乗り物酔いは10代に多い!「噛み合わせ」「咀嚼」と乗り物酔いの意外な関係。酔わない予防法まで【医師監修】

秋になり遠足や家族の旅行で、乗り物に乗って出掛ける機会があると思います。しかし、乗り物酔いがあると、せっかくの楽しい気分が半減してしまいます。
近年、乗り物酔いと歯の関係が明らかにされてきており、今回はその関連性やメカニズム、対策法などについて論じます。
 
執筆/島谷浩幸(歯科医・歯学博士・野菜ソムリエ)

乗り物酔いは、どれくらいの割合の人がなるの?

乗り物酔いは「動揺病」とも呼ばれ、上下左右の平衡感覚とバランス感覚に異常が起きることで生じます。平衡感覚を司る三半規管や耳石器という器官が耳の奥にありますが、乗り物による上下左右や回転などの複雑な刺激が繰り返されると変化に対応できず、乗り物酔いが発生します。

乗り物酔いの症状は、初期にはふらつき・唾液分泌・胃の不快感などが出現し、次第に顔面蒼白・冷や汗・悪心を伴い、最後は嘔吐にまで至ります。

2021年に観光経済新聞が20歳代~50歳代の男女11729人に対して行った調査では、24.8%が4~5回に1回以上は酔うと回答しました。では、子どもではどうでしょうか?

子どもの乗り物酔いは10代がピーク

子どもの乗り物酔いは3歳頃から始まり、年齢とともに増加して小学校高学年や中学生で多くなり、成人になると減少します。

その理由として、小児の脳の発達と関連があるとされ、バランスをとる小脳や三半規管、耳石器といった器官の成長度合いと関係します。

図1. 年齢別に見た乗り物酔いの頻度

2010年に長崎県の耳鼻咽喉科が報告した調査では、2歳以上の男女約13000人を対象に、年齢別の乗り物酔いの頻度を調べました。

その結果、10~19歳をピークに最も多くなり(図1)、全体として女子の方が高頻度で起きやすいことが判明しました(図2)。 

図2. 子どもの乗り物酔いの頻度

嘔吐を繰り返すと、歯が溶ける?

酔いが起きやすい乗り物として自動車やバス、船などがあるほか、遊園地のアトラクションでも酔い症状が出ることが知られます。現在、自動車は手動運転が主流ですが、開発が進む自動運転技術の実用化が増えれば、車酔いも増加するという試算もあります。

乗り物酔いがひどくなって嘔吐した場合、胃酸が逆流して食道や咽頭(のど)を経由して口まで到達しますが、この胃酸が歯に悪影響を及ぼす可能性が指摘されています。

カルシウムを含む石灰質の歯は、酸性度を示すpHが5.5程度で溶け出すことが明らかにされており、このpHを臨界pHと呼びます。

胃の酸はpHがおよそ1~2の強酸であるため臨界pHをはるかに下回っており、嘔吐の際に胃酸が歯に接触すると歯が溶け出すリスクがあるのです。

ただし、嘔吐の際に胃酸が歯に触れる時間はわずかなため、歯が大きく溶けることはないですが、嘔吐を繰り返すような場合は歯が溶けやすくなるため注意が必要です。

実際、嘔吐を繰り返しやすい病気(胃潰瘍、逆流性食道炎、摂食障害の過食嘔吐など)で、胃酸によって歯が溶ける酸蝕症が起きやすいことが知られています。

ですから、何らかの理由で頻回に乗り物に乗る機会が多い場合は、気を付けましょう。

▼歯とpHの関係についてはこちら

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噛み合わせと乗り物酔いは関係する?

体のバランスには、上下顎の歯の噛み合わせが重要です。(関連記事はこちら≪

不安定な噛み合わせでは体の軸が安定せず、乗り物酔いのリスクが上昇することが明らかにされています。

また、過蓋咬合(かがいこうごう)という噛み合わせがあると、乗り物酔いしやすいことが分かっています。

過蓋咬合は、上の歯が下の歯を覆い隠してしまう深い噛み合わせで、下顎の動きが上顎の歯により制限されるため、常に下顎が後ろ方向に押されるような状態になります。

その結果、下顎や舌が常に引いたような状態になるため、えずきやすくなります。

過蓋咬合が自然に治って正常な咬合関係に回復することは、残念ながら期待できません。過蓋の程度にもよりますが、歯科矯正で歯並びや噛み合わせを改善する必要があります。

しっかり咀嚼して乗り物酔い予防

乗り物酔いの予防のために飲み薬を使用するなどの方法がありますが、しっかり噛む(=咀嚼する)ことで乗り物酔いの予防が期待できることが明らかにされています。

2023年に三重大学などの研究グループが報告した研究では、47人の成人男女を対象として、ミントガムを咀嚼することと乗り物酔いの関係を調べました。

この調査では、マイクロバスで20分間走行中に配付されたスマートフォンで課題(多数の画像の中から「鳥」の画像を選ぶなど)を行い、2分ごとに不快感を直感的な10段階評価で記録しました。

