東京・町田にある「小さな村」をテーマにした、町田の認可保育園
「しぜんの国保育園smallvillage」。
こどもたちの「今日は何をしよう?」から生まれる保育を大切にしています。園長である齋藤美和さんが、子どもとの暮らしにつながるものづくりをしているお母さんたちを訪ねます。
第2回目は、しぜんの国保育園でも保育者向けにワークショップを開催していたという、クラフト作家の上原かなえさんのお話です。
『北欧のかわいい切り紙』『ごあいさつカードの手づくりレシピ』など多数の著書を持ち、私たちの生活に馴染む手づくりを提案してくれるクラフト作家の上原かなえさん。現在は拠点を東京から軽井沢に移し、もうすぐ3歳になる娘さんとプロダクトデザイナーのご主人の3人家族で暮らしています。
おだやかな雰囲気を身にまといながら、実は強い意思を持った行動派のかなえさんに、この日の現場である、浅草橋の毛糸専門店keitoに会いに行きました。
おしみなく「好き!」が言える環境の中で
−後編ということで、海外に留学をしてからのことを聞かせてください。
「半年は語学の勉強を目的にいろんなカリキュラムのあるフォルケホイスコーレ(デンマーク独自の教育機関)に通いました。ヨガや経済、いろいろなことを学びましたね。のちに、手芸専門の学校へ進みました。そこに、編み物歴50年のマダムや、高校を卒業して入学してきた若い子もいて、さまざまな世代の方と学べたのが楽しかったです。
私が日本でやってきた『クラフト作家』という仕事に興味を持って、面白がってくれる方も多かったです。積極的に、自分の好きなことが言える環境でした。それはすごく居心地がよかったです。
そこから派生して現地の保育園や幼稚園、図書館でワークショップも開催させてもらいました。『好きなこと』があったから海外でも濃密な時間を過ごすことができたんでしょうね。
現地でも、デンマークが好き!っていうのを伝えていたら、『こんなにデンマークが好きな日本人がいるなんて!』と惜しみなく情報や環境をシェアしてくれました(笑)」
−かなえさんの好き!や、得意!がどんどん人の輪を作って行ったんでしょうね。
「そうですね。本当に楽しかった。寮生活も楽しかった。どうしたら永遠にデンマークに居られるかなあとも思いました(笑)でも、またいつでも、何回でも学び直せると思うようにしました。学校のスタンスも『準備ができたらまた戻っておいで』というもので、すごくあたたかかったです。そうそう、お子さんと一緒に留学している人もいましたよ」
−それも素敵ですね!この留学という経験は本当にかなえさんにとって大切なものになったんだろうなと思います。その後帰国して……。
「帰国して、フィンランドに7年暮らしていた夫と出会いました。お互い留学をしていたので、話が合いましたね。その後、結婚をし、子どもを授かり出産をしました。」
−お子さんが生まれて大きく変わったことはありますか?
「今、もうすぐ娘が3歳なのですが、実はまだ実感をしていないのが正直なところです。目の前のことで、必死ですね(笑)
出産して4ヶ月で仕事を開始したのですが、友人たちやアシスタントをしてくれている、佐々木さん(この日も来ていた)がいてくれたのが大きかったです。気心が知れている人たちが周りにいてくれたので。」
家族3人で世界の仕事場を見る旅へ
−そこから、さらに活動拠点を軽井沢に移したんですよね。なぜ、東京から移住をしようと思ったのですか?
「去年の夏に、色々な生活の場と、仕事場を見たいと思って家族3人で海外に旅に出たんです。実際に見に行って感じたいと思って。それで、デンマーク、フィンランド、スイス、スペイン、ドイツ、イギリスを周り、友人に会ったり生活の様子を見せてもらったりしました」
−そこで感じた、人々の暮らしってどうでしたか?
「仕事と生活の、バランスがいいなって思いました。暮らすのが上手だなあって。どちらかに、片寄らないなあと思いました。そんな姿を見て、私たち夫婦もバランスをとるにはどうしたらいいかなあと話した時に、子どもは自然の中で育てたいなということを強く思いました。それで、夫の家族が住んでいる場所でもある、軽井沢に引っ越そうと思ったんです」
−迷いは全然なかったのですか?
「軽井沢は、教育も環境も食べ物も良くって。迷うことがなかったですね。いいことばかりを選択して行ったら、今にたどり着いていました」
−かなえさんって潔いですよね。疲れた姿を見たことがありません。
「そうですかね……(笑)たまに徹夜もしてますけど(笑)手作りの楽しさを伝えたいということが根底にあります。それが楽しいから、辛くないのかもしれませんね」
−今度の目標などもあったら聞かせてください。
「ずっとお手本通りに作るのが好きで、基本の筋がある中で工夫をするスタイルだったのですが、娘が私の傍らで、布の切れ端などで遊んでいるのを見て、ルールのない本当に自由な発想っていいなって影響を受けています。これからの作品作りの起爆剤になりそうな予感がして、私自身も楽しみなんです」
【取材を終えて】
かなえさんの作る作品は、妥協のない美しい仕上がりが魅力。でも、遠い存在ではなく「私」でもできるかな?とちょっと思える隙間があるのです。
それはかなえさんの物作りが、「楽しい」「好き」がどうやったら伝わるのか?という素直な気持ちから始まっているからなのではないでしょうか。
子どもが生まれて、パートナーと「仕事と暮らし」について話し合ったというかなえさん。そこできちんと家族で考えられたこと、とても大切だなと感じました。
上原かなえ(うえはらかなえ)
クラフト作家。「サルビア」の雑貨デザインスタッフを経て「サルビア工房」として独立。クラフト作家として、紙や布をはじめ、さまざまな素材に耳を傾けながら暮らしを彩る手作りのアイデアを提案する。2013年夏より、デンマークスカルス手芸学校留学。帰国後、北欧で出会ったペーパークラフトをまとめた『北欧のかわいい切り紙』(河出書房新書)を出版。
齋藤美和(さいとうみわ)
しぜんの国保育園smallvillage園長。書籍や雑誌の編集、執筆の仕事を経て、2005年より「しぜんの国保育園」で働きはじめる。主に子育て支援を担当し、地域の親子のためのプログラムを企画運営する。2017年当園の副園長となる。また保育実践を重ねていくと共に『保育の友』『遊育』『edu』などで「こども」をテーマにした執筆やインタビューを行う。2015年には初の翻訳絵本『自然のとびら』(アノニマスタジオ)が第5回「街の本屋さんが選んだ絵本大賞」第2位、第7回ようちえん絵本大賞を受賞。山崎小学校スクールボード理事。町田市接続カリキュラム検討委員。齋藤美和 Instagram 「しぜんの国保育園」