思春期のエキスパートが教える、親がとるべき態度「7つの知恵」とは。治療的里親・土井高徳さんからのアドバイス

思春期を迎えた子どもはガラッと変わります。その変化は早い子は小学校高学年ころから。生意気な口をきいたり、上機嫌かと思えば、いきなり不機嫌になったり。親は戸惑うばかりです。長年、里親として多くの思春期の子どもたちと暮らしてきた土井高徳さんに、親は思春期の子どもとどう接したらいいのかをうかがいました。

子どもが「愛されている」と実感できるような𠮟り方を学んでください

子どもを産むと、人は生物的な親になります。出生届を出せば、社会的な親になる。でも、親の大事な役割は、子どもの成長に必要なものを、適切に援助することです。そういう親を「心理的な親」と呼びますが、生物的な親だから、即、心理的な親になれるかというと、そうではないと思うんです。

親が、イライラした感情を子どもにそのままぶつけてしまうことは、結構あるんじゃないでしょうか。または怒りに任せて、「あなたなんか、もう知らない」「どこかへ行ってしまいなさい」などと言ってしまう。子どもが「自分は守られている」という安心感を失うことは、広い意味での虐待だと思います。

親のエゴや見栄を子どもに押しつけるのではなく、「あなたの成長を応援しているんだよ」「あなたの確かな成長のために、これは必要なことなんだよ」というメッセージの発信の仕方を、親は勉強すべきだと思います。言葉を変えるなら、子どもが「自分は愛されているんだ」と実感できるような叱り方ですね。

しつけは、親の思いどおりに子どもを動かすことではありません

しつけというのは、親の思いどおりに子どもを動かすことではありません。子どもが家族や社会の一員としてその場にふさわしい行動をとれるように、学ばせること。そのためには、親自身が自分をコントロールして、行動を通して、子どもに学ばせる。その行動の意味も言葉できちんと説明して、子どもがちゃんとできたら、ほめる。

私は、その過程を「しつけ」だと考えています。その際に大事なことは、親が一貫した、そして継続した〝物差し〟を持っていることです。どれだけおだやかに話しても、昨日と今日とで親の意見が違ったら、子どもは混乱を起こしてしまいます。

子どもに心の中の思いと反対なことを言ってませんか

また、メッセージというのは、言葉だけでなく、顔の表情や声の調子など、体全体を通して発しているんですね。
子どもにメッセージを出すとき、言葉では「いいよ」と言いながら、心の中で「先に宿題をしたほうがいいのに」と思っていると、その気持ちが声に出てしまいます。二重のメッセージを出すのは、混乱のもとです。

子どもが言うことを聞かないから、親は声を荒らげる。親が声を荒らげると、子どもも声を荒らげてくる。関係が悪化してきて、子どもが問題行動を増やす。親はさらに激しく声を荒らげる……。これでは、どんどん悪い方向にいってしまいます。一方、プラスの循環は、親が適切な関わり方をすることで、子どもが「親に受け入れられた」と実感でき、子どもの行動が改善される。すると、親も落ち着いてきます。

親が子どもに取るべき態度「7つの知恵」を心がけて

私が難しい子どもたちと接するなかで、少しずつ積み上げてきた「臨床の知恵」。臨床とはこの場合、「実践の場」という意味です。それを7つに分けてお伝えします。

親が取るべき態度「7つの知恵」

1 目を見て話す(子どもに背中を向けてはダメです)

2 おだやかに、近づいて、小声で(大声で怒鳴られると、人は自分を守ろうとして、心理的な壁を作ります)

3 叱る時間は3分以内(延々と叱ると収拾がつかなくなり、子どもも反発心が起こってきます)

4 次の行動を促すときは予告する(例 あと5分したらゲームをやめて宿題をしよう)

5 注意は3つ以内に収める(本当はひとつに絞って注意することが大事)

6 ついカッとなったらクールダウン(親が自分をコントロールする姿を子どもに見せて学ばせましょう)

7 叱った分だけ、ほめる(叱るばかりでほめることをしないとバランスを崩してしまいます)

困っている状態を抜け出して、プラスの循環に変えていく。そのきっかけが、この「7つの知恵」です。最初は形から入ってもいいと思うんです。そういう知恵を知っておくことで、親は精神的な余裕を持って、子どもに接することができます。

親としていちばん大事な役割は、子どもが安心して暮らせる環境を整えることです

それに、いつも子どもに向き合う必要はありません。「ここぞ」というときだけでいい。いつもは子どもと同じ方向を見て、寄り添っていてください。
人は、ついつい理想的な親になろうとがんばってしまいますが、親としていちばん大事な役割は、子どもが安心して暮らせる環境を整えること。家庭のなかの人間関係や生活のリズムをきちんとすることは、子どもの成長にとって、欠かせません。
そのうえで、ある程度大きくなった子どもには、手をかけずに目をかけましょう。「あなたのこと、いつも見ているよ」というメッセージを常に発信していれば、子どもは安心して育っていきます。

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土井高徳さん|一般社団法人おかえり基金(土井ホーム)理事長
里親。学術博士。保護司。医師や臨床心理士などと連携して、国内では唯一の「治療的里親」として子どもたちのケアに当たっている。福岡県北九州市で心に傷を抱えた子どもを養育する「土井ホーム」を運営。2008年11月、ソロプチミスト日本財団から社会ボランティア賞を受賞。著書に『思春期の子に、本当に手を焼いたときの処方箋33』『怒鳴り親 止まらない怒りの原因としずめ方』(共に小学館新書)などがある。

写真/竹花聖美

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