「京女式しつけ術」をご存知ですか? これは、『京女式ノート指導術』で大ブームを起こした、京都女子大学附属小学校が取り組んでいるしつけ術です。同小学校では、しつけが身についている子どもは、友だちに好かれ、勉学に力を注いでいるといいます。また、判断力や行動力、仕草も的確なのだそうです。
そこで今回は、京女式しつけ術とはなにか、朝起きてから~幼稚園・小学校に行くまでのしつけ、幼稚園・小学校が終わってから家に着くまで、食事や清潔、安全のしつけなど、幼稚園・小学生を育てている保護者の方に役立つしつけ術を紹介します。教えていただくのは、元京都女子大学附属小学校校長の吉永幸司先生です。
目次
京女式しつけ術とは?
しつけの基本は形を整えること
しつけは人間形成の基礎をつくる上で大事な役割を持っています。しつけは、教え訓すことを形で表したものではないでしょうか。しつけの形が整うと、安心して行動ができます。
例えば、あいさつは「おはよう」から始まります。「おはよう」に慣れると、「おはようごございます」という言葉が自然に生まれます。さらに、心を込めて挨拶ができるようになるのです。
京女式しつけのキーワードは「丁寧」
京都女子大学附属小学校は、行儀のよい学校づくりを目指しています。特に、「国語力は人間力」を合い言葉にして教育実践を積み上げています。その成果は、子ども達の日常の行動や言葉遣いに表れてきました。その教育成果の源を探ると、日頃のしつけの徹底であることに気づきました。しつけは、人づくり、学校づくりの大事な要因だったのです。
京都女子大学附属小学校の教育のキーワードは「丁寧」です。丁寧に挨拶をする、丁寧な言葉を使う、丁寧にノートを使うなどを繰り返し指導しています。
しつけは、「どうすればいいのか」を教えることが大事
幼稚園や保育園、小学校は、基本的なしつけが編み目のように張りめぐらされています。子どもが成長や生活を豊かにする上でしつけは、欠くことのできないことばかりです。
例えば、朝や帰りの挨拶や授業の始まりは、自分の椅子に座って待つこと、さらには、授業中、手をしっかり挙げることや姿勢を正す、名前を呼ばれたら「はい」と返事することが当たり前のことになっていくのがしつけです。保育園、幼稚園、小学校では、子どもたちに次のように働きかけています。「挨拶を正しくしましょう」「手をしっかり挙げなさい」「等を上手に使って掃除をしなさい」と。しかし、「正しく」「しっかり」「上手に」という言葉だけが行き交うだけでは指導の効果はあがりません。どのようにすればいいのかわからないからです。手の挙げ方、箸の持ち方でも、「どうすればいいのか」を教えることが大事なのです。
しつけが身についている子は、友達に好かれ、勉学に力を注いでいます。また、判断力や行動や仕草も的確です。将来、社会に役立つ有為な人物になる可能性を持った一人ひとりの子ども達が、しつけの行さ届いた教育を受けることは大切なことだと考えています。
朝起きてから~幼稚園・小学校に行くまでのしつけ
早寝・早起き
1日の始まりである朝は大切な時間です。早寝・早起き・朝ごはんは、1日を充実した日にするエネルギーとなります。毎日、同じことを繰り返し、続けることが重要です。
早寝・早起き
早寝・早起きをしましょう。目がパッと覚めた朝が続くと、心も体も元気になります。自分で起きることが自立の始まりです。また、朝しっかり起きることが続くと、学校ではこんな良いことがあります。例えば、頭がすっきりする、仲良く元気に遊べる、勉強がしっかりできる、先生のお話がよく聞けるなどです。
朝のあいさつ
「おはようございます」と、朝のあいさつをしましょう。さわやかなあいさつができたら、気持ちがいいですよ。
健康生活の3原則
生活リズムを整えることも大事です。しっかり活動できる、しっかり眠れる、しっかり食べられるというのが健康生活の3原則。このうち1つでも欠けてしまうと、心の調子が崩れたり、気分が優れなくなったりします。
歯を正しく磨く
