小学校の児童生徒が中心になって主体的・協働的に活動する「アクティブ・ラーニング」。学校教育の場でも、環境教育の実践では、30年前以上から取り入れられてきました。しかし、質の高い実践事例を集めて見ると、この30年の間に大きな進展が二つあったことを確認できます。一つは、扱う事例の対象が幅広くなったこと。そしてもう一つは、学校と学校の外にいる地域の人々、NPO関係者、環境教育施設などと連携した事例が増えたことです。
そこで今回は、実際に行われた小学校の実践事例をご紹介します。命のつながりを意識して、多様な動植物が生息できる環境づくりに取り組んだ事例や、2R (リデュース、リユース)の取り組みを中心に学習し、ごみ減量のためにできることを考えた事例、環境にやさしい調理をした事例など、小学校全学年対象の事例や、小学校4年生以上、小学校4・5年生、小学校5・6年生を対象とした実例を挙げ、「アクティブ・ラーニング」についてより理解を深めていただきたいと思います。
目次
全学年対象(特に小学校4年生以上)のアクティブ・ラーニング事例
命かがやけわくわくビオトープ(五ケ丘東小学校)│アクティブ・ラーニング事例1
✔保護者や地域の協力のもと完成したアクティブ・ラーニング
五ケ丘東小学校の学校ビオトープ「五東小わくわくビオトープ」は、2004年に保護者や地域の方々の協力のもと、完成しました。しかし、本校のビオトープは、ここだけにとどまりません。ビオトープ周辺には、多様な生き物(野鳥や昆虫)が好み、利用できる樹種を選んで少しずつ植栽して環境を整えています。また、運動場の草をできるだけ残したり、ビオトープ周辺の草地は草丈に変化をもたせて刈っています。学校に隣接する森をもビオトープと捉えているのです。校内から校外に広がるビオトープは、授業やさまざまな活動に利用しています。
✔学校ビオトープを通じて環境教育を行う
ビオトープを活用した授業を各学年、各教科で行っています。4年生になると総合的な学習の時間で「自然と人とが共生するふるさと"五東の里"をつくろう」をテーマに、学校周辺の自然にも視野を広げ、試行錯誤しながら地域の多様な生き物が集まる環境づくりに取り組んでいます。また、年間を通じて学校ビオトープに主体的に関わっており、管理と活用の中心です。
理科の「季節と生き物」では、四季の自然や生き物の様子を継続的に観察し、季節ごとの特徴や違いを学習。図工科では、身近な自然のもの(ドングリ、木の葉など)を使って造形活動をしています。
✔小学校3・4年生と5・6年生が協力して行う
ビオトープの動物調査はおもに小学校3・4年生が行います。5・6年生からなるエコ現境委員の活動は、エコ活動とビオトープを中心とした活動に分けられます。具体的には、毎朝ビオトープを回り、池の水位や小川の水の量、不審物等がないかなどを点検。草地、池、田んぼ、小川の生き物を観察し、外来種が入り込んでいないかなどを調べ、管理日誌に記入しています。また、海外の森林再生のため「オイスカ子供の森計画」に協力しようと、ペットボトルのキャップや書き損じのハガキを集める活動も行っています。
五ケ丘東小学校の参考になる手法│アクティブ・ラーニング事例1
✔掲示板やプレゼンでピオトープの情報を発信する
ビオトープ内に情報発信のための掲示板を設置。日々情報を発信しました。また、学芸会では、保護者や地域の方に向けてビオトープ学習について学校での取り組みを知っていただくプレゼンも行いました。地域でも、自然と人との共生をめざした取り組みの協力をお願いしています。
✔身近な自然について話し合う
親子で身近にある植物や生き物など、自然に目を向けてみましょう。今まで気がつかなかったものが見つかるはずです。植物なら、どこに生えているかマップをつくったり、虫なら飼ってみて、観察記録をつけるといいでしょう。また、植物や生き物がいる環境にも興味をもたせるようにすると、深い学びにつながります。
小学校4・5年生対象のアクティブ・ラーニング事例
ごみ減量のためにできること(なごや環境サポーターネットワーク)│アクティブ・ラーニング事例2
✔3Rから2Rのごみ減量に取り組む
これまでごみ減量・3R (リデュース、リユース、リサイクル)の活動はいろいろ行われてきました。ここ20数年あまり、リサイクル活動は積極的に取り組まれ、大きく前進。しかし、あとの2R (リデュース、リユース)の取り組みは遅れています。そこで2Rの学習を中心に、ごみ減量の学習を進める必要があると考えたのがこの活動のきっかけです。
✔チャリティショップ(リユースショップ)の見学・聞き取り活動を行う
名古屋市には「エコロジーセンターRe☆創庫(NPO中部リサイクル運動市民の会運営)」が数か所あり、寄付してもらったリユース品を低価格で販売するショップの運営、リユース品の受付等を行っています。受け付けている寄付品は、本、衣類・布類、かばん、くつ、陶磁器、ガラス製品、キッチン用品です。このようなショップを児童が見学・調査することで、リユース活動について知り、2Rのごみ減是の理解を深めることができます。(民間のリサイクルショップは品物を買い取り、販売して利益を得ることが目的ですが、ここでは寄付品を低価格で販売し、利益は社会貢献活動に活用している点が異なります)
✔「おかえり野菜」の店や行政への見学・聞き取り活動を行う
名古屋市環境局(資源化推進室) と市民との協働プロジェクトである「おかえり野菜」。「おかえり野菜」とは、名古屋市のスーパー、学校給食、ホテルやレストラン等の生ゴミを堆肥にリサイクルし、その堆肥を使って育てた野菜やお米のことです。「おかえり野菜」は、スーパー、給食、ホテル、レストランなどに戻す取り組みを行っています。名古屋市の給食では、「おかえり野菜」のタマネギ、ブロッコリーを使った料理が提供されています。プロジェクトを進めている行政や店を見学・調査し、生ごみが堆肥化され、野菜作りに活用され、再び食べられている循環を理解することは、ごみ減醤及び再利用の意識を高めます。
なごや環境サポーターネットワークの参考になる手法│アクティブ・ラーニング事例2
✔家庭でも3Rにチャレンジしよう!
