正解主義はNG!これからの時代を生き抜くために必要な能力とは?【松丸くんの教育ナゾトキ対談】Vol.1 高濱正伸先生~後編~

松丸亮吾さんによる対談連載、第1回のゲストは花まる学習会の高濱正伸先生。前編ではお互いの幼少期やきょうだいコンプレックス、中編では子どもが親に「やらされること」と「自己決定」することの大きな違いについて大いに話が盛り上がりったおふたり。最終回となる後編では今後の日本の教育について思いを語り合っていただきます。

遊びのなかですべてが磨かれる(高濱)

―おふたりは現在の教育、これからの教育についてどう考えていますか?

高濱 子どもの教育で言えば、遊びのなかで心を奪われて、没頭する体験がすごく大事というのはいつの時代も変わりません。今年の夏、サマースクールで面白いことが起きたんですよ。カニが歩いているのを見つけた男の子ふたりが、カニカニカニ!って追いかけていたら、ホテルの壁と空調の室外機の間に頭を突っ込んで、挟まって出られなくなったんです(笑)。その状態でも、ふたりは「ここにカニがいる」って騒いでいる。

この子たちは、その瞬間にグンッと伸びてますよ。子どもは、ゾーンに入って、心を奪われた時に一番伸びるんです。その体験総量がすべての土台になる。遊びのなかには想像力、集中力、すべてがあると思っています。

松丸 そうですね。遊びという意味では都会の公園でも同じで、遊具でずっと遊び続ける子どもってそんなにいなくて、その周りにあるフリースペースで、自分でゲームを考えて遊ぶ子が多いじゃないですか。外遊びってルールがないから、そういうところでクリエイティブな発想とか集中力が磨かれるのかなと思います。

高濱 子どもって、野球をやろうと思った時に、今日は3人だからやめようぜとは言わないんです。壁をキャッチャーにして、「こう飛んだらホームランね」って自分でルールを決めるんですよ。そうやって自由に自分で決めていくことの繰り返しが、地頭を鍛えるんです。

でも今の大人を見ると、自分がなにを好きか言えない人、決断できない人が溢れていますよね。これは、決まった枠組みのなかで、与えられた選択肢のなかから正解を選ぶという、正解主義から抜け出せてないんだと思う。

テストの×は学びのチャンス(松丸)

松丸 正解主義に関して言うと、母親から受けた教育で一番ありがたかったのは、テストの×は悪いことじゃないよと言われ続けたことです。

高濱 え! その一言、なかなか言えないよ。

松丸 テストが戻ってきた時に、×があるということは収穫があったねって言われました。×があるところが今の自分に足りないところだから、そこを徹底的にやったほうがいいよねって指摘してくれたんです。

高濱 テストの間違いは成長の機会。それはきれいごとじゃなく、本当にそうだからね。

松丸 例えば、1学期の試験で80点取ったのに、2学期に70点になりましたという時に、10点下がったと捉えがちですが、それは大間違いだと思います。単元がぜんぜん違うし、子どもの得意、不得意があるんだから、点数の上下じゃなくて、できなかったところをいかにケアして、ここが今、君のやるべきことだよって教えるべきなんですよ。

高濱 それがなかなかできないんだよね。親は順位とか点数とか、わかりやすい数字に弱いんだ。数字にとらわれないことと、×は成長の機会ととらえることが大事。そう思えればぐっと楽になります。

松丸 母親に勉強ってなんなの? やって何になるのって聞いたことがあるんです。その時に、「できることとできないことだったら、できることが多いほうが絶対にいい。知らないことと知ってることなら、知ってることがたくさんあるほうがいい。できなかったこと、知らなかったことを自覚して、×を〇に変えていくのを楽しむのが勉強の本質なんだよ」と言われたんですよ。

高濱 もうすごすぎて、読者にとっては全部参考になると思う。それをお母さんがどこでつかみ取ったのか知りたいな。俺の本を読んでたんじゃない?(笑)

松丸 実家の本棚を確認します(笑)。

幼児期にいかに熱中するものを見つけてあげられるかがカギ(高濱)

高濱 話を戻すと、今の時代を生きる子どもたちに、正解主義にとらわれない大人になってもらうためには、本当にその子に向いていて、熱中できるものを見つけてあげることから始まると思います。集中して没頭した時間の集積が実力になるのは間違いないので。

子どもの教育といえば受験がつきものだけど、特に小学校低学年とか幼児期に〇×に注目しすぎちゃうのは良くないと思いますよ。幼児期に伸ばさなきゃいけないのは、非認知能力だから。親としては熱中できるものをどう提供するかが大切です。

