『大禁句辞典』 本の紹介はこちら
目次
小学生の間で流行っている短編集で「禁句」を取り上げた理由は?


――『大禁句辞典』を制作することになったきっかけと、短編集という形にした理由を教えてください。
編集部・田中明子さん(以下田中さん):近年、児童書界隈では短い時間で読める物語に人気があり、書店でも定番化していると感じていました。そんな中で私たちも新しい切り口の短編集(アンソロジー)を作れないか、と考えたのが最初のきっかけです。児童向けのアンソロジーというのは、私たちの編集部にとっても初めての挑戦でしたので、ワクワクする企画としてみんなで考えるところからスタートしました。

――「禁句」というのはインパクトの強い言葉ですよね。どのようにこの言葉にたどり着いたのでしょうか?
田中さん:この本を作るにあたって、企画会議で「斬新で、子どもたちの興味をかき立て、作家さんにとっても物語が湧いてくるようなテーマ」はどんなものか話し合いました。いくつもテーマが挙がる中、編集部全員がいちばんワクワクし、手に取りたいと感じたのが「禁じられた言葉」というキーワードで、そこから「禁句」という言葉にたどり着きました。現代はさまざまな場面で言葉を発することが難しくなっています。言ってはいけない言葉があふれ、自分の身を守るために「言わないでおこう」と考えることもよくありますよね。でも、大切なのは、ただ言葉を発さないということではなく、なぜ言ってはいけないのかを理解することだと思うのです。この本を通してそんなことが自然に伝わるといいなと考えました。
――8つの作品を通して「禁句」というテーマにはこんなに広がりがあるのだと感じました。
田中さん:いちばん大切にしたのは、私たち自身がワクワクするかどうかです。編集者がそれぞれ「こういう理由で、この作家さんに書いてもらいたい」と編集会議でプレゼンし、お願いしたい作家さんを決めました。また、掲載する物語のジャンルが重なりすぎてもいけませんが、あまり縛りすぎてもいけないと考え、その作家さんの持ち味をより際立たせる方向を意識しました。
「ヨンデミー」とタッグを組んだ意外なきっかけ

――『大禁句辞典』はオンライン読書教育サービス「ヨンデミー」とタッグを組んで制作したというのも大きな特徴です。どのようなきっかけがあったのでしょうか?
ヨンデミー・岩田貴洋さん(以下岩田さん):田中さんから弊社代表の笹沼にお声がけいただき、この企画をご一緒することになりました。私はYondemyの共同創業メンバーですが、6年前、まだ会社になる前から「子どもたちが本を読んだ感想や、本を読みながら何を考えているかという声を集められるのなら、いつか出版社の皆さんと一緒に本を作りたいね」と話していました。今回、そんな夢を実現する機会をいただけたのは、個人的にも感慨深いものがあります。
田中さん:今年のゴールデンウィークに、ある書店を訪れた際、子どもの本のコーナーの一角がヨンデミーレベル順に陳列された棚になっていて驚きました。ヨンデミーさんのことはスタートアップの頃から存じ上げていましたが、ついにここまで来たかと思いましたね。ちょうどヨンデミーのスタッフの方が来ていて、書店員さんと熱心に話をされていたのも印象に残っていて、これはぜひヨンデミーさんとご一緒したいと考えるようになりました。
モニターの感想とヨンデミーの読書データはどう生かされた?

――制作の過程で、子どもたちの声が生かされた部分はありますか?
田中さん:今回の企画は「子どもたちの声が、そのまま物語を作る」という取り組みではなく、作品ができあがった上でのリサーチプロジェクトという位置づけです。ですが、実際にヨンデミーさんを通じて子どもたちに発売前の原稿を読んでもらったことで気づかされた点がたくさんありました。目に見える形で生かせたのはタイトルですね。『禁句辞典』にするか『大禁句辞典』にするか迷っていましたが、「大」というワードがあったほうが面白いという子どもたちの声を受けて、『大禁句辞典』に決めました。また、子どもたちの意見を参考に作品の掲載順を少し変えたり、ということもありました。
――ヨンデミーに蓄積されている読書データも活用されているのですよね。
岩田さん:たとえば、これまで「大人が伝えたい道徳的なメッセージが前面に出ているような本」には低い評価をつけ、「裏にメッセージはあっても、物語自体が面白い本」には高い評価をつけているという子がいます。そういうお子さんにこの本を読んでもらって評価が高ければ、「伝えたいメッセージはあるけれど、まず物語として楽しんでもらえる本なんだ」とわかります。
これまでのお子さんの読書の傾向もわかるので、短編集をよく読んでいる子と、そうではない子とで、『大禁句辞典』の受け止め方がどう違うかというのも分析することができました。

