「アメリカ大統領選挙」の仕組み、説明できますか? 赤い州と青い州の意味とは? 意外と難しいルールを徹底解説【親子で学ぶ現代社会】

2024年は、アメリカ大統領選挙が行われる年です。日本の選挙と仕組みが異なるため、初めて見る人は混乱してしまうかもしれません。アメリカの地図が赤や青で色分けされる理由や中間選挙が示す意味など、大統領選挙のルール・豆知識を紹介します。
<上画像:選挙演説中のジョー・バイデン大統領(2020年2月) Photo by Gage Skidmore from Surprise, AZ, USA, Wikimedia Commons>

アメリカ大統領選挙の仕組みとは?

アメリカは大統領を国家元首とする「大統領制」です。大統領の任期は4年で、誰が大統領に選ばれるのかは世界中の関心事といえるでしょう。

2024年は、アメリカ大統領選挙の年です。「日本の選挙とどう違うの?」「選挙のルールが知りたい」という人のために、選挙の仕組みを解説します。

選挙人を通じて候補者を選ぶ「間接選挙」

アメリカ大統領選挙は4年に1回で、夏季オリンピックの開催年と同じ年に実施されます。日本の国政選挙や地方選挙は、有権者の投票によって当選者が決まる「直接選挙」ですが、アメリカでは間接選挙が採用されています。

間接選挙とは、「選挙人」を介して候補者を選ぶ方法です。候補者名が書かれた投票用紙にチェックを付けて投票するケースもあり、一見、直接選挙のように見えるかもしれませんが、実際は有権者の投票によって選挙人が選ばれ、その選挙人が候補者に投票する仕組みを取っています。

民主党と共和党の一騎打ちがほとんど

アメリカ大統領選挙では、最初に各党内で候補者を1人に絞り込みます。過去の事例を見ると、民主党と共和党の2大政党の一騎打ちがほとんどです。民主党員でも共和党員でもない人物が、大統領に選ばれるケースはめったにありません。

近年は、2大政党のいずれも支持しない「無党派」の国民が増えています。世論調査企業「Gallup」の調査によると、無党派の割合は約4割です。アメリカ大統領選挙は、無党派が2大政党のどちらに投票するかで勝敗が決まると言っても過言ではありません。

出典:Party Affiliation | Gallup Historical Trends

プロセスは大きく2段階

アメリカ大統領選挙は、「党内での候補者の絞り込み」と「本選挙」の2段階で実施されます。2024年の大統領選挙のスケジュールと全体の流れを記載します。

●2024年3月5日:予備選挙
●2024年7月15~18日:共和党大会(共和党候補を正式に指名)
●2024年8月19~22日:民主党大会(民主党候補を正式に指名)
●2024年11月5日:大統領選挙の投票がスタート(本選挙)
●2025年1月20日:大統領就任式

大統領になりたい人が立候補した後は、予備選挙や全国党大会などを経て、党内で候補者を絞り込みます。本選挙では、各党の全国党大会で指名された候補者が、各州の選挙人の票を獲得していく流れです。

上段の「党内手続き」の段階は、両党がそれぞれ、だれを指名するのかを決める期間。公式の「選挙」ではない。本選挙も日本の選挙のように「告示」や「公示」はないため、選挙運動をいつ始めるかは候補者次第

党内の候補者を絞り込むまでの流れ

ここからは、アメリカ大統領選挙の流れをプロセスごとに見ていきましょう。本選挙に先駆けて、まずは党内の候補者を1人に決める必要があります。大統領になりたい人が立候補を表明した後は、「予備選挙・党員集会」と「全国党大会」を経て党内の候補者が決まります。

予備選挙・党員集会

党内の候補者を絞り込むに当たり、州や地域ごとに「予備選挙」または「党員集会」を実施します。

●予備選挙:有権者が支持する候補者に票を投じる形式
●党員集会:党員同士の議論によって候補者を絞り込む

予備選挙が行われるのは、2月または3月上旬の火曜日です。予備選挙と党員集会が集中することから、「スーパーチューズデー(Super Tuesday)」と呼ばれます。

予備選挙や党員集会では、全国党大会に出席する「代議員」を選びます。代議員とは、一般党員の代理人となる人物です。全国党大会では代議員の直接投票によって、党内の候補者が決定されます。代議員の数は州や地域ごとに決まっており、実質上、獲得数が最も多かった人が党内の候補者となります。

