我が子にもっと本を読んで欲しい…。これは、小学校の子どもを持つ親が抱く共通の願いではないでしょうか。読書をする子どもは読解力がつき、国語力が高まり、学力も上がるため、家庭内教育の一環としても非常に有効とされています。
そこで今回は、国内屈指の進学校、麻布中学校・高等学校の国語科教諭である中島克治先生に、小学生のための読書術を教えて頂きました。自分の子どもに本を好きになってもらうために親ができること、本を読まない子どもへの読み聞かせの極意やコツ、子どもと大人がともに楽しめる読書法など、読書術のヒントをご紹介します。
本を読む子ども・読まない子どもの違い
読書は子どもの学力を高める
「本を読むと読解力がつき、国語力が高まる」ということは誰もが知るところです。読書は学力の土台になる大切なもので、力のある生徒は自然と本に親しんでいます。
あるとき、国語の成績が優秀な生徒に、小さいころ読んで印象的だった本は何かたずねてみました。すると、5歳のころに読んだアレクサンドル・デュマの『モンテ・クリスト伯』だと言うのです。難しい言葉は自分で辞書を引きながら読みきったそうで、それがきっかけで本を読むことがとても好きになったということでした。5歳で『モンテ・クリスト伯』を読みきるのは彼が特別にすぐれているのかもしれませんが、少なくとも幼いころから本に親しんできたことが、すぐれた国語力につながっているのは間違いありません。
読書をしない子どもは国語の成績が振るわず
一方、国語の成績がいまひとつの生徒たちに話を聞くと、誰もが読書から遠ざかっていると言いました。
本を読む習慣が自然と身についている子どもとそうでない子どもとの間には、それだけで大きな差がついてしまっているのです。受験を控えていれば読書をする時間はないかもしれません。しかし、受験一辺倒になりがちな生活の中で、読書の時間はかけがえのないひとときになります。そして学力を高めるという意味で読書は、遠回りに見えて実は近道なのです。
✔読書の効能1:ものごとを見る目が養われる
昨今ではインターネットが普及し、知りたいテーマを検索すれば一発で出てきます。それに比べて、本はどうでしょうか。何かを調べるのは時間も労力も数倍以上。なにしろ、本は自分の知りたいことだけが書かれているわけではありません。無関係なことが書かれていたり、肝心の知りたいところは、やけに難かしかったりもします。
自分の知りたいことに関連のありそうな本を探して読み進める作業は、こうした期待はずれや問題意識のずれをくり返します。しかし、その「寄り道」のプロセスで、面白いと思えるものに出会うこともあります。すると、そこにまた興味が湧いて、新たな観点からまた本を探し求めることになるのです。
本を通じて得た知見は、自分で開拓した裾野が広い分だけ応用範囲も広がります。そうしていつの間にか、もともと知りたかった問題を解決できるような広い視野を手にできるというのが読書の醍醐味です。本から本へと渡り歩いていくうちに、「求めているもののありかを見つける目」が養われます。
✔読書の効能2:語彙が増える
本を読むと、語彙も増えます。物語の中では、ある気持ちを表現するにもさまざまな言葉が使われています。たとえば「うれしい」という感情にもいろいろな表現がありますし、人によって感じ方が異なることもあります。作品の中の「生きた言葉」として入ってきますから、子どもの語彙は自然に増えていきます。辞書と参考書だけでは身につかないものだといってもいいでしょう。
✔読書の効能3:キレにくい子どもが育つ
名作といわれる作品をいくつか読んでみてください。権力を持った者、もしくは権力にこびる者による弱者へのむごい仕打ちや心ない対応、本来助け合うべき弱者同士のいがみ合いやいじわる、拒絶などが赤裸々に描かれています。人間の醜さは場所や時代には関係ありません。また、それに対してどう向き合ってきたのか、先人の知恵も描かれています。読書を通して人間の醜さや愚かさを疑似体験していれば、現実社会で経験できないことに対するさまざまな免疫が身につくことでしょう。
