目次
こんな最期を迎えられたら素敵
『ぶたばあちゃん』
作:マーガレット・ワイルド 絵:ロン・ブルックス
訳:今村 葦子(あすなろ書房)
<3歳~>
人は誰でもいつかは死んでしまうもの。いつかはわからないけれど、きっと130歳までは生きられない。残していく人のために、少しずつ人生の終わりへの身支度を始めるお話が『ぶたばあちゃん』です。
ぶたばあちゃんは孫娘とふたり暮らし。孫娘は、おばあちゃんが天国への準備を始めることが悲しいのですが、一生懸命それを受け入れて、最後のときをふたりで大切に過ごします。ときどき、もう元気になったんじゃないかと期待してしまう孫娘が切ないのですが、木の葉がこんなにも美しいこと、湖面が鏡のように反射すること、それを一緒に感動できる今こそが、かけがえのない時間なのだと感じさせます。
ぎゅっと抱きあって眠るふたりは、離れ離れになっても心が通じ合えるのではないでしょうか。大切な人を想う気持ちを思い出させてくれる絵本です。(日下)
どんなときも大切なきみを見守っているよ
『いつも だれかが…』
作・絵:ユッタ・バウアー 訳:上田真而子(徳間書店)
<5歳〜>
いつも”誰か”に守られているような気がしていた子どもの頃。
神様? ご先祖様? つらいとき「誰かが見てくれている」と思うと、不思議と元気が湧いてきますよね。ある日、おじいちゃんはベッドの上で、幸せだった人生を孫に語ります。バスにひかれそうになった話、高い木に登っても怖くなかった話、ケンカや戦争の話…。話だけを聞いていると武勇伝のよう。でも絵を見てみるとそこには…。
本作の原題はドイツ語で〈OPAS ENGEL〉。直訳すると〈おじいちゃんの天使〉です。おじいちゃんが眠りにつくと、おじいちゃんの天使は、今度は孫に寄り添います。”いつもどんなときも大切なきみを見守っているよ”と、子どもたちへの思いがじんわりと胸に広がる一冊。お盆の時期、ご先祖様を思う時間にぴったりの絵本です。ぜひ家族みんなで読んでください。(遠藤)
言葉でよみがえる幸せの記憶
『おじいちゃんのごくらく ごくらく』
作:西本鶏介 絵:長谷川義史(鈴木出版)
<4・5歳~>
主人公はおじいちゃん子の男の子。保育園のお迎えもお風呂に入るのも、いつもおじいちゃんと一緒です。
おじいちゃんのお風呂での口癖は「ごくらく ごくらく」。おじいちゃんはどのページでもおおらかに微笑んでいて、なんだか読み手も一緒に一息つきたくなってきます。
そんなやさしいおじいちゃんがある日、入院することになってしまいます。会えなくなっても、おじいちゃんの言葉や声を思い出して、自分を励ます男の子。
シンプルな文と温かみのある絵で、「身近な人の死」を受け止める手助けになる一冊です。幸せな時間のなかで育まれた言葉は、その瞬間を大切に閉じ込める”記憶装置”になります。「身近な人の死」に対面したとき、とてもさみしくなったとき、その人の言葉や声を思い出してみてください。きっといつもの笑顔が心に浮かぶはずです。(遠藤)
「さよなら」を言えなかったおじいちゃんと孫
『おじいちゃんがおばけになったわけ』
作:キム・フォップス・オーカソン 絵:エヴァ・エリクソン 訳:菱木 晃子(あすなろ書房)
<7歳~>
おじいちゃんとの別れを描いた作品をもう一冊ご紹介します。子どもが「突然の死」を受け入れていくことを、ユーモアを交えた物語にした絵本で、大人でも心動かされるお話です。
おじいちゃんのお葬式を終えた後、まだ死が信じられないエリックの枕元に、おじいちゃんがおばけになって現れます。ところが当のおじいちゃんも「わしが、おばけに?」と不思議がる始末。壁を通り抜けて喜んだり、思い出せない忘れ物を一緒に探して、毎晩楽しい日々を過ごします。たくさんの思い出話をした後、おじいちゃんが思い出したこの世の忘れ物とは何だったのでしょうか。
故人が残した愛情に触れることで、残された人々が心の整理をし、ちゃんとお別れを意識できたときに、はじめて前を向いて行けるのだということを描いた作品です。(日下)
大切な存在の死から受け取るものは
『くまとやまねこ』
作:湯本香樹実 絵:酒井駒子(河出書房新社)
<年長~>
ある朝死んでしまった仲良しのことり。くまは、ことりをきれいな箱に入れ肌身離さず持ち歩きます。「わすれなくちゃ」と言う森の動物たちを拒んで、閉じこもるくま。
