7人にひとりの子どもが貧困の日本。「学習支援」が経済的に厳しい子たちの人生を変える!【認定NPO法人キッズドアインタビュー】

中学受験、私立学校の入学などで悩むパパママがいる一方、明日の食事もままならない家庭が数多くあります。「そんなの一部でしょう」「アフリカの話でしょう」と思うかもしれません。が、私たちが想像する以上に、日本には困っている家庭はたくさんあります。そんな家庭の子どもたちに向けて、13年間も学習支援を続けてきた認定NPO法人キッズドア。なぜ学習支援をするの? それで子どもたちはどう変わる? 理事長の渡辺由美子さんに伺ってみました。

イギリスでは子どもの教育にお金がいらなかった

認定NPO法人キッズドア理事長・渡辺由美子さん

HugKum編集部:2007年にキッズドアを創設された理由を教えてください。

バブル終わりかけの1990年代、私は忙しく働いていました。終電で帰ることも多かったですが、やりがいに満ち、充足を感じていました。その後妊娠し、フリーランスとなり、専業主婦に近い形で出産。毎日マーケティングだのなんだのやっていたのに、社会からかけ離れた感じがして、むなしさも覚えました。

そんな折、夫の仕事の関係で2人の子どもを連れ、1年間イギリスに行くことになったんです。当時のイギリスはブレア首相率いる政権で、教育や子育てに手厚い政策がとられていたこともあり、日本とはかなり違う環境でした。

全く費用が必要なかったイギリスの小学校

まず、子育てにお金がかからない。長男がちょうど小学校に上がるときだったんですが、入学に際しての準備に、費用がまったく必要ありませんでした。学校に「何をそろえたらいいのですか?」と聞いても、「なにもなくて大丈夫です」という答え。

日本だったら、たとえ公立の小学校だとしても、ランドセルを買ってやらないと、と思ってしまいますよね。筆箱や文具も必要です。長男が行く学校はグレーのズボンや白のポロシャツなど、学校のマークが入った制服があるのですが、「これはあくまで標準服。あなたのお宅は1年しかイギリスに滞在しないのだから、買うのはもったいないです。お手持ちの服でいいですよ。連絡帳を渡すので、これを学校と家庭の連絡に使ってください。それだけです。あ、給食はありますけれど、お弁当でもいいんですよ」と言われました。

日本に帰国すると、困っている家庭の意外な多さに気づく

キッズドアの学習支援では、小学生から高校生まで約2000人が学ぶ *学習場面などの写真はすべて2019年以前のもので、コロナ禍以降は生徒・講師ともマスクを着用し、適度な距離を保ち学習をしていました。

HugKum編集部:それは本当に助かりますね。

基本的に学校に行くことに経済的な負担を求めない。学校から集金は1回もありませんでした。給食費は徴収しますけれど、所得が少ない家庭の給食は無料でした。ドリルや書道セットみたいな、追加の教材費を取られることもありませんでした。必要なものはバザーで集めたり寄付を募ったり、そうしたお金であてることも多いのです。

イギリスにはもちろん、経済的格差があります。でも、困っている家族に義務のようにお金を出させることはありませんでした。子どもは平等に学校に通うことができます。では、日本はどうだったのか。

 帰国して感じた、日本の貧困家庭の教育事情

帰国して子どもたちの学校のPTAなどに関わってみると、決してご本人はそういうそぶりを見せないけれど、「経済的に厳しいかもしれない」と感じるご家庭がありました。そういうお宅では習い事をしないのはもちろん、土日や夏休みのおでかけもなかなかできない様子。お子さんは学校を休みがち……。子どもって、体験活動がないと自分が何が得意なのかもわからない。勉強に自信が持てないだけでなく、自分自身にも自信が持てなくなり、だんだん遅れていってしまうような感じ。「そんな子どもたちのためになにか、やりたいな」、そう思いました。百貨店でマーケティングや宣伝もやったし、出版の仕事にも手を染めました。何か私がお役に立てることがあるかもしれない、と。

