地震などの災害時に歯磨きができなくなったら? 実際の被災時や避難所で困らないための対処法を、歯科医師が解説

現役歯科医ライターが指南する口腔ケアの記事シリーズ。今回のテーマは「災害時の歯科衛生について」です。
執筆/島谷浩幸(歯科医・歯学博士・野菜ソムリエ)

2024年元旦の令和6年能登半島地震により多くの住民の方が被災され、今なお避難所などで不自由な生活を余儀なくされている方々も少なくない状況です。一刻も早い復旧と日常生活の回復を願うとともに、心よりお見舞い申し上げます。

被災地における歯磨きの問題は様々な影響を及ぼすため、国や自治体、歯科医師会なども力を入れる大きな課題の一つです。今回は、災害時の口腔ケア(お口のケア)の大切さや対応策などを論じていきます。

大規模災害発生時の口腔ケアの大切さ

地震や洪水などの大規模災害が発生した時には、災害によって歯や口唇、口腔粘膜(舌や頬粘膜など)に直接的に外傷を受けることがあるだけでなく、多くの被災者が避難所などで集団生活を強いられることになります。このような状況下では、歯科的にも様々な問題が起こります。

歯ブラシ不足などで満足に歯磨きできない避難生活が長期化すれば、偏った食生活やストレスなども誘因となって、虫歯や歯周炎、口内炎、口臭などの口腔内の問題の生じやすくなります。口の不健康は、体全体の健康にも影響します。

特にライフラインが断絶して水の供給が不足している場合、脱水を防ぐ水分補給は生命維持に不可欠なため、節約して水を使う必要があります。そのため歯磨きやうがいなどの口腔清掃が疎かになりやすく、要注意です。

口腔内を清潔に保たないと、子どもにおいては冬場のこの時期、インフルエンザや風邪といった呼吸器疾患に罹患するリスクが上がります。(関連記事はこちら

また、高齢者の場合も同様に誤嚥性肺炎などの呼吸器感染症が増加する可能性が高まり、時には死に至る重篤な状態に及ぶこともあります。

では、被災地における肺炎の問題の詳細について見ていこうと思います。

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災害関連死で最も多いのは肺炎

1995年に発生した阪神・淡路大震災での関連死(地震が直接の原因ではない死)の中で、最も多かった原因は肺炎でした(図1)。

図1. 阪神・淡路大震災での「関連死」死因別割合

また、その後に日本で起きた大地震による関連死のデータを見ても約20~30%を呼吸器疾患が占め、被災現場における呼吸器疾患の予防は、命を守る上でも不可欠な対策が必要であることが分かります(図2)。

図2. 災害関連死の呼吸器疾患の割合

不衛生な口や咽頭の細菌を誤嚥(本来、消化管の食道へ流れる飲食物・唾液が誤って気管に入ること)することで起きる「誤嚥性肺炎」は肺炎で重要な位置を占め、避難所生活で口腔の衛生状態を保つことが難しい状況では、この危険性が高まります。

災害関連死の約8割は被災から2か月以内に起きるため、被災時から口腔ケアに対する速やかな対応が要求されるのです。

では、実際の被災現場では口腔ケアに対してどのような対応がなされているかを見ていきましょう。

災害現場での歯科医療救護活動の実際

避難所では地元の歯科医師会の協力などで仮設診療所が設けられ、応急的な治療や処置を受けることができるような配慮も行われますが、救護活動の内容は多岐にわたります。

2004年の新潟県中越地震で、現地の歯科衛生士を対象に実施した歯科医療救護活動に関する調査報告があります(図3)。

図3. 新潟県中越地震(04年)で行われた歯科医療救護活動

その調査によると、歯科衛生士が行った活動として「義歯の清掃」が最も多く、20.3%を占めました。

また、災害直後は避難所での「歯科救援物資の配布」などが中心となり、まずは歯ブラシ等の口腔衛生用品の被災者への供給に重点が置かれましたが、物品がある程度行き届くようになると「口腔衛生指導」や「口腔ケア」の割合が増える結果となりました。

