前編では3歳から中学2年生まで続いた実父からの性虐待について伺いました
目次
親友にほかの女の子を「好き」と告白され、嫉妬する自分がいた
――東さんは、どのようなきっかけでご自身がレズビアンだと気づいたのでしょうか。
東さん:私はミッション系の男女共学の高校に入学し、進学校ながら穏やかな学生生活を送っていました。いつも一緒にテスト勉強をする大親友の女の子がいて、彼女と過ごす時間も楽しかったのです。
ある日、彼女から「小雪ちゃん、私勉強が手に付かない、好きな人がいるの」って言われたのです。その相手が女の子でした。ビックリしました。

東さん:当時はジェンダーについて学ぶ機会も少なく、「女の子が女の子と付き合うことは悪いこと、人に言ってはいけない」と、直感的に思いました。ところが、彼女の告白を思い出せば思い出すほど切なくて、自分はその大親友のことが大好きでいつも話していたいし、ずっと親しくしていたいし、自分が彼女にとっての一番になりたいっていう思いがどんどん大きくなってきたんです。
これが、人を好きになるってことなんじゃないか、と気づきました。そして、「私は、女の人が好きなんだ」って気づいたんです。
自分が同性が好きなんだと気づいたときは動揺した
東さん:それまでは、「大人になったら男の人と結婚する」ことしかロールモデルはなかったんです。どんな男の人が好きとか特になかったけれど、当時は木村拓哉さんがすごい人気で、私も「木村拓哉さんみたいな人いいな、みんなカッコイイって言っているし」くらいの気持ちでした。だから、本当の自分は同性が好きなんだと気づいたときには、少なからず動揺しました。
宝塚のスターのことが書かれている雑誌で真琴つばささんの特集を見て、とても素敵な方だなぁと思いました。ちょうどその頃に私は、自分が女性の方に強くひかれる気持ちを抱いていることに気がついたんです。
性虐待と自身がレズビアンであることとは無関係
――東さんは幼い頃に性虐待の経験がおありですよね。男性が怖くて女性に憧れたということはないのでしょうか。
東さん:それはないです。第一、16歳のときには性虐待されたことは自分の意識下にないんですから。また、宝塚に入団したことも私の現実のセクシャリティに影響はなかったです。憧れの方はいましたが、とにかく宝塚は厳しくて、食事や睡眠の時間も削られるくらいでしたから、ある意味生きていくのに必死で、恋愛のことを考えている余裕はなかったんです。
実父からの性虐待や宝塚時代のお話はこちら
同性婚を祝福してくれた人もいれば、結婚式への列席を拒否した人も
――その後、宝塚を退団されてから、東さんは東京ディズニーシーで同性婚(※編集部中)をされました。おふたりともがウエディングドレスを着た姿が、大きな話題になりましたよね。
東さん:彼女は、私がうつ状態でたくさん薬を飲んでいるのに驚いて、寄り添ってくれた人ですし、彼女自身は家族に愛されて育ってきたとても健康な人です。そういう人と結婚できる幸せを感じ、自己肯定感みたいなものも感じていました。
私の場合、家族自体が崩壊して機能していないからレズビアンであることを親に言うも言わないもなく、多数の当事者よりカミングアウトの悩みは薄かったと思います。結婚式をしておめでとうって言われること自体、自分を肯定できる要素です。誹謗中傷もあったけれど、テレビや新聞で取り上げてもらい、祝福されて幸せでした。

東さん:ただ、傷つくこともありました。一番辛かったのは、彼女が同級生に結婚式の招待状を出したときのことです。そのときの返事が、「子どものお受験に差し障るから出席できない」っていうことだったんです……。彼女もとてもショックを受けていましたが、私も本当にショックだった。自分たちの結婚式は子どもの受験に差し障ることなんだ、と。子どもに同性カップルなんて見せられるわけないってことですよね。陰湿な差別も、単純明快な差別もいろいろあったけれど、中でもそれが一番ショックでした。
同性同士でも自分らしく結婚式ができることを伝えたかった
東さん:それでも、私たちは前を向きました。そんなことを言われるのはまだ世の中の理解が足りていないだけだ。ディズニーシーで結婚式を挙げることで、私たちの存在を全国に伝え、同性同士でも自分らしく結婚式を挙げられること、自分のセクシャリティのために結婚式をあきらめないでほしいという想いを届けたかったのです。彼女とはその後いろいろあってお別れしてしまいましたが、結婚式はとてもよい経験でしたし、発信することは大事だと思っています。
※(編集部注)日本では法的な婚姻制度としての同性婚は整っておらず、同性カップルの権利保障のためのパートナーシップ制度が多くの自治体で導入されている状況にとどまっています。本記事では取材対象者の表現を尊重し「同性婚」と記載しています。
シスジェンダーのレズビアンは身体的性と性自認が一致
――レズビアンであることをご自身が認めにくいということはなかったのですか?
東さん:LGBTのLであるレズビアンは自らの「性的指向」が女性である人のことを言います。Gのゲイは性的指向が男性、Bのバイセクシュアルは性的指向が女性も男性もありということ。
これとは別に「性自認」、自分の性をどう自認しているかという視点があります。シスジェンダーとは、身体的性と性自認が一致している人のことを言い、Tのトランスジェンダーは身体的性と性自認が一致していない人です。私の場合は自分の身体的性と性自認は女性である、そこが一致しているシスジェンダーのレズビアンということになります。
ちなみにLGBTQ+のQはLGBTという4つのセクシャリティだけでは定義できない立場の人々を示しています。+はそのほかにもいろいろある、ひとくくりにできないセクシャリティがあるということです。

