日本の幸福度ランキング、2023年度は47位。不安ゆえ幸せを感じにくい子育て世代のパパママが幸福を感じる秘訣は? 4つの「因子」を意識して毎日を過ごそう!

子育て世代のみなさんは、日々幸せを感じていますか? 世の中には、お金や地位はなくてもなんだか幸せそうな感じの人もいれば、恵まれていそうなのに「自分は不幸」と思っている人もいます。この差はどこから生まれるでしょうか? 「幸福学」を科学的に分析・研究している前野隆司先生が、診断と「幸福になれるヒント」を授けてくれるこの企画。後編は「4つのポイント」とともに、幸せを感じられるヒントを具体的に教えていただきます!

子育て中は「はじめてだらけ」。不安で幸福感を感じにくい

――子育て中は、小さなお子さんがいて幸せ感いっぱいのはずなのに、イライラしたり悩んだり、負の感情もまた抱きがちです。なぜでしょうか。

子育て中は「はじめて」のことばかりです。そもそも我々は「教育の素人」なのに、いきなり意思を持ち動く小さな子どもをどう扱ったらいいかなんて、わからないし、うまくできなくて当然です。みなさん、よくがんばっていらっしゃると思いますよ。 

けれど、日本人は総じて真面目なので、「うまくできない」と悩みます。できない自分を責めがちですよね。また、周囲も「親がちゃんとしないと」「成績を上げるには家庭での声かけが大切です」など、子どもにしてほしいことを親にプレッシャーをかけてやらせることが多いように思います。

 

「人間を育む」ということは知識だけでは太刀打ちできません。親は子どもが成長するのと同じように、親も経験などによって学び、成長していくものです。だから、子どもが小さい頃は、親も未熟であたりまえなんです。もっと力を抜いていい。そして「子どもを育てることでたくさんの学びや自分の成長がある」ということに、幸福感を感じてもらえるといいな、と思います。

日本人はマイナス志向!?でも悪いことばかりじゃない

――日本人は幸福感を感じにくいといいます。国際的な研究組織「持続可能な開発ソリューション・ネットワーク」(SDSN)が毎年発表する「World Happiness Report(世界幸福度報告書)」の2023年版でも、国別の幸福度ランキングで日本の順位は137カ国中47位です。2022年発表の54位よりは上昇していますが、依然、G7の中では最下位です。

日本人はもともときめ細やかな性格の人が多く、細かいところまで気にします。それがマイナス志向に結びついたり、謙虚であることで堂々と「幸せ」といえないところはあります。たとえば先に紹介した「幸福度診断」のようなものの回答でも、欧米人のほうが自分を高得点にする傾向があります。日本人は平均程度にしか自己評価しない人が多いですね。欧米人に比べるとマイナス志向といえます。

しかし、そのマイナス志向も、「悪い」というわけではありません。日本人が作るものは隅々まで行き届いていて使い勝手がよいと高評価な場合も多いですし、逆にポジティブ志向も行きすぎると「空気が読めない」「わがまま」など人を不快にすることもあるかもしれません。プラスもマイナスも両方あって、中庸なところにいるようにメタ認知(自分の行動を客観的に認知する)するといいのでしょうね。「今自分はいろいろと細かく考えているな、これはマイナス志向のいいところかもしれない」「今はプラス志向だな、調子に乗りすぎないようにしようかな」など、自分を俯瞰的に見られるとよいですよね。

子どもには上司に話すように話すとうまくいく

――ただ、子どもを育てていると、不安定な気持ちでストレスを抱え、子どもをつい叱ってしまうことがあります。そういうマイナス志向は……

それはやめたいですね。頭ごなしに叱るのはアメリカではハラスメントとなり訴えられることもあります。子どもを強く叱ってしまうときは、親に悩みやストレスがたくさんあるのではないでしょうか。

ーーどうすれば自分を俯瞰的に見られ、ちょうどいいところに落ち着けるでしょうか。

そんなときは、できれば夫婦で、また身近な人と話し合うといいですよ。「なぜ一方的に怒ってしまったのだろう」「それは危険を察知させるなど、身の危険を防ぐ類いのものだったのか。ストレスのはけ口になっていたのか」。冷静に話し合える人と話し、自分の感情を吐露しましょう。それで、「そんなに怒るほどのことでもなかった」と思えば、子どもにあやまればいいんです。「ごめん、言い過ぎた」と。あやまれば子どもも納得します。

――子どもに対して、親が上から目線になってはいけないですね。

むしろ、子どもを上司だと思って尊重したほうがうまくいきます。「私はこうしたいと思うけれどいいですか?」みたいに(笑)。

 

