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『十五少年漂流記』ってどんなお話?
『十五少年漂流記』はフランス人のジュール・ヴェルヌによって書かれた、少年達の冒険小説です。世界中で、何度も映画化、舞台化、アニメ化されているお話です。そして、読書感想文の課題図書としても定番の児童書です。
ジュール・ヴェルヌによる冒険小説
『十五少年漂流記』は、原題や英語表記から分かるように「二年間の休暇」というタイトルです。文字通り、15人の少年が孤島に漂着し2年間生き延びる物語。登場人物が、8歳から14歳の子どもたちなので、同じような年齢のお子さんが読むのに、とても適しています。
原題:フランス語表記”Deux Ans de Vacances” 英語表記 ”Two years’ vacation”
国:フランス
作者:ジュール・ヴェルヌ(Jules Gabriel Verne)
発表年:1888年
おすすめの年齢:小学3年生~
作者のジュール・ヴェルヌってどんな人?
ジュール・ヴェルヌは、19世紀フランスの小説家であり、科学的な冒険小説や未来予想小説の先駆者として知られており、SF小説の父といわれる一人です。
彼の作品の多くは冒険物語であり、主人公たちが世界を旅し、不思議な技術や自然現象に直面するという展開が特徴的です。代表的な作品には、「地底旅行」「八十日間世界一周」「海底二万里」などがあります。
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『十五少年漂流記』のあらすじ
当時イギリスの植民地であったニュージーランドを舞台に、15人の少年たちが、果敢に乗り越えていく冒険物語です。
※以下では、物語の核心にも触れています。ネタバレを避けたい方はご注意ください。
あらすじ(詳細版)
ニュージーランドの寄宿学校・チェアマン学校の生徒達は、夏休みに帆船スラギ号でニュージーランドを一周することになっていました。
明日の出発が待ちきれない14人と黒人の見習い水夫(12歳)の少年たちは、大人たちが食事に行っている隙を狙って、前日の晩にこっそり船に忍び込みます。船の中で遊んでいると、縄でしっかり繋がれているはずのスラギ号が、どうしてか港から出て行ってしまいます。
しかも、運が悪いことに大嵐がやってきます。大人たちが、船と子どもがいなくなったことに気づいて、多くの捜索船を出すも、嵐にはばまれて探すことができません。
ようやく陸が見え、少年たちは目を輝かせます。しかし、その陸は大陸の一部なのか島なのか。一体、自分たちがどこにいるのか、何も分かりません。
チェアマン島での生活
なんとか船を着岸させ、子どもたちはみんな船から降りてみます。森の中を探検していると、大きな洞穴があり、中には人骨があります。そこには、テーブルも椅子もあり、日記のようなものと地図が置いてありました。50年前にフランス人が書いたようでした。
地図はその島の見取り図で、中央に大きな池のある孤島だと書いてあります。そのフランス人は漂着するも、助けも来ず、そのまま死に絶えたようだと分かり、子どもたちは不安に押しつぶされそうになります。
そんな中、ブリアンの弟であるジャックは、みんなに言えない大きな秘密を抱えています。ここは物語の一つのキーになっています。
初代大統領
島での生活の規則やリーダーを決めるために、大統領選が行われます。初代大統領には穏健で思慮深いアメリカ人のゴードンが選ばれます。日々の日課を決めたり、それぞれの役目を決めるなどして、ゴードンが島での生活基盤を作っていき1年が過ぎます。
新しい漂着者
1年半が過ぎようとしたある日、子どもたちは森で複数の大人に出会います。悪党のワルストン一味に追われて漂流してこの島に着いたが、ワルストン一味もこの島に上陸したと言い、子どもたちは震え上がります。そして、このチェスマン島はチリ沿岸部の島だと教えてもらいます。
この島から脱出する唯一の方法が、悪党を倒して船を奪って逃げることだと言われ、子どもたちは勇気を出して、みんな銃をもって戦います。
その際に、誰もがやりたくない役を10歳のブリアンの弟、ジャックが名乗り出ます。みんなが驚くと、ジャックはついに抱えていた秘密を打ちあけます。実は、最初、船を港に縛っていた縄をボラードから面白半分でほどいたのがジャックだったのです。みんなに衝撃が走りますが、誰も怒らず、責めず、許します。
オークランドへ帰還
ワルストン一味を無事退治し、彼らの船でオークランドへ帰還します。街中の人が歓喜し、2年ぶりに再会した家族は泣いて喜びます。そして、その漂流日記が出版されると飛ぶように売れました。
