「ダメ!」と叱るのも「すごい!」とほめるのも悪影響? 見直したい、子どもの「ほめ方」「叱り方」。教育研究家の島村華子先生に聞く

毎日の生活の中で、子どもをほめたり叱ったりは日常茶飯事。でも、その言い方が逆効果、悪影響のときもあるんです。「ダメ!」と頭ごなしに言うのはよくないというのはなんとなくわかります。でも、「えらい!」「上手!」「すごい!」も悪影響? えーっ!? 普段何気なく言っているけれどよくない「ほめ方」「叱り方」の口ぐせ、見直してみませんか? 教育研究家の島村華子先生がヒントを与えてくれます。

「ダメ!」と叱ると自分を否定されたと感じてしまう

――子どもを叱るときの「ダメ!」と、ほめるときの「すごい!」。どちらも悪影響というのは、どういう理由でしょうか。

島村先生(以下、島村):ほめること、叱ることそのものが悪いわけではないんですよ。その使い方が課題です。

――では、まずは叱り方から教えてください。

島村:子どもの行為が危険で、本人や相手、まわりの環境に危険を及ぼすようなときは注意して知らせねばなりません。道路に飛び出そうとしているときなどは即座に止めないといけないので、そんなときは大声で「ダメ!」はやむを得ませんよね。

でも、そのような緊急事態を除けば、頭ごなしに「ダメ!」と言うことは避けたいです。子どもはいきなり「ダメ!」と言われると、その行為ではなく、「自分自身を否定された」と感じてしまうのです。なぜよくないのかの理由も理解できないまま、ダメージを受けます。

「ダメ!」と言われると子どもは戦闘モードになるか、無力感を感じる…

島村:そして、「ダメ!」「やめて」「違う」といった言葉を聞き続けると、脳が脅威を感じて戦闘モードに入り、フラストレーションが爆発しやすい状態になります。

――たしかに、「ダメ!」と親が叱ると、怒ってもっとひどい行為をすることがありますよね、それが戦闘モードなのですね。

島村:あるいは、自分の能力ややり方を否定されたと感じ続けると、「自分には力が足りないからどうせできない」という無力感を覚えるようになり、「次は成功しよう」という意欲をなくしてしまいがちです。

たとえば、自分で麦茶を注ごうとしてこぼしたとき、「なにやってるの、ダメじゃない!」などとつい言ってしまいますね。でも、子ども側からすれば、わざとこぼそうと思ったわけではありません。 子どもが何かするときには、たいていないかしらの意図があります。それが上手にできなかったり、勘違いしていたりするときに、大人の目から「失敗」に映ります。

島村:「ダメ!」と口走る前に、子どもが何をしたかったのか、何を言いたかったのかを理解し、ありのままの子どもを受け入れた上で、手を差し伸べてあげましょう。「●●しようと思っていたんだよね」「さあやろう!ってがんばる気持ちで始めたんだよね」といったん子どもの行為を肯定した上で、なぜうまくいかなかったのかを自分から考えられるように導きたいものです。

また、失敗したのは設備や環境のせいかもしれないので、幼くてもできるように環境を整えてあげることも大事なのです。お茶をこぼさないように、子どもでも持ちやすいポットや注ぎやすいマグを用意するなど、工夫の余地はありますよね。

「おざなりほめ」「人中心ほめ」は「ほめられ依存症に」

――次にほめ方についても教えてください。「すごい!」はなぜダメなんでしょうか。

島村:最近は「ほめ伸ばし」が子育ての主流になっていて、「すごいね!」「えらいね!」をたくさん言うのがいい、というような風潮があります。しかし、ほめ方によっては不安やプレッシャーを与えることもあるのです。

ほめ方にも種類があり、私は次の3つに分けています。

①おざなりほめ

内容がどうかの具体性がなく、表面的なほめ方をする。

例)「すごいねー」「上手―」

②人中心ほめ

性格、能力、外見といった表面上の特徴を中心にほめる。

例)「やさしいね」「頭がいいね」「かわいいね」

③プロセスほめ

努力、過程、試行錯誤した手順を中心にほめる。

例)「がんばって最後までやりきったね」「失敗してもあきらめなかったね」「いろんな方法を試したね」

島村:たとえばごはんをこぼさずに食べた子に「すごい、すごい」と言うだけなのが①のおざなりほめ、「おりこうさんだね」が②の人中心ほめ、「こぼさないようにスプーンの持ち方を変えてみたのね」というのが③のプロセスほめになります。

――その中で問題そうなのが①のおざなりほめ、②の人中心ほめですか?

