※ここからは『1日5分!PCITから学ぶ0~3歳の心の育て方』(加茂登志子・著/小学館 )の一部から引用・再構成しています。
4つのペアレンティング・スタイルとは
赤ちゃんだった子どもがおしゃべりできるようになり、親子のコミュニケーションが複雑になるにつれ、親の子育てのスタイル(ペアレンティング・スタイル)の個性がよりはっきりとあらわれてくるようになります。
PCITでは、アメリカの発達心理学者ダイアナ・バウムリンドが提唱した考え方をベースに、ペアレンティング・スタイルを大きく4つに分類しています。それは、子どもに対する親のあたたかみ(反応性)を縦軸に、子どもに対するしつけ(要求、制限)を横軸にした表の4つの領域で示されます。
バウムリンドは未就学児の明らかに異なるタイプの行動が、特定の種類の子育てととてもよく相関していることに気づき、この研究を開始したといわれています。
4つの親のスタイルと、その子どもの傾向
Style1. 許容的な親
子どもの要求に対する反応がよく、あたたかみのある親ですが、一方子どもにルールを守らせることが苦手という特徴をもっています。親子の間でルールをつくっても、一貫性をもってルールを守らせることができず、子どものルール違反をついつい許してしまいます。そのため子どもは社会でルールを守って生活するスキルを身につけるチャンスを逃しがちです。いわゆる「子どもに甘い親」のイメージに近いタイプといえます。
許容的な親のもとで育った子どもは、小さい頃こそ活発な元気ものですが、年齢が上がるにつれ自己中心的な行動が目立ったり、集団の中で協調的な態度をとるのが苦手になったりする傾向があります。
成長後は、自分とは違う考え方を受け入れにくい、他者と協力し合って課題解決に取り組むべき場面で適切な行動がとれない、他者との深い関係がつくりにくいなどが心配されます。
親の特徴
あたたかみがある/ルールが少ない or ない/リミットが決められない
子どもの将来
反抗的・挑戦的になりやすい/継続性に欠ける/自己中心的/社会的スキルが乏しい
Style2. 関係欠如的な親
子どもに対するあたたかみが少なく、子どもにあまり関わろうとしない親です。子どもに対して厳しい要求をすることも、口出しをすることもほとんどありません。食事や安全の面ではある程度は子どものニーズを満たすことができていますが、子どもが求めているスキンシップや言葉かけなども少なく、心の育児放棄(ネグレクト)といっていいような状態です。
このタイプの親は、一見ふつうに子育てしているように見えることも多いです。けれどもよく観察すると、子どもと視線を合わせることが少なかったり、よそよそしかったりします。
心のネグレクトの状態にある子どもは、感情をコントロールする方法や人間関係のつくり方、社会的ルールなどを親から学ぶ機会がありません。自分を守るスキルや人とおだやかに交流するスキルが十分に育っていないので集団生活では取り残されがちで、自分を出せないまま周囲に流されたり、対人関係のストレスにさらされ続けたりします。
子どもは衣食に困っているわけでもなく、一見おとなしく見えることも多いので、学校の先生や保育所の保育士もなかなか親子の問題に気づきにくいようです。
親の特徴
無責任/冷たい/規則がない/子育てに関与しない/無関心
子どもの将来
衝動的なふるまい/感情のコントロールが苦手/対人関係の混乱/自傷行為
Style3. 独裁的な親
子どもに対する要求や制限が強く、子どもの要求に対する反応性=あたたかみは少ないタイプです。子どもの希望や要求には反応せず、一方でルールを守ることや言うことを聞かせることには厳しく、要求水準は高く、時には親への絶対服従を求める、支配優先のペアレンティングです。
このタイプの親は、自分の意見が正しいと思いがちで、自分の考えや価値観だけでものごとを判断することも多く、知らず知らずのうちに、間違った、過剰な、あるいはゆがんだ信念を子どもに押しつけるようになります。
独裁的な親は周囲の目には「しつけに厳しい親」「教育熱心な親」に映るかもしれません。厳しいしつけは、行きすぎてしまうと子どもへの過剰なコントロールや体罰を生み出すおそれがあります。虐待で子どもが死亡したり大けがを負ってしまったとき、逮捕された親が、よく「しつけのつもりだった」とその理由を述べているのを聞いたことがあるでしょう。このような事件が相次いだため、2020年4月、日本でも体罰は児童福祉法や児童虐待防止法(児童虐待の防止等に関する法律)で禁止され、しつけのつもりであっても体罰は許されないものになりました。