当時は日本の子どもを支援する団体がまったくありませんでした。いろいろ調べてみても、海外の支援ばかりでした。ならば、日本の子どもたちを助ける団体を作ろうと。わからないことはたくさんありましたが、意欲だけは高く、始めたのです。

日本では7人にひとりの子どもが「貧困」という事実

指導者の多くは、大学生や社会人のボランティア

HugKum編集部:日本は「一億総中流」とも言われ、「貧困」という意識がうすいですよね。

 でも、20089月のリーマンショックで、その潮目が変わりました。世界的な金融危機で、仕事を追われる人たちが出てきて、家庭に影を落とします。ガマンして真面目に働いていれば家が建つ、というような「中流神話」がくずれたのです。

2009年に厚生労働省は「相対的な子どもの貧困率(その国や地域の水準など、相対的な基準で比較して、大多数よりも貧しい状態)」を出しました。これが非常に高くて15.7 %。6.4 人にひとりの子どもが貧困という計算になりました。その後、子どもの貧困率は少し改善しましたが、最新の2018年のデータでも13.5%、7人に1人の子どもが貧困状態です。日本経済は右肩下がりで、最近では給料が上がらず物価が上昇している状態なのはご存じの通りです。

教育格差は経済格差。でも子どものチャンスは平等にすべき

塾タイプ、英語学習会、居場所タイプなど多様な学習会で子どもたちの「場」を提供している。

HugKum編集部:最近では食事がままならない子たちのために、子ども食堂もたくさんできました。渡辺さんが「貧困」の課題を「学習」に絞り、支援を続けていることの理由を教えてください。

文科省の調査の結果を見ても、親の所得と学力がひもづくのは明確なんです。たとえば、家庭の年収が1000万円以上だと、高卒で就職する子はほとんどいません。200万以下だと就職率すら下がります。子どもの将来が親の年収で決まるのは、倫理的にもよくない。

どんな家庭に生まれても貧困レースから抜け出すチャンスは平等にないと子どももがんばれないですよね。だからこそ、勉強を教える。塾に行けない子たちに、無料で勉強する場を作って子どもの将来を作っていくことが大事だと思っています。

医師や看護師になりたい子どもたちの支援もスタート

「日本の子どもたちの貧困問題は思った以上に深刻」と語る渡辺さん。

HugKum編集部:医師など医療職になりたい子どもたちのために、メディカルコースも作られました。

医学部はお金がかかるから、学力があって「医師になりたい」と思っていても、貧困家庭だと「無理だよ」と言われてしまうケースがあります。なんとか応援したいと思いながら今までの支援の枠組みではやりきれなかったのですが、SBCメディカルグループ(湘南美容クリニックなどを運営)代表の相川佳之先生にお伝えしたところ、「それ、やりましょう」と言ってくださったんです。医学部、薬学部、看護などを目指す子のために特化した学習会を誕生させました。

学力のある子は、勉強を教えるというより、場所を提供することが大事。週に5日くらい学習スペースをあけていて、簡単な食事も出します。また、問題集や参考書は無料で貸し出し、模擬試験代を補助するなど、経済的支援も組み入れました。通信制チャレンジ校に行っているような子が看護の専門学校を目指すこともあるので、そういう子には勉強の仕方から教えます。そうすると、目標があるからすごく勉強をし始めるんです。このメディカルコースは今年もかなりいい結果が出ています。

子どもたちの話をきくと、学習支援そのものがうれしかったのはもちろんのこと、「『夢をあきらめさせない、医学部に行きたいならがんばろうよ』って言ってくれる人たちがいることがよかった」と言ってくれます。

働けない家庭に食料や文具をサポートする「ファミリーサポート」も

2019年、宮城県で行った植樹イベントにて

HugKum編集部:お子さんだけでなく、パパママの支援もするのですね。

「ファミリーサポート」はコロナ禍を経て始めた事業です。たとえば飲食店などに勤務する人たちは、働きたくても働けませんでした。正社員はまだいいけれど、非正規職員は仕事に行かないと給料が出ません。給付金だけでは一時しのぎです。

