「ベーシックインカム」って何? 基礎知識から課題まで分かりやすく解説【親子で学ぶ現代社会】

さまざまな社会課題を解決するシステムとして、近年注目を集めているのが「ベーシックインカム」です。ベーシックインカムとはどのような制度なのか、実現するとどのようなメリットがあるのかなどを解説します。子どもと一緒に知識を深めましょう。

ベーシックインカムとは

経済ニュースをよく見ている人でなくても、「ベーシックインカム」という言葉は聞いたことがあるのではないでしょうか。しかし、ベーシックインカムについてきちんと理解し、有効に使える人はそう多くありません。ベーシックインカムについて知り、活用するためにも、まずはベーシックインカムの基本について解説します。

国民みんなが等しくもらえるお金

ベーシックインカム(Basic Income)とは、国民や住民一人一人に、その国や地域で生活に必要な最低限の金額を定期的に支給する制度です。

ベーシックインカムは「BI」もしくは「UBI」と略されます。生活保護や雇用保険などとの違いをはっきりさせるため、海外では「BI」に「Universal(普遍的な)」を付け、「UBI」と表現するのが普通です。

ベーシックインカムという言葉は世界中に広まっていますが、「これこそがベーシックインカムだ」というルールはありません。「国民や住民にお金を支給する」という部分以外は、導入する国や地域が自分たちで決めていきます。

生活保護との違い

「国民にお金を支給する」と説明すると、多くの人がイメージするのが「生活保護」でしょう。生活保護制度とベーシックインカムの大きな違いは、対象者に条件を設定しているかどうかです。

生活保護では、どれだけお金を持っているかやどれだけお金を稼げるかなどを調べ、生活保護を支給する条件に当てはまっているか確かめます。一方でベーシックインカムは条件を作らず、全ての国民に平等にお金を支給します。

また、受け取るのに手続きが必要かどうかも大きな違いです。生活保護は役所に足を運んで手続きをしないともらえませんが、ベーシックインカムは手続きせずとも手に入ります。

既存の所得保障とベーシックインカムとの違い。ベーシックインカムは誰に対しても平等に一定額が支給されるイメージ

ベーシックインカムが注目される理由

ベーシックインカムが関心を集めるようになったきっかけを解説します。特に、世の中の変化や事件が関係していることは把握しておくことが重要です。

新型コロナウイルスの世界的な流行

ベーシックインカムを求める声が大きくなったきっかけとして挙げられるのが、新型コロナウイルスの感染拡大です。

新型コロナウイルスが流行したことにより、世界的に景気が悪化しました。景気が悪くなると街に増えるのが仕事をなくした人です。ロックダウンによる働く時間の制限により、大幅な収入減少となった人も現れました。彼らは突然、個人の努力ではどうにもならない貧しさと向き合うこととなったのです。

「もしベーシックインカムのような制度が作られていれば、貧しさに苦しんでいる全ての人を救えるのに」と考えられ、制度の導入を求める声が大きくなりました。

AIが仕事を奪う時代の到来

AIのレベルアップも、ベーシックインカムに関する議論を活発化させた原因の一つといえます。AIとは「Artificial Intelligence」の略で、日本語では「人工知能」と訳されます。人間が行う「考える」という行為をコンピューターに行わせる技術がAIといえるでしょう。

AIがどんどん成長していくと、やがては人間が行っていた仕事を奪うだろうと考えられています。AIが人間の仕事を奪ってしまえば、仕事を失う人が出てくることは避けられません。AIの発達により、仕事を失うことになった人をお金の面で支えるシステムとして注目されているのが、ベーシックインカムです。

ベーシックインカムのメリット

ベーシックインカムを導入すると、社会のあり方が大きく変わるため、苦しんでいる多くの人々を救えるといわれています。導入により期待されるベーシックインカムのメリットを3つ紹介します。

貧困に苦しむ人を救える

生活に必要な最低限の金額をベーシックインカムとして全国民に支給すれば、収入や貯金の少なさによって苦しんでいる人を救うことができるでしょう。

例えば、働いているのに生活が楽にならない「ワーキングプア」の状態になっている人は、ギリギリの生活を続けているにもかかわらず、生活保護を受けられる収入よりも少しだけ多い収入を得ているため、生活保護を受けられません。

ワーキングプア状態にある人が条件なしでお金を受け取れるようになれば、何も困らない生活を支えるだけのお金が手に入るので、苦しい生活から抜け出せるでしょう。

国民全てに現金を支給するベーシックインカムがあれば、貧しさに苦しんでいる全ての人を支援できるといわれています。

子どもを生み育てやすくなる

ベーシックインカムの実現によって、人々の間にお金の余裕が生まれれば、子どもを生み育てやすくなる効果が期待できます。

国立社会保障・人口問題研究所が2021年6月に行った「第16回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)」によれば、理想の数の子どもを持たない理由として最も選択率が高かったのは、「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」(選択率52.6%)でした。

世の中には「お金がかかるから子どもを生むのが難しい」と感じていて、子どもを生みたいにもかかわらず、その思いをぐっと押し殺し、仕方なく「子どもを諦める」という選択肢を取る人が確かにいるのです。

定期的に現金を支給して国民全員をお金の面で支えることで、「子どもを生みたい」と考えている人の背中を押せる可能性があります。

出典:第16回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査) 第Ⅱ部 夫婦調査の結果|国立社会保障・人口問題研究所

