目次
図形は「目に見えないものを想像する」のが難しい
――小学校で、算数が得意な子と苦手な子に分かれてしまう気がします。そして、その後もずっと苦手意識を持つ子は多いように感じます。
山口先生:まず、小学校3年のかけ算でづまずく子は多いですね。九九が覚えられない。4年生では小数点が出てきて戸惑い、わり算で大騒ぎです。わり算って、概念がわかりにくいですよね。おまけに小数とわり算が一緒になると、2÷0.5が4.0になって、割ると増えるってところで、大きくつまずきます。なんで割ったのに大きくなるのか、意味がわからない、と。
そして、図形が出てくると、ますますわからなくなるんです。問題を見る前から「わかりません」っていう学生が出てきます。数の概念などがわかっていない上に、図形は目に見えないことを想像する部分が大きい。「補助線を引けばわかる」と言われても、どう引いたらいいか、考えもつかないとなってしまいます。
「わかった!」という感覚をしっかり持つことが大事
――「苦手意識」が強すぎて、最初から「できない」って思ってしまうんですね。でも、先生はそんな小学生を教える先生方に、教授法を40年も教えてこられました。いったいどうすれば算数をうまく学べるのでしょうか。
山口先生:算数を教えている子どもたちの中には、発達障害の子もいます。その子はずっと勉強に苦手意識を持っていて、教えている間に初めて「わかった!」という感覚になったのだそうです。「わかったのか、よかったね、じゃ次行こう」って言ったら、「ちょっと待って、『わかった』っていう喜びにもう少し浸りたい」と。
ああ、そうか、確かにそうだな、と。わかるってうれしいですよね。わかったうれしさをちゃんと味わいたいんです。
「わかった、うれしい」という感情って、意外と持ちにくいんだなと思いましたね。勉強って、ノルマになりがちです。ここまでやらないといけない、がんばらないと叱られる、みたいにね。だから、遊んでいるときは楽しいのに、勉強は大変でつまらない。それじゃ、残念ですよね。
でも、パズルみたいなものだったらおもしろいんじゃないかなと思うんです。ノルマじゃなく、時間制限もなく、パズル感覚で算数を解いたらそれは遊びになるんじゃないかなと。遊ぶように楽しく勉強する。おりがみも同じです。おりがみで遊ぶ。算数の勉強だと思わずに図形がわかってくる。
勉強だと思ったら失敗です。頭のなかに自然にメンタルモデルがつくれると、「わかった」の手がかりになります。おりがみはその手がかりです。頭の中にある認知の枠組みに、目の前のおりがみの図形がフィットすると、「そういうことなんだ!」と「わかった」が経験できるんですね。すると、飛躍になります。おりがみは目の前ですぐに図形をつくれるのがいいところですよね。
――何歳くらいからおりがみを使えばいいでしょうか。
山口先生:いつでもどうぞ。入り口ですから、年齢はありません。未就学でもいいし、小学校高学年でもいい。大人も楽しいと思いますよ。
正方形を半分に折る、4分の1に折ると「分数の概念」が実感としてわかる
――おりがみで算数を学ぶことは、どのようなメリットがあるのでしょうか。
山口先生:おりがみって正方形ですよね。正方形ってすごいんですよ。半分にする、4分の1にするのがわかりやすく、折ればちゃんと重なる。体験して頭の中にイメージをつくっていきやすいです。中学受験も「おりがみ問題」、つまりおりがみを折った形を題材にした問題がかなり出ます。
――たとえば、どんな問題ですか?
山口先生:おりがみを折ったところの角度を求められたり、斜めに切った長さを求められたりさまざまです。
そんな中で、まずおうちでやってみていただくとおもしろいのは、「半分」という概念をおりがみで知ることです。算数の苦手な子でも、1を2分の1にするくらいは自然に取り組めると思います。ただ、大人でも気づかないおもしろい結果もあるんですよ。
「おりがみを面積が半分ずつになるように折ってみましょう」と大人に言えば、子どもと同じように長方形をつくるように折る人と、対角線で三角に折る人がいます。
――どちらかですよね。
山口先生:いえ、違いますよ。思い込みがあるんですよね、半分に折る折り方は、ちょうど紙がピッタリ重なる折り方しかない、と。しかし、正方形は、中心点を通って半分に折れば、どんな折り方をしても面積がちょうど半分になります。面積を半分にする折り方は無数にあります。そう言うと、会場から「えーっ!?」という声が上がり、実際に折り紙を折って説明をすると、「そうか!」と、大人でも感激します。