その結果、時間の経過とともに不快感は増加しましたが、6、14、16、18、20分後、つまり乗車時間が長いほどミントガムを咀嚼したグループのほうが、不快感の評価値が統計学的に有意に低いことが明らかになりました。

また、走行開始前と走行終了後で比較した質問票(SSQ)による「ふらつき感」のスコアでは、ガムを咀嚼したグループのほうが有意に低くなることが分かりました(図3)。

図3. ガム咀嚼がふらつき感に与える影響

乗り物酔いを予防するための提案

乗り物酔いは個人差が大きく、同じ人でも体調次第で症状が出ない日もあります。

そのような特徴がある乗り物酔いですが、予防や症状の軽減が期待できるとされる方法がいくつかありますので紹介しましょう。

車などに乗る前に空腹・満腹は避ける

これらの状態では胃腸が刺激されやすくなるため、吐き気が出やすくなります。

前日はよく眠る

前日の睡眠不足や疲れなどがあると、体調を整える自律神経がアンバランスになりやすくなります。

車の中の座り方など、車内環境に注意する

進行方向を向いて座る、エアコンではなく窓を少し開けて自然の風で温度調節する、芳香剤等の人工的な匂いを避けるなどしましょう。

車内の座る位置も注意する

揺れの少ない前方の席に座るように心掛けてください。

近くを見ない

本やスマートフォン、タブレットの画面のように手元にあるものは見ないようにし、遠くの景色を眺めるようにしましょう。

体を締め付ける服を控える

厚着やサイズが小さめのきつい服装は腹部に負担を与えるので控えてください。

精神を安定させる

「乗り物酔いをしない」という強い意識を持ちつつも、不安に陥らないように家族や先生、周りの人のサポートが大切です。酔わないという自己暗示も重要です。

口に刺激を与える

ガムを噛んだり冷たい氷を口に入れたりすることで自律神経を整え、気持ちを落ち着かせると酔いが和らぐことがあります。

普段から平衡感覚を鍛える

日常生活の中でブランコや滑り台、鉄棒などの遊具で遊んだり、でんぐり返しや平均台の体操をしたりして揺れやスピードの変化に慣れ、バランス感覚を鍛えることも大切です。

酔い止め薬を使う

酔い止め薬は、事前に飲んで予防する効果だけでなく、酔ったときの症状を緩和する作用も期待できます。

錠剤やドリンク剤があって子どもでも飲みやすい味や形状ですが、商品により適用年齢や服用量が異なるため、使用上の注意を必ず読みましょう。

吐き気を感じやすい病気は治しておく

過蓋咬合を歯科矯正で改善するほか、のどが敏感で吐き気を誘発しやすい病気があれば、耳鼻咽喉科などで治療しておくことも大切です。

ゆとりある運転スケジュールを

時間的に余裕を持った移動計画で、揺れの少ない安全運転を心掛けましょう。

*   *   *

筆者自身、子どもの頃は車酔いがひどくて遠足などで苦い経験をした思い出があります。これからの行楽シーズン、できる範囲で乗り物酔い対策をしながら、楽しくお出掛けしてくださいね。

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記事監修

島谷浩幸|歯科医師・歯学博士

歯科医師(歯学博士)・野菜ソムリエ。TV出演『所さんの目がテン!』(日本テレビ)等のほか、多くの健康本や雑誌記事・連載を執筆。二児の父でもある。ブログ「由流里舎農園」は日本野菜ソムリエ協会公認。Twitterも更新中。

参考:経済観光新聞:20代~50代の成人男女に聞く、乗り物酔い実態調査.2021.
:野田哲哉:乗り物酔いの年齢別頻度.耳鼻56,15-18,2010.
:稲葉翔吾ほか:ミントガムによる乗り物酔い軽減効果.人間工学59(5),193-200,2023.

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