典』(時事通信社/角川ソフィア文庫)『さらに悩ましい国語辞典』(時事通信社)、『微妙におかしな日本語』『辞書編集、三十七年』(いずれも草思社)、『一生ものの語彙力』(ナツメ社)、『辞典編集者が選ぶ 美しい日本語101』(時事通信社)。監修に『こどもたちと楽しむ 知れば知るほどお相撲ことば』(ベースボール・マガジン社)。NHKの人気番組『チコちゃんに叱られる』にも、日本語のエキスパートとして登場。新刊の『やっぱり悩ましい国語辞典』(時事通信社)が好評発売中。