「前提知識」ステマとは
ステマ規制を理解するには、言葉の意味を知る必要があります。ステマとはそもそも、何を表す言葉なのでしょうか。
正式名称は「ステルスマーケティング」
ステマは「ステルスマーケティング」の略語です。ステルスは「内密の行為・こっそりと行うやり方」を意味する、英語の「stealth」のことです。
ステルスマーケティングは、商品やサービスの宣伝を、消費者が広告だと気付かない手法を使って、こっそりと行うことを指します。
例えば、SNSでインフルエンサーが企業から対価をもらっているにもかかわらず、「広告」や「PR」のハッシュタグを付けずに、あたかも自分の感想のように商品を紹介する行為などが該当します。
ステマの種類と事例
ステマにはさまざまな種類があり、新しい手法も開発されています。代表的なステマの種類と、具体例を見ていきましょう。
口コミ・サクラなど「なりすまし型」
「なりすまし型」は、企業の関係者が一般の消費者になりすまし、自社の商品やサービスが優れているように見せる手法です。
例えば個人のアカウントを使って、口コミサイトで高い評価を付けたり、おすすめとしてSNSで拡散したりする行為が挙げられます。
ライバル商品に対する低評価の口コミや、悪いレビューの発信も、なりすまし型に含まれます。
SNSや口コミサイトの多くは匿名で投稿できるため、読者は発信者が企業関係者かどうかを判断できません。「なりすまし型」は、こうしたWebメディアの特性を利用した手法です。
有名人を起用「利益提供秘匿型」
「利益提供秘匿(ひとく)型」は、広告ではない体裁を装い、芸能人・インフルエンサーといった有名人に商品やサービスを宣伝してもらう手法を指します。実際には企業が金銭などの経済的な利益を提供して、宣伝を依頼しているにもかかわらず、消費者にはそう見えないのが特徴です。
テレビCMや雑誌広告などの場合、企業が出演者にお金を支払っていることは誰が見ても分かります。しかし有名人が自身のブログ・SNSで、広告であることを隠して紹介した場合、一般消費者には区別がつきません。
「好きなアイドルが推薦していた」などの理由で、その商品が選ばれる可能性は高く、消費者の購買行動を大きく左右します。
ステマ事例
「なりすまし型」と「利益提供秘匿型」はいずれも、過去に何度か発覚している手法です。
なりすまし型の代表としては、レストランの口コミを投稿できる、グルメサイトの事例が挙げられます。サイトに掲載されているレストランが、代行業者に金銭を支払って、自分の店に高評価を付けてもらっていたことが発覚したのです。当時、外食する際にこのサイトの口コミを見てレストランを決めるユーザーがたくさんいたため、大きな話題になりました。
また世界的な人気アニメ映画の配給会社が、有名漫画家を起用して、利益提供秘匿型のステマを行ったことも知られています。
ステマが問題とされる理由
ステマが多用されると、消費者はもちろん、企業側も不利益をこうむる恐れがあります。ステマをされる側とする側の問題点を、それぞれ確認しましょう。
消費者側のデメリット
インターネットで気軽に情報を受発信できる昨今、口コミや個人的なレビューが、消費者の購買行動を左右するケースが増えています。
なぜなら「企業が自社商品をアピールするだけの広告と違い、口コミサイト・ブログ・SNSには、個人の正直な感想があふれている」と考える消費者が多いからです。
このため口コミサイト・ブログ・SNSでステマが行われると、本来消費者が得られるはずだった、商品の正しい情報が得られなくなります。第三者の意見と信じて購入したのに、実は広告だったとなれば、消費者は今後何を基準に判断すればよいのか、分からなくなってしまうでしょう。
正しい情報に基づいて購入を判断できない状態は、消費者にとって大きなデメリットといえます。
提供側のリスク
ステマが発覚した場合、消費者は「欺かれた」と感じ、その商品や企業に対して強い不信感を持つようになります。ステマに関与した口コミサイトや有名人も信用を失い、ファンが離れていくでしょう。