また、自分のネガティブな気持ちは、物語や小説の中に似たような形で出てくることがよくあります。これも作品の中で「どのようにこらえるか」をあらかじめ体験していると、実際に気持ちのはけ口のない状況に立たされても、どこか「ため」ができてこらえられるようになります。
つまり、気持ちの幅が広がり、キレにくくなるのです。
子どもへの読み聞かせの極意
子どもを読書へ導くには、大人が本を楽しむこと
両親がよく本を読む家庭では、子どもの読書へのハードルは低いもの。反対に、親が全く本を読まないのでは、子どもにだけ読書をすすめても説得力はありません。まずは親が少しずつでも読書の習慣をつけるようにしていきましょう。
できるだけご自身に負担のかからない内容のもの、趣味に関わる本を手に取ってみてください。たとえば映画好きであれば、映画の原作や小説化されたものを読んでみてはいかがでしょう。原作には映画とはまた別の面白さがあることは言うまでもありません。ほかにも売れ筋のもの、推理小説や興味のある分野の新書などもおすすめです。1日2分でも本を読む時間をつくり、本を身近なものにしていくことが子どもを読書へ導く第一歩です。
本を読まない子どもには読み聞かせからスタート
本を読まない子どもには、ぜひ読み聞かせから始めてください。いきなり難しい本を選んだり、たくさん読もうなどと欲張らないほうがいいでしょう。挿し絵が魅力的なものや、童話や昔話など、短い物語がいいと思います。そして読み聞かせるときは「面白いね」などと感想も口に出しましょう。こうしたお父さん、お母さんの気持ちは、子どもに伝わります。
小学校高学年でも読み聞かせはおすすめ
読み聞かせというと、せいぜい低学年のころまでのことと思われているかもしれません。ですが、高学年でも読み聞かせをおすすめします。小学生のうちはそれぐらい関わってあげたほうが、本と向き合いやすくなると思うのです。しかしながら、5、6年生ともなると、親に対して反抗的な気持ちを持ちやすい時期。そんなときは少し離れてみることも必要です。無理強いはせず、できるときに少しずつ読んであげてください。
子どもへの読み聞かせのコツとは?
読み聞かせをするときは、子どもにも目で文字を追わせます。そうやって文字を読んでいくことで自然と文のまとまりを理解し、どこで切ったらいいのか、ストーリーや段落のひとかたまりはどこまでか、ということも把握できるようになるのです。知らず知らずのうちに文章を読む力が育ちます。
親は、本を上手に読む必要はありません。うっかり1行飛ばしてしまったり、読み方を間違えたりしたときには、子どものほうから「それ違うよ」と教えてくれることもあります。子どもがちょっとした優越感を持つ瞬間です。
大人と子ども、親子で本を楽しむ・選ぶ
子どもと一緒に本を選ぼう
子どもと一緒に書店や図書館に出かけ、読みたい本を選ばせましょう。子どもが選んだ本は、どんなものであっても決して否定しないようにしてください。否定しようものなら、間違いなく本嫌いになってしまいます。子どもが選ぶ本と、親が読ませたい本が一致することはほとんどありません。お子さんが自分で選んだ本は何でも「へえ、面白そうね」と受け入れてあげてください。
なかなか本に関心が持てないお子さんもいます。そんなときは、店員さんになったつもりで子どもに接するのがコツです。さりげなく「これは絵がかわいくて楽しそうだね」とか、「男の子が冒険するお話で、子どもに人気がある本なのよ」といった具合に、その本の面白さや魅力、本の内容をちょこっと伝えてあげましょう。押しつけではない言葉に後押しされ「読んでみようかな」と思わせたらしめたものです。
スポーツが好きな子どもに本を読ませるには?
