公立小の放課後英語教室から学ぶ「おうちで英語が話せるようになる環境づくり」を佐藤久美子先生に聞いた!「ゴールは英語で日常のコミュニケーションができること」

「えいごのまちだ」をキャッチフレーズに、英語教育に力を入れる東京都町田市では放課後に小学校の教室を使って全12回の「放課後英語教室」を開いています。2~5年生の希望者を対象に、無料で楽しく英語を学ぶ機会を作ってくれるなんて、うらやましいですね! このレッスンを参考にすれば、我が子が英語を効果的に楽しく学ぶコツが得られそうです。実際に町田の正課の授業や放課後英語教室の教材制作をしている玉川大学名誉教授・佐藤久美子先生に、楽しみながら深く学べる英語教育のヒントを伺いました。

「話せた! 通じた!」と実感すると英語は楽しくなる

「間違ったら恥ずかしい」なんて思わずに話せる雰囲気づくり

玉川大学・大学院 名誉教授の佐藤久美子先生。2016年より町田市の放課後英語教室を主宰。

――町田市の「放課後英語教室」はとても楽しそうですね。大きな画面でイラスト満載のスライドや楽しい動画を見ながら、発音したり、歌ったり。

佐藤久美子先生 そうですね。「放課後英語教室」に通った子どもたちに毎年アンケートをとっているのですが、とても好評です。

「学校の授業がわかるようになった」

「英語をもっと学びたくなった」

「外国の人と話したい」

と、前向きな意見がたくさん寄せられます。85~90%が「またやりたい」と答えて、翌年も希望して授業を受けているようです。

先生とも積極的に英語で話す

放課後英語教室では、話すことのハードルが低いんですよね。「間違ったらいやだな」と思わずに自分が思ったことを言えるし、言ったら拍手をしてもらえる。子どもは自分が「I like pink!」と言ったら、友だちや先生が「Me too! 」と言ってくれるのも、共感してくれるとわかってうれしいんですね。

放課後英語教室のゴールは「日常生活で英語が話せるようになること」

単語やゲームより、対話やプレゼンテーションを通して「英語で思いを伝え合う活動」に取り組む

放課後英語教室では先生と英語で話す。自然とアクションも大きくなる

佐藤先生 単純に単語を発音するだけでは言葉のやりとりができず、「話せた」実感はわかないものです。また、子どもたちが楽しめるようにとビンゴゲームなどゲームをたくさん取り入れると、楽しくてもやはり英語を話せたという実感が持てません。英語が好きになるには、「英語が話せた!」「通じた!」「返事をしてもらえた!」と、「できた!」実感を持つことが大事なんです。

それで、「放課後英語教室」では、「日常生活で英語が話せるようになりましょう」をゴールに、言語活動を入れるようにしました。

――言語活動とは?

佐藤先生 英語を使って思いを伝え合うのが言語活動です。練習とは異なります。さらにプレゼンテーションまでやろう、と。正規の授業は人数が多いので、なかなか一人一人の言語活動や発表までに重きを置けません。2020年4月からの学習指導要領では「言語活動を大切に」という流れになってきましたが、それを先取りする形で町田では友だちとの対話や一人ずつ行うプレゼンテーション、発表をいち早く、たくさん取り入れています。

体の動きを取り入れて、英語学習の集中力をアップ

ラップのような「チャンツ」が英語にはとても効果的!

先生が指を鳴らしながらリズムに乗って英語を発語していくチャンツの指導法。一緒に話す子どもたちもだんだんリズムに乗っていく

――「放課後英語教室」では歌も歌いますが、ラップのように音程がなく、単語をリズムに乗せて発音しているのが印象的でした。

佐藤先生 「チャンツ」ですね。「放課後英語教室」は2016年から始まっていますが、町田市では、それより前の2009年から、学校の正規の授業で英語活動をしていたんです。その当時から私はチャンツに注目していました。当時はチャンツを使った指導法に関心を持つ方は、ほとんどいなかったと思います。

歌でも楽しく英語を覚えられます。でも、メロディも歌詞も覚えないといけないので、お子さんによっては負担がかかります。その点チャンツはメロディがなく、リズムだけなので覚えもよく、発音力がアップするんです。英語ならではの強弱のトレスやリズムも自然に身につきやすいです。チャンツでリズムに乗ると体が動いてきます。体を動かしていると子どもは集中力が切れないんですよ。つまり、学習に集中させるためには、体を動かすといいんです。

チャンツ以外でも、たとえば、

Do you like apples?

