精神疾患による教員の休職は過去最多の1万3千人超え。今、先生たちが忙しすぎるのはなぜ?【保護者が知っておきたい学校のリアル】

教育現場では現在、教職員の働き方改革、不登校の増加による個別対応、学びの多様化、次期学習指導要領改訂に伴う新たなカリキュラムの検討など、大きな変化が同時進行で起きています。一方で、保護者にとっては「わが子にどう関係するのか見えにくい」という状況も。こうした教育の動きを、保護者の視点で再整理し、“子どもへの影響”と“家庭での関わり方”を6回の連載でお伝えします。今回は、近年負担が集中している先生たちが置かれている状況について解説します。

教員不足が深刻化する現場

「先生って、そんなに忙しいの?」「先生が足りないって本当?」
ニュースで耳にする機会が増えましたが、保護者にとっては少し実感しにくいかもしれません。けれども、学校への電話が夕方までしかつながらなかったり、学校行事が以前より簡素になったりして、「学校も変わってきたな」と感じる場面は増えているのではないでしょうか。

保護者にとって、学校で最も身近な存在は、学級担任の先生でしょう。その仕事は授業や生活指導だけではありません。テストの採点、学級通信の作成、保護者対応、個人面談、校内会議、学校行事の準備、安全管理、地域との連携、授業の準備など、子どもたちが帰宅した後にも多くの仕事があります。

さらに、一人ひとりの子どもに寄り添う時間も欠かせません。子どもの小さな変化に気づき、必要に応じて保護者や同じ学年の先生、管理職の先生、スクールカウンセラー、関係機関と連携しながら支援を進めています。
こうした状況の中、長時間労働や教員不足は、学校現場で深刻な課題となっています。では、学校では今、何が起きているのでしょうか。

先生の仕事が増えている3つの理由

先生が忙しくなった背景には、学校だけの問題ではなく、社会全体の変化があります。先生の仕事が増えた理由は、大きく3つのことが考えられます。

1:多様な子どもたちに寄り添う教育が広がっている

近年は、不登校の子どもが増加。発達特性や障がいへの理解も進みつつあります。また、外国にルーツを持つ子どもも増えるなど、学校が向き合う子どもたちの姿は多様になっています。
こうした変化を受け、学校では「みんなに同じことを教える」だけではなく、それぞれの子どもの状況や特性に応じた学びや支援が重視されるようになりました。不登校の子どもへの学びの保障や発達特性に応じた支援、日本語指導が必要な子どもへのサポートなど、先生に求められる役割も広がっています。このような変化は、すべての子どもが安心して学べる環境づくりにつながる大切な取り組みです。一方で、先生にはよりきめ細かな対応が求められるようになっています。

2:授業が変わり、新しい仕事も増えている

授業も大きく変わりました。学習指導要領では、「知識を覚える」だけではなく、自分で考え、仲間と話し合いながら学びを深める力を育むことが重視されています。そのため、先生には新しい授業づくりが求められるようになりました。また、小学校では英語教育が本格的に始まり、コンピュータを使って論理的に考える力を育むプログラミング教育も導入されるなど、扱う内容も広がっています。先生は新しい教科や内容について学びながら、日々の授業づくりを進めています。
さらに、「GIGAスクール構想」によって、子どもたち一人ひとりに学習用端末が整備されました。授業でタブレットを活用する機会が増えた一方で、端末の設定や管理、故障時の対応など、新たな仕事も生まれています。ICTの活用によって子どもたちの学びは広がりましたが、先生の仕事も増えているのが現状です。

3:学校に求められる役割が広がっている

共働き家庭の増加や地域のつながりの希薄化などを背景に、学校が担っている役割は以前よりずっと幅広くなりました。いじめや虐待への対応、防災教育、デジタル社会を安全で責任を持って生きる力を育む教育、キャリア教育など、学校に期待される役割は年々広がっています。また、保護者や地域との連携も、これまで以上に重要になっています。

こうした状況について、教育社会学者の内田良さんは「学校依存社会」という考え方を提唱しています。これは、本来は家庭や地域、福祉、医療など社会全体で支えるべきことまで学校に集まり、学校への負担が大きくなっている現代社会の姿を表した言葉です。もちろん、学校が子どもたちを支えることは大切な役割です。しかし、その役割が広がり続ける一方で、それを支える人や仕組みは十分とは言えません。

先生が忙しくなった背景には、学校が子どもたちや社会の変化に応えようとしてきたことがあります。一方で、その変化に人や仕組みが十分追いついていないことが、今の学校の大きな課題と言えると考えます。

全国的に広がる教員不足の理由は

こうした状況の中で、全国的に深刻化しているのが教員不足です。理由は一つではなく、いくつもの要因が重なり合っています。

まず大きな要因は、教員を目指す人が減っていることです。 長時間労働のイメージなどから教職を志望する学生が減り、教員採用試験の倍率も低下しています。

一方で、休んだ先生の代わりを確保することも難しくなっています。 近年は育児休業を取得する教員も増えていますが、その代替となる常勤講師が見つからない自治体が増えています。少子化が進む中、自治体は将来の児童数も見据えながら教員を採用する必要があり、正規教員を大幅に増やすことは簡単ではありません。そのため、常勤講師に頼るケースもありますが、待遇は正規教員より不安定でありながら、担う仕事はほぼ同じという現実があります。

