前編では、「子どもを尊重すること」を子育ての基本として子どもと付き合い、声かけをすることを教えていただきました。
目次
ほめているつもりで、実はプレッシャーをかけているかも…
――実際にどんな「ほめ方」「叱り方」をしたらいいのか、その例を教えてください。まずは、ほめ方から……。
島村先生(以下、島村):ほめ方については、こんな例があります。子どもがお手伝いをしたときを想定しています。○と×の理由がわかるでしょうか。
島村:前編では、「すごいね!」というような内容に関連しない表面上の「おざなりほめ」や、その子の性格、能力、外見といった表面上の特徴をほめる「人中心ほめ」はあまりよくないというお話をしました。
×の「さすがお兄ちゃんだね」は、そうした「おざなりほめ」に加えて、大人の勝手な期待の押しつけのほめ言葉です。下に弟や妹がいない場合でも「お兄ちゃんだね」「お姉ちゃんだね」と大人が言うことがありますが、こういうときは、「ものわかりのいい子」を期待しています。繰り返していると、子どもがお兄ちゃんらしく、お姉ちゃんらしくふるまわなかったら愛情がもらえないと考えてしまう可能性があります。
自覚をもってもらいたいという大人の気持ちもわかりますが、子どもによっては大きなプレッシャーです。その子自身が考えて行動したことに対して声をかけてあげましょう。真ん中の○がその言い方のいい例です。
島村:そして、「一緒にやったら早く終わったね」は、お手伝いをしてくれたから早く終わった、という大人の子どもに対する「ありがとう」の気持ちが含まれていて、子どもはさらに自分のやったことに対して満足感を覚えるでしょう。
一番左の「お手伝いでいちばんがんばったことは何?」は、質問形です。子どもはこうした問いを投げかけられることで、自分は何についてがんばったのか、しっかりと自覚することができます。さらにそれが早く片付くことに結びつき、保護者に感謝されたのだという道筋を理解できます。
子どもはただ「えらいね!」「すごいね!」とほめられただけでは、自分の言動のどこがよかったのかを自覚しにくいのです。質問をすることで、自分の工夫を自覚するのに役立ちます。
うまくできない子を叱るのではなく、「一緒にやろう」と声をかける
――叱り方はどうでしょうか。
島村:おもちゃを片付けず部屋をちらかしているときの叱り方です。子どもがおもちゃを片付けないのはよくあること。「だらしない!」と決めつける前に、子どもが片付けをしやすい収納環境が整っているか、確認してみましょう。おもちゃを種類別に分類できる棚に収められるようになっているか、子どもでも片付けやすい棚の高さなのか。子どもの目線で確かめるといいでしょう。
島村:「一緒に片づけてみようか」は、ひとりでは片付けたくない、片付け方が上手ではない子に、手を差し伸べます。一緒にやり、収納のしかたなどもさりげなく伝えてやり方を理解させれば、子どももだんだん上手に片付けられるようになります。その上で、上手にできたプロセスを挙げてほめてあげるのもいいでしょう。
また、「掃除機がかけにくいから、物が床にないと助かるな」は、片付ける理由について理解させる声かけです。自分がやりたくないからやらない、という自分目線から、そうしていると保護者の家事のさまたげになることを理解して、他人の困り事を自分事にするのです。その子なりに理解し、片付けることができたら、そのプロセスや気づきをほめましょう。
答えやすい質問を繰り返して、親子の会話をつむぐ
――ほめるときも叱るときも、その子がその子なりの考えでどんな行動をしたのかをとらえて肯定することが大事なのですね。
島村:そもそも、叱らなくても、「なぜその行動をしたのか」考えてもらえばよいことは多いですし、ほめるのも外的な評価を与え続けることが悪影響となると、ほめることも叱ることも本当はそれほど必要ないのかもしれません。
ほめるの例で「あなたがお手伝いで一番がんばったことは何?」という質問がありますが、こうした会話を続けながら、お互いの思いを理解していくということが大事なのではないでしょうか。
――でも、子どもは「あなたがお手伝いで一番がんばったことは何?」と聞いても、想定したような答えは返ってこなくて、いいかげんに答えたり、「わかんなーい」で終わってしまったりしませんか?
島村:質問したら、親が想定するようなきちんとした答えが返ってくるという期待を手放す必要があります。思ったような答えでなくても、質問されたことを考える作業はするので、しばらくしたら子ども自身が自分で考えて理論立てて話せるようになるかもしれない。期待しないで待っていましょう。
それより気軽に話せる経験をたくさん積み重ねたほうがいいです。お子さんにとって、親は話しかけやすい存在でありたいです。忙しいかもしれませんが、寝る前や食事中などに、何を話してもOKな時間をつくりましょう。そんな心理的安全を与えてあげたいですね。
イヤイヤ期の2歳には叱らずに「できる!」を味わわせてあげよう
――ところで、先生の理論は3歳から12歳のお子さんに適用されるということです。では2歳児だったらどうなのでしょうか。なんでもイヤという「イヤイヤ期」は、特に叱りたくなりますが……。
島村:イヤイヤ期は「自分でやりたい」という自己主張の時期です。それがうまくいかず、かんしゃくを起こしたり大泣きしたりします。大変だと思いますが、子どもの自分でやりたいという心理的ニーズを満たし、「できる」形にして気持ちを満たしてあげたいですね。
うまく食べられないのに自分でフォークを使って食べたがる、というときには、なんとか自分で刺して食べられるような食材を調理してあげるとか。ごはんをこぼして大変というのなら小さなおにぎりにするとか。自分で食べられた、という感覚を持てるような工夫を、保護者がしてあげると、子どもも自分でやりたい欲求が満たされます。
島村:モンテッソーリ教育でも、例えばジャンパーのジッパーを自分で上げたい、という子のためには、最初の留め具のところだけ整えてあげて、引き上げるのは自分でできるように工夫しましょう、というふうに子どもが自分でできるようにサポートします。
2歳児は論理的に説明しても、それを解釈して受け止めるほど脳が発達していません。説明するよりは、「ここから先はやってね!」「このあとは●●ちゃんの番だよ!」と、どこから自分でやるのかがわかるようにしてあげるといいでしょう。
そして、自分でやって、「やったぞ!」というニーズが強い時期ですから、うまく食べられたら「こぼさずに食べられたね!」、うまくジャンパーのジッパーを上げられたら「シューッとうまく上げられたね、これで寒くないね」というふうに「プロセスほめ」をしてあげましょう。
親は子どもの先々を思い、叱ったり不安になったりしますが、子どもはその日、その瞬間を目一杯生きています。そのことを忘れずに、一緒に「今」を大切に過ごせたらいいですよね。
自分でできる子に育つ ほめ方叱り方
ディスカヴァ―・トゥエンティワン
1,650円(+税)
Amazonで購入する≫
取材・文/三輪泉