と教師が聞くと、リンゴが好きな子どもは「Yes, I do.  I like apples. 」と言いながら立ち上がり、次に好きじゃない子どもが立って「No, I don’t.  I don’t like apples.」と言います。動きといっしょに言葉を発すると印象深くなるだけでなく、これこそ自分の意見を伝えているので、言語活動になるんですね。1人でも立って、自信を持って答えることができるようになります。

話したくなるのは自分のこと! 何が好きか聞いてあげよう

――子どもたちはどんなことを話したがりますか?

佐藤先生 子どもがいちばん話したくなるのは自分のことです。自分の思っていることを話したくなるものなんですよ。

What is this?  

This is a dog.

よりも、

Do you like dogs?

と「あなたが犬を好きかどうか」と聞かれた方が、話したくなります。もっと話したいのは自分の愛犬のことで、どうにか伝えたいと思い、犬の毛の色や大きさ、名前などいろいろ伝えようと前向きになります。

ですから、「放課後英語教室」でも何が好きか、聞くようなシーンを入れています。すると、2年生の子どもたちは、たとえば「I like this T-shirt.」と、自分の好みを伝えます。「And you? (そしてあなたは?)」と聞いて、「私も好き」と相手に共感してもらうとうれしいし、大勢が好きといってくれるともっと盛り上がります。ALT(外国籍のアシスタントの英語の先生)と話して、「I like this t-shirt, too.(私もそのTシャツが好きよ)」と言ってもらえると、「外国人と話ができた、イギリスにも行ける!」と感激して、心から楽しいと思えるんですね。だから、英語で話しかけるときは、その子自身のことを聞いてあげましょう。答えてくれたら「Wow!」 とか「That’s great! 」と言って共感してあげることが大切ですね。

子どもたちが「この色が好き!」と言ったら身ぶりもつけて「That’s great!」とリアクションする先生

5年生の「放課後英語教室」では、みんなの前で自己紹介ができたらgreat!

名前、年齢から将来の夢まで、全12回の授業で自分のことを伝える経験を

――2~4年生は楽しく英語活動をするということですが、5年生の正規の英語の授業では、国語や算数など他の科目と同じように、成績=評価がつきます。「放課後英語教室」の5年生ではどのようなことをするのですか?

佐藤先生 英語で自己紹介をします。といっても、最初からスラスラ言えなくていいんです。1回に1文だけ、たとえば最初は

My name is Hiroaki Suzuki.

だけでいいんです。その次に「何歳ですか?」「何年生ですか?」「どこに行ってみたいですか?」などの質問に少しずつ答えられるようになり、「将来こんな職業につきたい」というところまで、全12回の授業で自己紹介がしっかりとできるようになります。

5年生向けのworkbook。1回ごとに自己紹介の内容を決めていく

佐藤先生 今日は名前が言えた、次は年齢が言えた、好きな色が言えた。それで拍手してもらえるとうれしいですね。たくさん言える子、話したい子は1回に1文だけじゃなくて、さらにもう1文を自己紹介に入れてもいい。児童の個性やレベルに合わせた「個別最適な学び」も実現できます。

そして、11回目と最終回の12回目で、全員が1~10回の授業で練習した名前や年齢や好きなこと、そして将来の夢までを1人で全部話して、長い自己紹介をします。それがすべて言えたら、とても達成感があるし、みんなに聞いてもらい拍手をしてもらえて自信がつきます。

――5年生くらいになると自我が強くなって、人前で話すのはいやがりませんか?