という締めくくりで終わります。
あらすじを簡単にまとめると…
事故で無人島に流される15人の少年が主人公で、2年にも及ぶサバイバル生活の中、友情、助け合い、対立、規律、リーダーシップ、チームワーク、など様々な要素が入り混じった、わくわくさせられる冒険小説。無人島で彼らがどうやって火起こしするのか、食料を調達するのか、など生活一つをとっても、とても興味深い内容となっています。
主な登場人物
分かりやすく、登場人物の相関関係をまとめてみました。
ブリアン(フランス人、13歳)
ジャックの兄。スポーツが好きで上手であり、明朗で素直。身なりには気をくばらず、お調子者で人気者。
ジャック(フランス人、10歳)
ブリアンの弟。学校一のいたずらっ子だったが、スルギ号の遭難の後は、沈みがちで無口な少年になってしまった。その大きな秘密が物語のカギともなる。歌とスケートがうまい。
ゴードン(アメリカ人、14歳)
15人の中では最年長で、唯一のアメリカ人。オークランドの郊外に住むある紳士に育てられた。チェアマン島初代大統領。
ドニファン(イギリス人、13歳)
大地主の息子。クロスの従兄弟。勉強家で優等生。きちんとした身なりで、つんとすましているので、「お殿様(ドニファン卿)」とあだ名をつけられている。人気のあるブリアンに嫉妬をしている。根は優しい。射撃がうまく、食料狩りの行く隊長。
クロス(イギリス人、13歳)
大地主の息子。ドニファンの従兄弟。ドニファンが大好きで取り巻きの一人。
バクスター(イギリス人、13歳)
商人の息子。おとなしく、手先が器用でDIY大工関係は彼が一番うまい。初期係に任命され、日記を毎日つける。その日記が後に出版される。
ウェッブ(イギリス人、13歳)
父親は裁判所に勤めている。けんかっ早い性格。ドニファンを尊敬している。ドニファンの取り巻きの一人。
ウィルコックス(イギリス人、13歳)
投げ縄などの罠を考案するなど、罠作り名人。ドニファンの取り巻きの一人。
ガーネット(イギリス人、12歳)
父は退役海軍士官。サービスと仲がいい。アコーディオンが大好きで、島にもしっかり持ってきている。
サービス(イギリス人、12歳)
いつも冒険を夢見ている明朗型。モコの手伝いをしているうちに料理がすごく上手になる。
ジェンキンス(イギリス人、9歳)
ニュージーランド王立科学協会の会長の息子。一番の優等生。
アイバースン(イギリス人、9歳)
牧師の息子。優等生。
コスター(イギリス人、9歳)(8歳とも)
海軍士官の息子。食いしん坊。
ドール(イギリス人、8歳)(9歳とも)
海軍士官の息子。意地っ張り。
モコ(黒人、12歳)
見習い水夫。料理が得意で何でもできる。
ファン(犬)
ゴードンの連れてきた猟犬。狩りで活躍する。
『十五少年漂流記』の魅力
無人島に漂着して、絶望的な状況でも子どもたちは明るく、前向きに生きようとします。難題を一生懸命に乗り越えていく姿が、とても魅力的な物語です。
教訓
この物語には、以下のような教訓や学びがあります。
チームワーク
少年たちの年齢が8歳から13歳と差もありますが、みんな自分ができることをやっていきます。彼らはお互いに助け合い、持ち場を明確にし、支えあっていきます。
生きる力
まだ未熟な少年たちですが、それでも最大限、自分たちが知っていることを駆使して、 野生動物を狩ったり、植物を利用したりすることで、サバイバル生活を確立していきます。ウミガメやペンギンなどを食料にします。
思いやり
漂流生活でおそらく一番辛かったのは、ジャックではないでしょうか。自分のいたずらのせいで、と自責の日々を送ります。ついにみんなに打ち明けますが、誰もが責めませんでした。
規律
15人が快適に過ごせるように、決まりや規律を作らなければいけません。上級生3人の中で、指導者的役割の大統領を決めます。教会でお祈りをする時間を設けたり、食事係、洗濯係などの順番を決めたり、日曜日は仕事をしない日にするなどルールを作ります。
友情
頭は良いけど、自分が中心でないと不満なドニファンは、ブリアンにことごとく突っかかります。ドニファンは学校の成績が悪いブリアンをバカにしており、ブリアンはそれに憤慨していますが、ドニファンがジャガーに襲われた日、ブリアンは果敢にジャガーに向かっていきドニファンを助けるのです。
他にも、島を探検する「勇気」や他人に依存しない「自立心」など、学べることが沢山あります。
ジュール・ヴェルヌの名言集
「人が想像することは、必ず人が実現できる」
英語では“Anything one man can imagine, other men can make real.”