さらに、 特別支援学級や通級による指導の充実などにより、必要となる教員数は以前より増えています。これは子どもたち一人ひとりに必要な支援を届けるための前向きな変化ですが、人材の確保が追いついていない地域も少なくありません。

これらに加え、多忙さなどから心身の不調を抱え、休職や退職に至る教員も増えています。精神疾患により1カ月以上休んだ公立学校の教員は、文部科学省「令和6年度公立学校教職員の人事行政状況調査」によると、精神疾患により1カ月以上休んだ公立学校の教員は、2024年度には1万3310人で過去最多となっており、人手不足がさらに人手不足を招くという悪循環も起きています。

これらの影響から、担任が決まらないまま新学期を迎えたり、校長先生や教頭先生が授業を担当したり、自習の時間が増えたりする学校もあります。教員不足は、一部の地域だけの問題ではありません。変化する学校を支える人や仕組みを、社会全体でどう整えていくかが問われています。

働き方改革で学校はどう変わっている?

先生の長時間労働や教員不足が深刻になる中、学校では働き方改革が進められています。文部科学省は2019年から教員の勤務時間の見直しを本格的に進め、先生が本来の仕事である授業づくりや子どもたちと向き合う時間を確保できるよう、さまざまな取り組みを進めています。

例えば、
・学校への電話対応時間の短縮
・学校閉庁日の設定
・欠席連絡などのデジタル化
・スクールサポートスタッフなど外部人材の活用

などに取り組む学校が増えています。

その一方で、保護者の中には「学校への電話が夕方以降つながらなくなった」「学校行事が以前より簡素になった」など、変化に戸惑う声もあります。

しかし、こうした変化の目的は、限られた時間の中で、先生が子どもたち一人ひとりと向き合い、よりよい授業や必要な支援に力を注げるようにするためです。学校は今、社会の変化に応えながら、子どもたちにとってよりよい教育のあり方を模索しているのです。

変わりづらさの背景

現役の小学校教諭であり、教育コーディネーターの古内しんごさんは、「変化したくてもできない学校も多い」と話します。

「例えば、習い事などで放課後の過ごし方が多様化したことを踏まえ、宿題を減らしたり廃止したりすると、『YouTubeばかり見てしまう』『先生は楽になるかもしれないけど』という声が届きます。

一方で宿題を復活させると、『やらせるのが大変』『塾の宿題もあるのでやめてほしい』という声が届く。つまり、変わろうとすると必ずその変化に違和感を覚える人がいて、その声が学校に届くのです。

そうした状況では、『変わることで苦労するくらいなら、現状を維持しよう』と考える学校が出てくるのも理解できます」(古内さん)

しかし、社会が急速に変化し、学校が抱える課題も複雑化する中で、変化しない選択を続ければ、その影響を最も受けるのは子どもたちです。それは先生も、保護者も、地域も、本来望んでいることではないはずです。

「だからこそ学校は、子どもを真ん中にした目的を保護者や地域に共有し、保護者や地域は“参画者”として共に考えることが必要なのです」

学校と家庭は、子どものためのパートナー

教員不足も、働き方改革も、一朝一夕に解決する問題ではありません。大切なのは、「学校が変わってしまった」と捉えるのではなく、「よりよい学校を目指して変化の途中にある」と理解することではないでしょうか。

保護者と学校は、それぞれ立場は違っても、「子どもが安心して成長すること」を願う気持ちは同じです。先生にも限られた時間と人員があることを理解し、お互いにできることを持ち寄ることで、子どもにとってよりよい教育環境につながっていくのではないでしょうか。

学校を取り巻く現状を知ることは、学校で起きている変化を前向きに受け止め、子どもたちにとってよりよい学びの環境について一緒に考えていくための第一歩になるはずです。

記事監修
古内しんご|教育コーディネーター・小学校教諭
教育コーディネーター/小学校教諭/絵本作家、子育て教育コミュニティ『つみき』代表、『EduPolicy(政治家×教師)』主宰など、多岐にわたって活動。 子育て教育系の企画や講演は、1000回以上。 「子育て教育が自分事になるきっかけづくり」を試行錯誤しながら行い続けている。

この記事を書いたのは

長島ともこ フリーライター・エディター

フリーライター・エディター、認定子育てアドバイザー。教育、子育て、PTAなどの分野で取材・執筆、企画編集を行う。著書に『PTA広報誌づくりがウソのように楽しくラクになる本』(厚有出版)など。All About「子育て・PTA情報」ガイド。2025年7月、PTAを取り巻く環境をより良くすることを目的に「PTA・保護者組織を考える会」を共同代表として立ち上げ。対話の場の創出や、PTAオンライン相談窓口の運営を通じ、保護者が無理なく楽しく関われる「これからのPTA」の形を模索・発信している。

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