ファイナンシャルアドバイザーが子育て中のパパママに必須な「お金」の話を、絵本を例にとりながらわかりやすく解説していくリレー連載。第二回は「ともだちや」という絵本に学ぶ、お金の概念、役割のお話です。子どもと一緒に絵本を読むことで、お金の原点を学ぶことができます。
絵本「ともだちや」は「お金」の魅力と魔力を教えてくれる
キッズ・マネー・ステーション認定講師の古田かおりです。今回紹介する絵本は、次男が通う小学校の読み聞かせでも読んでいる「ともだちや」です。
作/内田 麟太郎 絵/ 降矢 なな 1,000 円+税(偕成社)
<あらすじ>
キツネは1時間100円で友だちになる「ともだちや」という商売を思いつきました。最初はクマに呼ばれ、食べたくもないイチゴやハチミツを食べ200円もらいます。次に呼ばれたオオカミとは楽しくトランプをして遊びました。キツネがお金をもらおうとしたそのとき、オオカミが叫びます。
「お、おまえは、ともだちから かねを とるのか。それが ほんとうの ともだちか」
どうして友だちはお金で買えないの?
この絵本で伝えたいことの一つは「友情はお金では買えない」ということです。でも、どうして買えないのでしょうか? 私は子ども向けのマネー講座で「お金の役割」についてお話しすることがありますが、お金の役割には次の3つがあります。
①交換の仲介をする
②モノの価値をはかる
③価値をためる
この中で②が今回の話と関係します。世の中で売られているモノやサービスにはすべて値段がついています。それは、価値がお金ではかれるものだからです。では友情には値段が付けられるでしょうか? ○○さんとの友情は1万円、××さんとの友情は10万円などと値段をつけることはできませんよね。あるハンバーガーショップのメニュー表には「スマイル0円」と表示されていたことがあります。これも笑顔には値段がつけられないという意味でしょう。つまり、友情、愛情、思い出、笑顔、家族など、価値がお金ではかれないものは、売ったり買ったりできないということです。
また、「モノの価値をはかる」という点では、この絵本を読みながら、お店で売っているものの値段について話してみるのもいいでしょう。キツネは「ともだちになる」というサービスに100円という値段をつけましたが、幼稚園から小学校低学年くらいのお子さんには「100円で買えるものって何かな?」と問いかけながら、100円の価値はどれくらいなのか一緒に考えてみてください。中学年以上なら、同じものでも値段が高いものと安いものがあることに気づかせ、その理由についても考えてみましょう。例えば同じ「消す」という役割を持つ消しゴムでも、キャラクターやスポーツブランドのものは値段が高くなります。高いお金を払ってでもその消しゴムが欲しいのか、子どもが実際に買い物をする場面でも意識できるようになるといいでしょう。
キャッシュレス決済とマネー教育の必要性
絵本の中ではキツネが代金を100円玉2枚でもらっている絵が出てきますが、この絵が将来当たり前ではなくなるかもしれません。
今年10月の消費税増税に合わせ、政府が中小店舗でクレジットカードや電子マネー、QRコード決済を利用して買い物をした消費者にポイントを還元する制度を打ち出しました。現在日本でのキャッシュレス決済の普及率は約20%で、韓国、中国、アメリカなど他国に比べると低い方ですが、これをきっかけに一気に広がる可能性があります。わたしたちが子どものころ経験した、100円持って近所の駄菓子屋で買い物をするという光景もなくなりつつあります。
そうすると、子どもたちは現金を手にする機会が少なくなり、買い物をしたらお金が減るという痛みを感じにくくなるのではないでしょうか。
親世代が現金を通して自然に身に付けてきた「お金には限りがある」という金銭感覚を子どもたちが身に付けるためには、普段から意識してお金の大切さ、適切なお金との付き合い方を教えていくことがますます必要になるでしょう。
キツネが本当に欲しかったもの
ところで、そもそもキツネはお金が欲しくて「ともだちや」を始めたのでしょうか?
絵本の最後にミミズクが言います。
「もりいちばんのさびしんぼうは、ともだちをつくれたようです」
キツネが本当に欲しかったのは、お金ではなく友だちだったのです。ともだちやの最初のお客さんはクマでした。クマからお金はもらえたけれど、嫌いなイチゴを無理に食べなければならず、おなかまでこわしてしまい、キツネはちっとも幸せな気持ちになれませんでした。
お金はあくまでも幸せを実現するための手段であり、お金を得ることそのものが目的になってはいけません。しかしお金には魔力があり、手段であるはずが逆転して目的になってしまうことがあります。
友情に関していうと、友だちがいつもおごってくれればそれを友情だと錯覚してしまうかもしれません。でも、いつの間にかお金そのものが付き合う目的になり、おごってくれなければ友だちではないと考えてしまうようになってしまいます。それでは本末転倒です。
先日この絵本を久しぶりに次男と読んだ後「(親友の)Aくんがお金をくれたらどう思う?」と聞いてみました。すると次男はこう答えました。「お金をもらえたらうれしいかもしれないけど、お金をくれなくても友だちだよ。どうしてAと友だちなのか分かる?一緒にしゃべっていて楽しいし、すごく気が合うからだよ」
やはり友情はお金では買えないものですね。私は普段子どもたちにお金の大切さを伝えていますが、お金がすべてではありません。お金をたくさん持っていても幸せでない人はいます。子どもたちにはお金以外のものを大切にする心を育んでいってもらいたいと思います。
古田かおり
ファイナンシャル・プランナー(CFP®)
キッズ・マネー・ステーション認定講師
長男のおこづかいをきっかけにマネー教育に関心をもち資格を取得。静岡県浜松市を中心に親子マネー教室を開催している。13歳、10歳の母親。
記事監修
「見えないお金」が増えている現代社会の子供たち。物やお金の大切さを知り「自立する力」を持つようにという想いで設立。全国に約160名在籍する認定講師が自治体や学校などを中心に、お金教育・キャリア教育の授業や講演を行う。2018年までに1100件以上の講座実績を持つ。