「今後は一切ステマをしない」と誓ったとしても、一度失った信用を取り戻すのは容易ではありません。正しい広告活動すらも「ステマではないか」と疑われ、思うような効果が出なくなる恐れもあります。
さらに、ステマとは無関係な企業や口コミサイト、有名人に疑惑の目が向けられる可能性も否めません。一時的な売り上げ拡大のためにステマをすると、自社だけでなく業界全体に悪影響が及ぶでしょう。
2023年10月よりステマの規制が施行
こうした状況を踏まえ、消費者庁はステマ行為を法律で禁止することを決めました。2023年10月1日から始まった「ステマ規制」の概要を解説します。
ステマを「不当表示」に指定
消費者庁が公表したステマ規制により、ステマは「景品表示法」で禁止されている「不当表示」に指定されました。2023年10月1日以降、企業が商品やサービスを宣伝するときは、「広告」「宣伝」「PR」などの表示が義務付けられています。
有名人などを起用して宣伝する際にも、ブログ・SNSに「広告」などと表示するよう、指示しなければなりません。なお、対象の媒体はWebサイトだけではなく、テレビ・新聞・ラジオ・雑誌などのマスメディアも含まれます。
参考:令和5年10月1日からステルスマーケティングは景品表示法違反となります。 | 消費者庁
違反した場合の罰則
ステマ規制に違反した場合、広告を出した企業に対して「措置命令」が発令されます。命令の主な内容は以下の通りです。
●違反表示の差し止め
●違反した事実を一般消費者に周知する
●違反行為の再発防止策を講ずる
●違反行為を繰り返さない
措置命令に従わないと刑事罰の対象となり、「2年以下の懲役または300万円以下の罰金」もしくは両方が科される可能性があります。一方で、広告を掲載する側への罰則は今のところ定められていません。
参考:
消費者庁|景品表示法とステルスマーケティング~事例で分かるステルスマーケティング告示ガイドブック.pdf|8p
不当景品類及び不当表示防止法 | e-Gov法令検索
ステマ規制への対応法
自身のブログ・SNSで商品やサービスを紹介して、企業から報酬を得ている場合、どのように対応すればよいのでしょうか。ブログ・SNSにおける、ステマ規制への対応策を紹介します。
広告・PRだと分かりやすく表示
広告を掲載する側に罰則がないとはいえ、広告であることを明記しないまま発信を続けていれば、ブログの読者やフォロワーの信頼を失うかもしれません。
このため、SNSのインフルエンサーやブロガーにも、ステマ規制への適切な対応が求められます。ブログを運営している人は、広告を掲載した記事に「広告」や「PR」の表記を入れる必要があります。
表記が目立つよう、記事の上部に大きめの文字で入れることが重要です。最後まで読まないと広告だと分からなかったり、文字が小さくて見逃したりするような表記の入れ方は、適切な対応とはいえません。SNSの場合は「広告」「PR」などのハッシュタグを付けて投稿するとよいでしょう。
規制以前のステマにも注意
ステマ規制施行前に公開したSNS投稿やブログ記事であっても、消費者が閲覧できる状態のものは、すべて規制の対象に含まれます。
そのため、2023年10月1日以前からブログ・SNSを運用していた人は、過去の記事・投稿がステマに該当しないかどうかを見直す必要があります。
ブログの場合、すべての記事に一括で「広告」や「PR」の文言を表示させるようにしておくと安心です。SNSでも可能な限り、修正・削除を心がけましょう。
規制と併せてステマを理解しよう
ステマは口コミを操作したり、有名人に紹介してもらったりして、消費者に気付かれないように商品やサービスを宣伝することです。ステマが明るみに出れば、消費者だけでなく、企業や広告を掲載した人も不利益をこうむります。
規制の内容や罰則をしっかりと把握して、自身の発信がステマにならないよう、十分に注意を払いましょう。
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構成・文/HugKum編集部