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子どもの歯肉炎から既に始まっている歯周病
歯周病と聞くと、大人になってから気をつけるものと思う人もいるかもしれません。しかし、小学生でも既に歯肉炎を指摘される人もいます。厚生労働省の歯科疾患実態調査(平成29年)では、10〜14歳の4人にひとりが歯肉から出血があると回答しています。
歯肉炎がある子どもは、高校生以降にさらに悪化して歯周病へと移行するという研究もあります。
歯周病は、その名前から、歯の周りだけの病気に思えますが、実は歯周病にまつわる細菌や毒素が全身の病気と関係することがわかっています。
重大疾病の影に潜む歯周病菌
血液中にないはずの歯周病菌が動脈瘤に存在する
三大疾病のひとつである心疾患や脳血管疾患の動脈瘤には、歯周病菌などの口内細菌が存在していることがわかってきています。歯周病により弱った歯ぐきから口内細菌が血液中に入り込み、動脈硬化を誘導する物質が血管内に蓄積している可能性があるのです。
また、三大疾病にも繫がる糖尿病とも、歯周病による炎症性物質がインスリンの働きを抑制するなどの相互関係があることがわかっています。
歯周病はウイルスの侵入リスクを高める
細菌だけでなくウイルスも、歯周病菌が放つ内毒素が味方をし、体内へ侵入しやすくなります。
実際、口腔ケアを受けた人は、受けなかった人に比べてインフルエンザ発症率が10分の1に抑えられたというデータがあります1)。
近年、新型コロナウイルスへの感染防止対策として、給食後の歯磨きを中止している学校も多くあります。でも、ウイルスに感染しにくい身体づくりのためには、むしろ歯磨きは推奨したいところ。日本学校歯科医会が勧める口閉じ歯磨きなどの工夫をして、歯磨きの大切さをあらためて認識したいですね。
歯周病は手のひらサイズの潰瘍を放置しているのと同じ
歯周病は歯と歯茎の間でおこる炎症のため気づきにくく、多少出血しても緊急性を感じるほどの痛みはありません。
でも、日本人(30歳以上)の約80%が歯周病といわれ、意外と身近な病気です。
柘植先生は、このようなわかりやすい表現をされていました。
歯周病は、歯と歯肉の間のポケットに潰瘍(組織の欠損)が生じている状態。
例えば、歯周ポケットが5mmの深さだとすると、それらの潰瘍を合わせると手のひらほどのサイズになる。
手のひらサイズの傷が見えるところにあれば、そこから菌が身体へ入らないように治療しようとするのではないでしょうか。
気づかずに、お口の中に細菌の入口となる潰瘍ができていると考えると、歯周病はとても恐ろしい病気ですよね。
痛くなってからでは遅い…プロフェッショナルケアの意味
虫歯は減少傾向、その反面「恐さ」を知らない子どもたち
柘植先生のお話の中で、ハッとさせられた言葉がありました。
虫歯をもつ子どもは減ってきた。
でも反面、虫歯が痛くて眠れない経験もないから虫歯の恐さを知らない。
「虫歯になったら歯医者へ行けば大丈夫」ととらえられるのが恐い。
筆者自身がまさに、そうでした。
筆者は学校歯科健診で虫歯を指摘されたことはなく、20歳まで歯医者へ行ったことがありませんでした。
結果、黒い歯石が目視できるようになるまで痛みも自覚もなく、歯周病が悪化していました。治療では歯周ポケットの奥深くまでガリガリと歯石を除去するので、かなりの痛みが伴いました。
そんな痛みを知ってやっと、定期的に歯科検診を受けるようになったのです。
痛みを伴う虫歯がないから大丈夫、ではありません。自覚症状のない虫歯や歯周病が静かに進行しているかもしれません。
3ヶ月に1回の歯科検診を受ける理由
定期的に歯科検診を受けることが大切だとわかっていても、なぜ3ヶ月に1回なのか疑問に思ったことはありませんか?