使わなくなった物をチャリティショップに寄付したり、「おかえり野菜」についても野菜を買ったりして家族で参加することができます。また、これらの活動を地域へ発信することにより、2Rのごみ減量が進むと考えられます。このような活動は、エコのしつけにつながります。ご家庭でも3R (リデュース、リユース、リサイクル)を取り入れてみてはいかがでしょう。また、どのような3Rができるか、子どもと一緒に考えたり、話し合ったりするのもいいですね。
小学校5・6年生対象のアクティブ・ラーニング事例
環境にやさしいみそ汁を作ろう(市場小学校)│アクティブ・ラーニング事例3
✔調理実習の振り返りから始める
家庭科の「ごはんとみそ汁」の学習で、「野菜くずの多さ」「水の出しっ放し」などのもったいないと思えることがたくさんありました。前回のみそ汁作りの写真を示しながら、「環境にやさしい調理はできたかな?」と先生が問いかけると、「水が出しっ放しだと先生に言われた」「ダイコンの皮をもっと薄く切ればよかった」などの発言が児童から相次ぎました。そこから、環境にやさしい調理をするために「買い物」「調理」「片づけ」「その他」の4つの視点を決めて、家庭や地域で取材することになりました。
✔家庭や地域で環境にやさしい調理の方法や工夫を取材
KJ法で取材してきたことをまとめていきます。KJ法とは、付箋紙やカードに取材してきたデータを書き、そのデータをグループごとにまとめる手法です。「買い物」「調理」「片づけ」「その他」の4つの視点ごとにグループで画用紙にまとめていきました。次に、グループで画用紙に貼った付箋紙をはがして、模造紙に貼り直します。模造紙にも4つの視点が示してあり、そこに再度、整理・分類することになります。こうした作業を繰り返すことで環境にやさしいみそ汁作りのポイントがはっきりとしてきました。
市場小学校の参考になる手法│アクティブ・ラーニング事例3
✔環境にやさしい調理に挑戦だ!
前の時間にクラス全体でまとめた模造紙からみそ汁作りに関係することを抜き出していきます。「地域の旬の食材を使う」「節水を心がける」「鍋やフライパンの底の水滴を拭いてから調理する」「コンロの火は鍋からはみ出さない」「水の量を正確に量る」「皮は薄くむく」などのはっきりしたポイントを、ワークシートの「みそ汁作りの手順」の横にも書き込みました。
調理の本番では、みそ汁作りの手順書に従って進めました。グループで作業を上手に分担しながら見通しを持って調理することで、エネルギーや食材の無駄がなくなることにも気がついたようです。みそ汁のだしを取っている最中に葉っぱを入れて軽くゆでたり、ゆですぎないように時間を正確に計ったり、ガスの炎を調節したりと手際よく作業。前回の調理と比べると野菜くずは大変少なくなるという結果に。調理実習終了後、単元の導入で取り上げた三角コーナーの写真と比較することで、環境に優しい調理が実現できたことを自己評価しました。
また、みそ汁作りに続いてこれまで学習してきたことをもとに「環境にやさしい調理五箇条」を作成。家庭に持ち帰り、保護者からコメントももらいました。
✔お手伝い通じて環境のことを考えるきっかけに
環境にやさしいみそ汁づくりを通じて、身近な食生活においても、環境に負荷をかけない工夫ができることを協働的に知ることができます。ご家庭でも「買い物」「調理」「片づけ」などのお手伝い通じて、環境について考えることができそうですね。それぞれのお手伝いを視点にして、どんな環境にやさしいことができるかまとめてみてはいかがでしょうか。
参考書籍『アクティブ・ラーニングと環境教育』
『アクティブ・ラーニングと環境教育』について
次期学習指導要領の目玉として、初等中等教育関係者の間で、課題の発見・解決に向けて主体的・協働的に学ぶアクティブ・ラーニングが注目されています。環境教育は早くから学習者中心の参加体験型の活動を重視しており、いわばアクティブ・ラーニングを先行実施していることから、その親和性は高く、これまでの経験が今後の学校教育に大いに貢献できると自信を持っています。
本書は、現場教師のためにすぐれた環境教育の取り組みを紹介するものです。紹介するのは、全国の小中学校でおこなわれた12の実践と14のアクティビティ。自然学習から環境改善まで多岐にわたり、現場教師のみならず、学校全体の取り組み例など、明日の環境教育にすぐ役立つ事例ばかりです。
『アクティブ・ラーニングと環境教育』(定価:本体1500円+税 編/日本環境教育学会)
文・構成/HugKum編集部