子どもがトラブルに巻き込まれた時、「モンペ」にならない先生への伝え方は?「早めのお願い」「事実確認」など、学童・保育園側に聞いた鉄則とホンネを直撃

とかくコミュニケーションは難しい。それが家族の世話をしてもらっている相手なら、なおさらです。たとえば、子どもを預けて働いている親御さんが、帰ってきて子どもの様子がおかしかったり、預けている保育園・学童保育に不安があったり、子どもからもめごとの訴えがあった時など、先生やスタッフにどんな風に伝えればいいのでしょう。ただでさえ悩ましいのに、モンスターペアレント(モンペ)に思われたらどうしよう、気を悪くしてその後の子どもの生活に支障が出たらどうしよう…。

子どものために気になることや不安を伝えたくても、悩んでしまう親は多いと思います。そんな時、どのように意向や不安を伝えればいいのか。保育園や学童クラブを長年経営してきた佐藤陽子さん(50代)に聞いてみました。

経営者サイドの本音「事実を早めに、冷静に、相互のリスペクトをもって」

「大切なお子さんを預けて働くご両親が、いろんなことに不安を感じるのは当然のことです。私自身、いつも思うのは、何か不安があったり、問題を感じた時には、最初の段階ですぐに相談してほしいということです。

割とみなさん、我慢や遠慮をして、ためてためてものすごくお怒りになった状況や、保育園や学童クラブに不信感を募らせた状況で初めて連絡してくださることが多いんです。

時間がたって状況が悪化していたり、大事になると、解決に時間がかかってしまう。また保護者の方も『あの時もそうだった。またあの時も』と、それまで我慢してきたことで、施設側に不信感が積み重なっているので感情的になる方も多く、いいことはありません。お子さんの話や様子で心配があれば、すぐに伝えてくれるのが一番解決が早いし、互いにしこりが残らないと私は思っています。

正直、よほどのことがない限り、モンスターペアレントと思ったり、お話を軽んじることはないですよ。上記の通り、物事は最初の段階で解決したいので。でも親御さんたちがその言い方・伝え方に悩むのも当然。

また確かに、スタッフも先生も人間ですから、保護者の方の言い方によって、へこんでしまったり、逆にがんばって保護者の方の気持ちにこたえたい!と前向きになったりと、気持ちの変動はあります。

まずは事実を確認しあうところから

「あくまでも私の経験からですが、やはり困るのは、すごく感情的になってしまって、自分の言い分だけを繰り返し、こちらの話をまったく受け入れてくれない方です。大切なお子さんへの心配や、預ける施設への不安があるときに、冷静に話をするのは難しいことではあると思いますが、まず事実関係をベースにお伝えください。

そのことをもしこちら側が把握していなければすぐに調べますし、もし把握していることなら、こちらが日常見ていることをお話しますので、その事実をいったん受け入れてほしい。そのうえで対策を考えたいと思います。興奮していて、こちらの話をまったく聞いてくださらないこともありますが、それでは話がすすみません。

また、お子さんを信じるのはとても大切なことですが、時に子どもは親に嫌われたくなかったり、怒られたくなかったりとさまざまな理由からおうちで嘘をつくことがあり、事実関係が違っていることもあります。

お子さんが『あの子に殴られた』といった場合、やり返していることもありますし、弱く見える子も案外反撃しているなど、その場で何があったかはわからないものです。また、その時以外は、その子のほうがいじめていることが多いのに、自分がやられたときだけ親に訴えるお子さんもけっこういますし、子どもはいつも親にすべてを話すわけでもありません

もちろんお子さんのお話を尊重することはとても大事なことですし、園や学童に不信感が芽生えた時にも、ぜひ相談してほしいですが、問題解決に向けて、事実関係の共有は必須だと思います。日常的にスタッフや先生が観察したり、もめた時には事実関係なども調べていますので、ぜひこちらの話にも一度耳を傾けてほしいと思います。そのうえでまた確認と観察をしながら、早期に解決していきたいです。

職員への「指示」「断罪」はNG

「こちらに伝えていただくときの言い方や姿勢で一番困るのは、対応を命令されることですかね。こうしてください!とご自分の気持ちややり方をスタッフに上目線で命令されたり、注文されても、その対応には限度があります。

園や学童の対応に要望がある場合、命令や注文ではなく、ご提案や『こうしていただけたらありがたい』とご希望の形など、基本は『伺いをたてる』姿勢がスムーズにいく手段かと思っています。

また、自分の子どもを特別扱いしろといわれても、それも残念ですが、できません。もちろんできるだけ注意して見守りますし、何か問題が起きている状況では常にスタッフも気にしています。でも『絶対に子どもから目を離さないでください』『お金を払っているんだから、100%子どもを見ていろ』など言われても、1対1でお子さんを見られるわけではないし、保育園や学童のシステムの中で、それは限度があることもご理解いただきたいです。

