昨今の教育現場でキーワードとなっている「アクティブ・ラーニング」とは、さまざまな小学校で行われている参加体験型の教育手法のひとつです。アクティブ・ラーニングの意味・定義・手法、アクティブ・ラーニングに不可欠なファシリテーション力とは? アクティブ・ラーニングとESD(持続発展教育)、環境教育の関係など、「アクティブ・ラーニング」についてご紹介します。
目次
「アクティブ・ラーニング」の意味・定義とは?
学習指導要領にも登場した「アクティブ・ラーニング」とは、主体的・対話的で深い学びのこと
2014年11月に文部科学大臣から中央教育審議会に対して、次期学習指導要領についての諮問が出され、その中に「アクティブ・ラーニング」という言葉が4回も登場しました。それ以来、教育関係者の間では、アクティブ・ラーニングが話題の中心になっています。
アクテイプ・ラーニングとは、「主体的・対話的で深い学び」のことを言います。アクティブという言葉には「活動的」という意味もありますが、アクテイプ・ラーニングの“アクティブ”は、「能動的な」という意味です。“アクティブ”の反対語は“パッシブ”で、「受動的な」という意味になります。
受動的な「パッシブ・ラーニング」は、アクティブ・ラーニングと反対の学び
パッシブ・ラーニングとは、自分でコントロールしていない学びのことを言います。考えたり発表したりという活動が中心の授業でも、先生から言われるままにやっているのであれば、アクティブ・ラーニングとは言えません。
「考える」ということを小さい時から積み上げてこなかったら、“アクティブ”にはならないでしょう。かつては、成績が中から下の子どもたちが自分で考える楽しさをわからないまま、上級学校に進む傾向は確かにありました。そこで、学びそのものの変化が必要とされ、登場したのが「アクティブ・ラーニング」と言えるようです。
「アクティブ・ラーニング」と学力の関係
文科省が「アクティブ・ラーニング」を重視するようになった背景
主体的、対話的な学びであるアクティブ・ラーニングが強調されるようになった背景は、いくつかあります。1つ目は、社会のニーズが変わってきていること。今まではAからZまですべて言えるような知識が求められましたが、それはタブレット端末を見ればわかること。ですので現在は、知識を構造化したり、創造する能力が求められるようになりました。2つ目は、グローバリゼーションによって多様な人々とのコミュニケーション能力がより重要になってきていることです。文科省によると、日本の青少年の自己肯定感や社会参画意識の低さが指摘されています。
探求的な学習(=アクティブ・ラーニング)を行った学校の成績が高い
このような青少年の状況を招いた要因はたくさんありますが、知識や技能を重視してきた日本の教育の在り方にも大いに問題があったと考える人は少なくありません。ただ、教育改革を断行する上での懸念は、学習者(生徒)主体の授業への改革が、学力低下を生じさせないのかということです。その懸念のため、改革断行の決断が遅れていました。ところが、国立教育政策研究所による全国学力テストの分析結果で、総合的な学習の時間において探究的な学習を意識して指導した学校の成績がかなり高いという結果が示されたことから、アクティブ・ラーニングへの舵切りがなされることになったのです。
「アクティブ・ラーニング」は時間がかかる
アクティブ・ラーンングは限られた時間内でやるのは困難だと言われています。しかしながら、学習カリキュラムに取り入れたり、余裕のあるときにアクティブ・ラーンングを取り入れている学校もあります。
たとえば、KP法(紙芝居プレゼンテーション法) という、手書きのA4サイズの紙をホワイトボードに貼っていくアナログのプレゼンテーション法、思考整理法。今その方法が学校の先生に普及し始めており、特に高校の先生たちが、自分の講義の時間を短くするためにKP法を使い、余裕のできた時間でアクティブ・ラーニングを取り入れ始めています。
小学校低学年の場合は、自由に使える時間をたくさんあるので、教師が少しアドバイスをすると1年生は1年生なりに考えて動き出せるのだそうです。「バッタのいる草はらにプレハブ校舎が建つそうだけどどうする?」というように、教師がうまく仕掛けると話し合いをし、校長室に行って「草が枯れるまで工事を延期してください」と要望を言えるようになります。ただ、若い先生たちがそのような時間を有効に使えているかというと、必ずしもうまく使えていないのが実情のようです。
思考力を高めるためには、子どもたちが思案したり吟味する時間が必要です。アクティブ・ラーニングを深めようとすると、やはり時間はかかるでしょう。
「アクティブ・ラーニング」の手法とは?
「アクティブ・ラーニング」3つの視点
文科省はアクティブ・ラーニングについて、3つの視点を示しています。それは、
- 深い学び
- 対話的な学び
- 主体的な学び
です。なかでも「深い学び」が重要で、アクティブ・ラーニングでしか獲得できないものがあります。個別単体の知識ではなく、ネットワークされた構造化した知識をつくっていく学びといえるでしょう。ただ、アクティブ・ラーニングには多様なアプローチがあり、プロジェクト学習のような探究的なものもあれば、教科における習得や活用の学びもあります。
体だけではなく、頭の中を活性化させる「アクティブ・ラーニング」
アクティブというのは体が動的に動いているというイメージがありますが、もっとも活性化してほしいのは“頭の中”です。現行の学習指尊要領で言われている習得的な部分でも、活用的な部分でも、アクティブにすることは可能だと思います。思考の活性化こそ重視すべきでしょう。そのためには、子どもたちが思考ツールなどを使って、自分たちで上手に考えをまとめながら話し合いを行うと、深い学びにつながるのではないでしょうか。
「アクティブ・ラーニング」に不可欠なファシリテーション力とは?
