暗記の近道は理解すること。小学生のパパ・ママも知っておきたい暗記方法(暗記術)とコツ

現在、教育現場では学びの仕組みが変わると言われています。一昔前までのような暗記中心の学びではなく、考える力など本当の頭の良さが問われるようになるとの話。HugKumの過去記事でも、暗記ではなく考える力の学びにシフトした学校現場を取材しました。

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とはいえ、現実には授業の中で暗記しなければいけない言葉や数式は多いです。最低限の知識があって、始めて考える力が養われるわけですから、一定の知識量や記憶が求められても仕方がない面もありますよね。

そこで今回は過去の研究から、効率的な暗記法についてまとめてみました。わが子に効率よく暗記をさせたいと思ったら、どのようなやり方が理想的なのか。ぜひともチェックしてみてください。

脳の暗記の仕組み

暗記とは、そもそもどのような仕組みで行われるのでしょうか。広く知られている知識として、記憶は脳の一部である海馬(かいば)と言われる場所が大きな役目を果たしています。海馬とはそもそもタツノオトシゴの別名ですが、大辞泉によると

<形がタツノオトシゴに似ることから、16世紀にイタリアの解剖学者アランティウスが命名した>(小学館『大辞泉』より引用)

とあります。脳の一部にあって、タツノオトシゴのような形をした、厚さ1cm、長さ5cm程度の器官が海馬です。

外部から入ってくる情報のうち、生命の維持に必要な情報を優先的に海馬が取捨選択して、大脳の表面を覆う大脳皮質に送り込み、ストック化します。

生命の維持に直接的に必要のない情報でも、繰り返し脳に入ってくる記憶は、生きるために必要と脳が錯覚して、大脳皮質に送り込むとも知られています。

記憶力にピークはある?

関連して、この記憶する力のピークについても、さまざまな研究が進んでいます。今までは18歳前後をピークに、あとは衰えていくと考えられていましたが、実際はもっと複雑だと分かってきているそう。

例えば米マサチューセッツ工科大学のジョシュア・ハーツホーンさんの研究では、情報処理の能力については18歳から19歳がピークになるものの、短期記憶については25歳前後まで発達し続け、他人の感情を理解する能力は40代、50代にピークを迎えると言います。

語彙(ごい)力についても、従来は40代がピークだと考えられていたものの、新しいデータでは60代から70代において、ピークを迎えるという可能性も示されています。

「子どもは○○歳までに記憶力のピークを迎える」といった一部の情報に惑わされる必要はありません。「うちの子は〇年生だから手遅れだ」と、諦める必要もないみたいですね。

小学生、中学生のうちは脳が成長を続けている時期ですから、考える力、判断する力を育てるために必要なコンパクトな知識を、いかに効率よく身につけさせるか、その点にパパ・ママとしては注力したいですね。

暗記の仕方と基本のコツ

暗記の仕方についても、さまざまな研究が行われています。特に参考になる情報は、岩手大学教育学部研究年報に発表された、塚野弘明著「社会的に組織化された『暗記力』」にまとまっています。

2002年(平成14年)と古い情報ですが、書かれている内容は、ずばり暗記術。今回のテーマにぴったりの参考文献です。論文の中では、ナイサーという研究者の実験が紹介されています。

「力の強い人が本を流し読みした」

「はげ頭の人が新聞を読んだ」

「腹の空いた人がネクタイを買った」

「ふざけた筆が指輪を好んだ」

というような短文を幾つも用意して、その短文を異なる暗記法で覚えさせる実験です。試しに、自己流の暗記術で覚えてみてから、先を読み進めてみてはいかがですか?

実験では、参加した人たちを3つのグループに分け、各グループの被験者に異なる暗記法を試させました。異なる暗記法とは、

  1. 繰り返し唱えて丸暗記する(暗記)
  2. 「はげ頭の人」などを具体的に連想しながら覚える(連想)
  3. 「なぜ力の強い人でなければいけないのか」など、文章の意味に隠された必然性を理解しながら(考えながら)覚える(理解)

といった3種類になります。この中で、最も際立って暗記の結果が良かった暗記術があるのですが、どれだと思いますか?

