2024年元旦の令和6年能登半島地震により多くの救援物資が集められて被災者の方々に支給されていますが、被災前に備えてあった自前のものがあればもっといいですよね。
今回は、被災時に役立つ災害対策グッズについて、効果的に活用する工夫や注意点などを論じていきます。
歯ブラシの備えは少ない?
2016年に報告された防災セット(災害対策グッズ)の備蓄・保管率に関するアンケート調査では、6596名(女性3707人、男性2889人)を対象に実施されました。
その結果によると、エリア別では上位に関東73.0%、東北71.1%となり、東日本大震災で被災した地域の割合が高いことが明らかになりました。
その一方で、備蓄している防災セットの内容を見てみると、懐中電灯が71.2%、非常用飲料が68.4%などとなったのに比べ、歯ブラシ・歯磨剤は21.3%と低い割合を示しました(図1)。
つまり、およそ5人に1人しか準備していない、言い換えれば残り4人は「歯ブラシがなくても特に困らない」と考えている結果となったのです。
しかし、歯磨きは大切な歯を守るだけでなく、食べる・話すといった口の機能を保ち、体の健康維持にも不可欠です。ストレスの多い避難所での生活を少しでも快適に過ごすために、「歯磨きセット」はぜひ忘れずに準備しておきたいものです。
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歯ブラシは細長く持ち運びもしやすいですが、避難所で「歯ブラシ1本あれば大丈夫」という訳でもありません。具体的に防災を意識した歯磨きセットの詳細を見てみましょう。
防災用の歯磨きセットを揃えよう
歯ブラシ(大人用、子ども用)
虫歯菌などの感染を防ぐため、家族の人数分は最低限、揃えておきましょう。特に親子間での共用は禁物です。
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歯間ブラシ、デンタルフロス
フロスだけ切り離して使うタイプは問題ないですが、歯間ブラシや柄付きのフロス(糸ようじ)は虫歯菌などの口腔細菌の感染を防ぐために各個人で使用するべきものです。家族間であっても共用は避けるために、人数分は揃えるようにしましょう。
歯磨剤(歯磨き粉)
使用しない期間が長いと、キャップの隙間から水分が蒸発して中の歯磨剤が硬くなり、押し出せなくなることがあります。
定期的に備蓄をチェックする際に、中の歯磨剤の流動性が保たれているかを確認しましょう。乾燥を防ぐためにラップなどを巻いて密封しておくのも効果的です。
デンタルリンス、含嗽薬(うがい薬)
水の使用が制限される避難所では、口腔ケアにとても役立ちます。
薄めて使うタイプのものは薄めるための水が必要になるため、薄めずに原液のまま使用できる商品がおすすめです。
口腔清掃シート
指に巻き付けて使います。細かな部位の清掃には不向きですが、水が不要で便利です。
口腔保湿剤
口の中が乾燥しがちな人は、必要に応じて準備しておきましょう。
義歯(入れ歯)セット:義歯ブラシ、義歯洗浄剤、義歯安定剤、義歯ケースなど
必要に応じて準備しておきましょう。
紙コップ
感染予防の観点からも、家族の人数分は最低限、揃えるようにしましょう。
* * *
これらの持ち物には各パーツごとに必ず名前を入れ、避難所における集団生活での物品の紛失を防ぐようにしてください。
例えば、歯磨剤の場合、チューブ本体だけでなくキャップにも名前を入れておくと、紛失した場合でも手元に届く可能性があります。
防災グッズの有効活用術
防災用品の大半は、普段は物置きの奥のほうにしまっていて、非常時にのみ取り出してきて使用するものと思われがちです。しかし最近は、備えない災害対策「フェーズフリー」という考え方が注目されています。
「フェーズフリー」とは、身の回りにある物やサービスなどを日常生活だけでなく、災害時でも役立てられるようにしようという考え方です。フェーズフリー品の例として、いくつか挙げて見ましょう。
バケツにもなる撥水バッグ
雨で濡れた傘などを入れても外側の表面に水が浸み出さず、逆に濡れてしまうと困るものを雨などから守ることができます。
また、ライフラインが寸断された避難所などではバケツの一時的な代替品として、効率的に水を運搬できます。
ベッドになる強化ダンボール
強化中芯を使用することによって圧縮強度を高めています。普段は荷物をしっかりと保護し、非常時には床に並べてベッドとして有効利用できます。
目盛り付きデザイン紙コップ
おしゃれなデザインは普段使いにも便利ですが、非常時には計量カップとして使うこともできます。
防災セットの歯磨きセットではこの紙コップのほか、ライフラインの寸断による水不足の状況でも便利な液体歯磨きがフェーズフリーだと言えるでしょう。
「フェーズフリー」と「ローリングストック」
ところで、2021年にアスクル株式会社が実施したインターネット調査(有効回答数753名)によると、「フェーズフリー」の内容を知っているのはわずか7.4%で、7割を超える人が「知らない」と回答し、認知度はまだまだ低い概念であることが明らかになりました(図2)。
しかし、フェーズフリーの解説ページを閲覧した上で「あなたはフェーズフリー商品を購入したいと思いますか?」と質問したところ、購入意向度は54.3%と約半数の人が関心を示し(図3)、上記の撥水バッグや強化ダンボールが購入希望の上位商品となりました。
災害に対して備えるのでなく、普段使う物を災害時に活用することについて、多くの人が有効性を認めていると言えるでしょう。
一方、「ローリングストック」という備蓄方法を日常の中で実践することも大切です。
これは、「備蓄する」→「使う」→「買い足す」→「備蓄する」…というように、備蓄物をただ使わずに放置するのではなく日常生活の中で活用し、使った分は買い足して補充するというサイクルを指します。
防災袋に入れっぱなしで定期的に確認をしなければ、水も食料も消費期限切れになる可能性があります。定期的なチェックとともに、普段から保存のきく食材を多めにストックしておくローリングストックがおすすめです。
救援物資を送る際の注意点など
歯磨きセットには先述のように、歯ブラシや歯磨剤、歯間ブラシ、義歯ブラシ…様々な製品があります。
しかし、救援物資として歯磨きセットを送る場合、ただ送ればいいという訳ではありません。いくつかの注意点を挙げます。
各製品を分ける
混ぜて送ると、仕分けに時間と手間、人手がかかり、現地スタッフに迷惑を掛けてしまうことになります。例えば、義歯ブラシは入れ歯を使わない人には不要なもので、廃棄物(ゴミ)を増やすことにもなります。
本当に必要とする人に必要なものが届きやすいよう、製品ごとに分別して送りましょう。
直接、避難所には送らない
多量の救援物資は、ただでさえスペースが限られた避難所を混乱させる可能性があります。救援物資を受付・管理している自治体の管轄部署などに確認後、指定された場所へ送りましょう。
未使用のものを送る
言うまでもないですが、感染予防の観点からも当然のことです。
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以上のように、一定のルールを守って適切に、受け取る側の気持ちになって救援物資を送るようにしましょう。
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記事執筆
島谷浩幸
参考資料:
・株式会社mitoriz:防災意識に関する6500人アンケート.2016.
・一般社団法人フェーズフリー協会:フェーズフリーコンセプトサイト.2017.
・株式会社アスクル:職場の災害対策についてのアンケート.2021.
・農林水産省:災害時に備えて食品の家庭備蓄を始めよう.2019.