では、災害時における口腔ケアの取り組みの実際について具体的に見てみましょう。

1.歯ブラシなどを用いた口腔清掃指導

不十分な口腔清掃による様々な悪影響を防ぐため、少量の水でもできるうがいや歯磨きなどの指導を行います。

2.子どもに対する食事指導

支援物資には菓子パンやお菓子類が多く含まれるため、食べ方や歯磨きの状況によっては虫歯になりやすくなる可能性があります。(関連記事はこちら)ですから、食べ方に関する間食指導や歯磨き指導によって、食生活の平常化を目指します。

また、慣れない状況下で不安を抱える子どもも少なくありません。心のケアも重要です。

3.高齢者に対する補水指導や口腔管理

避難所の高齢者は、被災時の義歯(入れ歯)の紛失や清掃不良、水分補給の不足による脱水、ストレスや不十分な食事・運動不足による体力低下などで呼吸器疾患等の様々な病気にかかりやすくなるため、予防するための指導を行います。

また、誤嚥性肺炎を防ぐための口腔ケアも必要に応じて実施します。

4.集団に対する啓発活動

個別の被災者に対する指導とともに掲示物やパンフレットなどを通じて、被災者の人々が適切な生活習慣を取り戻せるようにサポートを行います。

なお、日本歯科医師会は避難所掲示用のポスターを作成しています(図4)。

図4. 災害時における日本歯科医師会ポスター

動画でも「日本歯科医師会 災害時の歯みがき方法」と題してYouTubeで閲覧できますので参考にしてください。

避難所などでの口腔ケアの工夫や注意点

歯ブラシが手に入らない時の口腔ケア

清潔なタオルやティッシュを人差し指に巻きつけ、親指で端を押さえてゆるまないようにします。親が口の小さな乳幼児に対して行う時は、小指に薄めのガーゼ等を巻くといいでしょう。

この状態で歯ブラシのように歯の表面をこすり、できる限りの歯垢(プラーク)を取り除きます。歯と歯の間、奥歯の溝など、細かな所をキレイにするのは難しいですが、非常時にはとても役立つ方法です。

ただし、ティッシュの場合は唾液の水分で破れやすくなり、繊維質が口の中に残って不快な思いをすることがあるため、より丈夫なペーパータオルなどを使うと便利で清掃効率も上がります。

食後に水やお茶でブクブクうがいする

歯ブラシがなくても水が使用できる場合は、食後のブクブクうがいで、できる限りの食渣(食べかす)を口の中から取り除くことも重要です。

また、唾液は口の中をキレイにする効果があるため(関連記事はこちら)、耳の下や顎の下を手でもんで唾液腺のマッサージを行い、唾液を出しやすくことも大切です。「よく噛んで食べる」ことも唾液を出すことにつながります。

災害用の歯磨きグッズを使う

水のいらない歯磨きシートや、専門的な口腔ケア用ティッシュも販売されており、いつ災害が起きても対応できるようにいつも持ち歩いておくことが大切です。

また、水が不足しがちな災害時に便利な液体歯磨剤を使うこともお勧めです。

すでに準備できているという人でも、その歯磨きグッズに問題ないかを定期的に確認することは必須です。未開封であれば使用期限は長い商品が多いものの、非常時にすぐに使えるように、例えば1年に一度の「防災の日(9/1)」などにチェックする習慣を持ちましょう。

防災グッズや備蓄品は年に一度は再点検を

災害時は命を守るためにも大切なお口のケアですが、その意識はまだまだ浸透していないのが現状です。

「備えあれば憂いなし」。
この言葉を肝に銘じ、防災意識が高まっている今だけでなく、平時から万が一の災害に備えて準備を怠らないようにしましょう。

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記事執筆

島谷浩幸

歯科医師(歯学博士)・野菜ソムリエ。TV出演『所さんの目がテン!』(日本テレビ)等のほか、多くの健康本や雑誌記事・連載を執筆。二児の父でもある。ブログ「由流里舎農園」は日本野菜ソムリエ協会公認。X(旧Twitter)も更新中。

参考資料:
・千葉県歯科医師会:大規模災害発生時における口腔ケア活動の意義と実際.
・足立了平:東日本大震災-口腔保健の重要性について(ver.2).2011.
・中久木康一ほか:災害における歯科専門職の役割.J Natl Inst Public Health, 57(3), 225-233: 2008.
・日本歯科医師会:歯みがき、お口のケアはあなたの命を守ります!(ポスター).

 

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