目次
「春眠、暁を覚えず」とは?
まずは、「春眠、暁を覚えず」の読み方と意味、語源を押さえておきましょう。
読み方と意味
この言葉は、「春眠、暁を覚えず」と書いて、「しゅんみんあかつきをおぼえず」と読みます。「春は寝心地が良いので、夜が明けたことに気づかず、つい寝過ごしてしまう」という意味を持つことわざです。
由来・語源
「春眠、暁を覚えず」は、7~8世紀の中国・唐王朝の孟浩然(もうこうねん)という詩人による『春暁(しゅんぎょう)』と題された詩(以下に引用)の冒頭部分に由来しています。
春眠不覚暁(しゅんみんあかつきをおぼえず)
処処聞啼鳥(しょしょていちょうをきく)
夜来風雨声(やらいふううのこえ)
花落知多少(はなおつることしるたしょう)
<現代語訳>
春は寝心地がよく、夜明けにも気づかなかった。
鳥の囀りがそこかしこから聞こえてくる。
昨日の夜中は激しい雨風が聞こえていたので、
花も多少落ちてしまったかもしれない。
春の朝ののどかな心持ちが伝わってくる詩ですね。全文を読んでみると、「春眠、暁を覚えず」のニュアンスも、よりイメージがしやすくなったのではないでしょうか。
「春眠」は時候の挨拶にも頻出する言葉
「春眠」は、「春の快い眠り」という意味で、単体で使うこともある言葉です。
「拝啓 春眠の候、貴社におかれましてはますますご清栄のこととお慶び申し上げます」のように時候の挨拶で用いられこともあります。「春眠の候」は「暖かくなり、寝心地が良くなる春の季節ですね」というニュアンスの挨拶なので、春にお便りを送る際にはぜひ使ってみましょう。
使い方を例文でチェック!
ここからは「春眠、暁を覚えず」の使い方を、例文を通してチェックしていきましょう。
1:「春眠、暁を覚えず」というように、春になると朝起きるのが一段とつらい。
春のぽかぽかとした陽気になると、寝心地が良いあまりに「起きるのがつらい」と思う朝もあるのではないでしょうか。そんなとき、このように「春眠、暁を覚えず」を使うことができます。
2:仕事柄、「春眠、暁を覚えず」とも言ってられず、365日毎日早寝早起きをしている。
そうは言っても、春だろうと冬だろうと寝坊できない方も多いですよね。そんな時は「“春眠、暁を覚えず”とも言ってられず」のように、否定形で用いてみてはいかがでしょうか。
類語や言い換え表現は?
では、「春眠、暁を覚えず」にはどのような類語があるのでしょうか。以下では、言い換えに使える類語をご紹介します。
1:朝寝(あさね)
「春眠、暁を覚えず」の代表的な類語のひとつとして、「朝寝」が挙げられます。「朝寝」とは、「朝遅くまで寝ていること」。春の季語として、俳句でもよく用いられる言葉です。「春眠、暁を覚えず」のように春に限定した言葉ではありませんが、遅くまで寝てしまう点において、似た言葉と言えます。
2:寝過ごす
「朝寝」と同様に「寝過ごす」も言い換え表現として使うことができます。「寝過ごす」とは、「起床時間を過ぎても寝ていること」を表した言葉です。こちらも春に限定した言葉ではありませんが「春の陽気が気持ちよくて寝過ごしてしまった」といった使い方をすれば、「春眠、暁を覚えず」と同じ意味を言い表すことができます。
3:春はあけぼの
「春はあけぼの」とは、清少納言『枕草子』の冒頭に、以下のように登場する一節。「春は夜明けに趣がある」といった意味を持ちます。
「春はあけぼの。やうやう白くなりゆく山ぎは、すこし明りて。紫だちたる雲のほそくたなびきたる。」
<現代語訳>
春は夜明けに趣があって良い。山の際がだんだんと白くなって、少し明るくなり、紫がかった雲が細くたなびいている。
春の朝を讃えている点において「春眠、暁を覚えず」と似た言葉と言えます。ただし、春の寝坊しやすさを表しているわけではないので混同しないように注意しましょう。
対義語は?
「春眠、暁を覚えず」には、明確に対となる「対義語」は存在しません。ここでは、対義語のイメージに近い表現をご紹介します。
1:寝も寝られず(いもねられず)
「寝も寝られず」は、不安や心配ごとなどによって「眠ることもできない」という意味を持ちます。春の寝心地の良さを表した「春眠、暁を覚えず」とは反対の意味を持つ言葉と言えるのではないでしょうか。季節を選ばずに使うことができます。
2:輾転反側(てんてんはんそく)
「輾転反側」とは、「何度も寝返りをうつこと」を意味する言葉です。「寝も寝られず」と同様に、心配ごとや不安、もしくは恋する人を思ったりして眠れない様を表せます。こちらも季節を選ばずに使うことが可能です。
英語表現は?
「春眠、暁を覚えず」は英語ではどのように言い表すことができるのでしょうか。最後に、近い意味を持つ英語表現をお伝えします。
1:Spring sleeps without dawn.
“Spring sleeps without dawn. ”は、「春眠、暁を覚えず」=「春の眠りに夜明けは来ない」とシンプルに直訳した表現です。一般的に使われる言葉ではありませんが、このことわざを紹介する際などに用いることができるのではないでしょうか。
2:In spring, we are liable to oversleep without noticing dawn breaking.
“In spring, we are liable to oversleep without noticing dawn breaking.”とは、「春になると、わたしたちは夜明けに気づかず寝過ごしてしまいがちだ」と、やや説明的に「春眠、暁を覚えず」を訳したものです。格言・ことわざ的なニュアンスは失われますが、意味は伝わりやすくなります。
寝心地の良い春の陽気。ただ「眠い」と言うのではなく、慣用句を用いてみては
今回は「春眠、暁を覚えず」の意味や使い方、関連語までを一挙にお伝えしてきました。この言葉にあるように、春の寝心地の良さは格別ですよね。ただ「眠い」と言うだけでなく、「春眠、暁を覚えず」のような慣用句を使って表現してみるのも乙なものではないでしょうか。
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文・構成/羽吹理美