子どもを算数ギライにしないために。小学校入学前に身につけておきたい「算数感覚」とは?【算数教育のプロが教えます】

算数というと、計算力のことを思い描きがちですが、小学校で習う算数には、面積、長さ、量の測定や、分数、小数、時間、図形など、様々な分野があります。どの分野も1年生で習うことが土台となっているため、1年生の算数でつまずくと、学年があがっても算数が苦手となってしまいます。どうすれば算数が好きになるのか? つまずいたら、どこから何をすればいいのか? 長年、算数教育研究に従事してきた、山本良和先生にお話をうかがいました。来年、小学校入学を控えているお子さんには、今から、生活の中で算数感覚を身に付けることを意識してのかかわりをおすすめします。

「算数感覚」に必須なのは語彙力と実体験

小学1年生の算数の導入で大切なのは「数字が何かを表していること」を理解していること。そこで、つまづかないためには、入学前に「算数感覚」を身につけておくことが大切です。それは、先取りして算数の勉強をすることではありません。手指を使ってモノを数えたり、ブロックや積み木、折り紙などで遊んだりなど、数をはじめとした算数に関わる事象に触れる体験から、自然と身に付いていくものです。

子どもが「算数感覚」を身につける際に必須となるのが語彙力です。例えば数を表す「ひとつ」「ふたつ」、量を表す「多い」「少ない」、大きさを表す「大きい」「小さい」などの言葉を知らなければ、認知した事象を記憶したり、誰かに伝えたり、それについて思考したりすることができません。そしてそれらの言葉を獲得するには、その言葉が使われる場面を体感することが重要となります。

デジタル機器では語彙力は増えません

言葉は、実体験に伴って初めて身に付くため、タブレット端末などデジタル機器を使って語彙力を増やそうとしても、なかなかうまくいきません。ボールが曲面からなっていること、身近にある箱が平面からなっていることなどは、実際に手で触ってみて認識できることです。何かに比べて大きい、小さいといった比較も、実際に体感してこそ理解ができるのです。

幼児期は「算数感覚」を身につけさせる以前に、その土台となるたくさんの言葉を育むことが大切です。言葉の獲得は、生活や遊びのなかで出合うモノや体験を、大人が言語化して伝えることで成し遂げられます。耳から入った言葉の情報は、視覚や聴覚、触覚、嗅覚、味覚とつながって記憶されるため、幼いうちから五感をたくさん刺激することが重要であり、特に手を使って遊ぶことで触覚を育むことが大切と言われています。

ざらざら、つるつる、ふわふわ、さらさら、尖っている、丸まっているなどといった、手で触って初めてわかる感触は、体験がなければその言葉の意味を理解することができません。同様に、数や大きさ、量などの概念も、手で触れたり目で見たりといった実体験に、大人が言葉を重ね言語化することで身に付いていきます。

知育玩具でなくとも、「算数感覚」を身に付ける体験はできます

例えば、積み木を「ひとつ、ふたつ」と数えたり、数個の苺をふたつの皿に分けて「多いのはどっち?」と大人が問いかけたり、「コップを3つ持ってきて」「お皿を一枚ずつみんなに配って」など、年齢に応じたお手伝いをしたりすることで、数の概念も自然と養われていくのです。

日々の遊びの中にも、「算数感覚」を養う機会が数多くあります。数を学べるとうたった知育玩具が多々ありますが、こうした玩具を購入しなければ、「算数感覚」が身に付かないわけではありません。

例えば、大小さまざまな玩具を並べて「どっちが大きい?」と比べさせることで、楽しみながら理解を深めることができます。積み木やブロックも形や色で分けたり、個数を数えることで「算数感覚」を養ってくれます。折り紙は、図形を理解するのにも役立ちます。

算数を理解する土台になる「なかまわけ」

算数では同じカテゴリー(なかま)のものしか計算出来ないというルールがあります。例えば、みかん3個とりんごが4個あった際、みかんとりんごは足して数えられません。

けれども、りんごとみかんを「果物」とカテゴリーとして、「なかまわけ」すれば、果物は全部で7個と考えられます。カテゴライズが苦手だと、算数も苦手になる傾向があります。

この「なかまわけ」の考え方は、「お片付け」をする体験を通して学べます。遊んだおもちゃを片付けるときに「のりもの」「ブロック」「にんぎょう」などでわけて箱に戻すという行為が、実は算数の問題を解く際に、役立つ体験となります。

親の意識次第で、子どもの「算数感覚」がアップ!