意味のある内容は理解して覚えさせる

答えは、群を抜いて3番だと言います。意味のある文章や数式を記憶する際には、覚えようとするのではなく理解しようとする、そのプロセスが記憶の定着に大きく役立つのだとか。

その意味で言えば、熟語や慣用句、漢字など、意味のある内容を子どもに覚えさせようとする場合は、しっかりと知識の背景にさかのぼって理解を促したほうがいいみたいですね。

「覚えよう」ではなく、「理解しようとしているうちに、結果として覚えちゃった」という状態を目指せばいいみたいです。

意味のない(少ない)数字や言葉の羅列は、語呂で覚える

ただ、理解をして記憶する方法も、意味のない(少ない)数字や記号の羅列などを記憶する場合は、それほど役立たないと言います。意味を考えようにも、そもそも意味や理由がないからですね。

本当に意味のない数字の羅列などを、学校で覚えさせられる場面は基本的にないと考えられます。ただ、例えば歴史の年号だとか(一部の年号には必然性がありますが)、意味が少ない(偶然性の高い)ランダムな情報を覚えようとする場合は、先ほどの3つの中で言えば、1番の暗記法(繰り返し唱えて丸暗記する)が役立つとの話。

とはいえ、繰り返し唱えて丸暗記する際にも、こつはあります。

  1. 語呂合わせ
  2. 頭文字法
  3. 連結法
  4. 物語法
  5. 場所法

こうした暗記術を駆使しながら、繰り返し唱えて丸暗記すると役立つみたいですね。

aの語呂合わせは皆さんご存じの通り、「いい国つくろう鎌倉幕府」などの覚え方ですね。bの頭文字法も試みる人は少なくないはず。例えばアメリカの五大湖(ヒューロン湖、オンタリオ湖、ミシガン湖、エリー湖、スペリオル湖)を覚える際に、頭文字を組み合わせてHOMESと記憶するなどの方法です。

cの連結法は、幾つか並列する項目を覚える際に役立ちます。並んだ最初の2つをイメージで結び付け、そのイメージに沿って、残りの暗記項目もつなげていく覚え方。

dの物語法は覚える項目を、1つの物語や文章に落とし込んで、物語そのものを記憶する方法です。eの場所法は古代ギリシャから受け継がれる有名な暗記法で、自分の部屋など、よく知っている場所を舞台に、暗記したい項目をその舞台に登場させて、覚えていきます。

この説明だけだと、何が何だか分かりませんが、例えば自宅の間取りを思浮かべて、玄関から順番に寝室へと続く空間を頭に描きます。そのイメージのルート上に、暗記したい何かを登場させるのですね。

ランダムに「ウシ」、「うちわ」、「すべり台」、「クスノキ」を順番に覚える必要があったら、自宅の玄関に「ウシ」が居る映像を思い描く、次に廊下に入ると「うちわ」が落ちていて、廊下の奥のリビングには巨大な「すべり台」が置いてある映像を思い浮かべます。最後に2階の寝室に行くと、部屋を埋め尽くす巨大なクスノキが生い茂っている、そんなイメージを創作すればいいのですね。

その上で、「さて、今挙げた4つの物を、順番に答えなさい」と言われたら、できるでしょうか。ちょっと試してみてください。

場所法では、自分でつくったイメージ通りに、自宅の玄関から寝室に向かえばいいのです。そういえば玄関にはウシが居たので「うし」、廊下にはうちわが落ちていたので「うちわ」、リビングに入ると大きなすべり台があったので「すべり台」、2階の寝室には大きなクスノキが生い茂っていたので、最後の答えは「クスノキ」といった感じですね。

実際にやってみると、確かにすごく覚えやすい記憶術だと分かります。しかし、こうした暗記術にも欠点があって、たくさんの情報を覚えようとすると、語呂合わせや創作物語などが増えてしまい、かえって暗記しなければいけない情報が増えるといったジレンマです。

また、先ほども述べた通り、意味のないランダムな情報を覚える際には便利ですが、意味のある情報を覚えようとする場合には、あまり効果がないとも言われています。

小学生におすすめの暗記方法

ここまでで、記憶の仕組みや上手な記憶の方法、暗記術に関して述べてきました。こうした知識を、実際にわが子の学びに生かすためには、どうすればいいのでしょうか?