なんとかしければと思い、食料品や文具を送りました。寄付もいただきましたし、足りないところは、キッズドアの内部留保分をだいぶ使いました。孤立して不安を抱えている家族のみなさんが「ここにつながると少し安心」と思っていただけたら、と。

貧困と言われる家庭には、パソコンがない場合が多いです。スマホはあり、LINEでつながることはできるけれど、情報弱者でもいらっしゃるので、必要な情報が届きにくいです。私たちがメールやLINEを使ってさまざまな情報をお伝えすることも重要だと思っています。

貧困に苦しむ家庭に私たちができることは…

HugKum編集部:子どもをなんとか健康にと育てられている家庭の保護者が「社会全体で子どもを育てる」ために、できそうなことはどんなことがあるとお考えですか?

まわりの子どもたちを見てみるっていうことが重要かな、と思います。「私のまわりには貧困家庭なんてないわ」っておっしゃる方がいるけれど、一人親の家庭の貧困率は481%、半分近くにもなるのです。日本は貧困であることを見せないために、着るもの持ち物にすごく気を遣っています。でも、「実は大変」ってあるんですよ。みんなで遊びに行こうとなると、「あの子は行かないんだよ」って。あるいは、あの子はすごく忘れ物が多い、先生に「持ってきなさい」と言われたものを持ってこないとかね。そういうところで気づくことも大事です。

そして、お子さんとお話をするときに、「いろんなおうちがあるから、それが悪いわけじゃないよね」って、温かいまなざしを向けてほしい。学校の中でマウンティングがあったり、成績が悪いなどで居場所がなくなっている子がいるかもしれない。仲のよい子の家が、実はそうなのかもしれない。この問題を「知る」ということが、まずはとても大事です。

また、できたらクラウドファンディングとか、年末年始の食料支援とか、お子さんご自身のお小遣いの中からも、ほんの少額でもいいから寄付に参加するのもよいですね。本当にできる範囲で、無理をしない形で参加してみると、ご家族の視点も変わると思います。

経済的に困ったことがあれば、迷わず行政に行ってほしい

HugKum編集部:経済的に苦しく、子育てに困難を抱えている家庭は、どんなアクションをすればいいとお考えですか?

役所の子ども支援の係や生活保護課にどんどん相談してほしいですね。日本の行政は、自分でアクションをしないと支援してもらいにくい仕組みです。困っていることは、自分で訴えていかないと、なかなか手を差し伸べてもらえないんですね。

「お金がないからダメなんだ」って、自分をダメだと思っている人がいますが、当然ながらお金のあるなしと人間性の善し悪しはイコールではありません。お金がないからあきらめる必要はないし、お金がないのは仕方ないからこそ、悲観することもありません。自分たちのせいではないのだからと気持ちを切り替えて、アクションをしてほしいと思います。

キッズドアでは個人の寄付やクラウドファンディングなども実施しています。詳細はこちら

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お話を伺ったのは

渡辺由美子(わたなべ・ゆみこ)さん
認定NPO法人キッズドア理事長。千葉県千葉市出身。千葉大学を卒業後、大手百貨店、出版社 を経て、フリーランスのマーケティングプランナーとして活躍。配偶者の仕事により1年間のイギリス滞在を体験した後、2007年に任意団体キッズドアを設立(2009年にNPO法人化)。「日本のすべての子どもが夢と希望を持てる社会へ」をビジョンに掲げ、小学生から高校生世代の貧困家庭の子どもたちを対象とした無償の学習会の開催やキャリア支援などの活動を、東京とその近郊、宮城などで展開している。内閣府「子供の貧困対策に関する有識者会議」構成員など国の有識者会議等の委員も務める。

取材・文/三輪 泉

今回の記事で取り組んだのはコレ!

  • 1 貧困をなくそう
  • 4 質の高い教育をみんなに

SDGsとは?

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