島村:そうですね。①や②のようにほめられ続けると、「ほめられ依存症」になることがあります。ほめられないと自信が持てず、外部からの承認でしか自分の価値を見いだせなくなります。また、ほめられることに快感を覚えて「どうしたら次もほめられるかな」という考えが優先になりがちです。つまり、ほめられるためだけに行動してしまう傾向があります。チャレンジ精神やモチベーションが低下することもあるのです。

大事なのは子どもを尊重し、親子がフラットな関係でいること

――なるほど、ただほめればいいわけではないのですね。叱ることもほめることも、やり方を間違えてしまうと子どもの自主性を奪ってしまうのですね。子育ては難しい……。

島村:みなさん、親になるときの準備期間はそんなに長くないですし、子育てを学ぶ学校もないですから、最初からうまくはいかないですよね。わかっていてもブレることもあります。それは人間ですからあたりまえですよ。

私もモンテッソーリ教育1の教員になりたての頃、早く文字を書き終わった子に「すごいね! 早かったね!」とほめたことがありました。そのあとその子どもは毎回のように一目散に作業を終わらせて私のところに見せにくるようになりました。私にほめてほしいがために「早く終わらせること」だけに集中するようになってしまったのです。

島村:その後、私は動機理論に基づく子どもとの効果的な関わり方について研究を行うために渡英。博士課程ではモンテッソーリ教育とレッジョ・エミリア教育2の効果について研究を行い、子どもの発達に影響を与える要因を調べました。

モンテッソーリとレッジョ・エミリアそれぞれの教育方法にはカリキュラムの有無などの違いがあります。が、マクロな視点で見たときにはとてもよく似ています。それは、「子どもに対する絶対的な尊敬・尊重を基盤にしている」ということです。子どもは権利を持っている有能な市民。子どもは大人より「下」の存在ではなく、持ち物でもありません。

*1 医師であり教育家であったマリア・モンテッソーリ博士が考案した教育法。「子どもには、自分を育てる力が備わっている」という「自己教育力」の存在が前提
*2 イタリアで実践されているものは子どもたちをさまざまことができるという前提でとらえ、チームで教育に取り組むことを徹底している。

――子どもと大人は対等な関係、尊重し合う関係ということですね。

島村:そうした尊重し合う立場であれば、先に述べたような頭ごなしの「ダメ!」や本人の意思やプロセスを見ずに言う「上手!」「かわいい!」は、子どもへの対応としてふさわしくないとわかりますよね。特に、ほめて物などを与えること、叱って罰を与えること、つまり賞罰は子育てには不要です。

――では、どんなほめ方、叱り方をすればいいでしょうか次回詳しくお伝えします。

後編はこちら

「ほめ方」「叱り方」はこうするとOK!教育研究者・島村華子先生が伝授する「子どもに圧をかけず、前向きになれる声かけ法」
前編では、「子どもを尊重すること」を子育ての基本として子どもと付き合い、声かけをすることを教えていただきました。 ほめているつもり...

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お話を聞いたのは…

島村華子さん
島村華子|モンテッソーリ&レッジョ・エミリア教育研究者
オックスフォード大学 修士・博士課程修了(児童発達学)。モンテッソーリ&レッジョ・エミリア教育研究者。カナダのモンテッソーリ幼稚園での教員を経て、現在はカナダの大学にて幼児教育の教員養成に関わる。著書に『アクティブリスニングでかなえる最高の子育て』(主婦の友社)、『自分でできる子に育つ ほめ方 叱り方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)などがある。

     

    取材・文/三輪泉 

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