それは、歯磨きだけでは取り除けない汚れ(プラーク)がネバネバとした巣を作りはじめ(バイオフィルム)、3ヶ月ほどで巣が成熟してしまうからです。
この巣の中に800〜900種類の細菌が住み着きます。放置するとさらに強固な歯石となり、歯ぐきの奥深くに歯周病菌が入り込みます。こうして、静かに虫歯や歯周病が進行し、ひいては全身疾患へと繋がっていくのです。
国の骨太方針「国民皆歯科検診」に期待
「歯科検診が義務になる」という情報が先行して話題になった、国民皆歯科健診。義務というのは誤りで、費用や環境面から国民が歯科健診を受けやすくする取り組みです。
具体的な施策はまだこれからですが、3ヶ月に1回の歯科健診を受けるには費用が高い・忙しくて行けないなど感じている方が、せめて年に1回でも歯科検診を受けられる環境になることに期待です。
虫歯だけでなく、全身疾患にも影響する歯肉炎や歯周病のサインを早めに自覚することができれば、重大疾病のリスクを下げることができます。
歯周病予防に効果的なセルフケア
3ヶ月に1回の歯科健診大切ですが、3ヶ月の間、良い口腔状態を維持するためのセルフケアも同じくらい大切です。
筆者もこれまで、歯磨きとフロスによるセルフケアをおこなっていました。しかし、実は歯磨きだけではお口の中の2割しかケアできていないと聞き、驚きました。
マウスウォッシュ(エッセンシャルオイル配合)を追加することで、バイオフィルムをしっかり殺菌し、プラークや歯肉炎が大幅に減少することを教えていただきました。これはぜひ使ってみたいと、早速、取り入れてみました。
選んだのは、口に含んでから歯磨きをするタイプの液体ハミガキです。思ったより刺激も少なく、歯がツルツルで爽快です。歯磨き粉のように口が泡まみれになることもないので、前述した口閉じ歯磨きがしやすく、一本一本の歯を丁寧に磨けるのも実感しました。
子どもが使用できるノンアルコールタイプのマウスウォッシュもあるので、親子で歯ブラシ・フロス・マウスウォッシュの3つのアイテムを使ったセルフケアの習慣をつけていきたいですね。
子どもたちの健康を守るためにできること
歯科健診を受けることが当たり前である環境を作る
しっかりと歯を磨くこと、定期的に歯科健診を受けること自体は簡単なことです。問題は、自分で必要性を感じて習慣化できるかどうかではないかと筆者は思います。
高校生までは、毎年の学校歯科健診があり、親も歯科受診を促すことができます。自立後は、忙しさの中でも自身で時間を見つけて、お口のセルフケア・プロフェッショナルケアをおこなう必要があります。
「しなきゃいけない」ではなく「するのが当たり前」と感じていれば苦にはなりません。まずは親がしっかり背中で見せること。そして、虫歯の恐さだけでなく、歯周病やお口の健康が全身の健康に繋がることを、子どもたちに伝えていくことが大切です。
五感を使った食育で楽しく「食べること」を学ぶ
子どもたちに急に「お口の健康は…」と伝えてもピンときません。難しく考える必要はありません。毎日の「食べること」そのものがお口を使う活動であり、食べ方や噛むことを学ぶ体験です。
柘植先生は五感を使って食べることをオススメしています。
知らない食材でも、見て触って、匂いをかいでみる。食べて食感や味を感じる。そういった経験を通して、食べることへの興味を育てていきます。
しかし、最近は食べるときにそばに飲み物を置いて、ひとくち食べたら飲み、よく噛まずに食感を感じることなく流し込んでしまっている子どもも多いと、柘植先生は指摘します。
よく噛まないで食べると、唾液が少なくなり、唾液の殺菌作用が働かず虫歯や歯周病になりやすくなります。
とはいえ、子どもに「よく噛んで」と伝えても抽象的でうまく伝わりません。そんなときは、例えば、ごはんにじゃこなど食感の異なるものを混ぜてみるだけでも、噛む回数は各段に増えます。
「食感の異なるものが入っていない時と比べて、噛む回数は違うかな?」
「あまり噛まない時と、よく噛んだ時で味はどう違うかな?」
というように、ゲーム感覚で楽しく、食べることや食べ方への興味を育て、お口の健康を意識するきっかけにしていけるといいですね。
参考:1) Arch Gerontol Geriatr,;43,2,157-164, Sep-Oct 2006
記事監修
公益社団法人 日本学校歯科医会 オフィシャルサイト
取材・文/村上詩織 協力/ジョンソン・エンド・ジョンソン