春一番はどんな風?
まずは、春一番とはどのような特徴を持つ風なのかをみていきましょう。また、「一番」と呼ぶからには、春二番・春三番もあるのでしょうか。
「春の嵐」とも呼ばれる春先に吹く強い南風
春一番とは、春先に初めて吹く強い南風のことです。「春の嵐」とも呼ばれ、春一番が吹く季節は、冬の冷たい北風が暖かな南風に変わってゆく節目にあたります。
気象庁では「立春からの春分までの間に、広範囲で初めて吹く、暖かく強い南風」と定義づけています。年によって多少のずれはありますが、立春は2月4日頃、春分は3月21日頃です。この約1月半の間に一定以上の強さで吹かなくては、春一番とは認められません。
春一番の影響で、暴風雨による海難事故や雪解けによる遭難事故などの災害が起こることもあります。また、日本海側ではフェーン現象が生じるため、火災にも警戒しなくてはなりません。
春二番・春三番もある
「春一番というからには、春二番や春三番もあるのかな」という疑問を持つ人もいるかもしれません。結論からいうと、春二番・春三番もあります。名前のとおり、その春2番目に吹く強い南風が春二番、3番目が春三番です。
同じような意味を持つ季語には「春疾風(はるはやて)」「春嵐(はるあらし)」「春荒(はるあれ)」があり、いずれも春の暖かく強い風という意味を持つ言葉です。
他にも、惜しいところで条件を満たせず、春一番に認定されなかった春の大風を「幻の春一番」と称することもあります。春一番の条件を満たす風が吹かないまま時期が過ぎれば、その年の春一番はなしということになります。
名前の由来は江戸時代の海難事故
春一番というと、暖かくほのぼのとしたイメージがありますが、実は海難事故が名前の由来です。
江戸時代末期の1859年(安政6年)3月17日(旧暦では2月13日)、現在の長崎県壱岐島沖(いきのしまおき)で、強い南風にあおられた漁船が転覆するという事故が起きました。船に乗っていた漁師53名が死亡するという大惨事です。
この事故以来、春に吹く強い風を警戒して、「春一(はるいち)」または「春一番」と呼ぶようになりました。気象用語として正式に使用されるようになったのは、事故からおよそ100年が経過した1970〜80年代(昭和50年代)からです。
春一番のメカニズム
春一番は、どのような仕組みで発生するのでしょうか。また、気象観測所が発表する際の条件に決まりはあるのか、確認していきましょう。
春一番が吹く原因は低気圧
春一番は、日本海に発生した低気圧が原因で起こる風です。暖かくなってくると、日本海を低気圧が通過するようになります。低気圧が大きければ大きいほど風も強くなるため、大きな低気圧が日本海を通過したときに強い南風が発生するのです。
気象庁が発表する春一番と認められるためには、他にも以下のような条件を満たさなくてはなりません。
1.立春から春分までの期間に吹く
2.日本海で低気圧が発達する
3南寄りの強い風である
4.最高気温が、平年もしくは前日よりも高いもしくは同じであること
地域によって異なる春一番の条件
春一番の条件は、地域によって若干異なります。先述した条件のうち、地域によって変わるのは主に3.と4.です。
たとえば、3.について、北陸地方では新潟・富山・福井・金沢のいずれかの気象台で、風速10m/s以上の南寄りの風が観測される必要があります。さらに、風速10m/s以上の南寄りの風を観測した気象台以外の気象台で、風速6m/s以上の南寄りの風が観測されなくてはなりません。
ユニークなのは中国地方の条件で、風速の数値ではなく「やや強い風」という表現をしています。四国や九州でも、細かい点で独自の条件を設定しています。
4.については、関東地方では単に「昇温した場合」としており、東海地方では「名古屋・岐阜・津・静岡いずれかの気象台で、日最高気温が平年値を上回る場合」といった定義づけをしています。
参考:本日(2月4日)関東地方で「春一番」が吹きました|気象庁
参考:東海地方の春一番に関するお知らせ|岐阜地方気象台
参考:北陸地方の春一番|富山地方気象台
参考:季節現象|広島地方気象台
春一番がない地域もある
日本は南北に長い国土であるため、春の到来の時期も地域によって差があります。すべての地域で立春から春分までに春がくるわけではないことから、北海道・東北地方・沖縄県では春一番は発表されません。
北海道と東北地方では、春一番と同じような条件で強い風が吹いても、その後に冬型の気圧配置に戻ってしまうことが多いのです。春一番が吹いた後も寒い日が続いている以上、春の訪れを告げる春一番にはふさわしくありません。
沖縄県では、立春の時期にはすでに春を迎えており、気温は20℃を超えています。そのため、強い南風が吹いても春一番とはいえないというわけです。
さまざまなシーンで使われる春一番
暖かく希望に満ちた春をイメージさせる「春一番」は、気象用語や季語以外にもさまざまなシーンで活用されています。有名な例をいくつか挙げてみましょう。
春一番を使った具体例
●キャンディーズのヒット曲「春一番」
1970年代の女性アイドルグループ・キャンディーズのヒット曲に「春一番」があります。実は、歌詞の中には春一番という言葉は登場しません。わくわくするような春のイメージをかわいらしく歌っている曲です。
●物まねタレント「春一番」
アントニオ猪木の物まねで一躍有名になった、物まねタレントの「春一番」です。芸人として一番を目指し、強い風を吹かせたいという思いで春一番と名乗ったとされています。
●アメリカの日本食レストラン「Haru Ichiban」
ジョージア州アトランタ近郊の街ダルースには、「Haru Ichiban」という日本食レストランがあります。寿司や刺身だけではなくハンバーグやラーメンなども充実していて、地元民にも人気のお店です。
春一番は冬から春への変わり目
時期・風速・寒暖差などいくつかの条件を満たすことで認定される「春一番」。気象用語として使われ始めてから50年ほど経過していますが、気象学的な根拠が明確ではないところがあります。そのため、成立条件も地方によって若干異なります。
春一番は冬から春への変わり目に吹く風で、春一番が吹く頃には季節はもう春です。しかし、春一番という名前のイメージとはかけ離れた、事故や災害の原因になっていることも事実です。「春一」「春一番」と呼んで警戒されていたことを思い出し、山や海へ出掛ける際は注意しましょう。
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構成・文/HugKum編集部