細田作品史上もっとも心がすさんだヒロインの葛藤が心を締め付ける! 新作『果てしなきスカーレット』は時代から求められた快作【親子で観たい映画】

『サマーウォーズ』(09)や『竜とそばかすの姫』(21)などの細田守監督作『果てしなきスカーレット』がいよいよ公開!すでに各国の映画祭でも絶賛されてきた本作は、今の時代に観るにふさわしい快心の1作となっていました!

細田守監督が革新的な映像美で放つ戦うヒロイン、スカーレット

ⓒ2025 スタジオ地図

『時をかける少女』(06)を皮切りに、『サマーウォーズ』(09)、『おおかみこどもの雨と雪』(12)、『バケモノの子』(15)、『未来のミライ』(18)、『竜とそばかすの姫』(21)と、数多くの作品で大旋風を巻き起こしてきた細田守監督。みなさんは、どの作品がお好きですか? 私はずばり『おおかみこどもの雨と雪』がフェイバリット作品ですが、そこはきっと意見が分かれそうですね。

細田作品といえば、青春、家族愛、種族を超えた絆、仮想空間の世界など、様々なテーマの映画を手掛けてきましたが、いずれの作品でも、根底に流れていたのは、命の尊さや輝きだったかと。本日公開された監督最新作『果てしなきスカーレット』では、さらに一歩踏み込み、真っ向から“生きる”というテーマに挑んでいます。

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私たちは数年前に世界的なパンデミックを体験しました。さらに現在もあちこちで戦争が起きていて、今や “対岸の火事”では済まされないような、きな臭い世界情勢となっています。本作は、そんな時代だからこそ、親子で観ていただきたい1作かと。

また、常に革新的な映像表現にトライしてきた細田監督が、今回もさらに高みを目指し、大スクリーンマストの映像体験をさせてくれます。没入感がすさまじいので、設備の整った映画館での鑑賞を推奨したいです!

細田監督が目指したのは「人は何のために生きるのかを問う、骨太な力強い映画」

ⓒ2025 スタジオ地図

王女・スカーレットは、国王の父を殺して王位を奪った叔父・クローディアスに復讐を試みるも、失敗に終わります。その後、目覚めた場所は「死者の国」。そこでは人々が略奪と暴力に明け暮れ、力のない者や傷ついた者は“虚無”となり、その存在が消えてしまうとか。スカーレットは、父の敵(かたき)であるクローディアスもこの世界に居ると知り、改めて復讐を胸に誓います。

そんな中で彼女が出会ったのは、現代の日本からやってきた看護師の聖(ひじり)。時を超えて出会った2人は、衝突しながらも、共に旅をしていくことに。戦うことでしか生きられないスカーレットでしたが、聖は逆に戦うことを避けようとします。やがて敵・味方に関わらず優しく接していく聖の温かい人柄に触れていくうちに、スカーレットの凍りついていた心が溶かされていきます。

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復讐に燃えるヒロインのスカーレットを演じるのは、次世代を担う芦田愛菜で、圧倒的な演技力によって観る者を惹きつけていきます。そして、彼女と交流していく現代の日本人看護師・聖に岡田将生、最凶の宿敵・クローディアスに役所広司。他にも市村正親、吉田鋼太郎、斉藤由貴、松重豊、山路和弘、柄本時生、青木崇高、染谷将太、白山乃愛、白石加代子と日本を代表する豪華キャスト陣が集結しました。

かつて細田監督作の主人公で、スカーレットほど、とことん心がすさんだヒロインっていましたか? 復讐心に取り憑かれ、頭の中はそれしかないスカーレット。でも、聖と共に過ごす中で「裏切り、裏切られ、蝕まれるほど、誰かを信じたくなる」という矛盾と葛藤が生まれていきます。そこが見ていて痛々しい。

人間とは何か? 生きるとは? 死ぬとは? 愛とは? 必死に答えを見出そうとしていくスカーレットと一緒に、観客も自問自答していくことになるのかもしれません。

私が一番、心に刺さったのは、小さな子どもが、自分が今、生きている時代を心から憂うシーンです。そんな世界を作ったのは大人たちですよね。まさに今、世界で幼き命が次から次へと奪われていく現実を彷彿させるくだりになっています。

細田監督は「人は何のために生きるのかを問う、骨太な力強い映画を目指したい。今、この大きなテーマを、観客と一緒に考えたい」と語っていますが、スクリーンの映像から、そのメッセージは雄弁に伝わってきます。とりわけ「生きろ」「生きる」のやりとりが、観る者の心にくさびを打ち込んできそう。

ⓒ2025 スタジオ地図

劇中で少女が「本当に争いのない世界は、やってきますか?」と問うシーンもあり、私自身は、思わずギクリとさせられました。本当にそういう世界になってほしいと心から願います。

他にも、これまでの細田作品におけるセルフオマージュ的なシーンもふんだんに盛り込まれた本作。過去と現在の時間軸を巧みに織り交ぜたり、細田作品でおなじみのクジラが登場したりと、ハイライト的なシーンが満載なので、そこも必見です。

未来を託す子どもたちにこそ観てほしい映画

ⓒ2025 スタジオ地図

メガヒット中の『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』が8月より海外地域で順次公開され、日本を含む全世界で11月16日までに、累計観客動員8917万7796人、総興行収入1063億7056万8950円を記録! 全世界における、日本映画史上初の全世界興行収入1000億円を突破しました。

今や日本のアニメーション作品は、海を渡り、熱狂的に支持されていることは周知の事実。細田監督が指揮官である本作は、東宝とソニー・ピクチャーズ エンタテインメントの共同配給作品ですが、「鬼滅の刃」など他の作品と同じように、この先もどんどん世界中でお披露目されていくことになるかと。

すでに第82回ヴェネチア国際映画祭のアウト・オブ・コンペティション部門、第50回トロント国際映画祭のスペシャル・プレゼンテーション部門、第63回ニューヨーク映画祭のスポットライト部門に選出。ヴェネチア国際映画祭での公式上映では、10分を超えるスタンディングオベーションが巻き起こりました。今後も、世界に向けて大切なメッセージを発信し続けてくれることでしょう。

と、めちゃくちゃ圧の強いレビューとなりましたが、エンターテインメント性も非常に高い作品となっているので、とにかくでかいスクリーンで、思い切り楽しんでいただきたい。最後になりますが、繰り返して言います! ぜひ本作を“親子”でご覧ください。

『果てしなきスカーレット』は11月21日(金)より公開

監督・脚本・原作:細田守
声の出演:芦田愛菜、岡田将生、市村正親、役所広司…他
公式HP:https://scarlet-movie.jp/
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