時が止まったままのある日、旅する音楽家のやまねこに出会い、お互いが持っている箱の中を見せ合います。やまねこは、くまの箱の中を見て、森の動物たちとは違う言葉をかけてくれました。やまねこの箱に入っていたのはバイオリン。やまねこはくまとことりのために演奏します。音楽が流れ、思い出が溢れ、くまの止まっていた時間が進みはじめます。
くまの心に寄り添うように赤みが差していく酒井駒子さんのモノクロ画。ページをめくるたび、少しずつかなしみが前を向く力に変わっていきます。大切な存在の死は終わりではなく、新たなはじまりなんだと教えてくれる一冊です。(遠藤)
アナグマが残したのは、かけがえのない贈り物
『わすれられないおくりもの』
作・絵:スーザン・バーレイ 訳:小川 仁央(評論社)
<4・5歳~>
死について考える絵本のベストセラーとして、1986年から愛されている傑作。
町のみんなから慕われているアナグマが亡くなり、彼が生前に与えてくれた知恵や勇気や優しさを、それぞれの動物が思い出していきます。身近な人を亡くすことは、辛い体験です。でも絵本の中の動物たちが、悲しみながらもそれを受け入れ、乗り越えていく様子に励まされる人は多いことでしょう。アナグマは愛に溢れ、形のないおくりものをたくさんくれました。
実はこの絵本は3部作で、ハーウィン・オラムさんとの共作『アナグマさんはごきげんななめ』という本では、若かりし頃のアナグマとモグラが登場します。生前、お互いがいかに素晴らしいおくりものをしあっていたかが知れる作品です。どんなふうに人と触れ合い、どんなふうに生きて、死を迎えることが幸せなのか、改めて考えさせられるシリーズです。(日下)
「死なないで」という深いメッセージ
『ぼく』
作:谷川俊太郎 絵:合田里美(岩崎書店)
<小学校中学年~>
〈子どもの自死〉をテーマとした一冊です。「ぼくはしんだ じぶんでしんだ」と繰り返し語られる言葉からは、死の原因はわかりません。でも答えや意味を探すのではなく、言葉にじっと耳をすませ、絵を見つめてみてください。誰もが心に持っている「孤独」の種類がひとつきりではないことを考えさせられる絵本です。
著者の谷川俊太郎さんは、「死を重々しく考えたくない、かと言って軽々しく考えたくもない、というのが私の立場」と言っています。絵本を読んだ子どもに死について質問されたとき、そこに明快な答えはないと思います。それでも、合田里美さんが繊細なタッチで描いた死と日常の光景は、印象的に心に残ります。「死」を考えたときに浮かび上がる「生」を見つめながら、ぜひ”答えがない”という物語の余韻を、お子さんと一緒に共有してみてください。(遠藤)
生について、たまには「親子で哲学」しよう!
『生きているのはなぜだろう。』
作:池谷裕二 絵:田島光二(ほぼ日)
<小学校高学年〜>
ある日、指先をケガした少年に不思議な気持ちが湧き上がります。「細胞がすっかり入れ替わっても自分が自分なのはなぜだろう」
〝生きているのはなぜか〟という哲学的な問いに、ひとつの答えを見つけたのは、脳研究者の池谷裕二さん。実際にある理論を基に「生きている理由」を科学的に考え、絵本に落とし込みました。物語は指先から「宇宙」にまで発展します。
この壮大な世界を描くのは田島光二さん。”光を描く”ことを意識しているという田島さんの絵は、質感や温度さえ伝わってきそうな瑞々しさで、輝く生命のエネルギーを描き出しています。読めば読むほど自分の中に銀河の「渦」を感じる不思議な絵本。ぜひ巻末の解説も読みながら、たまには”親子で哲学”してみませんか?(遠藤)
今回の絵本をおすすめした絵本専門士
日下淳子(編集ライター・元保育士)
出版社での雑誌編集者を経て、2008年よりフリーランス。出産を機に、絵本と子育て、暮らしを中心に編集・執筆を行っている。現役の音楽教室講師でもあり、保育士経験があることから、親子関連の企画、運営にも携わっている。「絵本ユニットはっちぽっち」所属。https://ehon-press.amebaownd.com/
遠藤郁美(ドキュメンタリー映画・ディスクライバー)
ドキュメンタリー映画製作会社いせフィルムでの上映デスクを経て、チラシ等デザイン制作や企画考案、音声ガイド制作などに携わる。絵本を通じた地域の場づくりを模索しながら、場に合わせた企画提案からデザイン制作、イベント開催・実施等まで行う。昔ばなし大学再話研究会所属。
構成/HugKum編集部・日下淳子