毎日の歯磨きは「3」がキーワードです。“1日3回、食後3分以内に3分間”の3つの3を意識して歯磨きをします。歯の健康は、からだ全体の健康につながります。
歯ブラシの持ち方
歯ブラシは、親指、人差し指、中指の3本で鉛筆のように軽く持ちます。
歯磨きの仕方
あまり力を入れず、歯ブラシを細かく動かすようにしましょう。すみずみまで丁寧に行うことが基本です。
前歯は小刻みに横に動かしましょう。前歯の裏側は、歯ブラシを縦に使い、小さく上下に動かします。歯の外側は、歯ブラシを歯の直角に当てるようにします。内側は、歯ブラシと歯の角度が45度になるように斜めに当てましょう。奥歯は、奥から前へ動かします。
子どもの歯から大人の歯へ
6歳から12歳の間に、乳歯(子どもの歯)が抜けて、永久歯(大人の歯)に変わります。1番奥には大きめの永久歯が生えます。3年生までは子どもだけの歯ブラシでは磨き残しがあるため、家の人が仕上げ磨きをしてあげましょう。
顔を洗う
「顔を洗う」、「朝ごはんを食べる」は人間づくりの基礎です。不規則な生活は、いい加減な心を芽生えさせる素になります。丁寧に続けると賢い子になります。
顔の洗い方
顔を洗うときは、両手で水をすくって顔に水をかけます。そのあと、タオルで水をぬぐいましょう。いいかげんに洗わないように。
トイレに行く
朝、トイレに行って、おなかをすっきりさせましょう。朝、しっかりうんこを出すと、おなかもすっきり、気分もすっきり、学校で元気に過ごせます。
食べ物がうんこになって出るまで、18〜24時間かかります。毎朝、うんこを出すためには、必ずトイレに行って便器に座ってがんばってみましょう。
よいうんことは?
うんこの形で体の調子がわかります。バナナのような形のうんこがよいうんこです。反対に、悪いうんこはコロコロと小さく堅いうんこや、水のようなべちゃべちゃうんこです。
よいうんこが出るようにするには、体をしっかり動かしたり、いろいろな野菜を好き嫌いせずに食べることも大事です。また、お茶や水分をしっかり摂るようにしてください。
朝のさわやかチェック
朝のさわやかチェックで、規則正しい生活ができているかを確認するとよいでしょう。
・一人で起きる。
・顔を洗う。
・歯磨きをする。
・トイレをすませる。
・あいさつをする。
・朝ごはんをしっかり食べる。
登校する前に確認すること
登校前にランドセルの中身を確認しながら、学校生活の様子を見通し、想像力をつけていきます。お弁当を持っていく場合は、お弁当を包みます。ティッシュ、ハンカチを忘れずに。少しずつできるように時間をかけましょう。
子どもがランドセルを背負ったら、「よくできましたね」の一言をかけてあげてください。それが、子どもの自信につながります。
また、「何時に帰る」、「こんなことがしたい」と子ども自身が自分から話せるようになったら、親がしっかり聞いてあげてください。
学校へ行くとき
学校は子どもにとって楽しいことばかりではなく、不安や緊張もあります。不安や緊張を和らげるのが朝の見送りです。家を出るときに、「いってきます」「いってらっしゃい」の言葉のやり取りが安心して登校できる力になります。また、笑顔、うなづきは、子どもへの応援になります。目と目が合えば最高です。
登校時は、右側を歩く、車に気をつけるなど、交通ルールを守ります。交通ルールを守ることは約束を守る始まりです。命を守ることにつながります。通学に慣れてくると横着になるので、繰り返し、教えることが大事です。また、学校に行く途中、近所の人に会ったらあいさつをしましょう。
食事のしつけ術
食事のマナー
食べることは生きること。多くの命をいただくことに気づく始まりです。「いただきます」、「ごちそうさま」は、手を合わせて感謝の気持ちを表します。食事で気をつけたいのが食べ物の好き嫌いです。これは、人の好き嫌い、勉強の好き嫌いにつながります。食べ方の作法を知っておくと心豊かな子に育ちます。
茶碗の正しい持ち方