SFの父ともいわれるジュール・ヴェルヌは、人間が想像できることは10年、20年、50年後には誰かがそれを実現している未来があると言います。
「なぜ、僕らは子どもなんだろう。大人でなければならない時に」
十五少年漂流記の中で語られるセリフです。少年たちの気持ちが十分すぎるほど伝わってきます。
「もうこれからは、夢の中でしか旅行はしない」
ジュール・ヴェルヌが11歳の時、インド行きの帆船にこっそり乗り込むも父親に見つかってしまいます。その時に言った言葉。その後、夢の中の旅行を書くことで、お話ができたのかもしれません。
読書感想文の課題図書にも
『十五少年漂流記』は、読書感想文の課題本としても定番です。
選ばれる理由は、子どもたちに学んでほしい「チームワーク」「友情」「サバイバル力」「乗り越える力」「団結力」「リーダーシップ」がちりばめられあていることと、読みだしたら止まらないエキサイティングな「冒険物語」にあります。
読み比べたい『蝿の王』
同じように、少年たちが漂流、無人島で生活する『蠅の王』という物語があり、『十五少年漂流記』と比較されることがあります。
『蠅の王』とは
『蠅の王』(原題「Lord of the Flies」)は、イギリス人、ウィリアム・ゴールディングによる小説で、1954年に発表されました。
第二次世界大戦中、イギリスからオーストラリアへの移送船が撃沈されました。生き残った少年たちは、無人島に漂着し、自分たちで生き残りを図ることになるも、仲間同士が生き残りをかけたライバルとなり、血肉の争いを繰り広げます。この小説は、人間の本性や社会秩序の脆さを如実に表しており、文学史上の名作の一つとされています。
『蠅の王』と『十五少年漂流記』を比較すると?
どちらの物語も、少年たちが漂流し、無人島という閉ざされた空間の中においての、人間関係、生存、秩序を描いています。
『十五少年漂流記』が少年たちの友情や成長に焦点がおかれているのに対し、この『蝿の王』は、生存者の少年たちが孤島で互いに戦い合い、暴力的、狂気的になり、社会秩序が崩壊していく恐怖と絶望が描かれています。
蠅の王〔新訳版〕 (ハヤカワepi文庫)
文庫本。『蝿の王』を読むのならこの「新訳版」がおすすめです。読みやすく、抜群のテンポで進みます。
『十五少年漂流記』を読むなら
『十五少年漂流記』は、たくさん出版されていますので、人気の高いシリーズをページ数順に、また、年齢別に読みやすい本をご紹介いたします。
十五少年漂流記(小学館)
2013/1/29 電子版、文庫 158ページ
マンガなので、楽しくすらすら読めます。はっきりした絵柄は、キャラクターを見分けやすく、小学生から読みやすい内容です。漢字あり、ルビ一部。
十五少年漂流記 (ポプラ世界名作童話)
161ページ 2016/11/4 電子版、文庫
漢字あり、ルビあり。文字が小さめなので、小学生中学年~。
十五少年漂流記 (新潮社)
1951/11/20 文庫 285ページ
原作の抄訳版。原作の簡易版を読みたいお子さんへ。漢字あり、ルビなし。中学生~
十五少年漂流記 (東京創元社)
原作の完訳決定版。漢字あり、ルビなし。テキスト読み上げ機能あり。Kindleの機械合成音声にて読んでもらい、読めない漢字を覚えることもできます。中学生~大人むけ。
『十五少年漂流記』は歴史を振り返えるきっかけにも
高校生、大人になったら、是非とも原作完訳版にも挑戦してみたい物語です。原作には、黒人見習い水夫のモコは、大統領選でも投票権がなく、本人も当たり前のようにそれを受け止めている描写があります。本によっては、その部分は削除されていますが、出版された1888年当時の時代背景や、奴隷制、選挙権について、歴史を振り返えるきっかけにもなります。
また、もしも孤島に残されたら?を考えることは、急に被災した場合などのケースと似たものがありますので、親子で「もしも」に備えて、話し合ってみるのも良いでしょう。
読書感想文に困ったら
文/加藤敬子 構成/HugKum編集部