新入学を控えたママたちの間で大人気の大峽製鞄(おおばせいほう)株式会社のランドセルは、超一級の素材を使った職人技による仕上げで知られています。
今回、高品質なランドセルを生み出す工房をたずね、その丁寧な仕事ぶりを見せてもらいました。まずはランドセルの原料となる革を拝見!
ランドセルづくりは最上の革選びから
世界的な健康志向の高まりで、近年は食肉の生産量が減ってきています。それにともなってランドセルの原料となる原皮(加工する前の牛・馬などの皮)の総量も減り、良い革を確保しづらくなってきているのが現状。
「大峽製鞄では、外国産の革を日本のタンナー(染皮職人)が加工したものを仕入れています。良い革を手に入れるのが年々難しくなっている状況でも、原料となる革選びにはいっさい妥協しません」(専務取締役・大峽宏造さん)
仕入れた革は1枚1枚、傷や汚れがないか表も裏もチェック。職人が手でなでるようにさわって確認し、気になるところにチョークで印をつけていきます。
▲革と染料の間に入り込んでいることもある小さなホコリ。目で見ただけではわからないので手で確かめます。
▲問題のあるところはチョークで印をつけておき、カブセなどのパーツを重ねないようにします。
▲表だけでなく裏も丹念にチェック。
ランドセルの材料になるのは、牛や馬の革です。どちらも「おしり」に当たる部分の革質がなめらかで最良とされています。そのためランドセルの顔にあたるカブセは、1枚の革からわずか2~3本しか取れません。
▲ランドセルの第一印象を決める「カブセ」の型紙は、革の中で最も良い部分に配置。
▲1枚の牛革から牛の形が見えてきます。左側が首すじ部分、右側がおしり、手前が足の部分です。
▲革にムダが出ないようパーツの取り方を決めていきます。
▲大きいパーツを決めてから小さいパーツを配置。
パーツの取り方を決めたら、革の上に金属製の型を置いて直断器で裁断します。型はとても重く、革の上に少し置いただけでも革が傷ついてしまうほど。指で慎重に場所を定めてから慎重に型をのせます。
▲まず、カブセの部分を切り出します。
▲革に型をのせる作業はやり直しがききません。
▲型をのせて、直断器で裁断。
▲カブセのパーツができました。
▲このような行程を繰り返し、パーツを揃えていきます。
パーツの1つ1つを0.1mm単位で調整
切り出したパーツは、ちょうどいい厚さに揃えるために「ベタ漉き(べたずき)」という革を薄く削る作業を行います。強度が必要なところは厚めに、複数のパーツを重ねる部分は薄めに、場所によって仕上がりの厚さを変えるそう。
「たとえば、わずか0.1mmの差でも重なればランドセル全体の重さに影響します。軽さだけを追求すれば極限まですいて軽くすることもできますが、そうすると強度や風合いがなくなってしまうのです。
ランドセルの主なパーツは0.1mm単位で厚さを変えて、仕上がりが1.1~1.5mmの間になるよう、すき落としています」(本社工場長・大矢慶夫さん)
0.1mm単位の攻防から細部へのこだわりが伝わってきますね。
▲カブセの部分のベタ漉き作業中。
▲強度が必要なカブセは2mmと厚めに仕上げます。
▲その他のパーツもそれぞれの厚さに削っていきます。
▲カブセより薄い1.3mmに仕上げました。
手間のかかる手縫い仕上げを選ぶ理由
ランドセルの大部分はミシンで縫いますが、背中に当たる側は職人が手縫いで一針ひと針、丁寧に仕上げています。
背中は革と分厚い芯材などが重なり、さらに横のマチもあるので、厚さが1センチ近くにもなるところ。特に頑丈さが求められる部分だからこそ、ミシンではできない「手縫いの技」が必要になるのです。
まず太いキリで下穴を開けます。上下から同じ穴に糸を通して最後にしっかり締め上げる。これを繰り返して「手縫い」します。
上糸と下糸が引っかけ合うミシン縫いは1か所でも糸が切れてしまうと、そこからパラパラとほつれてしまいがちです。それに比べて、2本の糸を交差し「8の字」になるように通していく手縫いは、万が一糸が切れてもほどけにくく、ほころびが広がりにくいのです。
▲2本の針を使って、糸を交互に通していきます。
▲手縫いの糸はミシンの糸より太く、より頑丈に仕上がります。
ランドセルを抱え込むようにして行うこの作業、ミシンなら5分で済むところが30分もかかります。手縫いの手間も技術も必要ですが「いちばん丈夫な縫い方」ということで、大峽製鞄ではこの方法を採用しています。
背中の縫製が終わるとランドセルはほぼ完成。こうして6年間の使用に耐える丈夫なランドセルができあがります。
職人技が支える確かな仕事
大峽製鞄株式会社は、1935(昭和10)年の創業以来、80年以上の歴史を持つ老舗鞄メーカー。伝統と品質を支えているのは職人たちの技術で、この道40年、50年という熟練の職人も多いそうです。
デリケートな革を扱うだけに配慮も十分。「爪はいつも深爪で仕上げています。長いネイルはありえませんね(笑)」と本社工場長の大矢さんは言います。
▲本社工場長の大矢さんをはじめとした職人のみなさん。
▲腕のいい職人ほど道具を大事にして置き場所もきちんと守るそうです。
▲ランドセル作りに欠かせない道具の1つである目打ち。
▲目打ちは何十年と長く使えるものですが、近年はこの道具を作れる職人も減ってきているそうです。
機能性も満点のランドセル
品質はもちろん、機能的にも使いやすいランドセルである理由はこちら。
“最近のランドセルは大きすぎる”という意見をもとに、たっぷりの収納とコンパクトな外観を両立させた製法『トラピーズ』を考案しました。
教材を入れる背の部分を広げて台形にすることでA4フラットファイルが収納できるのが特徴。見た目は変わらず小さく仕上がり、内側で教材がガタつくことも少ないと好評です。
▲台形の構造がユニークな『トラピーズ』ランドセルは大峽製鞄のオリジナルデザイン。(※特殊な製法のため限られた商品に採用)
▲A4フラットフィルを収納しやすい台形デザインの『トラピーズ』。容量が大きくなっても見た目は変わりません。
時代に合わせて改良を加えながら、多くの子どもたちと家族に愛され続けてきた大峽製鞄のランドセルは、職人たちの技術と伝統の結晶と言えます。
子どもにとって「人生で一度きり」といわれるランドセル選び。6年間を共に過ごし、子どもの思い出につながるものだからこそ、長く愛着をもって使えるものを選びたいですね。
※写真は2017年取材時のものです。
構成/村重真紀 写真/浅野 剛