働く環境が良くなり働きやすくなる

ベーシックインカムを導入すれば「生活するために働く」という現実を変えられるかもしれません。

ベーシックインカムの制度化により救われるのは、働く人を大切にしない会社・ブラック企業に勤める人です。ブラック企業に勤めている人の中には、忙しすぎるあまりに「仕事を辞める」という考えが浮かばず、ブラックな働き方から逃げられずにいる人がいます。

ベーシックインカムを導入して「生きるために働かなくてもいい世の中」をつくれれば、簡単に今の仕事から離れて、「自分が気持ち良く働けること」を一番に考えた仕事選びができるようになる可能性があります。

人々の仕事の選び方が変われば、働く環境が整っていない企業は経営できなくなっていくでしょう。結果として、日本全体の働く環境が良くなっていくと考えられています。

ベーシックインカムが抱える課題

実現すればさまざまなメリットが期待できるベーシックインカムですが、導入には課題もあります。数々の壁を超えられなければ、ベーシックインカムの制度化は難しいでしょう。ベーシックインカムの課題を解説します。

元となるお金をどうやってつくるか

ベーシックインカムを制度化するには、ベーシックインカムの元となるお金が必要です。資金がなければお金を配ることはできません。

日本の人口を1億2,000万人とし、国民1人当たりに月10万円のベーシックインカムを支給するとなると、1年で144兆円の予算が必要と計算されています。2024年度の予算案では、一般会計の総額が112兆5,717億円となっています。ベーシックインカムを実現するには、国家予算と同程度かそれ以上のお金が必要ということです。

出典:令和6年度予算のポイント|財務省

すでにある社会保障制度とのバランスをどうするか

日本にはすでに、年金・生活保護・児童手当・雇用保険などさまざまな社会保障制度があります。これらの社会保障制度と同時にベーシックインカムを制度化すると、「ベーシックインカムと年金」のように二つのお金をもらう「二重給付」が発生してしまいます。

二重給付が発生すると、ベーシックインカムしかもらっていない人から不満が出てくる可能性は否定できません。一歩踏み込んで、二重給付をなくすためにすでにある社会保障制度をやめてしまえば、今度は年金や生活保護などを受け取っていた人から反発が起きる恐れがあります。

労働へのやる気を奪うことにつながらないか

ベーシックインカムを支給すると「生きるために働くこと」から人々を解放するので、生きるためだけに働いていた人から、「働くことへのやる気」を奪ってしまうかもしれません。

ベーシックインカムは、働いていても働いていなくても支給されるお金です。そのため実現すれば、「働かなくてもお金がもらえるのに働く必要なんてある?」と考える人が一定数出てくるでしょう。

他方で、ベーシックインカムを導入すると、純粋に「自分の好きな仕事」を選べるようになるため、働く意欲が上がると予測する意見もあります。

ベーシックインカムを導入している国や地域

ベーシックインカムは「夢物語」のように語られるケースがよく見られるシステムです。しかし世界に目を向けると、ベーシックインカムを取り入れている国や地域があります。ベーシックインカムを本格的に、または実験的に導入している国や地域を紹介します。

アメリカ・アラスカ州

ベーシックインカムを実験的にではなく、地域の一制度として運用しているのが、アメリカ合衆国のアラスカ州です。アラスカ州で実行されているベーシックインカムは、「アラスカ恒久基金」と呼ばれます。

アラスカ恒久基金では、アラスカ州の土地から掘り出された原油を売ったお金を元に、その約25%を基金として積み立てる制度です。基金の一部をアラスカ州に住む人に「配当」として支給します。配当が配られ出したのと同じ頃からアラスカ州の出生率が上がったのは、アラスカ恒久基金がスタートしたからだと指摘されています。

フィンランド

国単位でベーシックインカムを実施している国は、今のところありません。しかし、社会実験として試験的に導入した国はいくつかあります。代表的な例の1つが、2017年から2年間にわたり実験を行ったフィンランドです。

フィンランドで行われた社会実験では、25歳~58歳の失業手当を受け取っている人の中から2,000人を選び、失業手当と同じ額のお金(毎月560ユーロ:日本円なら約8万8,000円)を条件なしで支給しました。結果的には、ベーシックインカムを受給した人の心の健康状態や、生活の質が改善したと報告されています。

出典:The Basic Income Experiment 2017–2018 in Finland. Preliminary results

イギリス

イギリスでは2023年6月、ベーシックインカムの社会実験を行う考えが発表されました。

イギリスで行われる実験は、イングランドの二つの地区に住む住民を対象に、実験参加を希望する住民からランダムに対象者を選び、毎月1,600ポンド(日本円なら約29万6,000円)を2年間支給するというものです。

支給されるお金の使い道は自由とされ、支給されている間に働くか働かないかも自由です。実験の結果として、「住民の自立を後押しする」「住民の健康状態を向上させる」「犯罪を減少させる」などの効果が期待されています。

出典:Universal basic income of £1,600 a month to be trialled in two places in England | Universal basic income | The Guardian

日本でのベーシックインカム実現は課題が多い

社会を良い方向に導く可能性を持つベーシックインカムですが、その実現には多くの課題が山積みになっています。ベーシックインカムを「夢物語」のままで終わらせないようにするには、課題を解決してくれるアイデアが必要です。無限に広がる可能性の中から、社会全体が幸せになれるようなアイデアを探していくことが求められます。

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構成・文/HugKum編集部

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