算数の好き嫌い、得意不得意は、算数の学習を始める以前の生活が関わって生じるものだと言えるでしょう。そのことを理解して、意識的に子どもに関われば、子どもの算数感覚が高まります。

数えたり測ったりに役立つ手と指

1、2、3、4、と数を数えること(数唱)を教えたり、数字を覚えさせたりということは、誰もが行っていることでしょう。言葉として覚えたそれらの数に、それぞれ意味があることを理解するには時間がかかります。

「ひとつ」が「1」で、「ふたつ」が「2」、ということを大人は当たり前に理解していますが、子どもがその理解に至るまでには多くの体験が必要です。お菓子を配る、おもちゃを片付けるといった日常の場面で、数を数える機会を増やしましょう。いつでもどこでも、数を数える際に役立つのは手の指です。指を折って数えることは、数の概念の理解に有効です。

数と同じく、「多い・少ない」といった、量を表す言葉も抽象的な概念のため、モノの名前を覚えるのと違って、理解するまでにやはりたくさんの体験が必要です。「大きい・小さい」「長い・短い」「重い・軽い」なども、実際に子どもが目で見て手を使って測れるもので、ふたつを比べる機会を増やしましょう。

例えば、食事の場面で「お父さんのハンバーグと、○○ちゃんのハンバーグ、どちらが大きいかなあ?」などと問いかけたり、「大きいコップはお母さんので、小さいコップが○○ちゃんのだね」と言葉がけをしながら、子どもと一緒に配膳したりするとよいでしょう。

遊びの場面でも、ボールの大きさを比べたり、紐の長さを比べたりなど、毎日の生活の中には、算数の感覚を養う機会が数多くあります。

時計は、アナログとデジタルの二つを取り入れると理解が早い

就学前に、身に付いていると生活しやすくなるのが、時計で時間を読むことです。

アナログ時計の読み方は、小学校になってから習うのですが、就学前でも時計を使って「7時になったらご飯ね」「8時半になったら寝るのよ」など、食事や就寝の時間を示す家庭もあるかと思います。「7時」「8時」などキリのよい時間は、目で見てわかりやすいのですが、「7時23分」など、長針が示す分数を読み取ることは、子どもにとっては複雑でわかりにくいものです。アナログ時計は、最初は長針と短針が表す形で時間を覚えていきますが、アナログ時計にデジタル時計を並べておくと、デジタル時計の数字が、アナログ時計で時間を読み取る際のサポートになります。

〝なぜ?〟〝どうして?〟を発したときが「算数感覚」を育てるチャンス

子どもは成長の過程で、「なぜ?」「どうして?」を多く発するようになる時期があります。

「どうして、ぞうさんのお鼻は長いの?」子どもにこう尋ねられたとき、親はどういう関わりをするのがよいのでしょうか? 昨今はスマートフォンで調べれば、子どもの疑問にすぐに答えることができます。しかし望ましくないのは、「ぞうさんのお鼻は、立ったままエサをつかみ、口に運べるように長いのよ」など、すぐに答えを伝えてしまうことです。

それは、「どうしてだろう?」と感じることから芽生える、探究心を摘み取ってしまうことにつながります。

答えを聞いた子どもは、ぞうの鼻が長いことに対して、興味を失ってしまいます。そうではなく、「どうしてそう思ったの? 面白いことに気づいたわね」と、「どうして?」と尋ねることは、よいことなのだと思えるような言葉かけをしましょう。疑問を持つことは、学びの源となる大切なことです。

どうしてそう思ったの?と子どもに問いかけることで思考を促す

「どうしてだろうねえ? ○○ちゃんは、どうしてだと思う?」などと問いかけ、子どもの思考を促しましょう。絵本や図鑑で一緒にぞうの絵や写真を見て、「本当ねえ、○○ちゃんやママのお鼻とはずいぶん違うわね。今度、動物園に見にいってみようか?」など、子どもの興味を高める言葉かけも大切です。

実際に動物園でぞうに接すれば、子どもはその大きさに衝撃を受けるでしょう。ぞうは大きいということを、身をもって知ることができます。絵本や図鑑で見るぞうは自分より小さいのに、なぜ「ぞうは大きい」というのかと疑問に感じていたことが、一目見ただけで、「ぞうは大きい」のだとわかります。

日常生活の中で、数や量を子どもと一緒に考える機会を意識して

同様に、数や量に関する子どもの疑問も、一緒に答えを探すことを心がけてください。お菓子を家族で分ける際も、大人が配ってしまうのではなく、どうやって配ればよいか、子どもと一緒に考えながら配るとよいでしょう。ジュースをコップにつぐ際も、コップの大きさが違うと、どちらが多いのかわからなくなります。どうすれば同じ量になるのか、計量カップを使うなどすると、子どもには大きな発見となるでしょう。

算数の得意な子どもになってほしいと願うならば、就学前から算数を先取り学習しようとしてデジタル機器に頼ったりせず、子どもとたくさんコミュニケーションをして子どもの語彙力を伸ばし、体験と結び付けて算数感覚を育むことを意識した関わりを持つようにすることが大切です。

取材・構成/仲尾匡代

こちらの記事では、おうちで算数感覚を育むアイディアを紹介しています

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監修/山本良和 高橋書店

算数は体を使って感じるのが大切です。「やってみよう」で算数感覚を養う!苦手克服本

記事監修
山本良和先生
昭和学院中学校・高等学校校長・学校法人昭和学院理事。高知大学教育学部附属小学校を経て、筑波大学附属小学校で教諭として21年間、算数教育研究に従事。国内や海外で算数の師範授業や講演を実施。『たのしい!算数のおはなし』(高橋書店刊)など、算数に関する著作多数。

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