全国党大会

7~8月に行われる全国党大会では、全国の代議員が投票し、党内の候補者を正式に決定します。選出された候補者は、副大統領候補者を指名します。

各党の候補者選びは、全国党大会前にほぼ決着がついているため、全国党大会は「候補者を売り込むためのセレモニー」といってもよいでしょう。

2024年の全国党大会の開催予定地は、民主党がイリノイ州シカゴ、共和党がウィスコンシン州ミルウォーキーです。候補者選びの様子は、全国に広く中継されます。

本選挙の流れ

全国党大会で指名された各党の候補者は、その年の11月に行われる「本選挙」で対決します。アメリカは間接選挙を採用しているため、有権者が選ぶのはあくまでも「選挙人」です。本選挙の流れとポイントを見ていきましょう。

州ごとの選挙人の獲得(一般投票)

本選挙における有権者の投票は、「一般投票」と呼ばれます。日本の選挙は日曜日が一般的ですが、アメリカ大統領選挙は11月の第1月曜日の翌日の火曜日です。

このときに選ばれるのは、有権者の代表である「選挙人」です。選挙人とは「特定の候補者に投票する」と誓った人々を指します。より多くの選挙人を獲得した候補者が、大統領に当選する可能性が高いといえるでしょう。

2024年アメリカ合衆国大統領選挙の選挙人分配数。2020年国勢調査に基づいて配分  by Chessrat – File:Electoral College 2020.svg, CC0, Wikimedia Commons

選挙人の数は538人で、各州の人口などに応じて人数が割り振られています。各候補者は「勝者総取り方式」か「比例分配方式」によって、選挙人を獲得していく流れです。

●勝者総取り方式:一般投票で1位になった候補が、その州の選挙人を全て獲得する
●比例分配方式:得票数によって選挙人を割り振る

比例分配方式を採用するところもありますが、大部分の州では勝者総取り方式を採用しています。

2012年のカリフォルニア州一般選挙の郵送投票用紙と、候補者や選挙項目に関する公式ガイド Photo by JunatLA , Wikimedia Commons

有権者による一般投票に続き、選挙人投票が行われます。各州で選ばれた選挙人は、12月の第2水曜日後の翌月曜日に集まり、投票用紙に大統領と副大統領の名前を記入して投票します。

大統領になれるのは、538票のうち過半数である270票を得た候補者です。翌年1月6日に連邦議会で投票結果が集計され、正式に大統領と副大統領が決まります。任期は選挙翌年の1月20日から始まります。

有権者の代表である選挙人は、その州で最多得票の候補者に投票しなければなりません。過去には選挙人が一般投票結果と異なる候補者に投票し、州から罰則を科されたことがありました。

覚えておきたい大統領選挙のルール

全体の流れを見ても分かるように、アメリカと日本では選挙の方法が大きく異なります。アメリカ大統領選挙を理解する上で覚えておきたいルールを、三つ紹介しましょう。

大統領と副大統領がセットで決まる

アメリカでは、大統領候補と副大統領候補がセットで決まるのが特徴です。選挙活動は2人を一緒に売り込む形で展開され、投票者は大統領を選ぶというよりも、「大統領+副大統領」のコンビに投票します。

2015年当時の大統領バラク・オバマと副大統領のジョー・バイデン Photo by The White House from Washington, DC, Wikimedia Commons(PD)

大統領が不測の事態に陥ったときは、副大統領が大統領に昇格します。大統領の代行は責務が重いため、国民によって選ばれた人物でなければならないのです。

大統領・副大統領の候補者になるための条件は、「アメリカ生まれであること」「アメリカに14年以上住んでいること」「35歳以上であること」です。副大統領には、大統領の弱みを補える人物が選出されるケースが多いでしょう。

投票には「有権者登録」が必要

アメリカでは、18歳以上であれば投票権が得られます。ただし、事前に「有権者登録」を行わなければなりません。有権者登録とは、地方政府が管理する名簿に自分の名前を載せてもらう手続きです。

引っ越しをした場合は、住まいのある選挙管理委員会で再登録をする必要があります。手続き方法は州によって異なり、オンラインや郵送に対応しているところもあれば、窓口のみのところもあるようです。

有権者登録を行う主な理由は、本人確認の厳格化によって選挙の不正行為を防ぐためです。一方で登録方法が複雑だと、投票率の低下につながる可能性が指摘されています。

勝者不在の場合は議会が決定

両候補が引き分け、または票の過半数を獲得できない場合は、どのような方法で大統領を決めるのでしょうか?