親指を茶碗の縁にかけ、そのほかの指を糸底にそえるようにします。ちゃわんの渡し方と受け方は、両手で落とさないようにします。おかわりの時も両手で。
料理の並べ方
箸を手前に置き、持つほうを右側にします。主食(ごはん)を手前左に、汁物を右に、奥側に主菜(おかずなど)を置きましょう。
食べ方の基本
ごはんは、味噌汁やおかずの合間に少しずつよくかんで食べましょう。味噌汁は、はじめに汁を一口飲んでから、実(具)を食べるようにします。
箸の持ち方
正しい箸の持ち方は正しい鉛筆の持ち方につながります。指先に力を入れることは子どもの生活の細部に役立ちます。無意識のうちに正しく箸が持てるようになると、細かなことに気づいたり、考えたりする子に育ちます。
箸の持ち方
人差し指、親指で持ち、中指で支えるようにします。箸を握って持ったりしないようにしましょう。箸を開くとき、動かすのは上側の箸だけです。箸をクロスにして食べ物をつままないようにします。
箸の取り方
箸の真ん中を持って上げます。左手で添えながら右手をずらします。持ち直しながら左手を離します。
幼稚園・小学校が終わってから家に着くまでしつけ術
家に帰ったら
子どもが無事に帰ることが一番大事です。家族の笑顔が子どもにとって1日のご褒美です。帰ってからの生活づくりも大切です。「ただいま」のあいさつをしたら、手洗い・うがいをしましょう。
手の洗い方
1 手を水で洗って石鹸をつけ、手のひらを洗います。
2 手の甲を洗いましょう。
3 指の間を洗いましょう。
4 爪の間を洗いましょう。
5 手全体を洗います。
6 手首を洗います。
7 水できれいに洗い流します。
学校のお話・家庭学習
まず、連絡帳とプリントを保護者に渡します。そのあと、学校の話を聞いてあげてください。嬉しいこと、がんばったことを子どもが話せる雰囲気は話が弾みます。話に様子が見える言葉が入っていれば、学校生活は大丈夫です。
宿題は、時間を決め、自分ですることが勉強好きの始まりです。音読は家族の人に聞いてもらうと、子どものやる気が出ます。
本好きな子に育てるためには、家族と一緒に読書をする時間を持つといいですね。
明日の準備
時間割を見ながら明日の用意をしましょう。時間割を自分で合わせるように心がけると、明日の生活を始め、いろいろな見通しを持つ力がついてきます。また、自分でできるようになると、学力が伸びます。
図工の材料など、子ども自身で用意できないものは早めに家族の人に頼んでおきましょう。
寝る前
お風呂の入り方
お風呂に入って、毎日、自分で体を洗いましょう。体を清潔に保つことは健康への意識につながります。湯船にゆっくり浸かると、体が温まるだけでなく、その日1日の疲れもとれることでしょう。
お風呂の入り方
1 足からお湯をかけて、次に全体にかけます。
2 手、足、顔、お尻をきれいに洗ってから、お風呂に入りましょう。
3 ゆっくりお風呂に浸かって、よく温まります。
4 体全体を石鹸できれいに洗います。
5 お湯を頭からかけて、石鹸を洗い流しましょう。
6 もう一度、お風呂に入ってゆっくり温まりましょう。
7 おふろから上がったら乾いたタオルでしっかり体を拭きます。
8 きれいな下着と寝巻を着ます。
寝る前、明日を楽しくするために
就寝時間を決めましょう。就寝時刻をきめておくと生活のリズムが整ってきます。よく寝ることは明日を元気に過ごす素です。勉強も遊びもしっかりできる子になります。
寝る前にすることは、歯磨き、明日着る服などをそろえ、目覚まし時計をかけます。そして、「おやすみなさい」のあいさつをしましょう。やさしく、暖かい言葉が明日のエネルギーを育てます。
清潔のしつけ術
いつも清潔に
身に付けるものはいつもきれいに保ちましょう。下着、靴下、ハンカチは毎日取り替えます。体操服、赤白帽子、上ばき、スモックは毎週洗います。
身だしなみのポイントは「つめ、ハンカチ、ティッシュ」の3点セットです。爪が伸びていませんか? ハンカチ、ティッシュペーパーを学校に持ってきていますか?