――モニターのお子さんたちの感想で、印象的だったものや意外だったものはありますか?
岩田さん:意外だったのは、たとえばミステリーが好きでよく読んでいる子は、『大禁句辞典』でも探偵の話がいちばん好きになるかと思っていたら、全く違うジャンルの物語を好んだということがありました。普段の好みを超える面白い話に出合えるのは、短編集ならではの魅力です。子どもたちが今まで知らなかった自分の好みに出合う瞬間がたくさん見られたのは、とてもよかったと思います。
――その子がこれまでどんな本を読んで、どんなものが好きなのかがわかるからこそ、見えてくることがあるんですね。
岩田さん:そうですね。『大禁句辞典』を気に入った子たちが、これまで読んできた本のなかで共通して好きな本を探してみると、2冊が浮かび上がりました。『バラクラバ・ボーイ』と『ゆかいな床井くん』です。どちらも短編集ではなく、一見何の関係もなさそうです。ところが、本を構成する要素を見ていくと、2冊に共通する大きな要素が「思いやり」だということがわかりました。「読むと思いやりについて考える」「思いやりを持った登場人物が出てくる」という本です。そこから、「確かに、言ってはいけないことの裏には思いやりがあるよね」ということが見えてきました。思いやりがあるから言ってはいけない。つまり、禁句を考えることは、誰かを思いやることなんだ、という発見になりました。
田中さん:『大禁句辞典』と聞くと、「ちょっと怖い」「いけないこと」というネガティブな印象を受ける方もいるかもしれません。でも、実は思いやりの話なんですよね。その分析を岩田さんから聞いて、それまで言語化できていなかったさまざまなピースがはまる感じがして、まさに「それそれ!」と、編集部の皆で膝を打ちました。私たちだけでは浮かんでいなかった言葉で、ヨンデミーさんと組ませていただいた最大の収穫です。
「大切なのは子どもたちの声」AIの時代だからこそできる、これからの読書体験とは?

――ヨンデミーの今後の展望と、読書教育とAIを組み合わせる意義を教えてください。
岩田さん:私たちのミッションは、日本中の子どもたちに豊かな読書体験を届けることです。Yondemy創業メンバーの多くは、読書の楽しさを譲り渡してくれる、ものすごい読書家の国語の先生が身近にいたおかげで、より本の魅力に気づくことができました。でも、すごい先生が1人いるだけでは日本中には届きません。それを可能にするのがAIという技術の力です。これまで人間が考えてきたことを、AIをうまく使って日本中に広げていきたいと考えています。また、読書は人と人をつなぐものであると同時に、一人ひとりの営みでもあります。そこに寄り添うという意味でも、AIはまさに適した技術だと思います。
たとえば、「もう少し字の多い本に興味があるけれど、難しくて手が伸ばせていない子」がいるとします。そこに橋渡しとなる本を作ることができれば、読書体験はもっと豊かになるはずです。実際に本を作るということは、これまでできなかったけれど、これからやりたいことのひとつです。
――田中さんは、今回ヨンデミーとタッグを組んでみていかがでしたか?
田中さん:「日本中の子どもたちに豊かな読書体験を届ける」というYondemyさんのミッションに、私たちも同じ思いで賛同しています。お互いにできることを持ち寄って何ができるか。その取り組みのひとつが『大禁句辞典』でした。『大禁句辞典』を手に取ることで子どもたちの読書の幅が広がっていく。そのことが客観的に証明されたのも、ヨンデミーさんと組んだからこそです。
この企画を通して一番立ち返るべきは子どもたちの声だと、改めて感じました。小学生向けの読み物を刊行するとき、「1・2年生向け」「中学年向け」のように対象を学年で書く慣例がありますが、たくさん本を読む子は2年生でも難しい本を読みますし、読まない子は6年生でも2〜3年生向けの本を楽しんでいたりしますよね。そこに学年別とは異なる「ヨンデミーレベル」という新しい指標ができました。Yondemy代表の笹沼さんとお話ししたときも、子どもたちが本を読まない原因のひとつは「自分に合った本を読んでいないから」だ、という話がありました。そのときの自分にぴたっとくる本に出合えれば、世界がすごく広がります。
実は『大禁句辞典』の前に、『妖怪サトリ』シリーズ2巻目の『妖怪サトリと天狗笑い』で、表紙の帯にヨンデミーレベルを入れる試みをしました。1巻目の帯には「小学3・4年生向け」、2巻目には「ヨンデミーレベル35」と書いてあります。2つを見たとき、子どもたちにどう違って見えるのか、手に取りやすさは変わるのかを調べているところです。
先ほど岩田さんがおっしゃった「橋渡し」になる本を作るところまでいけたら面白いですね。お互いに思い描く理想の未来が同じであれば、今後もきっと何かできると信じています。
「禁句」というと、どんな場面、どんな言葉を、思い浮かべますか?
本書『大禁句辞典』は、あさばみゆき、富安陽子、石川宏千花、秋木真、藤白圭、櫻いいよ、にかいどう青、斉藤倫、という、豪華児童書作家陣による短編アンソロジーです。
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この記事を書いたのは
音楽大学卒業後、出版社勤務を経て、現在はフリーライター・編集者として活動中。小学生2人の母。主に教育系、不登校への取り組み、著名人インタビューなどを執筆しています。子育ての中で感じた疑問や発見を活かしながら記事を作成することを心がけています。