意味のある内容は、繰り返し理解しようと試みる

先ほど脳の一部である海馬は、繰り返し入ってくる情報を、生命の維持に必要な情報だと錯覚すると紹介しました。

また、意味のある情報・内容については、理解しようと試みるうちに結果として覚えていく可能性があるとも述べました。

この2つを組み合わせて考えると、公式や文章、漢字、英単語など意味を持つ知識の場合は、繰り返し背景や理由、成り立ちを考えてみる作業が、最も記憶の定着に向いていると分かります。

何か大事な算数の公式があれば、なぜ公式がそのような成り立ちでできているのかを考えてみる、どうしても記憶できない漢字があれば、漢字辞典を調べて漢字の成り立ちを理解しようと試みる。そうした作業を繰り返しているうちに、気が付けば覚えてしまっているかもしれません。まさに「急がば回れ」という考え方を、学びに適用すればいいのですね。

意味のないランダムな情報は暗記術を一緒に試してみる

一方で、何か意味のないランダムな情報を暗記する場合は、親子で一緒に語呂などを考えるといいかもしれません。

例えば九州の都道府県を全て覚えるといった場面では、語呂合わせ、頭文字法、連結法、物語法、場所法を駆使して何かユニークな暗記の手がかりがつくれないか、親子で工夫してみると楽しいはず。

ただし、暗記術は頼り過ぎてしまうと、今度は語呂や頭文字の造語など、思い出すためのヒントそのものが多くなりすぎて、忘れてしまうといった問題が出てきます。

だとすれば、一見意味のなさそうな情報(単純な暗記項目)に見えても、その背景や仕組みを理解できないか、パパ・ママ自体がサポートしてあげるといいかもしれませんね。

例えば、小学生で始まる英語の授業、spring、summer、fall、winterを暗記しなければいけないのに、子どもがspringとfallをどうしても覚えられないとします。

この場合、変な語呂で考えるのではなく、「spring(スプリング)って、バネだよね。バネってびよーんと飛び出すでしょ。春になると、びよーんと飛び出すものはなーんだ?」などと一緒に考えて、「春は土から芽がびよーんと飛び出すから、春はspring」と、面倒でも言葉の由来までさかのぼれば、子どもも理解ができるはずです。

fallにしても、「この前、遊園地でフリーフォールって乗ったでしょ? あれ、上から下に落っこちたじゃない。フォールって、落ちるって意味なんだって。なら、秋に落ちるものって何?」と聞いてみてはどうでしょうか。

「葉っぱ」と子どもが答えられれば、「秋は葉っぱが落ちる時期だから、fallなんだね」と、意味を理解できるはずです。「ちなみに滝も水が上から下に落っこちるよね。だから、fallには滝って意味もあるんだって」などと、さらなる理解もうながせます。

記憶にあたっては、「興味があると覚えやすい」という事実も、間違いなくあるようです。アニメやマンガのキャラクターを驚くほど子どもが覚えられるように、子どもが楽しい・興味があると感じる具体例を出しながら、覚えられない知識の理解を促せるといいですね。

繰り返し理解しようと考える作業が暗記への近道

以上、暗記について情報をまとめてきましたが、いかがでしたでしょうか。海馬に繰り返し同じ情報を与えると、記憶の定着が起きやすいという話がありました。しかし、同じ情報を与えるのでも、理解しようと考えれば、結果として記憶している状態になりやすいとも述べました。

暗記事項に思える問題にも、「何でだろう?」と考える習慣が身につけば、考えられる子ども(大人)に育っていくはずです。これからの時代、自分で考える力が求められていますから、一石二鳥かもしれませんね。

文・坂本正敬 写真・繁延あづさ

【参考】

塚野弘明「社会的に組織化された『暗記力』

The rise and fall of cognitive skills Neuroscientists find that different parts of the brain work best at different ages. – MIT

The ages you’re the smartest at everything throughout your life – Business Insider

湯舟英一「長期記憶と英語教育 (1) ― 海馬と記憶の生成、記憶システムの分類、手続記憶と第二言語習得理論 ―」

こうすれば記憶力は高まる!~脳の仕組みから考える学習法 – WAOサイエンスパーク

※ 古代ギリシャから天才たちに受け継がれている究極の記憶術『場所法』とは? – 記憶の学校

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