ハンカチはとても便利です。怪我をしたとき、傷口に当てて血を止めたり、火事のときに煙を吸わないように口に当てたりして命を守ることができます。また、ハンカチを濡らして打撲のけがをしたところに当てれば、冷やすこともできますね。
病気を防ぐ
病気にならない体づくりは、元気に過ごすために大切なことです。帰宅後には、うがい、手洗いをし、病気の原因のばい菌を体の中に入れないようにします。また、体を鍛えたり、好き嫌いをしないで食べ、病気に負けない体をつくりましょう。最も重要なのは、規則正しい暮らしをすることです。
自分で出来る応急手当
自分1人でできる手当てをしてから、保健室に行くようにします。応急手当ては、学校以外の場所でけがをしたときにも役に立つので覚えておきましょう。
応急手当ての方法
・すり傷の場合は、水道の水を出し、傷口の周りの汚れもしっかり洗い流します。
・鼻血の場合は、少しうつむいて小花をぎゅっとつまみます。上を向くと、血が食道から胃に流れ込んでしまいます。人によっては気分が悪くなって吐いてしまうこともあるので、上は向かないようにしましょう。
・切り傷の場合は、切ったところを顔の高さまで上げて、傷のすぐ下をぎゅっと抑えます。まず、血を止めることが大切です。
・打撲、突き指、火傷の場合はとにかく冷やしましょう。
安全のしつけ術
交通ルール
交通ルールでは、思わぬところで事故が起きることに気づかせましょう。そして、安全な生活を習慣づけさせることが大切です。
交通ルールで気をつけたいこと
・自転車の2人乗りはしない。
・信号が青になってから渡る。
・道路は右側を歩く。
・急に道路に飛び出さない。
悪い人から身を守ろう
不審者に出会ったときの対応を子どもに身につけておかせることが安全につながります。不審者対応は、家庭のしつけとして教えておきたい事柄です。
不審者対応
・外で遊ぶときは1人では遊ばない。
・エレベーターには1人ではなるべき乗らない。
・困ったときに連絡するところを覚えておく。
・遠回りでも暗い道を通らずに、明るく、人がいる道を通る。
・怖いと思ったときは大声を出す。
災害に気をつけよう
自然を侮ってはなりません。災害は突然やって来ます。非常時に慌てないよう、日頃から訓練しておきましょう。注意点を家族の人と確認しておきましょう。
台風や強い雨、風のとき
・できるだけ外に出ないようにします。
・地下に行かない。
・溝やマンホールに近づかない。
・海や川に近づかない。
地震のとき
・テーブルや机の下に隠れる。
・自動販売機に近づかない。
・切れたり垂れさがったりした電線をさわらない。
・海や川に近づかない。
・避難場所を確認しておく。
参考書籍「オールカラー・ビジュアル版 親子で学ぶ 京女式しつけ術」
「オールカラー・ビジュアル版 親子で学ぶ 京女式しつけ術」について
本書は、創立50余年を迎える京都女子大学附属小学校が「国語力は人間力」を合い言葉に、徹底した「しつけ」で学校を変えた成果を、小学校生活と家庭、幼稚園の一日の生活の写真とイラストで、オールカラー見開きビジュアル1テーマで紹介している本です。
場面ごとに「京女式しつけポイント」で、しつけの大事なポイントを明らかにします。喫緊の課題である保幼小連携にも役立ち、アプローチカリキュラムやスタートカリキュラムなど、公立小学校の先生には有益です。また、小学校入学前の幼稚園児の保護者にはいまの小学校のことがわかり、一年生を持つ保護者や祖父母には、家庭や小学校の1日の生活を知る貴重な一冊となるでしょう。
オールカラー・ビジュアル版 親子で学ぶ 京女式しつけ術(著/吉永幸司 編/京都女子大学附属小学校、価格:本体2200円+税/小学館)
「深い学びを育てる 教室のルール&学校のしつけ」著者・吉永幸司プロフィール
吉永幸司(よしなが ・こうし)
滋賀大学学芸学部卒業。滋賀大学教育学部附属小学校教諭(26年間)、同副校長、公立小学校校長、京都女子大学教授・同附属小学校校長を歴任。国語指導、道徳指導に長年携わる。著書に『教育技術MOOK考える子どもを育てる京女式ノート指導術小学校国語』『教育技術MOOK吉永幸司の国語指導入門』『教育技術MOOK吉永幸司の国語の強化書』『教育技術MOOK吉永幸司・森邦博の子どもが輝く読書力を身につける指導術』(小学館)他多数。第27回「読売教育賞」(読売新聞社)、「優秀教育企画賞」(全国初等教育研究所)他、受賞多数。
文・構成/HugKum編集部