佐藤先生 一般的にはそうなんですが、この放課後英語教室に通っている5年生は、「いちばん楽しい活動は?」という質問に、「発表(プレゼンテーション)」がいちばんにきます。間違っても心配いらない、みんなが聞いてくれてほめてくれる体験を通じて、発表に慣れてくるんです。さらに、自分のことを話す活動って、やっぱり楽しいんですよ。それに日本語ではなくて英語だから話しやすいというのもあると思います。みんな苦手な言葉だから、友だちに通じるようにしっかり話そうとする、相手意識も生まれますね。先生方も上手に導いてくれますから、発表もスムーズです。「大きい声でみんなの顔を見て話そうね」という指導もします。

英語でコミュニケーションができる=生きる力

話すことでコミュニケーションが生まれる

佐藤先生 こうして自己紹介することで、コミュニケーション力がつきます。「外国語を使うことでコミュニケーションの力を育てる」ことは、文部科学省が目指しているところです。英語で発表することでコミュニケーション力が育てられれば、国語の授業でも社会の授業でもきちんと発表することができます。

「コミュニケーション力は、生きる力」だと私は思っています。特に英語でコミュニケーションできれば、子どもたちの将来の可能性は広がります。スポーツの世界でも国際会議でも、自分の国だけでは解決できない問題は山のようにあります。仲間と共有したい話題もあります。世界中の人との共通の言語はやはり英語。世界共通語を身につけていれば、どんな人とでも仲良くなったり共に働いたりすることができます。いくらAIで翻訳ができるようになっても、人間同士が対話し、共感して一緒に活動するための、人対人のコミュニケーション力が必要だと思っています。

おうちでも子どもたちが英語を話せるような環境づくりを

リアクションを大事に! 親子で一緒に学ぶのが上達への近道

――では「放課後英語教室」がないほかの地域で、先生がおっしゃるような英語のコミュニケーション力をつけるにはどうしたらいいですか? 家庭でもできることはあるのでしょうか。

佐藤先生 3年生以上なら学校で英語を勉強してきますから「どんなことをやったの?」「英語でちょっと話してみて!」とまずは興味を持ってあげてください。そして、英語を話したら「That’s great!」 と英語で返したり、「発音いいね! ○○へ行きたいんだね! 。ママも○○に行ってみたい!」 とほめたり共感してあげましょう。ほめられたら、ますますやる気になります。

リアクション力って大切なんです。学校でもリアクションを大事にしています。お子さんが「I like apples.」と言ったら「Oh, you like apples!」と相手が言ったことを繰り返すと、わかってくれた、通じている、と感じます。そして「Me, too!」と言って共感したら、ますますうれしくなりますね。

幼児だったら、一緒に英語の動画を見たり、英語の歌を一緒に歌ったりするのでもいいですよ。英語のレッスン用のDVDがあったら、お子さんと一緒に発音すると、お子さんもやる気になります。コレを繰り返していたら、保護者の方もどんどん英語が話せるようになりますよ!

パパやママが楽しそうに英語を話していたら、お子さんも「英語って楽しいんだな」と思うようになります。親子で英語に親しんで、いつか世界の人たちとコミュニケーションを楽しめる親子になれたら最高ですね!

「放課後英語教室」
町田市全40校の2年生~5年生、各学年16~18名ずつ、およそ2500名の児童が、放課後に自分たちの通う小学校に残り、英語のプロの講師からレッスンを受ける。「えいごのまちだ」を目指す町田市の中心的な事業。

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お話を聞いたのは

佐藤久美子 玉川大学・大学院 名誉教授

玉川大学・大学院 名誉教授。全国各地の教育委員会や小学校の要請を受け、小学校英語のカリキュラムや教材作成を行うと同時に、教員対象の研修講座や講演を多数行う。2016年度より町田市教育委員会の委託を受け、「放課後英語教室」を主宰。NHKラジオ「基礎英語」の講師を8年勤め、2012年度よりNHK Eテレ「えいごであそぼ」「えいごであそぼwith Orton」「えいごであそぼMeets the World」の総合指導/監修、2017年度よりNHK Eテレ「エイゴビート」、2020年度より「エイゴビート2」の番組委員。

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