さらに言えば、トラブルのあった子ども個人の特定やそのご家族に会わせろと言われたり、それをやったスタッフは誰?と執拗にスタッフ個人を特定しようとすることも困ります。個人情報は安易にもらせない世の中ですし、問題がおきた時はスタッフ個人ではなく、園やクラブ全体の責任で対処したいと経営側からは考えています。

「ゴールの共有」を目指し、最低限の思いやりをもって

「具体的にどんな風に伝えてもらうのがいいかというと、物事によっては違いますが、基本的にはまず、うちの子がこのようにいっています、と親御さんが聞いたり見たりしたことをベースにお話しください。

そしてご自身が園や学童に希望することを『こうしていただけたらありがたい』とか、『こうしていただけたら、助かります』という感じでいっていただくと、スムーズかと思います。さらにその後に、『心配なんです』『不安なんです』と付け加えていただけると、保護者の方が、文句をいいたいわけではない印象になりますし、こちら側も『心配なのね、なんとかしてあげたい』という気持ちにさらになります。

緊急事態は別ですが、欲をいうと、最初に『こちらもたくさん子どもがいて本当に大変だと思いますが』などこちらの状況を思いやっていただける発言があると、私など『状況をわかってくださっているのね。ありがたい』という感謝の気持ちがわいた状態で、お話が聞けます。先生やスタッフも人間ですから、やはり感情的に文句をいわれたり、ののしられたりすればつらいですし、そういうことの積み重ねで心療内科に通うことになるスタッフもいます。

もちろん、親御さんがたとえモンスターペアレントでも、お子さんへの対応は変えてはいけないし、変わらないと思います。ただスタッフも人間なので、あまりにも保護者の方が感情的にののしったりすることが多かったら、やはりその保護者の方を見る目は変わらないとは言えません。もし無意識に子どもさん同士のけんかなどの時にその子の味方をしてもらえないことなどにつながったりするといけないので、やはり乱暴な物言いはしないにこしたことはない気がします。

捨て台詞も、案外、言われたほうは刺さるので、言わないことをおすすめします。

何かあったら親が動く姿勢が、子どもに安心感を与える

「前述の繰り返しになりますが、とにかく、ちょっとでも不安だったり、心配事があればすぐに相談してください。保育園や学童は、保護者の方がお子さんを預けて安心してお仕事にいかれるようにするためにあります。不安や問題は、なるべく早く解消して、安心して働いていただきたいと我々は考えています。

また、子どもが親御さんたちに、たとえばいじめられたとか、なぐられたなどを話した時に、親御さんの段階で我々に遠慮して話をとめないほうがいいです。それはどんな小さなことでも、子どもが訴えたことで、親がきちんと動いてくれたことを、子どもは見ているし、覚えています

もしいじめられていたとして、保育園や学童に遠慮して親が行動を起こさなかった場合、子どもはとても傷つき、あの時、お父さんお母さんが自分を守ってくれなかったという思いを抱き続けることになり、禍根を残します。子どもを守るためにも、心配ごとは遠慮せずに、早めにご相談ください。

保育園は、さまざまな知識を勉強し、資格を持った保育士がいます。いっぽう学童クラブの見守りスタッフは資格がない方も多いですが、40人以下の児童を預かる場所では、放課後児童支援員という資格保持者を最低一人はおかなくてはいけない決まりがあります。その資格をとる段階で、子どもの人権や虐待防止や保護者対応など、様々なことを学びますし、近年は市町村や都道府県から、いろいろな研修を受けることを推奨され、見守りスタッフたちも日々グレードアップしています。

それでも、先生やスタッフに話しても状況が進まなかったり、対応に不満がある場合は、経営者に直接いってくださってかまいません。またどこの園や学童クラブも、『苦情・相談ダイヤル』のようなものがあると思うので、そこに相談するのも手です。

モンペに思われたらどうしようなど怖がらずに、ぜひ早めに相談にきてくださいね」

学童・保育園の職員への伝え方第4条と、保護者としての鉄則1条

ここまでの佐藤さんの談話から、以下のポイントをまとめました。下記を参考に、保護者としてすみやかでスムーズな対応に役立ててください。

<伝え方のポイント>

●心配事やトラブルは早い段階ですぐに相談! 時間がたてば状況が悪化する可能性も

●感情的にならずに「事実ベース」で、子どもと職員双方の話に耳を傾けて

●命令ではなく、伺いをたてたり希望を述べる姿勢が効果的

●執拗な個人特定や、ののしり言葉、捨て台詞はNG

 <保護者としての鉄則>

●相談に遠慮は無用。子どもが勇気を出して告げたことにはすぐ対応して

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取材・文/田中亜紀子 ※画像はすべてイメージです

【取材協力】
佐藤陽子さん(仮名)…保育士資格取得。保育園勤務を経て、東京近郊で保育園と学童クラブを計10数年営む。一児の母。親の気持ちと子どもの気持ち双方に寄り添った保育と目指し、保護者の方に、安心して子どもを預けて働いていただきたく、日々奮闘中。

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