東さん:私のように身体的性と性自認が一致しているシスジェンダーは身体の性に違和感がないです。けれどトランスジェンダーの人は自分の身体的性と性自認が不一致なので特有の生きにくさを抱える方も多いようです。
こういうことも世の中にはよく知られていないですし、人によっていろいろな性指向や性自認があっていいのだ、ということもまだまだ認められにくい世の中です。私はさまざまな機会を通してセクシャリティの理解を促す活動をしていまして、今はそれが仕事の中心になっています。
自分の子どもがLGBTQ+の場合、「親の育て方が悪い」わけじゃない!
――日本ではLGBTQ+の人たちが全人口の9.7%とも言われています(電通「LGBTQ+調査2023」)。読者の周囲のお子さん、もしかしたらわが子もLGBTQ+の可能性がないわけではありませんよね。
東さん:そうですね。そうだったら、親御さんは悩むと思います。戸惑うでしょうし、経験がないことかもしれませんし、親心もわかります。でも、否定しないでほしい。「オカマみたいで気持ち悪い」とか「もう結婚できない」とか言うのはNGです。

東さん:また、親御さんの中には、「自分の育て方が悪いから」とご自身を責める方もいますが、育て方が間違っているわけではないですから、ご自身を否定することではありません。お子さんのことも否定しない、ご自身のことも否定しない。男の子がドレスで遊んでいても、いろいろな遊びを覚えて自分自身を知っていくことが重要ですし、遊びなどは変わったり揺れ動いたりする多様なものでもあるので、見守ってほしいなって思います。
カミングアウトは促したり急がせたりしてはいけない
――とはいえ、心配になりますし、何か子どもに言いたくなってしまうかもしれません。
東さん:もちろんそうですよね。でも、基本的には、カミングアウトするまで待っていてほしいな、と思います。最近は、私がお子さん向けの授業をするときなどに「私、女の子が好きなんだよね」ってさらっと言ってくる子もいますけどね。「あ、そうなんだ」って。30年前と違うんだなぁって。
ともあれ、「女の子のこと好きなんでしょ」とか「あなたは自分のことを男の子だと思っているんでしょ」って言うのではなくて 「多様な生き方があるよね。応援するよ、なんか困ったことがあったら相談してね」って。

東さん:そして、わが子がLGBTQ+であろうとそうでなかろうと、「あなたがとても大切、結婚しようがしまいがあなたは私の大事な存在」「あなたはあなたのままでいい、自分らしく生きてほしい」「あなたは自分のことを愛してほしい」と言ってあげてほしいです。そして、カミングアウトを急がないであげてほしい。
「どんなあなたでもあなたを愛しているんだ、あなたが私の誇りなんだ」という言葉をかけ続けていたら、どんなセクシャリティや特性があっても、子どもは「自分は生きていっていいんだ、ここにいていいんだ」って思えます。子どもの存在そのものを肯定してあげてほしい。それが私の願いでもあります。
――セクシャリティや性被害でさまざまな体験をしてきた東さんの言葉だからこそ、心に響きます。わが子がどんな性的指向でも、見守る姿勢を備えておきたいですね。
前編では11年にわたる実父からの性虐待、宝塚でのハラスメントなど壮絶な過去をお話いただきました
お話を伺ったのは
1985年、石川県生まれ。
東京ディズニーシーで初の同性結婚式を挙げ、日本初の同性パートナーシップ証明書を取得。(2017年に解消)
LGBT・女性の生き方・自殺対策について講演、研修、執筆など幅広く活動し、TV出演多数。
著書に『なかったことにしたくない 実父から性虐待を受けた私の告白』『同性婚のリアル』などがある。
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フォトジャーナリスト安田菜津紀とのYouTube番組「生きづらいあなたへ」(https://youtu.be/cG8O5JO2dhU)が好評配信中。
取材・文/三輪泉 撮影/五十嵐美弥