【子育ての道を照らす佐々木正美さんの教え】乳幼児期には「甘えさせること」がなにより大切です

児童精神科医として半世紀以上、子どもの育ちを見続け、お母さんたちの悩みに寄り添ってきた佐々木正美先生。今も、先生の残された子育てのについての著作や言葉は私たちの支えとなっています。佐々木先生が残してくれた子育てにまつわる珠玉のメッセージをご紹介します。

乳幼児期はたっぷり甘えさせてあげてください。赤ちゃんのころからお母さんにしっかり甘えて、愛されていることを実感した子どもは、「基本的信頼感」が育まれ、人生を楽しく生きていくことができます。

甘えることで、人を信じる力「基本的信頼感」が育ちます

乳幼児を持つお母さん方に何よりお願いしたいことは、「ありのままの子どもを受け入れて、たっぷり甘えさせてほしい」ということです。

赤ちゃんのころからお母さんにしっかり甘えて、無条件に自分が愛されていると実感した子どもは、自分に自信を持つと同時に、他者に信頼感や共感を持つことができるようになります。

すると、人とスムーズにコミュニケーションをして、楽しく生きていくことができるようになるのです。

心理学の世界では、これを「基本的信頼感」と言いますが、これが乳幼児期に育つかどうかが、子育てにおいてはとても重要です。

「基本的信頼感」は、子どものしつけをするうえでも欠かせません。

なぜなら、人を信頼し、共感できる子どもは、誰よりも信頼しているお母さんの教えるルールやマナーをすなおに受け止めて行動できるからです。

いけないことをしてお母さんが注意をしても、お母さんの気持ちを思いやることができるので、自分の思いを我慢することができるのです。

そして、これが、人を信じる力や、友だちを作る力になっていくのです。

人は自分の想いを受け入れてもらい、愛された経験をたくさんすることで、自分自身に自信を持てるようになります。そして、そうして自信を持つことができた子どもは、同時に他者への信頼と共感を持つことができるようになり、それが他者への思いやりを持てる人になるのです。

そのため、「基本的信頼感」を持つことができた子どもは、やがて人とスムーズにコミュニケーションをして、楽しく生きていくことができるようになるのです。

子どもを育てるときは、まず「母性」をたっぷり与えてから、「父性」をちょっぴり与えるといい子に育ちます。このバランスと順序がとても大切です。

まず、無条件に我が子を愛する「母性」をたっぷりと与えてください

子どもを育てるときに必要なのは、一般に「母性」と「父性」といわれていますよね。

「母性」とは、子どもをありのままに認めてあげる力。少し極端な言い方をすると、無条件にわが子を愛することが、母性的な愛情の本質です。

そして「父性」とは、規律や規則、約束や責任を子どもに教える力。いわゆるマナーや社会性を身につけさせることで、それが父性的な愛情といえます。

子どもの健全な育ちには、この母性と父性を与える順序と量のバランスがとても重要で、まず母性が十分与えられてからでないと、父性的なものが子どもに伝わっていきません。

たとえば、母性をたっぷり与えられた子どもというのは、自分が他者に受け入れられているため、自分に自信ができます。そして、その自信があるがために他者を受け入れる力につながっていくのです。他者を受け入れる力が身に付いた子どもは、他者を思いやるこころの余裕が生まれ、人が嫌がることはしないのです。

しかし、母性を十分に与えられていない子どもというのは、いくら父性的な社会的規範を教えても、それを受け入れようとせず、反社会的な行為ばかりを繰り返しがちになります。なぜなら、他者にきちんと受け入れられていないので、自分の存在に自信を持てず、他者を受け入れられないからです。

「母性」をたっぷり与えてから、「父性」を与える。このことさえ間違わなければひとり親家庭であっても、子どもは健全に育っていきます。その反対に、たとえ両親がそろっていても、この順序とバランスがきちんと行われていない家庭では、子どもに問題がある例がたくさんあります。

教えてくれたのは

佐々木正美|児童精神科医

1935年、群馬県生まれ。新潟大学医学部卒業後、東京大学で精神医学を学び、ブリティッシュ・コロンビア大学で児童精神医学の臨床訓練を受ける。帰国後、国立秩父学園や東京女子医科大学などで多数の臨床に携わる傍ら、全国の保育園、幼稚園、学校、児童相談所などで勉強会、講演会を40年以上続けた。『子どもへのまなざし』(福音館書店)、『育てたように子は育つ——相田みつをいのちのことば』『ひとり親でも子どもは健全に育ちます』(小学館)など著書多数。2017年逝去。半世紀にわたる臨床経験から著したこれら数多くの育児書は、今も多くの母親たちの厚い信頼と支持を得ている。

構成/山津京子 写真/山本彩乃

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