源氏物語は日本最古の長編小説
源氏物語は、主人公・光源氏の華やかな生活や恋愛遍歴を中心とした長編小説です。54巻から成る長大な物語には、貴族の生活や風俗、思想なども描かれています。
紫式部が平安時代中期に執筆
源氏物語の作者・紫式部は、一条天皇の中宮・彰子(しょうし)に仕えた女性です。「紫式部」の呼び名は、源氏物語の登場人物・紫の上にちなんでいます。
源氏物語の正確な成立年は不明です。しかし、書き始めは紫式部が夫に先立たれた1001(長保3)年あたりと考えられています。
紫式部は出仕後も執筆を続け、源氏物語は最終的に54巻にもなりました。長編小説としては、日本のみならず世界的に見ても、最も古い作品の一つといえるでしょう。
国内外で評価されている
源氏物語は当時の貴族の間で大流行しただけでなく、後年多くの作品にも影響を与えました。それは能楽・歌舞伎・俳諧・絵画などの題材にしばしば取り上げられていることからも分かります。研究書やパロディ作品も多く登場し、源氏物語は一般大衆層にも広まっていったのです。
近代に入ってからも、与謝野晶子・谷崎潤一郎・円地文子・瀬戸内寂聴ら多くの作家・研究者によって現代語に訳されています。それらの作品は、「原文を読むのは難しい」という人にもおすすめです。
また、世界的な評価も高く、英語をはじめさまざまな言語に翻訳されています。
源氏物語に登場する主な人物
源氏物語は主人公・光源氏と、彼に関わるさまざまな男女の人間模様が中心となっています。主な登場人物を見ていきましょう。
光源氏
「桐壺」から「幻」までの41巻の主人公です。桐壺帝と桐壺更衣(きりつぼのこうい)の子で帝の第2子にあたります。3歳で母を亡くしますが、生来の美貌と才気、帝の子という地位に恵まれ「光(ひかる)の君」と呼ばれて成長しました。
ちなみに「光源氏」とは「光り輝くような源氏」という意味です。作中では一度も「光源氏」とは呼ばれていません。
父の寵姫・藤壺(ふじつぼ)への恋慕から、正妻・葵の上や藤壺の姪・紫の上のほか、多くの女性と浮名を流します。女性が原因でいったんは表舞台から去りますが、後に返り咲き、権力と豪奢な暮らしを手にしました。
光源氏を巡る女性たち
源氏物語を語る上で、光源氏と関係を持つ女性たちの存在は欠かせません。特に重要なポジションを占める女性たちを紹介します。
・桐壺更衣:桐壺帝の更衣(天皇の寝所に侍る女官)として寵愛を受け、光源氏を産む
・藤壺:桐壺更衣の生き写しと評判を呼び、桐壺帝に望まれ中宮となる。光源氏と密通し、のちの冷泉帝を産む
・葵の上:左大臣の娘で光源氏の正妻。光源氏の子・夕霧を産んだ後、急死。光源氏の愛人・六条御息所(ろくじょうのみやすどころ)の生霊に苦しめられる
・紫の上:藤壺の姪。10歳前後で光源氏に引き取られて、理想の女性になるよう育てられ、14歳で光源氏の正妻格となる
・朧月夜:光源氏の兄・朱雀帝が寵愛した女性。入内前に密通が発覚し、光源氏は失脚のピンチに陥る
光源氏を取り巻く男性たち
源氏物語で描かれたのは恋愛だけではなく、政治や友情も重要な背景になっています。光源氏と特に関わりの深い男性の登場人物を見ていきましょう。
・桐壺帝:時の帝で光源氏の父親
・頭中将(とうのちゅうじょう):光源氏の親友でライバル的存在。葵の上の実兄
・冷泉帝(れいぜいてい):光源氏と藤壺の子だが桐壺帝の第10子として育てられる
・朱雀帝(すざくてい):桐壺帝と正妻・弘徽殿女御(こきでんのにょうご)の子で光源氏の異母兄。父の跡を継いで帝に即位
源氏物語のあらすじ
54巻にわたる源氏物語は、光源氏が登場する第1部・第2部、光源氏の孫世代を中心とした第3部の3部構成とされています。それぞれのあらすじを見ていきましょう。
光源氏の誕生から栄華を極めるまで
第1部は「桐壺」から「藤裏葉(ふじのうらば)」までです。
「光る君」こと光源氏は、桐壺帝と桐壺更衣の間に生まれました。美しさと賢さに恵まれ、大切に育てられますが、桐壺帝の中宮であった藤壺に恋い焦がれた挙句、密かに関係を持ち、藤壺は光源氏の子を身ごもってしまったのです。
藤壺から遠ざけられた光源氏は、多くの女性と関係を持つようになります。藤壺の姪にあたる少女、のちの紫の上を引き取って養育したり、正妻・葵の上が、光源氏が関係を持った女性の一人である六条御息所の生霊に取りつかれたりと、女性が絡んださまざまな事件も起こります。
兄・朱雀帝が寵愛していた朧月夜との関係がスキャンダルになったときは、光源氏は自ら須磨に謹慎しました。藤壺の子・冷泉帝の世になると、光源氏は勢力を取り戻します。律令官制の最高位・太政官の長官である太政大臣から、譲位した天皇に准じた待遇の地位を得て、栄華を極めたのです。
移りゆく世と紫の上の死
「若菜上」から「幻」までの第2部では、人生を謳歌していた光源氏が徐々に凋落していく姿が描かれます。
病を得た先帝・朱雀院は、出家にあたって内親王・女三の宮を光源氏に託していきました。光源氏の正妻格・紫の上は受け入れたものの、心労から病気になります。光源氏も看病に付き添いました。
光源氏が留守の間に、女三の宮は自分に思いを寄せる若者・柏木を引き入れて関係を持ちます。父帝を裏切り、藤壺と密通した過去を持つ光源氏は、柏木の子を身ごもった女三の宮を責められませんでした。
女三の宮は柏木の子・薫を産んで出家し、柏木は後のことを光源氏の長男・夕霧に頼んで亡くなります。51歳になり紫の上に先立たれた光源氏は、これまでの人生を振り返りつつ出家の準備をするのでした。
光源氏死後の物語
「匂宮」から「夢浮橋」までの第3部の主人公は、女三の宮と柏木の子・薫です。45巻「橋姫」から最終巻までの10巻は、宇治を舞台としていることから「宇治十帖」と呼ばれています。
光源氏はすでに亡くなっていますが、代わりに孫にあたる匂宮(冷泉院の第3子)が登場します。匂宮は光源氏譲りの美貌と才気に恵まれ、色も好む貴公子です。第3部では、匂宮と薫が浮舟という女性を巡って争う様子や2人の男性に翻弄される浮舟の苦悩が描かれます。
源氏物語の魅力に触れてみよう
源氏物語は1,000年以上にわたって読み継がれ、人々を魅了してきました。作中に描かれる光源氏の恋愛遍歴や貴族たちの人間模様は、現代に生きる私たちにも通じるところが多くあるので、共感できるポイントもあるかもしれません。
また、当時の貴族の生活や風俗などを知る資料としても優れています。読みやすい現代語訳版も出版されているので、日本が誇る一大長編に触れてみてはいかがでしょうか。
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構成・文/HugKum編集部