【3・11特別企画】佐々木正美さんが教える、幼い子どもへの身近な人の死の伝え方。死が不幸で悲しいものと伝わらないように

児童精神科医として半世紀以上、子どもの育ちを見続け、お母さんたちの悩みに寄り添ってきた佐々木正美先生。今も、先生の残された子育てのについての著作や言葉は私たちの支えとなっています。東日本大震災から9年目を迎えた今日。改めて、佐々木先生が残してくれた子育てにまつわる珠玉のメッセージから、親しい人の死を子どもに伝えることへのアドバイスをご紹介します。

幼い子どもには、家族の死をおとぎ話のように話してもいい

 事故であれ病気であれ、家族を突然失った悲しみは、言葉にできない衝撃だと思います。一般に愛する人を失った人が、その死を受け入れ、再生するには次のような段階をたどると言われています。

 

残された人は、まず、最初に死という事実にショックを受け、その事実を否定しようとさえ思います。そして、そうした状況に置かれた自分の立場に怒りを覚える一方で、その状況を改善できないだろうかと葛藤するのです。

 

しかし、しばらくしてどんなに思い悩んでも現実が変わらないことがわかると、愛する人の死を受け入れざるを得ない気持ちになって抑鬱状態になり、社会から孤立して引きこもるようにもなります。

そうした状況も、しかし、時間が経つにつれて周囲の人との交流などで徐々に癒やされていき、やがて再生していきます。

 

こうした死の受け入れ方は、大人であっても子どもであっても同じですが、低学年くらいまでの子どもの場合、まず、心に留めておいていただきたいのは、幼い子どもはまだ発達途上にあるので、人間や生物の存在そのものが消滅するという「死」という概念を言葉だけで理解することはできないということです。

 

そのため、家族の死を伝えるときには「かわいがっていたペットの犬や猫が死んだときのこと」や、「大切に飼育していた昆虫が死んだときのこと」、あるいは「散歩の途中に道ばたで死んでいた虫のこと」など、その子にとって身近にある生物の具体的な死の姿を挙げながら、伝えることが必要です。具体例は、できればいろいろなケースを挙げられたらいいと思います。

 

そうすることで、子どもは死というものを完全に理解できなくても、感覚的に、よりリアルに感じ取ることができるからです。

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 お子さんがまだ本当に小さいなら、事実を話す必要もありません。

 例えば、夜空の星を眺めながら「お父さんはあの大きな星になったんだよ」とか、美しい花畑へ行って「お母さんは大好きなお花がたくさん咲いている天国へ行ったんだよ」というふうに、おとぎ話のように死を伝えてもいいと思います。

 

こうした話を繰り返し伝えていくうちに、クリスマスにプレゼントを持ってきてくれるサンタクロースを信じている子どもが、やがて成長とともに自然に現実を知るように、家族の死も、成長とともに子どもは理解していきます。

 

そして、そのときそれまで周囲の大人たちがついていた善意のウソに対して、子どもは決して恨んだり、腹を立てたりしません。

 

月日とともに本来の死の意味がわかり、かつて教えてもらったことが事実ではないと判明しても、善意の家族や大人たちとのやりとりは、子どもにとって、むしろいい思い出となって記憶に残るのです。

 

子どもが「死」を受け入れるために、ときには天国などのイメージを、絵を描いて伝えることも有効です

 「死」を伝える方法は、家族ごとにさまざまでいいと思います。その子の発達段階や個性、性格によって臨機応変に伝えればいいのです。

 亡くなった家族が天国に行ったと伝えたなら、天国のイメージの絵を描いて子どもに伝えるのもいいでしょう。

共に生きる親と子どもが、一緒に天国の絵を描き合えば、子どもの気持ちも絵に表わすことができ、家族が亡くなったという現実を受け入れるためのふんぎりにすることもできます。

 

‟子どもと一緒に絵を描く“という作業は、実際にアメリカのノースカロライナ州の教育センターで、セラピストが母親の亡くなった

 

40年近く前に、アメリカを訪問中、私はこの作業をしているところをたまたま目にしたのですが、セラピストはその子どもに花が咲きこぼれた天国と神さまの絵を描いて見せながら「お母さんはこんなにきれいな場所に行ったから、いま幸せに暮らしているんだよ。だから悲しくないんだよ」と言って、母親の死を伝えていました。

 

私はこの方法は健常児に対しても有効な死の伝え方であり、ある種子どもの心を癒やす方法であると考えています。

 死んだ人がつらくなく楽しく過ごしていると思えれば、自分もつらくなく悲しくないように思えるのです

私自身も、かつて子共たちがとてもかわいがってもらっていたおじいちゃんが亡くなったとき、次のような言葉で子どもたちにその死を伝えました。

 

「おじいちゃんは病気がなくなって、いまは苦しくないんだよ。おまえたちをあんなにかわいがってくれていいことをしていただろう。だから、とってもすてきな場所へ行っているんだよ」

 

そう言って、祖父の死を伝えたのです。この言葉を聞いた子どもたちは、それである程度おじいちゃんの死について納得したようでした。

 

愛する者を失ってひとり残されても、人間というのはよくしたもので、死んだ人がつらくなく楽しく過ごしていると思えれば、自分もつらくなく悲しくないように思えるのです。

 

小さな子どもに愛する者の死を伝えるときには、その死が不幸で悲しいものであるように伝えないことを頭に留めておいてください。

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教えてくれたのは

佐々木正美|児童精神科医

1935年、群馬県生まれ。新潟大学医学部卒業後、東京大学で精神医学を学び、ブリティッシュ・コロンビア大学で児童精神医学の臨床訓練を受ける。帰国後、国立秩父学園や東京女子医科大学などで多数の臨床に携わる傍ら、全国の保育園、幼稚園、学校、児童相談所などで勉強会、講演会を40年以上続けた。『子どもへのまなざし』(福音館書店)、『育てたように子は育つ——相田みつをいのちのことば』『ひとり親でも子どもは健全に育ちます』(小学館)など著書多数。2017年逝去。半世紀にわたる臨床経験から著したこれら数多くの育児書は、今も多くの母親たちの厚い信頼と支持を得ている。

構成/山津京子

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