読書にあまり縁がなかった子に、はじめから名作を読ませようというのはハードルが高すぎます。スポーツ好きな子には、スポーツ関連の雑誌やハウツー本など、興味のあるジャンルから読書に導いてあげましょう。子どものあこがれの選手についてまとめた本もおすすめです。好きな選手の本を読むことで、一流のスポーツ選手というものは技術だけでなく人間的にも魅力があるのだということに気づくことができれば、しめたものです。読書とはそもそも人間の内面に関心を持つ、ということでもあります。その入り口は名作ばかりではありません。
子ども自ら本を手に取りやすくする環境づくり
せっかく図書館や書店で本を選んで持ち帰っても、子どもですからつい読むのを忘れてしまうことがあります。「家に帰ったら急に読む気がなくなってしまった」ということもあります。そういうときは、本の置き場所を工夫します。リビングの隅にでも表紙が見えるようにして置いたり、親の読んでいる本の上に、さりげなく重ねたりしてみてください。親の目を意識せずに本を手に取りやすくしてあげるのです。
家の中にそういうコーナーを2、3カ所つくるとベストです。どの部屋にも本がある環境にすれば、自然と手に取るようになります。とくにおすすめなのがトイレに本を置くことです。このトイレ文庫で、子どもが本を読み始めたケースはたくさんあります。
類語辞典を用意しよう
読書の中心となるのは「物語」ですが、同時に類語辞典も用意しましょう。おすすめは『例解学習類語辞典似たことば・仲間のことば』(小学館)です。小学校のころからこういうものに親しんでいると、言葉に対する興味がどんどん深まり、語彙も増えます。
類語辞典に決まった使い方はありません。気になる言葉を引いて、そこから同じような意味の言葉のつながりに目を向けたり、用例や項目だけを拾い読みしたり、楽しく読ませてください。
類語辞典を読むことによって、使い分けが難しい類語の違いをつかむことができます。また、似たような言葉でも意味が違ったり、日ごろ使っている言葉でも別の使い方があったりといった新鮮な発見もあることでしょう。ときには、読書の代わりに辞典を眺めるのもいいですね。
子どもがシリーズ本にはまったら…
最近は小学生向けの物語で、シリーズものも多く出版されています。子どもにとってはとても楽しい内容ですから、次の巻を読みたいという気持ちになるのは当然です。しかし、同じシリーズや同じような趣向のものばかりを読んでいると、作者の文体や世界になじみすぎてしまい、他の書き手の文章が読みにくくなってしまうことがあります。また、多くの場合、シリーズものは巻を重ねるごとに、どうしても内容が惰性的になり、最初に読んだものより次の作品の感動は薄れることがあります。シリーズものを否定するわけではありませんが、他の本を読む努力はしてほしいです。
時間がたっても色あせない本の魅力
本の魅力は、基本的に文字だけで成り立っているという単純さにあります。表現や内容に深い感銘を受け、人はその作品に愛着を覚えます。そういう作品は人生に行き詰まったときに心のよりどころになったり、懐かしく思い出してもう一度読みたくなったりすることでしょう。
また、同じ作品でもしばらくしてから読んでみると「ちょっと違う」と感じられるものです。たとえば、以前には気づかなかった会話の中の一言や、読み飛ばしていたことが新しく読み取れるようになったりします。これは必ずしも昔に比べて正確に理解できるようになったということではありません。本というものは、同じ人が読んでもその時どきの心境によって印象が変わるものなのです。大人の自分が一瞬のうちに子どものころに立ち返ることもあれば、以前とはひと味違った受け止め方をしたり、感動することもあるでしょう。本は、単純な内容や表現であったとしても、色あせることがないのです。
読書家の豊かな人間性
親は、子どもの将来はいい学校に入ることで決まると思いがちです。しかし、いくらすばらしい学校に入っても、内面を豊かにする経験がなければ、人間としての魅力は育ちません。そういう意味で、読書は人間性を高めるためにも欠かせないものです。
参考書籍『できる子は本をこう読んでいる 小学生のための読解力をつける魔法の本棚』
『できる子は本をこう読んでいる 小学生のための読解力をつける魔法の本棚』について
「本を読むのに国語ができない」、そう悩んでいる親御さんは多いのではないでしょうか。ではどんな本をどう読めば、読解力がつくのでしょうか。麻布学園の国語教師である著者が、「本を読むのに国語ができない謎」を解き明かし、家庭でできる国語力アップのための読書法を公開します。また、読解力は、勉強のためだけでなく、人が豊かに生きていくために必要な、判断力や思考力のベースにもなります。そんな人間力を育むためにおすすめの、170冊のブックリスト付きです。
『できる子は本をこう読んでいる 小学生のための読解力をつける魔法の本棚』(著/中島克治 定価:本体1300円+税/小学館)
『できる子は本をこう読んでいる 小学生のための読解力をつける魔法の本棚』著者・中島克治プロフィール
中島克治(なかじま・かつじ)
麻布中学・高校を経て、東京大学文学部卒業。東京大学大学院人文科学研究科博士課程に進んだ後、麻布中学・高校国語科教諭となる。著書に『小学生のための読解力をつける魔法の本棚』『小学生のための読解力をつける読書紹介文ノート』『中学生のための読解力を伸ばす魔法の本棚』『本物の国語力をつけることばパズル』(全て小学館)がある。
文・構成/HugKum編集部