アメリカの国会には上院と下院があり、大統領は改選後の下院議会で選出されます。州の代表が1票ずつ投票し、26票を獲得した候補者が大統領になる流れです。副大統領は、上院議会が選出します。

前大統領の任期終了までに新たな大統領が決まらない場合は、副大統領または下院議長が代行します。

●上院議会で副大統領が決まっていれば、副大統領が大統領代行を務める
●副大統領が決まっていなければ、下院議長が大統領代行を務める

アメリカ大統領選挙の豆知識

「アメリカの地図が赤と青で色分けされるのはなぜ?」「スイング・ステートはどんな意味?」など、アメリカ大統領選挙に関する豆知識を紹介します。

2016 年から 2020 年の大統領選挙の得票率の平均。赤は「レッド・ステート(red state)」で、青い州は「ブルー・ステート(blue state)」。上図で灰色の州は 2020 年に勢力が反転した州 By Born Isopod, Wikimedia Commons

選挙期間に、アメリカの地図が赤い州と青い州に色分けされているのを見たことがある人も多いでしょう。内陸部は赤、東西海岸部は青に色付けされる傾向があります。

赤い州は「レッド・ステート(red state)」といわれ、共和党が優位の州を指します。共和党は、保守派でイメージカラーは赤、シンボルはゾウです。奴隷制度の廃止を訴える人々によって結成された党で、最初に選出された大統領はエイブラハム・リンカーンです。

共和党のシンボル

青い州は「ブルー・ステート(blue state)」といわれ、民主党が優位の州を指します。保守派の共和党に対し、民主党はリベラル派です。歴代大統領には、バラク・オバマやビル・クリントン、ジョン・F・ケネディなどがいます。

Democratic Party(民主党)から取った「D」が民主党のロゴですが、国民に広く認知されているシンボルはロバです。

民主党のシンボル

「スイング・ステート」とは何を指す?

スイング(swing)は、英語で「揺れる」を意味する単語です。両党の支持者が拮抗し、勝利政党が変わりやすいことから、スイング・ステート(swing state)という名前が付きました。

赤と青を混ぜた紫にちなんで、「パープル・ステート(purple state)」と呼ばれる場合もあります。日本語では、「激戦州」や「注目州」と訳されることが多いでしょう。2024年の大統領選挙のスイング・ステートとして、以下のような州が挙げられています。

●アリゾナ州
●ウィスコンシン州
●ジョージア州
●ネバダ州
●ノースカロライナ州
●ペンシルベニア州
●ミシガン州

ニュースでよく聞く「中間選挙」とは?

中間選挙とは、連邦議会の上院・下院の議員選挙や州知事選挙などを指します。中でも最も注目されるのが連邦議会の議員選挙で、上院の1/3と下院の全てが改選されます。

中間選挙と呼ばれる理由は、4年に1回行われる大統領選挙のちょうど「中間」に実施されるためです。実施は2年ごとで、実施日は11月第1月曜日の翌日の火曜日とされています。直近では、2022年11月8日に行われました。

対抗馬がいない中間選挙は、いわば現大統領に対する「評価の場」であり、2年後の大統領選挙の行方を知る材料ともいえます。中間選挙で野党が大多数となれば、困難な政権運営を迫られるでしょう。

アメリカ大統領選挙の仕組みは複雑

アメリカ大統領選挙の仕組みは複雑で、いくつものプロセスを経る必要があります。選挙人による間接選挙を採用しており、有権者の得票数の多さで当選が決まるわけではありません。基本のルールを押さえておくと、選挙の全体像が把握しやすくなります。

次のアメリカ大統領選挙の投票日(一般投票)は、2024年11月5日です。夏頃に各党の全国党大会が開かれ、共和党と民主党の候補者が正式に決まります。誰がアメリカ大統領になるかによって、世界の流れが変わるでしょう。今後の動向に注目しておきましょう。

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構成・文/HugKum編集部

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