松丸 テストで測ることができるような認知能力、学校の成績と大人になった時の年収って相関がないことがわかっているんですよね。逆に、子どもの時に遊びのなかで身につくような非認知能力が将来の年収にそのまま直結しているというデータが出てきているので、幼児期にその体験を子どもにさせてあげることに力を入れてほしいと思います。

高濱 こう言う話をすると、ちゃんと外遊びしなさいってルールにしだす親がいるんですよ(笑)。外も家のなかも関係なくて、子どもが自由に自分で考えて遊ぶことが大切なんです。

ゲームの中にも、良いゲーム、悪いゲームが(松丸)

松丸 僕は小学4年、5年生の頃にゲームにどはまりしたことがあるんです。その時に、母親は「13時間勉強しなさい。その後は、いくらでもゲームをしてもいい。勉強しないなら1秒たりともゲームはやらせない」というルールを作りました。僕はゲームがやりたいから勉強したんですけど、13時間やってると、少しずつ知識を獲得していきますよね。自分のわかる範囲がちょっとずつ広がっていく。その積み重ねでちょっとずつ成績が上がっていく。そうすると勉強が楽しくなっていくという経験がありました。

高濱 僕は昔、「あの小さな世界に子どもを閉じ込めちゃいけない」ってゲーム反対だったんだよ。でも、ゲームしてたら体を動かさないだろうと言ってたら、Wiiが出た。ゲームばっかりやってると外に行かないじゃんと言ってたら「ポケモンGO」が出た。仲間と一緒にやるゲームもたくさんあるし、ずいぶん進化したよね。

松丸 最近のゲームに関しては、いいゲームと悪いゲームがあると思います。スマホゲームは、考えなくても勝ててしまうような気持ちのいいゲームが多くて、勝つために頭を使うゲームは少ない印象がありますね。

敵がすごく強くて、勝つにはどうしたらいいのか粘り強く考えなきゃいけないようなゲームが好きだった僕からすると、考えなければ負ける可能性があるゲームは子どもの思考力を鍛えると思いますし、そういうゲームをお勧めしたい。逆に、スマホでサクッと気持ちよくっていうお手軽なゲームは、子どもにはお勧めできませんね。

子どもが考える力を養うために必要なこと

高濱 ゲームにしても「考える力」は欠かせないんだよね。あと、子どもには負けずぎらい気質や集中力、やり通す力が重要です。それを鍛えるために「なぞぺー」を作ったんだよ。

松丸 僕も、その3つの力を獲得するためには「なぞぺー」やなぞ解きが有効だと思っています。例えば、学校の勉強が苦手な子どもに、なぞ解きの問題を出すじゃないですか。そうすると、閃きって人によってタイミングが違うので、東大生でもぜんぜん解けない問題をスパンと正解したりする。その瞬間、一気に自信がつくし、それが力につながっていくと思うんです。

高濱 その通り。ひらめきの快感体験が次のモチベーションになるんですよ。答えを知りたいんじゃなくて、気持ちよさを味わいたいという感覚。これが子どもにとってはいちばん大事なんです。

前編、中編はこちら

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プロフィール

高濱正伸|花まる学習会代表
「メシが食える大人に育てる」という理念のもと、「作文」「読書」「思考力」「野外体験」を主軸にすえた学習塾「花まる学習会」を設立。保護者などを対象にした講演会は、参加者が年間30000人を超える。
「情熱大陸」(毎日放送)、「カンブリア宮殿」、「ソロモン流」(いずれもテレビ東京)など、数多くのテレビ番組に紹介されて大反響。「週刊ダイヤモンド」(ダイヤモンド社)、「AERA with Kids」(朝日新聞出版)などの雑誌でも多数登場している。
『伸び続ける子が育つお母さんの習慣』(青春出版社)ほか、『小3までに育てたい算数脳』(健康ジャーナル社)『わが子を「メシが食える大人」に育てる』(廣済堂出版)『算数脳パズルなぞぺー』(草思社)など、著書多数。

プロフィール

松丸亮吾|謎解きクリエイター

東京大学に入学後、謎解きサークルの代表として団体を急成長させ、イベント・放送・ゲーム・書籍・教育など、様々な分野で一大ブームを巻き起こしている謎解きの仕掛け人。現在は東大発の謎解きクリエイター集団RIDDLER()を立ち上げ、仲間とともに様々なメディアに謎解きを仕掛けている。監修書籍に、『東大ナゾトレ』シリーズ(扶桑社)、『東大松丸式ナゾトキスクール』『東大松丸式 名探偵コナンナゾトキ探偵団』(小学館)『頭をつかう新習慣ナゾときタイム』(NHK出版)、など多数の謎解き本を手がける。


撮影/平林直己 取材・文/川内イオ

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