「教育虐待」という言葉も有名になりました。教育虐待とは、教育熱心すぎる親が過剰な期待を子どもに向けて、思い通りの結果が出ないと厳しく叱責したり罰したりしてしまうことをいいます。たとえ体罰には至らなくても、これも虐待の一つです。
独裁的な親のもとで育つと、思春期になったとき子どもはしばしば不安が強まり、フラストレーションに耐える力が乏しくなります。自尊心が下がる傾向もあり、引きこもりがちになる子もいます。一時的に学校でよい成績をあげることもありますが、多くは長続きしません。他人と関係が結べなかったり、自然なコミュニケーションをとるのに自信がもてなかったりもします。
親の特徴
子どもの希望や要求に応えない/ルールが厳しい/要求水準が高い/接する態度が冷たい
子どもの将来
不安を感じやすい/自尊心が低い/一時的に学校でよい成績を取ることもある/過剰適応/引きこもりがち
Style4. リーダーシップのある親
あたたかみがあり、子どもの年齢や発達に見合った、適切な要求や制限をする親です。バウムリンドの分類では「権威的」ペアレンティングといわれています。日本だと「権威」はネガティブにとらえられることもあるので、ここでは「リーダーシップ」と言い換えています。「リーダーシップ」という言葉でもビジネスやスポーツで使われることが多いので、親子関係に使うのはピンとこないかもしれません。しかし、親は家族というチームの中では重要なリーダーなのです。
サッカーの優秀な監督が選手ひとりひとりを尊重し、個性をピッチで発揮できるように導くのと同じで、リーダーシップのある親は子どもをひとりの人間として尊重し、子どもの自主性を伸ばしながら成長を支援します。その一方で、社会のルールや課題解決のやり方などを教え、社会で活躍するために必要なスキルを高めています。
親が適切にリーダーシップを発揮し、家庭内にわかりやすく受け入れやすいルールがつくられていると、子どもは親を信頼し、納得して言うことをきくことができます。また、ルールに従うことで他の人と協調できることを体験的に学んでいます。
子どもは親との安定した関係の中で、自己肯定感や社会的スキルを育みます。そのことが学校や社会で周囲の人たちと良好な人間関係をつくりながら、勉強や仕事に取り組む土台となります。
親の特徴
ルールがわかりやすく納得しやすい/一貫性がある/あたたかみがある
子どもの将来
自尊心が高い/感情のコントロールができる/対人関係のスキル・社会的スキルが高い
* * *
PCITで目指しているペアレンティング・スタイルは、4つめのスタイルの「リーダーシップ(権威)のある子育て」です。対人関係の基盤となるあたたかみを与えると同時に、社会で生きるために必要なスキルを教えることができる。そんなシンプルな親になるための近道がPCITと言ってもいいでしょう。
※ここまでは『1日5分!PCITから学ぶ0~3歳の心の育て方』(加茂登志子・著/小学館 )の一部を引用・再構成しています。
実践的なメソッドばかりのPCITトドラー
そんなPCITは、ふだんの育児に取り入れる方法として、具体的で実践的なものばかり。たとえば「ホームセラピー練習」と呼ばれる1日5分、親子が1対1で向き合って遊ぶ<特別な時間>では、①命令しない ②質問しない ③否定・批判しない といった「DON’Tスキル」が指針とされ、同時に子どもの自己肯定間を高める「PRIDEスキル」が提唱されます。
また、子どものかんしゃく(強い感情)を落ちつかせる<CARES(ケアズ)>と呼ばれる5つの対処法、子どもの気持ちを言葉にする<感情のラベリング>、効果的な指示のための8つのルールなど、目からウロコのメソッドが、日々のストレスフルな育児をかけがえのない親子交流へと導きます。
親自身が自分の感情をコントロールし、自身の子育て生活を肯定するためにも、PCITトドラーを日々のペアレンティングに取り入れてみてはいかがでしょうか。
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◆著者紹介
加茂登志子(かも・としこ)
東京女子医科大学卒業。元東京女子医科大学精神神経科教授。
東京都女性相談センター嘱託医、東京女子医科大学附属女性生涯健康センター所長を経て、2017 年若松町こころとひふのクリニックPCIT 研修センター長および一般社団法人日本PCIT研修センター所長。PCIT International グローバルトレーナー。
著書に『1日5分で親子関係が変わる!育児が楽になる!PCIT から学ぶ子育て』(小学館)がある。
日本PCIT 研修センター公認サイト https://pcittc-japan.com/
構成/HugKum編集部