――なるほど!おりがみを折って開いてみるとリアルにわかりますね。
「面積」の概念も、おりがみでわかり、平行四辺形や台形の構造もわかる
山口先生:では、次の問題。おりがみのもとの面積の半分の面積の正方形をつくるには?4分の1はすぐわかるけれど、半分は難しいと思ってしまいませんか?
――そうですね、半分……。難しいです。
山口先生:折り目をつくって折ってみるとわかります、そして、8分の4が2分の1と同じだということもわかりますね。わり算の概念を理解することもできます。


2分の1の面積の台形も、同様の考え方で作れます。対角線で2つの大小の三角を作り、広げると大小の正方形が2つ、同じ大きさの長方形が2つできます。それぞれの対角線で折ったものが台形です。対角線のことも、台形の形のことも、2分の1を組み合わせることで面積が2分の1になることもわかります。



――おりがみだと、本当にわかりやすいですね!先生の著書『おりがみで学ぶ図形パズル』の問題を見てみると、いろんな「2分の1」があることがわかります。2分の1に折って平行四辺形や台形をつくる方法なども、パズルを解いていくようにしながらわかっていきますね。何回も折ることで、2分の1だけでなく、4分の1、8分の1、16分の1も自然にわかります。


折るだけでなく、「切って」図形を別の形にする
山口先生:折るだけでなく、切ってくっつけることもできます。正方形を長方形にすることもでき、同じ面積で長方形になることもわかりますね。


――図形の問題が楽しくなってきます!
山口先生:ただ、「勉強」にしちゃダメです(笑)。何気なくやることが重要です。算数の勉強じゃないようにやるのがおもしろい。それと、はい次、はい次と早くやらないでください。ゆっくりやって、「そうか!」と深くわかることが大事です。時には「あれ、間違えた!」と新たに折り直すことも大事です。おりがみを入り口にして、図形でパズルのように親子で遊んでくださいね。
この記事もおすすめ
お話を聞いたのは
1947年生まれ。慶應義塾大学大学院社会学研究科教育学専攻博士課程修了。玉川大学名誉教授、仙台白百合女子大学教授を経て、現在フリー。専門は、教育プログラムの研究開発、評価、メディアの教育利用、教師教育など。小学校教育の教員養成に40年関わる。小学館通信添削学習教材「ドラゼミ」の算数テキスト、ポイントマスタ問題の監修執筆も。現在も少人数で小学生に算数を教えている。主な著書に、本書の姉妹書の『切りがみで学ぶ図形パズル』(ディスカヴァー・トゥエンティワン刊)のほか、『授業のデザイン』『教材づくりのためのFLASH 20 Lessons』(以上、玉川大学出版部)、『21世紀コンピュータ教育事典』(編集代表、旬報社)などがある。
本書では、おりがみを使ったさまざまなタイプの図形パズルを50題厳選しました。おりがみを折って三角形や四角形をつくる問題、おりがみの面積や角度をもとめる問題、そしてかけ算や分数の計算をおりがみを利用して考える問題などを通して、算数センスや発想力をぐんぐん伸ばすことができます。
子どもの大好きな「おりがみ」を使うことで、算数の苦手なお子さんでも楽しく学べるのも特徴です。「算数を考えることを楽しむ」――本書はそのための最適教材といえるでしょう。
この記事を書いたのは
インタビューを中心に教育、子育て、医療、介護、食などのテーマで WEB・雑誌・書籍などの記事を執筆。お話を伺う方にたくさんの学びをいただいています。社会福祉士、法定成年後見人、中学校・高等学校教諭一種免許状、生涯学習2級インストラクター(栄養と料理)