子どもは与えすぎると楽しみ方が「受け身」になりがちです
スイミングスクールとピアノ教室に通い、自宅では英会話教材のビデオを流し、休日には家族でキャンプや小旅行……。
好きなことや得意なことを見つけてほしいという気持ちから、親はつい、子どもにあれもこれもと与えたくなってしまいます。
もちろん、さまざまな経験をすることは、子どもの成長にプラスに作用することがほとんどです。でも、経験したことの種類や時間の長さに比例して、よい効果が現れるわけではありません。
大切なのは、子ども自身が「やりたい」「楽しい」と思える経験を重ねることです。
「遊んでいる」が「楽しんでいる」とは限りません

自分から求めなくても多くのものが与えられる状況だと、ひとつのことをじっくり味わいにくかったり、楽しみ方が受け身になったりしがちです。
また、たとえ親が考えつく限りのものを与えたとしても、その中に子どもが本当に好きなものが含まれているとは限りません。
絶対評価で好きなものがなければ、相対評価でどれかを選ぶのは大人も子どもも同じ。たとえば10種類与えたおもちゃの中から塗り絵を選んだからといって、その子が本当に塗り絵が大好きだとは言いきれないのです。
大人は「遊んでいる=楽しんでいる」と思ってしまいがちですが、目の前にあるからなんとなく遊んでみているだけ……ということもあります。
子どもの興味の対象を見極めたいなら、遊んでいるときの表情や態度に注目してください。「楽しそう」かどうかがいちばんのヒントになります。
子どもの自発的な行動は「足りない」環境からこそ生まれます

赤ちゃんは「高かったんだから、しっかり使わないともったいない」という忖度をしたり、「このおもちゃで遊んで空間認知能力を高めよう」などと考えたりはしません。だから、高価なおもちゃより庭で拾った石を喜ぶ……なんてこともよくあります。
選択肢は多いほどよい(More is berrer)というのは、大人のカン違い。赤ちゃんの力を伸ばすためには、むしろちょっと足りないぐらいがよいのです(Less is better)。
求めるものがその場になければ、子どもはあちこち探したり、「〇〇がほしい・したい」と自己主張したり、自分で作りだしたり、といった工夫をします。こうした自発的な行動こそ、子どもの発達を促すものなのです。
「やりたい」「ほしい」は、常に子どもファーストで
大人の役割は子どもに何かを「してあげる」ことではなく、やりたいことをしている子どもを応援することです。「やりたい」「ほしい」は、常に子どもファーストで。親が先回りしてあれこれ差し出すと、子どもの気持ちが置き去りになってしまうことがあります。
まずは子どもの様子をよく見ること。そして、子どもの求めに応えていくことを心がけましょう。
子どもが失敗したときは、大人は「調律」と「調節」のかかわりを

子どもは、「好き」を楽しんでいても失敗したり、思うようにいかなかったりすることがあります。そんなとき、ネガティブな感情をきちんと受け止め、気持ちを立て直す手助けをすることも、親の大切な役目です。
将来的に自分の行動をコントロールできるようになるためには、身近な大人による感情の「調律」と「調節(制御)」を経験していく必要があります。
「調律」は、共感を示して子どもの感情を言葉にするなどして気持ちを整理すること。「調節」は、崩れかけた気持ちを立て直すことを指します。子どもの心の成長には、この2つがセットで与えられることが欠かせません
受け止められ、立ち直る経験が「自律」につながります
たとえば子どもがチャレンジに失敗して泣き出したとき、「とりあえずお菓子を与えて泣き止ませる」のは、「調節」だけに偏った方法。効果があったとしても、一時的です。
理想は、「うまくできなくてくやしかったね」といった「調律」+「でも、大丈夫。もう一度やってごらん」などの「調節」を組み合わせること。
気持ちを受け止めてもらって安心し、慰められて元気を回復する……という経験を重ねることで、子どもは自分で自分の感情や行動をコントロールする力を身に付けていくのです。
こちらもおすすめ。赤ちゃんの成長に欠かせない「安心の輪」ってなあに?
記事監修
東京大学大学院教育学研究科教授。専門は発達心理学・感情心理学。おもな著書に『赤ちゃんの発達とアタッチメント』(ひとなる書房)、『「情の理」論』(東京大学出版会)、『入門アタッチメント理論』(日本評論社)などがある。
構成/野口久美子