子どもは大事だしかわいいけれど、親とは別人格です。考え方も違うし、好みが違うのはあたりまえだから、自分の思うとおりにはなりません。アメリカではそう育てますね。僕は2930歳くらいのときにアメリカに行って、日本との違いに衝撃を受けました。何もかもアメリカがいいとは思っていないけれど、子どもの考えに耳を傾けて、同じ目線で付き合うところは、学ぶべきだと思っています。

幸福度に大きな影響を及ぼす「4つの因子」を意識しよう

――では親も子どもも幸福になるには、どんなことをすればいいでしょうか。

私はこれまで、地位や財産とは関係なく、どんな心のありようが人の心に幸福感を感じさせるのかを研究してきました。そこで心のありように関する29項目87個の質問を作り、インターネットで日本人1500人以上にアンケート調査を行いました。その結果を因子分析という手法で分析した結果、人の幸福度に大きな影響を及ぼす心的因子が明らかになりました。それが次の4つです。

➊やってみよう因子(自己実現と成長の因子)

□自分なりの夢や目標を持っている

□夢や自己実現を達成するために、努力している

□自分が持っている強みを十分に発揮できている

□今やっていることにやりがいを感じている

□自分から何かをやろうと思える

□自己成長したいと考えている

このような状態は「やってみよう因子」が高く、幸福度が高い状態といえます。

人から言われてやるより自分からやろうと決めて勉強する人のほうが幸福度は高く、創造性や生産性も高い傾向にあります。

➋ありがとう因子(つながりと感謝の因子)

□人の喜ぶ顔が見たいと思う

□自分を大切に思ってくれる人がいる

□つながりのある人たちがいる

□周りの人や環境に感謝している

□他人に親切にしたいと思っている

このような「ありがとう因子」にある人は、自分が喜んでいるときよりも、自分が何かをしてあげたことで誰かが喜んでくれた時に深い幸福感を得る傾向があります。

また、人に挨拶をする人は、挨拶をしない人より幸福度が高いという研究結果があります。まずは挨拶から始めましょう。「ありがとうございます」「お疲れ様です」などのひとことがコムニケーションの始まりとなり、幸せの第一歩になります。

➌なんとかなる因子(前向きと楽観の因子)

□楽観的でポジティブに考える

□あまり細かいことは気にしない

□学校や仕事での失敗や不安な感情は、あまり引きずらない

□失敗を恐れずにチャレンジしようとする

□今はできないことがあっても、「いつかはできるようになる」と思える

□目の前のことに集中できる

このように物事を前向きに楽観的に捉えることができる人は幸福度が高い傾向にあります。

たとえばエレベーターが壊れて階段をのぼらないといけなくなったときに「筋トレができた、ラッキー!」と思えばそれほどつらく感じないのではないでしょうか。物事の中から「よいこと」「ポジティブな面」を見つけ出すのがうまくなれば幸せを感じやすくなるはずです。

❹ありのままに因子(独立と自分らしさの因子)

□自分のすることと、他人がすることをあまり比べない

□人の目を気にしすぎない

□自分のペースを保つことができる

自分と人を比べず、他人の意見に左右されすぎずに自分らしくマイペースで生きている人は幸福度が高い傾向にあります。

 

4つの因子をまとめてみると、「幸せな人」とはこんな人です。

たとえ困難があっても「なんとかなる」と立ち向かうことができ、「やってみよう」というチャレンジ精神にあふれていて、どんなときも周りの人に「ありがとう」と感謝を忘れず、いつも自然体で「ありのまま」の人。

もちろんいつもこういう状態にはないでしょう。けれど、つらいときこそこの4つの因子を思い出して真似てみるといいかもしれません。4つの因子を意識することだけで、その因子に近づくことができます。

 

さあ、明日から悩みや不安があっても、「なんとかなるさ」「ありのまま」でいきましょう。そしてどんな状態でも自分から「やってみよう」とすぐにチャレンジし、そして「ありがとう」と感謝することを忘れないようにして、幸せを引きつけたいですね。

前野先生の幸福度チェックの記事はこちら

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お話を伺ったのは

前野隆司|慶應義塾大学大学院教授

慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授。同学ウェルビーイングリサーチセンター長。1962年山口県生まれ、広島育ち。84年東京工業大学卒、86年同修士課程修了。キヤノン株式会社、カリフォルニア大学バークレー校訪問研究員、ハーバード大学訪問教授などを経て現職。著書に『幸せな大人になれますか』(小学館)『「幸福学」が明らかにした幸せな人生を送る子どもの育て方』(講談社)など多数。

 取材・文/三輪 泉

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