子どもの行事に行かないのは悪い親?「日本の同調圧力に息が詰まって…」 3児を連れてフランス移住した母が見つけた“参加しない自由”

こんにちは。フランス在住ライターの綾部まとです。2025年から、夫と9歳・7歳・4歳の3人の子どもたちと、パリ近郊の町で暮らしています。
この連載では、日本とフランスのあれこれを比較しながら、子育てや日常のなかで出合った“ちがい”について綴っています。

「行かないと損」と思い込んでいた東京時代

東京に住んでいた頃、私は子ども向けのイベントには、できるだけ足を運ぶようにしていました。夏祭り、小学校のお祭り、美術館のワークショップ……土曜の朝に子どもたちの髪を結び、リュックにお菓子と着替えを詰めて家を出て、くたくたになって帰ってくるのが、週末のルーティンでした。

情報源は、保育園のグループLINE。週末が近づくと「こんなイベントありますよ」という投稿がいくつも届きます。私はそれを、毎回チェックしては「行かなきゃ」とカレンダーにメモしていました。

「せっかく情報を知っているのに、行かないなんて親失格なんじゃないか」

「もし行かなかったら、あとでママ友たちがSNSで楽しそうな写真をアップするかもしれない。それを見て落ち込むくらいなら、無理してでも行ったほうがコスパがいい」

だから、行かないと損。そんなふうに考えていたのです。

イベントに行けば、たいてい誰かに会えました。「あ、やっぱり来てた?」と笑い合って、自然と一緒に行動する流れになる。「ちゃんと子育てしてるよね」と、互いに確認し合っているような空気がありました。

私にとって、週末は「楽しいけれど、どこか息が詰まるようなもの」でした。

フランスでも、最初は「ぜんぶ行こうとしていた」

フランスに引っ越してきた当初も、その習慣はなかなか抜けませんでした。

私はすぐに区役所のInstagramをフォローして、地域のキッズイベントをせっせとチェックするようになりました。子ども服を安く買えるバザー、フォンテーヌブロー行きの親子日帰りキャンプ、屋外シネマ……。

日にちを確認しては、カレンダーに登録する。日本にいた頃とまったく同じペースです。

そこには、もうひとつの思惑もありました。小学校や幼稚園では、親同士の交流がほとんどない。ならば、イベントに行けば誰かに会えるかもしれない——そんな淡い期待もあったのです。

でも、その期待はすぐに裏切られました。

誰も来ていないのです。

広い公園に立って、私は思いました。「あれ? このイベント、知られてなかったのかな?」

でもすぐに気づきました。違う。みんな、知っていて、来ていないのです。

学校行事にもイベントにも「来ない」親たち

決定的だったのは、次女の幼稚園のイベントでした。

ある日の夕方、園庭でオペラ上映会があると先生から案内がありました。「誰でも自由に参加できますよ」とのことだったので、私は小学生の兄姉を早めに迎えに行き、準備万端で臨みました(もちろんフランスあるあるで、開始時間から30分ほど遅れて、なんとなく始まりましたが……)。

でも、来ていた保護者はほんの数人だけ。園児はたくさんいるのに、親の姿はまばらで、ちょっとした拍子抜けを覚えました。

年度末のお祭りも同じです。巨大迷路やゲーム、先生たちのパフォーマンスまである大規模イベントだったのに、保護者の参加率は半分以下。園内にはポスターも貼られ、先生からも何度も案内があったはずです。知らなかった、ということはないでしょう。

そこで後日、同じクラスのママたちに聞いてみました。

「この前のイベント、来なかったの?」

彼女は肩をすくめながら笑って、「うん、知ってたけどね。家でのんびりしてたの」と言いました。他のママも、「特に予定はなかったけど、なんとなく行かなかった」と。

それがフランスでは、特別でもなんでもないことのようでした。

参加しないのも「自由」

こうした“参加しない自由”は、幼稚園や学校行事だけに限りません。

たとえば、フェット・ド・ラ・ミュージック。毎年夏至にパリ中で開催される、音楽の祭典です。深夜まで街が音楽であふれるこの日、私も体調が悪い中、ちょっと無理をして出かけました。

他にも、ニュイ・ブランシュという夜の美術館開放デー、パリ・プラージュというセーヌ川の遊泳イベント……どちらも街じゅうにポスターが貼られ、ニュースにもなる大規模イベントです。知らないはずがありません。

でも、地元の人たちに聞くと、返ってくるのは同じような答えでした。

「あぁ、やってたね。行かなかったけど」

「子どもがまだ2歳で、夜はしんどいから」

「朝ゴミがすごくて、ああ昨日だったんだなって気づいたよ」

そんなふうに、誰も後ろめたさを感じることなく「行かなかった」と言います。

「9割くらい行きたい」でなければ、行かない

日本では、地域イベントや学校行事に行かなかったら、「どうして来なかったの?」と聞かれることがあります。体調不良や仕事など、それなりの理由が必要です。でも、フランスでは、「行かない理由」を説明する必要はありません。

そもそも、予定というものがあまり信用されていないのです。

学校の先生がストライキをすれば、突然の休校。給食のスタッフがストライキをすれば、子どもは昼食を食べに家に帰ってくる。電車やバスは突然運休し、家のエレベーターは週に数回止まり、ボイラーはすぐ壊れ、修理業者は「3カ月後に伺います」と言ってくる……。

そんな日々を送っていると、自然と“詰めこまない”生き方になっていくのかもしれません。すべてに予定を入れていたら、突然のトラブルで身動きが取れなくなってしまうからです。

「行けたら行く」ではなく、「よほど行きたければ行く」。それが、こちらの暮らし方なのだと、最近ようやく分かってきました。

「知ってるけど、行かない」

その感覚は、私にとって最初こそ衝撃でしたが、今では大きな救いでもあります。行かなくても、誰にも責められない。説明も、弁解もいらない。その自由さに、私は助けられているのだと思います。

今の私は、「9割くらい行きたい」と思ったときだけ、出かけるようにしています。行事やイベントに参加しなくても、人生はちゃんとまわるから。

予定のない週末、それに前ほど罪悪感を覚えることもなく。やっと、私にとって週末は「一息つけるもの」になりました。

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写真・文/綾部まと

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