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日本では、子どもの体重は秋から冬に増加するのが一般的
日本のように四季のある国の子どもたちの身長と体重は、季節の影響を大きく受ける「季節変動」があります。身長・体重の発育は同時に促進されるのではなく、それぞれ増加する時期が異なるのです。
北半球の温帯地域に属する日本においては、身長が春から夏にかけて伸びが大きくなり、体重は秋から冬に増加して夏はほとんど増えないというのが正常なリズムです。
南北に長い日本では、地域的な偏りはあるものの、北海道から沖縄まで共通することがあります。
それは、夏の体重増加は異常な季節変動である、ということです。
たとえ涼しいと言われる北海道でさえ、夏に体重が増加することが毎年続けば肥満になります。ましてや、夏の蒸し暑い地域で夏に体重が増加すると必ず肥満傾向が進みます。
「夏やせ」が減り「夏太り」が増加している現代
ほとんどの動物にとって、蒸し暑い気候の中では食欲も落ち、動くことも苦痛になります。1970年代にエアコンが家庭に普及したおかけで夏でも涼しく快適な環境で過ごせるようになりました。日本では「夏やせ」という言葉がありましたが、今、増えているのは「夏太り」です。
特に子どもたちは、夏休みの間にルームエアコンのおかげで食欲も落ちず、起床時間も遅くなり、学校のある機関と比べて生活習慣が乱れます。このため体に脂肪が蓄積しやすくなるのです。
コロナ禍で肥満気味だったところに、夏休みの季節変動に逆らった生活習慣が続くことで「肥満」が定着してしまうことになります。
夏に太るリズムを持っている子は必ず肥満になります
肥満にならないためには、どうしても生活リズムが大幅に崩れるのは避けなければなりません。
私の研究調査では、夏休み中に太った子は、起きる時間と寝る時間に、学校のある通常のリズムから2〜3時間のずれがありました。
3時間ずれている子は、9月に体重が大幅に増加していたのです。朝寝坊をして、エアコンの効いた涼しい部屋でアイスクリームなど甘いものを好きなだけ食べて夜更かしをすれば当然太ります。夏はあまり運動もせず筋肉がつかないので、増えた分はすべて脂肪です。
肥満から小児生活習慣病になる恐れも
私は1970年代から調査をしていますが、小学校入学時から夏に太るリズムを持っている子は、たとえ小学1〜2年生の時は肥満でなくても、3年生あたりから肥満度が上がり始め、6年生では明らかな肥満になって卒業していきます。最初から肥満でなくても、太る生活習慣の夏休みを重ねていくうちに肥満になるということです。
子どもが肥満になると、小児生活習慣病を発症する恐れがあります。小児生活習慣病になるとからだ全体の生理的な働きが悪くなるだけでなく、太っていることでからだの動きも鈍くなります。そうすると、活動量が減る、運動不足になる、運動が嫌いになるといった悪循環に入っていき、やがて食べたものが蓄積されて、肥満がどんどん増大していきます。
規則的な生活をすれば、夏休みはやせるチャンス!
では、肥満を解消するには、どのような生活をすれば良いのでしょうか。
具体的に実践して欲しいのは、早寝、早起き、朝ごはんです。昔からよく聞かれる標語ですが、理にかなっているのでぜひ心がけてほしいですね。
まず早寝です。早く寝れば、自然に早く起きることができて、朝ごはんも食べられます。朝ごはんを食べれば、頭が活性化されて、元気に動けて、すべてが良い循環に入っていくでしょう。
まずは、早寝することから始めて、早起き、朝ごはんの習慣を心がけてみましょう。
食事は色々な栄養素をバランスよく、あまり食べすぎないように、さらに、適度な運動をすること。縄跳びでもジョギングでもなんでも良いので体を動かそうという心がけが大事です。
夏休みに不規則な生活を送ると太りますが、反対に規則的な生活をすれば、むしろやせるチャンスであるということです。元来、夏は体重が増えにくい季節なのです。肥満が気になる子は、ぜひ、夏休みに生活習慣を整えることを意識しましょう。
子どもの成長の異変を見逃さないために
「肥満」を原因とする子どもの異変だけでなく、
・過度な運動により身長が伸びない
・いじめやストレスで体重が大きく変動
・身長・体重の異変で重病が発見された
などの子どもの成長過程に現れる異変は、「成長曲線」のグラフに記録することで早期に発見できます。
子どもの発育研究に長年携わってきた小林正子先生が、子どもの健康を守るため、家庭でも「成長曲線」を活用することの重要性を提唱する1冊。
子どもの異変は、「成長曲線」のグラフに記録することで早期に発見できると、子どもの発育研究に長年携わってきた小林正子氏は語ります。
子どもの健康を守るため、家庭でも「成長曲線」を活用することの重要性を提唱します。
小林正子先生
お茶の水女子大学理学部化学科卒業。東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。博士(教育学)。
東京大学教育学部助手、国立公衆衛生院(現 国立保健医療科学院)室長を経て、2007年より女子栄養大学教授。2020年より現職。
発育の基礎研究のほか「発育グラフソフト」を開発し、全国の保育園、幼稚園、学校等に無償提供し、成長曲線の活用を促進。発育から子どもの健康を守る重要性を啓発している。著書に『子どもの足はもっと伸びる! 健康でスタイルのよい子が育つ「成長曲線」による新子育てメソッド』(女子栄養大学出版部)、最新刊に『子どもの異変は「成長曲線」でわかる!』(小学館新書)
構成/Hugkum編集部