特別支援教育の現場から。星山麻木さん「グレーな子はいない。子どもはみんな自分の色を持っている」【多様性の未来を生きる子ども達へ1】

星山麻木さんは、特別支援教育(肢体不自由、知的障害、発達障害など多様な子どもたちの教育)の現場で、たくさんの子どもたち、そしてお父さんお母さん、先生方に37年間かかわってこられました。少数派でも多数派でも、それぞれに素敵な子どもとして認める「虹色なこどもたち」という見方での支援活動をされています。「多様性の尊重と受容について」をテーマに、5月24日に行われたオンライン講演会でのお話をダイジェストでお届けします。

虹色は多様性尊重のシンボル。「グレーゾーン」ではなく「虹色な子どもたち」という視点で、子ども達を理解したい

違う色で生まれてきた子どもたちが 自分らしく生きていくために

私は、一貫したテーマとして、特定の誰かが誰かを助ける、サポートするということではなく、お互いに助け合う、支え合うというモデルを作りたいという思いがあり、それを実現するためにさまざまな実践研究を行っています。大学で教員の養成などもしています。

今日お話しするのは、子どもたちを理解するための、「虹色な子どもたち」という視点です。虹は、本当はたくさんの色でできているのですが、わかりやすくするために7色としてお話しします。

皆さんもご存知だと思いますが、子どもたちの発達について「グレーゾーン」という表現をされることがあります。私はあるとき「本当にこの子たち、グレーなのだろうか」と疑問を持ちました。グレーというのはクロとシロの間のことですが、「クロって何? 障害があること? シロって障害がないこと? それって、誰のこと?」と考え始めたのです。

そんなとき、電車に乗っていると見知らぬ人に、「見て! 虹が出ていますよ」と声をかけられました。窓の外を見ると、灰色の空にとても大きくてきれいな虹がかかっていました。その電車で虹を見ている人たちはみんな嬉しそうでした。虹って人の心を幸せにするんだなあと思いました。

そこでふと思ったのです。「子どもたち一人一人も、もしかしたら黒や白やグレーじゃなくて、とても豊かな虹色なんじゃないかな」と。

本来持っているその子の「色」を大事にして生きていく

 

私たちは、決まった色、同じような形で一生懸命生きなければならない環境に置かれ、みんな頑張って「シロ」のふりをして、「四角い」ふりをして、白いタイルのように並んでいるのかもしれません。

私はこれまでに、例えばASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如・多動症)などの診断によって大変傷つき、前向きな気持ちになれないという親子に出会うことが多くありました。でも、その子たちは、少数派で人と違う感じ方や違う考え方をする子どもたちでしたが、とても面白く、興味深く、いろんなことを教えてくれました。

それぞれみんなと違う色、違う色の濃さや色の配合を持ち、一人一人が素敵な色を持っているのです。自分にあった学び方や自分らしい生き方を見つけることで、子ども同士で助け合うこともできます。

私は、診断名や区別を付けて、その子が本来持っている色を「シロ」に近づけるのではなく、本来持っているその子の素敵な色を大事にして生きていくことが必要だと考えています。

「なぜみんなと同じにできないの?」と思う前に

『星と虹色な子どもたち』星山麻木・著 相澤るつ子・イラスト 学苑社

 

「なぜみんなと同じにできないの?」「なぜあなたは集団から外れるの?」と先生や親御さんが思ってしまうこともあるかもしれません。でもそこで、それぞれ違う色で生まれてきた子どもたちが自分らしく生きていくためにはどうすればいいかを考えてほしいと願い、『星と虹色な子どもたち』(学苑社)という絵本を書きました。

登場人物は、7色のレッドくん、オレンジちゃん、イエローちゃん、グリーンくん、アクアさん、ブルーくん。そしてパープルちゃん。実際の世界には、もっといろいろな色の子どもたちがいます。

例えばレッドくんは、正義感が強く、なんでも一番になりたい。悪いことではありませんが、この思いが強すぎると時々友達とトラブルを起こすことがあります。なんでも一番じゃないとダメ。他の子に指摘されると攻撃してしまうこともあります。でもとても頑張り屋さんです。

『星と虹色なこどもたち』より

 

オレンジちゃんは忘れ物が多く、時間に遅れることが多く、整理整頓ができないことが悩みです。でも自分のことより人のお世話をする優しい子です。

他にも、素早く動く人情家のイエローちゃん、繊細なきちんとさんのグリーンくん、孤高の天才アクアちゃん、ゆっくりおおらかなブルーくん。甘えん坊の寂しがりやパープルちゃんなど、それぞれの色を持った子どもたちがいます。いくつかの色が混じっている子もいます。

 

大人の中にも虹色の子どもがいる

 大人になった皆さんの中にも、レッドくんやオレンジちゃんがいるかもしれません。あなたの中のレッドくんが起こり出したときは、あなたならどうしますか。あなたの中のオレンジちゃんがよく忘れ物をするようなら、どんな工夫をしていますか。それを子どもたちに伝えてあげてほしいと思います。

絵本の最後に書いた詩の中から一部を紹介します。

虹色な国では

自分が誰とも違うこと

それぞれ違う色で

生まれてくると知っている

 

自分の色が尊重され

自分らしくあるように

誰とも違う色を大切にする

 

自分にあった学び方

自分らしい生き方

 

それぞれ違うのだからこそ

それぞれ助け合うのだと

勇気づけ 見守る

 

大人だけでなく、違う色の子どもたちがお互いに助け合うこともできます。そんなお話をこの絵本『星と虹色の子どもたち』に書きました。どうか皆さんも、自分らしい自分の色を大切に生きていただきたいと思います。

星山麻木(ほしやま・あさぎ)

明星大学教育学部教育学科教授。保健学博士。一般社団法人「星と虹色なこどもたち」会長。一般社団法人「こども家族早期発達支援学会」会長。日本音楽療法学会認定音楽療法士。行政や教育委員会と連携しながら、様々な地域の子育て支援、サポーター育成、早期発達支援、子育て支援ワークショップの開発、療育や特別支援教育の実践を行っている。

 

構成/太田美由紀

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