児童虐待の件数が急増中。特別な親だけが起こす問題ではない事実を知って【臨床心理士監修】

児童虐待の通報件数が急増しています。特に乳幼児への虐待は、命にかわかる深刻な被害につながります。臨床心理士で、都内の保育園・幼稚園や学校を巡回する加藤尚子先生にお話しを伺いました。

5人に1人の乳幼児が虐待の被害者

児童相談所が対応した乳幼児の虐待の件数は5万2840件。およそ115人にひとりが虐待被害児ということになります。

児童虐待には、

・身体的虐待

・ネグレクト

・心理的虐待

・性的虐待

の4つの種類があります。このうち、もっとも多いのが心理的虐待で、全体の半数近くを占めています。

*2016年度に全国の児童相談所が対応した、就学前の児童に対する虐待件数(速報値)。

特別な親だけが起こす問題ではない

虐待を、一部の特別な親だけが起こす問題であるととらえると、虐待を見逃してしまうことになるかもしれません。問題のない子育てをしていた親であっても、たとえば離婚や失業・経済的不安、自身や家族の病気など、生活に余裕がなくなると不安やイライラがつのり、虐待につながるリスクが高まっていきます。児童虐待は親だけでなく、経済状況や子育てへの無理解など、日本社会全体の問題であるともいえます。

虐待からくる心と体の変調

虐待を受けた子どもは、成長ホルモンの分泌が抑えられて、低身長や低体重になるケースがあります。また情緒的発達が妨げられ、感情をうまく調整できないためにキレやすかったり、暴力を奮ったりしてまわりの子どもを怖がらせ、保護者を巻き込んだトラブルにまで発展することがあります。

さらには知的発達に遅れが出ることも指摘されています。児童虐待の被害者の約半数が、学習に困難を感じています。一見すると、自閉症スペクトラムや、ADHD(注意欠陥・多動性障害)のような様子を見せることもよくあります。

発達障害のある子に被虐待リスク

一方で、先天的な発達障害がある子どもが、虐待被害児になりやすいことも指摘されています。発達の偏りがあると、子どもを育てる際の保護者の負担は大きくなりがちです。自閉症スペクトラム障がいのある子どもは目と目を見つめ合うことができなかったり、身体接触を嫌がったりするので、保護者が情緒的なつながりを築きにくくなります。また、多動性のある子を、周囲が「親のしつけがなっていない」という目でみるために、保護者は落ち込み、つい怒ったり叩いたりすることにもなりがちです。

児童虐待の4つの種類

児童虐待=子どもが受ける大人からの不適切な対応

 

心理的虐待

著しい心理的外傷を与える言動を子どもに対して行うこと。「殺してやる」のような暴言を吐くこと、きょうだい間で差別することなど。DV(ドメスティックバイオレンス)によって父母の暴力を目撃することも、子どもの心に深い傷を残す。ここ数年で特に件数が増えている。

身体的虐待

殴る、蹴る、たばこの火を押しつけるなどしてけがをさせることや、けがの恐れがある行為(例:戸外に閉め出す)を行うこと。特に、頭部への暴力は重大なけがにつながること、顔への暴力は虐待をする側が感情的になっていることが多いので要注意。

ネグレクト

子どもの衣食住などの基本的な養育を、保護者が著しく怠ること。保育園や幼稚園の登園時間を守らないために、子どもが園での活動にスムーズに参加できないこともネグレクトにあたる。家に出入りする大人やきょうだいによる性加害行為は、ネグレクト家庭で起きやすい。

性的虐待

子どもにわいせつ行為をすることやさせること。子どもの発達や年齢にそぐわない、過度の性的刺激にさらすことすべてを指す。統計上は全虐待のうちの1%のみだが、海外では7~10%程度を占めるといわれ、実際にはもっと多く存在していると考えられている。

子どもの性的な行動に直面したときの対応を誤らないで!

子どもが性的虐待を受けていることは、大人が疑ってかからないと見つけられません。子どもは行為の意味がわからないので、それを子どもから訴えるのは難しいのです。

子どもが性行為のまねをしたり、午睡で添い寝をする保育者の胸や股を触ったりする「性化行動」をしたら、性的虐待を受けていることを疑います。

また、もし「性化行動」に園で保育士が直面しびっくりするとその様子を見て、子どもはそのようなふるまいを控えるようになり、ますます虐待のきざしが現れにくくなるので、注意が必要です。

記事監修

加藤 尚子 先生

明治大学文学部准教授、臨床心理士。研究・教育の傍ら、児童養護施設をはじめとしたさまざまな場所で、虐待を受けた子どもの治療や地域の子育て相談支援などの臨床活動を行う。東京都児童福祉審議会委員。

『新幼児と保育』2017年ー2018年12・1月号 イラスト/奥 まほみ 構成/佐藤暢子(本誌)

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