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字が読めない頃からたくさんの本に触れてきた
―読書が好きになった理由を教えてください。
まだ字を読めないような頃から、母が、家の隣の図書館で開かれていた読み聞かせ会に私をよく連れて行ってくれたんです。そのおかげで小さな頃から本に触れる機会がたくさんありました。幼稚園くらいになると、読み聞かせで面白かった本を図書館で探して借りるように。母が言うには、絵本のさし絵や写真に私がオリジナルストーリーをつけて喋っていたみたいです(笑)
―子どもの頃から創作の芽が出ていますね。小学校でも本は好きだったのですか。
小さい頃から本に囲まれた環境で育ったことが、小説家としての活動に大きな影響を与えたと思います。小学校に入ってからは、活字の本を読むようになりました。低学年の時に学校で怖い話が流行ったときにはまったのは小泉八雲です。高学年になるにつれて、子ども向けの世界の名作や日本の名作、簡単な古典も好んで読むようになりました。
―難しくありませんでしたか?
難しい言葉に注釈が入っていたり、イラストがついていたりしたのでとても読みやすかったです。もともと読み聞かせでたくさんの話を聞いていたので、分からない言葉を補いながらでも本の世界にすっと入れたのだと思います。
追体験が読書の面白さ。「人間の本質は昔から同じ」
―中学、高校になると、読書離れが加速してしまう人が多いですが、るりかさんはいかがでしたか。
読書への興味は今に至るまでずっと続いています。本を読んでいると、他の人の生活や生き方に入り込める感じがしてとても面白いですね。中学生になって古典の授業が始まると、そこから興味を持ち、拾遺(しゅうい)ものを読むようになりました。芥川龍之介も古典作品からインスピレーションを得て作品を書いていますよね。古典は昔に書かれた物語ですが、人間の本質は昔から変わらないんだなと感じられるところに面白さがあります。
古典から翻訳物まで幅広く読む
―読むジャンルもどんどん広がっていったのですね。
そうですね。高校ではさらに、海外の翻訳作品も読むようになりました。新聞の書評欄に掲載されていた作品の中で、読んでみたい本を探しました。読みやすいという点で魅力的な短編集が好きです。
14歳で小説家デビュー。「書く」と「読む」のサイクルが心地よい
―中学2年の時に出版された『さよなら、田中さん』(小学館)が10万部を超えるベストセラーとなりました。小説家デビューしたことで、どんな影響がありましたか。
デビュー当時は目の前のことに夢中で、あまり深く考えていなかったのですが、本を書かなければ今の自分はなかったと思います。デビューしたことで、多くの人との出会いや経験が得られ、成長することができました。早稲田大学を目指したのも、多くの著名な作家さんが早稲田大学出身なので、「作家と言えば早稲田」というイメージが私の中にあり、ずっと憧れていたからです。
―書くことと読むことは別の活動のようですが、書き始めると読書に対する向き合い方が変わりましたか?
小説を書くようになると、本を読んでいて心惹かれる表現に目が留まったり、書く側の視点で本を読むようになったりしました。いつも、本を読んでいると自分でも書きたくなり、書いていると、他の本も読みたくなってくるというサイクルです。
―本当に本がお好きなんですね。小説を書くのは大変ではありませんか?
一種のストレス発散でしょうか(笑)。書くことが精神を安定させる手段になっています。書いている時の万能感が好きなんです。その小説の中では、作者がすべてをつかさどる「神」ですから。
没入して書き上げた後は、これ以上ないくらいの爽快感で満たされます。この感覚が癖になって、書き続けているのかもしれません。
実は作文が苦手!形式を決められると書きにくい
―作文で悩むみなさんに、ぜひ書き方のコツを教えてください。
実は、作文は苦手なんです(笑)。こうやって書くという型が決まっているので書きづらくて……。
―先生に書き直しをさせられたことも?
あります。小学4年生、二分の一成人式の時に書いた将来の夢についての作文です。私が冒頭に、「1歳から9歳までは、1つ、2つ、9つみたいに全部〝つ″がつくけど、10からは〝つ″がつかないから、10歳になったことで、気持ちの変化があった」と書いたところ、担任の先生に、「ここは余計だから、私の将来の夢は○○です」という書き出しに統一してください」と言われて書き直したことがあります。
―面白い書き出しだと思いますがどこがダメだったのでしょうか。
作文の型にはまっていなかったのだと思います。作文ってこういう決まりごとがあるんだと、苦い気持ちになったのを覚えています。
―るりかさんにとって、小説と作文の違いを教えてください。
作文には決まりごとが多いですが、小説にはこれを書かなければならないという制約がありません。最後までまったく改行なし、とか、全編セリフだけという小説もあります。作文ではやってはいけないことが、小説ではよいとされる自由度があるので、小説を書くのは好きです。
「つまらない」も立派な感想。自分の気持ちに正直になって
―夏休みの宿題で多くの人が頭を抱える読書感想文ですが、るりかさんはいかがでしたか。
私の学校では、読書感想文ではなく、本のタイトル、作者、簡単な感想を書く欄のある読書ノートをつける課題が出されていました。
―読書ノートを書くときに大切にしているポイントは何ですか?
感想を正直に書くようにしていました。つまらなかった、よく分からなかったというマイナス面もそのままに。それを小学生くらいから高校生になってもつけていたので、よい習慣になっていたかなと思います。
―正直な感想を書くことが大切なんですね。
読書感想文に、感動したことや学んだことを書かなくてもいいと思います。つまらなかったと感じたのであれば、どこでそう感じたのか、なぜつまらなかったと思うか、などを掘り下げて考えていけば、それが感想文になります。その時々に感じたことをメモに取ったり、付箋に書いて貼ったりしながら、読み進めるといいと思います。
読み終えてそのメモや付箋を並べてみると、自分がどんな感情を抱いたか、どこに引っかかったか視覚的にとらえられるので、今度はそれを整理し熟考、再構築して文を書いていけばいいんじゃないかな。自分の心がその折々に感じたことを、素直に正直に書いた感想文は人の心に届くと思います。
こちらの記事ではるりかさんの早稲田大学受験への道のり、将来の夢などを伺っています。
花実母娘のルーツとなる祖母の壮絶な人生譚。
花実は中学三年生となった。進路を考える年頃。そして、ほんのり初恋の気配も。そんなある日、花実の母・真千子がひったくりの被害に遭う。その事件から、花実は「金」に対しての意識がより強くなり、よりシビアな中三となる。事件の犯人が判明するが、それは予想外のほろ苦い結果に。
プロフィール
2003年、東京都生まれ。小学4年、5年、6年時に3年連続で、小学館主催の『12歳の文学賞』大賞を受賞。2017年10月、14歳の誕生日に『さよなら、田中さん』でデビュー。12万部を超えるベストセラーに。
その他の作品に『14歳、明日の時間割』、『太陽はひとりぼっち』、『私を月に連れてって』、『落花流水』がある。詳細はこちら
現在、早稲田大学社会科学部3年生在学中。漫画研究会に所属。
取材・文/黒澤真紀 撮影/五十嵐美弥