「まねぶ(真似て学ぶ)」ことで、先生のファシリテーション力がつく
子どもたちを深い学びに導くためには、先生のファシリテーションカが不可欠です。最近になってようやく「教室ファシリテーション」とか「教育ファシリテーターになろう」といった本が出版されるようになり、教育界で注目されています。
先生がファシリテーション力をつけるには「まねぶ(真似て学ぶ)」ことです。上手なファシリテーターの振る舞いや技を見ることで、感覚ができてきます。ファシリテーションは小さな工夫の積み重ね。ファシリテーション力を身につけるということはそれほど難しいことではなくセンスの問題で、センスは「まねぶ」ということで身につく部分が多いでしょう。
先生は、子どもを深い学びに導くファシリテーター
また、引き出しをたくさん持っていれば、子どもたちを深い学びに導けます。外の人と接していて引き出しができれば、子どもと一緒にアクティブ・ラーニングができるからです。要するに、先生がアクティブ・ラーナーになる必要があるということです。そういう点では、むしろ、今の若い先生のほうが可能性を秘めているのかもしれません。
「アクティブ・ラーニング」とESD(持続発展教育)、環境教育
「アクティブ・ラーニング」は、ESD(持続発展教育)にもつながる
ESDとは、「Education for Sustainable Development:持続可能な発展(開発)のための教育」のことです。生態的・社会的な持続可能性の追求を教育の根幹に備える必要があるという認識は、世界の教育の大きな潮流となっています。アクティブ・ラーニングを通して深い学び、対話的な学び、主体的な学びができるようになった子どもたちは、その学びの力を、持続可能な社会づくりに活用するとよいのではないでしょうか。さまざまな問題が発生している地球に思いをはせたとき、学びのゴールが明らかになってくることでしょう。
環境教育で「アクティブ・ラーニング」の成功体験を
先生方が授業の中でアクテイブ・ラーニングを取り入れようとした場合、環境教育(教育によって環境に関わる問題を解決しようという試み)であれば、取り入れやすいでしょう。アクティブ・ラーニングの事例蓄積が多い“環境”に関わる課題を取り上げ、まずは成功体験を実感してください。また、児童生徒にとっても同様です。今の子どもたちは少し難しい課題と出会うとすぐに思考停止をしてしまいます。身体性を含めた学びの楽しさを味わうという成功体験は重要となってきます。
環境教育が「アクティブ・ラーニング」に貢献できる理由
「アクティブ・ラーニング」と親和性の高い、環境教育の優位性
持続可能な社会づくりやアクティブ・ラーニングの推進に対して、環境教育が大いに貢献できると考えられています。環境教育がほかの“○○教育”と呼ばれるものに対して、どのような優位性があるかご紹介します。
✔1. 自然学校関係者や環境NPO関係者など学校外の人が半分ほどを占め、多様性があること
今後、アクティブ・ラーニングを推進する上でも、学校と学校外の人々の連携が重要になり、その点、構成員に多様性をもつ環境教育は大きな役割を果たせることでしょう。
✔2. 子どもたちの間に拡大するバーチャルな世界の問題に対しても、環境教育が重視してきた自然との豊かな触れ合いが有効であること
豊かな自然とのふれあいが、その後の環境配慮行動につながっているという研究もあります。
✔3. コミュニケーションの方法も多様性があること
環境教育の半分は自然の中でやっており、半分は生活圏の中でやっています。多様な環境の中で行うがゆえに、例えば、自然を客体化するといったように、コミュニケーションの方法にも多様性があります。
✔4. 共生という視点があること
地球や地域などどの場にあっても、つながりという意味での共生という視点は環境教育とESDの大きなポイントです。
✔5. 「環境」という言葉が持つよさ
環境には自然の側面もあるし、社会の側面や人間の側面もあり、トータルに包み込む概念を据えているという強みがあります。
✔6. 未来がどうあるべきかをしっかり主張できる
時間軸と空間軸をセットにして未来がどうあるべきかをしっかりと主張できるのは環境教育やESDならではです。
このように、環境教育はアクティブ・ラーニングと親和性が強いのです。
アクティブ・ラーニングは学校だけでなく、家庭でも実践できます。家族で思考ツールを使って話し合いをしたり、関心をもったことを調べてアクティブな思考で自己学習したりしてみてください。そうすることで、子どもが主体的に動けるようになり、思考力、判断力も高まります。日々、アクティブ・ラーニングに取り組むことで、21世紀を生き抜く力、21世紀に求められる力が身につくことでしょう。
参考書籍『アクティブ・ラーニングと環境教育』
『アクティブ・ラーニングと環境教育』について
次期学習指導要領の目玉として、初等中等教育関係者の間で、課題の発見・解決に向けて主体的・協働的に学ぶアクティブ・ラーニングが注目されています。環境教育は早くから学習者中心の参加体験型の活動を重視しており、いわばアクティブ・ラーニングを先行実施していることから、その親和性は高く、これまでの経験が今後の学校教育に大いに貢献できると自信を持っています。
本書は、現場教師のためにすぐれた環境教育の取り組みを紹介するものです。紹介するのは、全国の小中学校でおこなわれた12の実践と14のアクティビティ。自然学習から環境改善まで多岐にわたり、現場教師のみならず、学校全体の取り組み例など、明日の環境教育にすぐ役立つ事例ばかりです。
『アクティブ・ラーニングと環境教育』(定価:本体1500円+税 編/日本環境教育学会)
文・構成/HugKum編集部